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魔石探索隊

 広大な宇宙の暗闇を切り裂くように、白く輝く宇宙船が星々の光を受けながら進んでいた。

 地球を離れ、その船はティーガーデン星へと向かう航路を静かに辿(たど)っている。

 その綺麗な流線形が特徴的な探査船は、とにかく大きい。どれくらい大きいかと言うと、ミレニアム・ファルコン200個分だ。わかるだろうか?広すぎるせいで、船内を移動するだけで毎回軽い冒険になってしまう。エンジンルームに行こうとした船員Aは、途中で迷子になり、そして消息を絶つ。結果として他の船員Bが救助に出動する羽目になる――まぁとにかくデカいということだ。


「……なぁおぬし、これで迷子になるのは何回目じゃ?」

「ハハハ。なにせ、東京ドーム0.63個分ですからね」

「地球人はよく東京ドームで大きさを例えるよな?ほんとに東京ドーム0.63個分って言われて分かるんか!?」


 船内は白を基調としたデザインで、壁面や天井には精密に配置されたパネルとモニターが埋め込まれている。清潔感のある白色の光が船内全体を照らし、窓には果てしなく広がる宇宙空間が映っていた。その宇宙空間に漂う暗黒物質を吸いながら低く唸る魔力駆動音と、ソーラーエネルギーにより機器が稼働する電子音が、無限の宇宙に浮かぶ孤独な旅を思わせる。


 操縦室の中央には、2人の船員が立っていた。


 1人は、ツルツルした床から数センチ浮かんで静止しているAIロボット。ペッパー君に似たフォルムをしているが、その顔に固定された笑顔は、人に愛嬌があると媚びようとして失敗したデザインだった。全身は光沢のある白で、胸にはモニターもなく、シンプルな外観が特徴だ。

 それが船内の白い壁に対し保護色のようになっていて、迷子になった彼を探し出すのはとても大変だった。探していたら、真横の壁がいきなり動き出したりする。


 その隣には、赤いひし形のペンダント――力の欠片(砕けた魔石)――をぶら下げた、10歳くらいの見た目をした少年が、腕を組んで仁王立ちしていた。


「ソルト! 力の欠片があると言われている星はあれじゃな!」

「はい。そうです。地球の神からの情報によると、あの惑星、ティーガーデン星に数多くあるとのことでした」

 

 ロボットは、C-3POよろしく平坦な機械音声を響かせながら、両腕をわやわちゃさせながら話した。

 

 暗い宇宙に、無数の白い砂粒のような星々に囲まれながら浮かぶ薄青い星。大きな円形の窓越しにその姿を見つめる少年の瞳には、星々の光が反射し、まるで彼の瞳の中にもう1つの宇宙があるかのように輝いていた。

 

「あの血風(けっぷう)が吹き荒れる壮絶な戦いから300年、ふふふっ、やっとここまで来たか。地球には数個しか欠片が無かったのは、まっことに残念じゃったが、あの星には残り全てがある……気がする」


 少年はニヤリと笑いながら、中性的な声で続ける。


「今、力の欠片がどのような姿をしておるかは分からん。人や魔物に取りつき凶悪なモンスターとなっているやもしれん。だがこのワシの前では関係の無いことじゃ。力の消費を最小限にするためにこのような姿をしておるが、力を解放すればなんてことはない。そして魔石を狙う敵が、何人かかってこようが返り討ちにしてくれるわ!」


 少年は片足を「ドン!」と力強く踏み鳴らし、胸を張って高らかに叫ぶ。

 

「来るなら来い!転生者どもぉぉぉ!!わっははははは!」


 300年前に、大勢の転生者を屠ったあのドラゴンが、今、嘲笑(ちょうしょう)するようにそう言い放った。


 大きく開いた口からは鋭い牙が覗き、長い黄金の髪がまばゆく(きら)めき、手の爪はわずかに湾曲して鋭さを宿している。そして、ドラゴンアイは神秘的な金色の輝きを(たた)えて揺らめいていた。


