ギルド×登録×魔力ゼロ!?
ガイバー少年とジニアは、大きな建物の前に立っていた。
その建物は冒険者ギルドーー新しい石材と木材で作られた清潔感あふれる外観を持ち、正面には剣と盾を模した紋章が堂々と掲げられている。入口の両脇には松明が燃え続けており、それはギルドの象徴として朝日を受けてもなお輝いていた。入り口横の看板には、木の板に炎を思わせる装飾文字で『ギルド -フレイア-』と力強く彫られている。
少年は、木製の大きな両開きの扉を勢いよく押し開けた。
ギルドの扉が開かれた瞬間、聞こえてくるのは、ジュウジュウと肉が焼ける心地よい音だった。その音は、まるで「早く食べて」と肉が語りかけてくるようだ。 カン♪カン♪とトングが肉を返す音がリズミカルに続き、ビールジョッキが互いにぶつかり合う音、冒険者の笑い声、そしてあちこちで炎が燃え盛る音がBGMのように鳴り響き、その1つ1つの音がまるでオーケストラのように店内全体を包み込んでいた。
「ここじゃ」
「……。ガイバー、ここは焼肉を提供する飲食店です。よって、ここは該当する場所ではありません」
「お主もさっき道を教えてくれた人間から聞いたじゃろ」
ガイバーはここに来る途中で、ギルドへの道を尋ねた際に運よくギルドマスターの知り合いに出くわした。そして彼が言っていたこと思い出す。
ギルド『フレイヤ』のギルドマスターは、当時大きな悩みを抱えていたという。
それは、大きな街なのでギルドも大きくしようと思った。何故なら格好がつかないから。でもここは魔境からものすんごい遠い場所にあって、この地に魔物はほとんど生息していなかった。
結果、アホみたいに広い部屋とアホみたいに大きなクエストボードがドーン!と鎮座しているにも関わらず、2,3枚の紙がボードの隅っこにちょこんと張られている見栄だけが前面に押し出されたような施設になった。……誰も来なかった。
だから思ったんだ。『そうだ。おいしい魔物料理のお店にしよう』とね。
内装はオシャレだし、『ギルド×魔物×酒場×冒険者×出会い♡』と相性もばっちりで、街の住人や噂を聞きつけた冒険者にアホみたいにうけた。
なのでこの街で、「僕とギルド行きませんか?」「今日フレイヤ行かない?」と言うとき、それは「こんにちは!この近くで美味しいオシャレなお店を見つけたんですが、一緒にどうですか?」というようなものなのであった。
そして今彼らは、そのワイワイガヤガヤしたギルド内で、ギルド登録しようと受付を探していた。そしてカウンターを見つけ、しっかりとした革のエプロンを身に着けた受付嬢に声をかける。
「ギルド登録をしたいんじゃが」
「いらっしゃいませ!ギルドフレイヤにようこそ!ギルド登録ですか?では種族とお名前をお願いします。あと、特技と得意な武器も教えてください。こちらでカードに記入しますので」
「種族は……獣人じゃ。名はガイバー。特技は…」
「え…!?」
「何じゃ?」
「その……」
どうやらこの星では、人が魔物の名前を付けていた場合、その名前のことを “ギラギラネーム” と言うらしかった。そういった名前をつけること自体は禁止されているわけではなかったが、周囲からはあまり良い印象を持たれないとのことだった。
そして、実際にギラギラネームを付ける変わり者も、ちらほらいるらしかった。だが問題は、『ガイバー』という名前だった。その名は300年前に世界を滅ぼそうとしたドラゴンの名前で、受付嬢は『討伐を行ったこの星の女神から一番忌み嫌われる名前だろうから、女神教会で名前の変更をしてはどうか?』と心配していたのだ。
「これはワシの飼…親から貰った名前じゃからして、そう簡単には変える気はない。このまま登録を進めてくれんか。それと、それはどんなドラゴンだったんじゃ?」
「分かりました。そうですねぇ、世界の危機ということで転生者全員が派遣されたそうなのですが、その方たちが残した書物によると、3人の犠牲が出たとのことです」
「3人!?」
「はい。 『あまり大したことはなかった。開幕3秒で首を切り落として勝利した』と書かれていたそうです。しかも犠牲になった3人は味方の誤射に巻き込まれた方々で、その誤射をした転生者は “ユニコーンを狩った罪” により、どこかの森に住む緑色のタイツを着込んだ民族の集落で、『喋るだけの大きな木となり、永遠を生きる刑』に処されたそうです。ただ、不思議なことに、帰還したはずの転生者の姿を誰一人として見た者はいない、という噂もあります」