「……じゃがユニコーンはもう勘弁じゃ」




挿絵(By みてみん)


 

「ガイバー様。お食事の時間でございます」

「おお!今日はなんじゃ?あとな、いつも言うておるが……とにかく魔力が回復するものをくれんか!?そろそろこの体も保てんぞ?どんどんちっちゃくなるわい」


 呆れたようにそう(なげ)く魔物の少年は、戦闘以外大抵のことなら何でも出来るお世話ロボットのソルトと共に食堂に行こうと、ペタペタと歩いて操縦室の扉を開く。


プシュー!…………プシュー!


 スライドして開いた扉がすぐに閉まり、少年は無表情のまま立ち尽くした。


「……おい…ソルト。なぜ扉を閉めるのじゃ」

「ガイバー様。扉が開きっぱなしでした。開けたらちゃんと閉めてくださいね」

「いやこれ今ワシが開けたの!開けっぱじゃなくて開 け た の!」


 お世話ロボットのソルトは、壊れかけていた。


「もうおぬしが先に行けい」


プシュー!


「では、お先に失礼しますね。今日の昼食のメニューは――」


プシュー!…ゴッガガガガガッ!!


「わっははははは!」


 お世話ロボットは、横から来た扉にプレス機のように挟まれて、傾きながらガクガクと動き続けた。その姿は無機質ながら、まるで扉の罠にかかった獲物のようにも見える。そのすぐそばでは、少年が腹を抱えて膝を叩きながら大笑いしている。

 彼の故障の主な原因は、少年の悪ふざけと長年の酷使であった。


プシュー!


「で、何じゃっけ?次の星の文明レベルは。服装もあまり浮かん物にせんといかんからな」

「…ツ…ツツツツ次の惑星の文明レベルは、中世から近世の段階にあります。都市部では魔道具が広く浸透し、石造りの城壁や木造の住居が点在しています。また、鉄製の道具や武器が一般的に使用されています。しかし、警告を申し上げます。ガイバー様。該当惑星には、魔物、魔術師、魔法使い、さらには『名の加護』を持つ者、転生者が多数存在している模様です。さらに、惑星各地に『魔剣』と呼ばれる強力な武器が散在しているという情報が確認されています」

「魔法か、火薬より厄介じゃな。今のワシでは――」


キュイーンキュイーンキュイーン!!


 突然、船内でけたたましい緊急アラームが鳴り響いた。外からの眩い光が窓を貫通し、船内を真っ白に染め上げる。間髪入れずに床がぐらりと動いた。ガイバーは四つん這いになり金属の床に爪を食い込ませて体を固定する。ソルトは1cm浮遊しているだけでは地面の揺れに対応できず、真後ろにすっころんで頭を打ち、「ガガガ、ガイバー様。お食事の時間でございます」と頭から火花を散らしながら言った。


「んぁ!?どうなっておる!?」


 お世話ロボットは、頭を小刻みに揺らしながらむくっと起き上がり、淡々と報告する。


「…ピピッ。どうやら、近くで時空の歪みが生じたようですね。ですが安心してください、ガイバー様。この船に損害はありません」

「そうか、なら良いが……損害はおぬしの頭だけじゃな」


 少年は、不安そうに通路の窓に両手と顔を張り付けて外を見る。すると、光を反射する何か小さなものが漂っていた。


「……んぁ?なんじゃあれ?」

「ガイバー様。どうなさいましたか?」

「……なんか……あそこに骸骨みたいなのが漂っとらんかぁ?んぁ?少し遠くてよく見えんわい!」


 少年はゴシゴシと目をこするが、全くもって視力は上がらなかった。


「どれどれ。ワタシが確認いたしますので、少々横にずれて貰えますか?ガイバー様」


 ソルトはそう言うと、少年に自分の体を近づけてどくようにと圧をかけ始めた。


「いやそっちの窓から覗けばええじゃろがいっ!まったく、心が無い機械は不便でならんわ」

「申し訳ありません。ガイバー様。さ、ワタシが確認いたしますので少々横へ――」

「わかったわもう!ふぅ……十円禿げが出来そうじゃ……」

「ハハハ。ガイバー様は人間ではございませんので、頭が禿げることは……ガイバー様、髪が……」

「んえ!?」


 少年は、自分の頭をワシャワシャと触って禿げている場所を慌てて探した。


「ガイバー様……見事に毛が1本もありません……あ!顔も真っ白です!体調でも――」

「いやそれ窓に映ったお主の顔じゃ。ええから早う覗け」

「ハハハ。ガイバー様はせっかちでございますね。では確認いたします。…ピピッ」


 そう言うやいなや、ソルトは肘を90度に曲げたまま腕をでたらめに振り回し、明らかに演技じみた動きで過剰に驚いてみせた。


「驚きました!どうやら人型の機械の残骸のようです!とてもボロボロのようですが、どういたしますか?」

「人型の機械かぁ……まぁ話し相手がお主だけでは、ワシの頭がどうにかなってしまいそうじゃからな。回収してくれ。船の調整槽(ちょうせいそう)の修理機能は問題なく使えるよな?」

「はい。問題ありません。それからガイバー様……見事に毛が1本もありません……あ!顔も真っ白です!体調でも――」

「もうよいから早く回収してまいれぃ!」


 少年は地団駄を踏みながら声を荒げた。


 そして後に少年は思う、もしこの時『回収しない』という選択肢をとっていたなら、もっと違う結末になっていただろうと。


 それからしばらくして、その機械の残骸が、お世話ロボットにより回収されてきた。


ガシャン!


 大きな音を立てながら作業台の上に乗せられたそれは、まるであの鉄の悪魔ターミネーターのような風貌(ふうぼう)で、辛うじて頭と胴体だけが残ったスクラップ同然の姿だった。


「ふむ、アンドロイドというやつか?」

「そのようですね。ですが、ほとんどのパーツが大破しているようです」

「なんとまぁ、気持ちのいいくらいの壊れっぷりじゃな!ブラックホールにでも飲み込まれよったのかのぅ!わっはははは!」

「ガイバー様。現在の科学ではブラックホールに飲み込まれたものは――」

「お主もブラックホールに放り込んでやろうか……?」


 冗談が全く通じないロボットに対して、少年はつぶやくように言った。


「ハハハ。それでは廃棄処分になってしまうではありませんか。ガイバー様は冗談がお上手ですね。ですがガイバー様。現在の科学ではブラックホ――」

「ふぅ……」


 少年はその場を離れながら、げんなりした顔で淡々と話しを進める。


「とりあえず調整曹(ちょうせいそう)にでも放り込んでおけ。ワシは食堂で飯でも探しておるよ……」

「ガイバー様ぁ!?まだお話が……はぁ、行ってしまわれました。ハハハ。ですがガイバー様は本当に冗談がお上手だ。もしブラックホールに吸い込まれでもしたら、例え見つかったとしてもここまで形を保つことは出来ないでしょう」