「ああ……そうか……ああ……」(それワシか!?何か全く記憶と違うんじゃが)
「名前の登録が終わりました。では、特技と得意な武器を教えてください」
「特技は……サバイバル術。武器は使わん。拳闘士じゃ」
「サバイバル術ですか?」
「ああ、食料の調達や火を起こすなどして、野営に向いておる」
「分かりました。ついでにそちらの方も登録しますか?」
「ああ、頼む。名はジニア。おぬしの特技と使用武器は………なんじゃ?」
「私は、戦闘用アンド…」
「んん”んっ!戦闘訓練を受けた人間じゃな」
「…です。では、私の専門技能を説明します。
まず、格闘技術。私には高い戦闘能力がプログラムされています。接近戦では物理攻撃により敵を迅速に制圧します。格闘戦は私の得意分野の一つです。
次に、遠距離攻撃。私には高精度の射撃技術がインストールされています。遠距離からの攻撃も容易で、ビームやエネルギー兵器を…」
「は、はいぃ…??」
受付嬢の顔はみるみるうちに怪訝な表情になった。
「この方は、その、転生者…」
「いや、幼い頃から転生者の友人を持っておっての、その影響でちとおかしくなっておる。気にせんでくれ。いつもの事じゃ」
「はぁ……ではなんと登録すれば……」
「……特技は、臨機応変な戦略的戦闘じゃ。ワシと同じ格闘家なんじゃろ。ははは……」
「また、特殊能力もあります。戦闘中に自己修復システムを実行させ、同時に防御を強化することが可能で…」
「それはまた今度聞こう。とりあえずそれで登録を進めてくれ」
「……分かりました。では、得意な武器を教えてください」
「近接戦では、ソード、特にエネルギーブレードを使用することもあ…」
「剣じゃ。こ奴は剣を使う。格闘家ではなかった。剣じゃ。ははは……」
「わ、分かりました。……では、魔力を測定しますので、こちらへどうぞ」
焼肉ギルドの喧騒の中、「魔力測定」という言葉を受付嬢が発した瞬間、酒場の魔力測定をする一番近い場所にたむろしていた数人の男たちが、ゆっくりと動き出した。彼らはまるで興味がないような顔を装いながらも、ちらりと視線を交わし合い、口元には薄い笑みが浮かんでいる。その笑みには、静かだがどこか刺々しいものが含まれていた。
男たちは肩を寄せ合いながら測定の場に近づいて来るが、その足取りは妙にゆったりとしている。まるで測定を行う者の緊張を引き立たせるかのように、わざとらしく遅い歩調で近づく。視線は終始、測定を受ける人物へ向けられ、鋭い観察が続く。その目つきはどこか冷たく、眉間がわずかに持ち上がり、興味というよりは何かを確かめるような雰囲気を漂わせていた。
気づけば、周りには数十人の冒険者や街の男達が集まっていた。
「今日こちらへ来るまでに、お二人とも魔力を使うような事をしましたか?」
2人は使ってないと答える。すると受付嬢が、少し大きな四角い箱を目の前に出してきた。
「ではこちらの箱の上に手を置いてください」
少年は言われるがまま手を置く。
シュンッ…
箱の淵にある小窓からは、『00,036』と数字が表示されていた。
ジニアもその箱に手を置き、『00,113』と表示された。
「ふっ……」
「36?珍しいじゃん……」
「せめてもう一回測り直してやれよ……」
周りにいた大勢の冒険者は、口々に呟きながら、また酒を煽りに席へと戻って行った。
そして、ジニアの手が置かれた箱の数値が、突然1減ったのを見て、受付嬢は(え?)という顔をした。
「これは何じゃ?」
「この箱は手を置いた方の今の魔力量を測る魔法装置です」
「ほう。そんな便利なものがあるのか。で普通はどれくらいの数値なんじゃ?」
「えっと……普通は100前後ですね。魔術職になりますと、だいたい500~1000です。転生者や勇者クラスになると1,000~5,000といったところですね」
「んぁ?じゃぁワシ少なすぎではないか?!わっははははは!」
「はぁ……。で、ですが先ほどそちらの方の数値がおかしかったので、少々お待ちください!」
そう受付嬢は言って何処かへ歩いて行ってしまった。
(まずいな……魔物であることがバレたか…?)