 そう言いながら彼は、台に置かれた機能停止したアンドロイドを静かに見下ろしていた。



 1週間後――


『ガイバー様。そろそろアンドロイドの修理が終わる頃です。調整槽(ちょうせいそう)の予想完了時間が1分を切りましたよ!急いでください!』


 船内のスピーカーから少年を催促する声が響いた。


 しばらくして、少年は両手を頭の上で組みながら、めんどくさそうな足取りでペタペタと部屋に入ってきた。


「やぁっと修理が終わりおったか。んぁ~……つぎ行く星の言語を覚えること以外、なぁんもやる事がないわい」

「勉強熱心で何よりです。それでは開けますよ」


 少年は、金属製の大きな艶消しの黒い棺桶のような箱から少し離れた場所に立ち、腕を組んで目を細めながら問いかける。


「おい待て。危険はないんじゃろうな……?」

「ハハハ。心配いりませんよ。このアンドロイドのエネルギー残量はほぼゼロに近いです。話すことくらいしかできません。ハハハ。ガイバー様は本当に心配性ですね」

「そ、そうか?ならよいが……」


 ソルトはそう言うと、調整槽の操作パネルを丁寧に人差し指で押す。

 上蓋(うわぶた)はプシュー!!と鋭いガスを排出しながら開いた。

 そして、中にあったものを見て少年はギョッとして棒立ちのまま動けなくなった。


 調整槽の中に横たわり眠っていたは、ライトブルーのセミロングの髪で、人で言う二十歳前後の素っ裸の女性だったからだ。


「ソ、ソルト。地球で観た映画とそっくりではないか!?銀色のガイコツに人口皮膚じゃろ?それに赤い目をしていたらどうするんじゃ……」

「ハハハ。ガイバー様、あれはフィクションです。これは、ワタシに人工皮膚を付けたようなものですよ」

「いやおぬしに人工皮膚なんか付けたらバケモンになってしまうじゃろが……」


 少年は、人工皮膚で覆われたペッパー君を想像した。


「……まぁそう考えると心なしか、怖くなくなってきよったな――」


 そう言い終えるか否かのうちに、ターミ姉ちゃんが突然目をカッと開けた。


「ひっ!?」

「おやおや、これは」


 その眼は真っ赤で、鉄の悪魔そのまんまだった。


「こ、こりぇ、やっぱり兵器じゃね?危なくね?この船、無くなるんじゃね?」

「大丈夫ですガイバー様。先ほども言ったように今はまだ話すことくらいしか出来ませんよ。さ、あなたは何者ですか?自己紹介は出来ますか?」


 お世話ロボットの問いかけに、そのアンドロイドはゆっくりと口を開き、大きな声で自己紹介した。


「デジギガガガガ殺戮テテテ…シリーズタイジンゲゲ…ン用………ジンガタクチク兵兵兵……兵器ガガ…モッガガガ…コスギギギ…」

「んぁ!?なんじゃって!?モッコス?」


 けたたましい割れた機械音声を発したその刹那、赤い眼が少年をギロリと睨んだ。


「ガイバー様。どうやら暴走してい――」


 そこからの記憶が曖昧だった。



……ガシャーン!ギギギ……バキッ!ドガァン!


 気が付くと、真っ赤な船内では緊急アラームが鳴り響き、混沌とした地獄絵図と化していた。炎が壁面を舐めるように燃え広がり、赤黒い煙が天井近くで渦を巻いている。調整槽(ちょうせいそう)は倒れ、機械装置が火花を散らして宙を舞い、少年は船内の壁にめり込んでいた。


「……何じゃ……気を、失っておったんか……胸を……叩かれたな……」


 少年は、ソファーのように壁の中に座りながら、目の前にゴロリと転がっているお世話ロボットと目があった。


「あいたたたた……ソルト……ワシ、おせんべぇの豆みたいになっちまっとるぅ……」


 その声に反応し、少し離れた場所で2つの赤い光が冷たく(まばた)いた。アンドロイドの無機質な目が、何の感情も宿さず、ただ正確に目標を捕捉する。まるで機械仕掛けの狙撃装置が照準を合わせるような動きだった。


「……ふぅ……仕方がないな……」


 少年は自分の首から下がったペンダントを引きちぎり、力の欠片を口へ放り込んだ。


ドクンッ!


 少年の瞳に光が宿り、その小さな体から魔力の波動が放たれる。


「魔眼は……この姿では効力を発揮せんか……」


 ガイバーは壁にめり込んだまま、体内に張り巡らされた魔力回路に大量の魔力を流し始める――それと同時に、ドラゴンアイが燃えるような金色の輝きを放ち、徐々に大きく見開かれていく。


バァァアン!!と、まるで弾丸のように音を立てて壁から飛び出した。


「補給した魔力が切れる前に方を付けねばならん!まったく、こんな小さな体ではどうにもならん!」


 怪物に向かって一直線に飛びかかりながら、ガイバーの爪先がまばゆい光を帯び始めた。その姿には幼い少年の名残はなく、全身がしなやかな獣のような威圧感に満ちていた。金色に輝く目と鋭い爪は、まさに狩りを前にした猛獣そのものだ。


 その獣のような姿を目にしたアンドロイドは、一瞬の静止の後、格闘戦に特化した構えに切り替えた。移行までの動きには無駄がなく、まるで対峙する相手を分析し尽くしたような冷徹さを感じさせる。


「……ギッギギ……ガガッ……」


 ガイバーは一気に地を蹴り、アンドロイドの懐に飛び込むと、爪が光を増し、刃で切り裂くように横一線に薙ぎ払った。しかし、彼の爪が空を切る。


「まずいな……」


 アンドロイドは驚くべき速度で()()体を引き、ギリギリ彼の攻撃が当たらず彼女の攻撃は届く範囲を維持した。その動きは、まるで機械的に計算された回避行動のようだった。


 ガイバーは間髪入れず連続攻撃を仕掛けた。鋭い爪が閃光を描きながら次々と鋭く伸びる。しかし、繰り返される斬撃を、アンドロイドは軽々とかわしていく。まるで攻撃の軌道を完全に読んでいるかのような余裕さえ感じさせた。爪の一撃が僅かに()れ、近くの船内機器に触れる。金属についた傷が火花を散らして衝撃波と共に広がり、甲高(かんだか)い不快音を立てて斬り裂かれた。破壊された機器が床に崩れ落ち、船内の警告アラームが一段と騒がしくなる。


「避ける速度、いや精度が高すぎる……なんたる反応速度じゃ……」


 アンドロイドは逆に攻撃に転じた。鋭い拳や蹴りが空を切るたび、ガイバーはかろうじてそれをかわしていく。その速度はまるで視界を飛び越えるようで、次第に追い詰められていく。


「ふむ……恐ろしく早く、そして綺麗な動きじゃな。じゃが!」


 ガイバーの目が、床に転がっていたお世話ロボットの頭を捉えた。その瞬間、彼は素早くそれを蹴り上げ、飛び道具として使う。


「ほれ~い!」


 頭部はアンドロイドの視界を遮り、一瞬だけその動きを鈍らせた。ガイバーはその隙を逃さず、鋭い爪を振り下ろし、アンドロイドの脇腹を切り裂く。


「確かに避けるのが上手いようじゃな。まるで綺麗な計算の上になりたっている回避行動じゃ。じゃが、脆い!……ありゃ?」


 爪は命中したものの、アンドロイドの人工皮膚には薄っすらと傷がついただけだった。その手応えはまるで刃の付いていない食器用ナイフで、厚手のゴム板を切るような感触だった。


「……ほう……面白いではないか……」


 ガイバーの顔に笑みが浮かぶが、余裕は感じられなかった。だがその笑みで彼は無理やりにでも落ち着き、冷静に相手を分析し始める。


(鋼をも切り裂くこの爪が、たったこれだけの傷しかつけられんとはな……アンドロイドらしくエネルギーフィールドでもまとっておるのじゃろうか。もしくはワシ同様、体が神秘で出来ているかじゃな。そして……あまりにも高度な動きの精度と格闘戦術。ふむ、こちらの魔力量ではもう一手しか残っとらんが、30秒……稼げるじゃろうか……」


 その思考の瞬間、ガイバーの右腕が黒く変色し始めた。まるで闇が腕に染み込むように色が広がっていく。


「……!」


 彼は覚悟を決め、回避をやめてガードを固めた。その結果、アンドロイドの強烈な拳が彼を直撃し、再び壁に叩きつけられそのまま深くめり込む。


「……ギギッ……ガガッガ……」


 アンドロイドはゆっくりと歩み寄り、壁の中に手を突っ込む。その冷たく無感情な手がガイバーの首を掴み、締め上げる力を加えていった。


「……惜しかったな……」


 そう呟くと、ガイバーは壁に埋もれた右腕を引きずり出し、その手でアンドロイドの腕を掴む。


 その右腕は、いつの間にかドラゴンのカギ爪のように変化していた。そして、その黒いカギ爪を中心にアンドロイドの体から魔力が、宇宙船の窓に開いた穴のように勢いよく吸い込まれ、彼女の目から赤い光が消え――機能停止した。


「……まったく、何という馬鹿力じゃっ……」


 ガイバーはアンドロイドを両足で押しのけ、鉄のソファーに座りながら燃え盛る船内を見渡し、彼は呆然とする。


「ふぅ、ギリギリどうにかなったが……どうすんじゃこれ」


 彼は、右手を見つめながら独り言を続ける。


「右手が使えるようになったら、火を消すとしよう。地球でぶっ殺した転生者が、この船は耐火性じゃと言っておったから……まぁ、大丈夫じゃろう」


 少年の疲れた笑顔が、赤く染まる船内の光の中で薄れていった。



 しばらくして――


 うんしょっ!うんしょっ!と大きな布を一生懸命パタパタやって、消化活動に勤しむ少年はぼやいていた。


「なぁにが耐火性じゃ!あれから次々に引火して訳の分からん機械が3つも燃えたぞ!んあ~……地球のあの赤い車はどうやって呼ぶんじゃ~?」


 だるそうにうなだれて、視線を下に落とす。するとニッコリと笑うお世話ロボットと目が合った。


「……それに、補充した魔力もドレインクローを使ってしもうてすっからかん……踏んだり蹴ったりじゃ!」(バイン!)


 少年は地面に転がっているお世話ロボットの体パーツを蹴って、部屋の隅っこに集めていた。


「……それにしても……ふっ……こんなにバラバラにするか普通……ふふっ……」


 彼は必要以上にバラバラにされたお世話ロボットを見て、ツボにハマりそうになった。


 それから少年は、調整槽を「ふぬ”ぅぅぅぅ!!」と起こし、まず初めに集めたロボットの部品をポイポイと投げ入れた。

 蓋を閉めるとソルトの入った調整槽が、いつもと違って淡く光っているような気がした。


「んぁ……?どうでもよいわ……だってワシつかれたもん」


 そして、直立不動の素っ裸の赤目の悪魔には布をかぶせておいた。もう動きはしないだろうが、そのままでは目が合うたびに背筋が凍る思いがするし、見ているだけで厄災を呼び込む呪いの塊のような気さえした。


「地球人はこういう時なんと言っておったか……そうじゃ、クワバラじゃ。んぁ~……ほんとにっ、クワバラじゃったわ~」


 ガイバーは、ボロボロの船内を眺めながら、腕を組んで小さく鼻を鳴らした。


「ふんっ……力の欠片を1個使ってしもうたではないか」


 自分の砕けた魔石を飲み込んだ瞬間の感覚がまだ体に残っている。圧倒的な力の奔流が全身を駆け巡り、粉々になった自分の一部が戻ったあの感覚。見つけ次第ポンポン食べたいのは山々だったが、魔力の無駄使い癖を持っている彼にとっては、緊急時に備えてそうすべきではなかった――だが今回は間違いなく必要な判断だった。


(これで残りは2つか……)


 別の部屋に保管してある力の欠片を思い出す。その存在がある限り、自分はまだ生き延びられる。そして()()()に向かって進み続けることが出来る。しかし、同時にその限りある切り札を使い切ってしまった最悪の未来が、ぼんやりと頭をよぎった。


「……まぁ……そん時はそん時じゃ……」


 苦笑しながら立ち上がる。足元には壊れた船内機器の残骸が散乱している。


「ワシはやるべきことをやったまでじゃ。あと二つもあれば十分よ」


そう呟くと、ガイバーは食堂の方へ向かった。



 そして二日後――


 ガイバーは、調整槽の横で仰向けになり、くたびれた様子で天井を見つめていた。もうじきお世話ロボットソルトの修理が終わる頃だ。


ガタゴトガタゴトッ!!


 すると、黒い棺桶の中でソルトが暴れている音がした。ガイバーはスッと上半身を起こし、ギョッとして音がする方を見た。


(な、なんじゃこれ……こわ……)


 少年は立ち上がって調整曹の開閉ボダンを恐る恐る押した。


ギュイィィイン……プシュー……!!


 黒い棺桶が機械音を響かせながら立ち上がり、正面を向いた上蓋(うわぶた)がゆっくりと開いて、中からのっそりとソルトが出てきた。


「「・・・・」」


 何も反応がないソルトに少年は怪訝な顔をして、恐る恐る尋ねる。


「……おい。大丈夫か……?」

「……あ、おはようございます。ガイバー様。さて、今日は何の日だかご存じですか?なんと!あのアンドロイドの修理が終わる日ですよ!!」

「お主……記憶はどうしたっ?それに今調整槽から出てきたのはお主じゃ。あのアンドロイドじゃなくて、お主が入っておったんじゃ。もう完全に壊れてしもうたんか……?」


 怪訝な顔をして、布がかぶさった悪魔を指さしながら淡々と続ける。


「あれ、捨ててこい。船外にポイっとな」

「はぁ、アレとは何でしょうか?」

「お主ぃ、頭大丈夫か?どこから記憶ある?」

「は?」


 2人は数秒見つめ合う。船内に響く電子音がやけに大きく聞こえていた。

 少年は表情には出さなかったが、内心で驚きを隠せずにいた。


(…………え、こやつ今『は?』って言わなんだ?気のせい?)

「おい」

「ああええっと、アンドロイドの修理が終わる日の朝です。いやー、楽しみですね!ガイバー様!」

「そ、そうか。その後な、お主あのアンドロイドにバラバラにされたんじゃよ。ワシも危うく宇宙の藻屑になりかけた。だからアレは危ないから捨ててきてほしいんじゃ」

「ええ!?ワタシが?ですがあのアンドロイドは今調整槽の中に――」

「じゃからここにおるんじゃって!」


 少年は布を勢いよく引きはがし、素っ裸の悪魔をソルトに見せた。


「はわわわわわ!ガイバー様!なんですか!?そのダッチ……女性は!?テレテレ」

「な”っ……!?」(なんじゃこいつ!?きしょく悪っ!?こ、こ奴はもうダメじゃ、新しいお世話ロボットを探さねば……)

「ガイバー様!このアンドロイドは私が責任をもって直します。ご安心ください」


 そう言いながらコードで出来たイソギンチャクのような手で少年の手をワシャワシャと握る。

 その自分の手にガイバーはゆっくりと視線を落とし、彼は口を半開きにして、ぼうっと眺めていた。


(……え?こやつの手……こんなんじゃったっけ…?………………きんも)

「は、はなしぇ!わかったわかった。じゃが今回は改造について指示を出すから、アレを作業台に乗せてくれんか」


 少年は、自分の手をこすりながらキモロボットに指示を出す。


「チッ承知しました。ガイバー様。彼女はワタシが台に運んでおきます」


「うむ」(え、こやつ今舌打ちせんかった?ありぇ?)


 少年は訝しげな表情のままその様子を見ている。そして、ソルトがアンドロイドを持ち上げようとして、微かに「オンモッ!」という声が聞こえた気がした……。



 しばらくして――


 少年は、ぼんやりと()()が入った中樽サイズの容器を眺めていた。この半壊した調整室は本来、ロボットなどの機械類の修理や改造の他、武器の製造にも使われる広々とした部屋だ。そこにしばらく不快な音が鳴り響いていた。


ガッ、ガガガガッ……ギギギギギィィィ……!!


 ソルトが先ほどからアンドロイドを重たそうに引きずって、作業台に乗せようと悪戦苦闘し1時間が過ぎた。アンドロイドは元あった場所から2mほど移動していた。


「えお主そんな非力じゃったっけ?それ拾ってきた時普通に持ち上げとらんかった?」


 少年は、ソルトがおかしいことについて、あれやこれやと考えを巡らせる。


(直すときに、調整槽にソルトのパーツだけではなく、きっと船の残骸とかなんか関係ないものまで放り込んでしもうたんじゃ。それでおかしくなってしもうたんじゃわ~……いや、元々頭は損傷しておったが……)


 だが、ロボットが本当にこんな壊れ方をするのかと怪訝な顔をしながら、買い替える予定のポンコツに近づく。


「ワシが運ぶからかしてみぃ」


 そういって少年は、アンドロイドを調整室にある大きな作業台の上に勢いよく乗せる。


「うんしょぉぉぉぉ!!」


ドォォォォォン!!


 台の重量計が100kgを指していた。ソルトの顔は笑顔の面で固定されていたが、それを見て少し引いているような気がした。


「なした?」

「い、いえ……ガイバー様はお体がガキミタとても小さいのに力持ちなんですねぇ」

「そりゃぁ、人間ではないからな。じゃが大して変わらんよ。魔力の貯蓄がない今は、このアンドロイドを持ち上げるので精一杯じゃ」(…………え?)

「それとこのアンドロイドの修理と改造のことじゃが――」

「はい!ガイバー様好みに仕上げればいいのですね!」

「あ、ああそうじゃ。分かっておるなら話は早い。指示を出すまででもないな」(本当に分かっておるのか?)

「ちなみにガイバー様。あの()()が入っている容器と隣の赤い霧が入った容器は何でしょうか?」

「なんじゃお主、そこの記憶も飛びおったのか?あれはワシの魔石を他の生命体のDNAと合成して作っているワシらの仲間じゃろうが。ワシは300年前に一人で何十人もの転生者と戦い、そして敗れた。であれば一人で戦わなければいいのじゃ。どうだ?いい案じゃろ?わっははははは!」


 ソルトは何の相槌も打たずに黙って聞いていた。


「あと、どうやらあの容器は2つともほぼ完成したようじゃ。じゃからして、名前を書いておいてくれ」

「……あれは、完成しているんですか……?」

「おそらくな。使用した力の欠片の色とDNAの元になった素体名が書いてある下に、完成体の魔石獣の名をラベルに書いて貼っておいてくれ。あと向こうの保管ケースに予備の力の欠片が2つあるから、その内の1つをまたペンダントにしておいてくれ。おい、聞いておるか?」

「……あはい。ガイバー様。ではそのように」

「うむ。では頼んだぞ」


 少年はペタペタと歩いて部屋を出て行った。そして、1人残されたソルトは、ぼそりと(つぶや)く。


「……あのガキ……なんつってたっけ?」


 ソルトは、もう以前のAIお世話ロボットではなくなっていた……。

*あとがき*


お読みいただき、誠にありがとうございました!


この物語が少しでも皆さんの心に響き、「なんだかクセになりそう」「もっと読みたい」と思っていただけたら、これ以上の喜びはありません。

執筆するたびに、「次はもっと面白い話を書きたい」と考えています。そんな私の成長を、ぜひ見守っていただければと思います。


ぜひ評価や感想をポチッと残していただけると、尻尾をピンと伸ばして喜びます。


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★1.→「悶え苦しみ最後に死────ね」

★★2.→「方向転換を要求する」

★★★3.→「悪くないけど早く続き書けや」

★★★★4.→「ウッソだろお前ってレベル」

★★★★★5.→「今回、笑の神が降臨した。」よせやい照れるぜ。


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