少年は少し焦り、いつでも逃げられるように周囲を確認する。
数分後、受付嬢が新しい色の違う箱を抱えて慌てて戻ってきた。
「ハァハァ……これで最大魔力量が測れます。当ギルドには1つしかない貴重な物ですが、そちらの方は今何か魔術を使っているようなので、こちらの箱で正式に魔力量を測定してください。中には防御魔術を常に展開されている方もいて、それを解くことが難しい場合はこちらで測定してもらうようにしています」
受付嬢は笑顔で対応していたが、その微笑んだ仮面からは(何かに魔力使ってるんだったら初めに言えよ)という雰囲気が漂っていた。
そしてジニアが手を置くと、箱の数値は変わらなかった。『00,000』である。
「えぇ??」
少年はことの重大さに瞬時に気づき、慌てて受付嬢に言った。
「わ、ワシに貸してみぃ!」
少年もその箱に手を置く。すると、『00,000』と彼女と同じく数値が変わらなかった。それを見た瞬間、受付嬢は凍り付いた。
「ほ、ほらな。それ、壊れとるんじゃわ~」
ガイバー少年は、極度の緊張もあってか、ニカッと歪な愛想笑いをした。
『壊れている』という言葉が受付嬢の頭の中を駆け巡り、『おかしい』という意識をボコ殴りにし、人の理解を超えた状況に合理性を与えた。
「え……ええ……そうのよう……ですね」
「ああ、一つしかないのに残念じゃの」
「はい。誠に残念ながら、これではお二人のギルド登録が出来ません」
「えぇ!?ワシも!?」
少年はあまりの驚きに後ろにのけぞり、両手を上下にアンバランスに広げ、カッ!とした表情で固まった。
「はい……。申し訳ありませんが……ギルドとしてはお連れの方の安全性が確認できない場合、その団体には登録を中止しています。もちろん見たところ危険性は無いようですし、あなたも問題ないのですが、もうお一人が少し不明瞭となっておりますので、今回はご登録できません。こちらも安全を最優先していますので、ご理解ください」
受付嬢は申し訳なさそうに言った。
「そうか。分かった。ではその魔法装置が直った頃にまた来よう」
「申し訳ありません。女神教会の方で修理を依頼して、これが直せる転生者が派遣され当ギルドに到着するまで、およそ1カ月はかかると思います……」
「ああ、よいよい。ではな。行くぞ、ジニア」
「……。はい」
ジニアは、魔力測定装置をしばらく見つめていたが、すぐに踵を返し少年の後を追った……。
そして、彼らはギルドから出てとりあえず街中をブラブラと歩きながら、少年の方はどうやって不正に登録することが出来るかを考えていた。
「ガイバー。あの状況下で、なぜ我々の正体が魔物であると露見しなかったのですか?あの測定器は、いかなる観点から見ても、必要な桁数を満たしていませんでした」
ジニアも気が付いていた。あの最大魔力保持量を測る装置が表示した数字の謎に。『00,000』と表示されたということは、最大魔力容量が『0』または『100,000以上』ということになり、そして現在彼らはわずかながら魔力を持っていた。ということは桁が足りなかったということになる。
「あの場合、決して不自然ではない。微量ながら魔力を持っておるのに、『このゼロという数値=勇者以上の魔力保持容量があるわけがない』と思うのは自然じゃ。それを人は『常識』という」
ジニアはとてもシンプルなことに気が付かなかったあの受付嬢に疑問を抱いていた。そしてその答えを少年は話し続ける。
「常識とはな、人が今まで生まれ育った知識のみで構成された、考え方や価値観のことでな、そやつの『行動』に深く直結しておる。あの受付の女は、自分の今までの常識を遥かに超える状況を目の前にして、自分の持つ知識、すなわち『常識』で答えを出したのじゃ。そう、故障しているとな」
「我々は、人間とは本質的に異なる存在なのですね」
「そうじゃ。この星の魔物とも全く違う生き物じゃろうな。ただ貯蓄容量のでかいだけの、弱っちい生き物よ!わっははははは!」
少年は、この星で人間を3人食べ、人の食べる物を毎日食っても、魔力が『00,036』しか溜まっていなかったことを思い出し、変なツボにハマって笑いが止まらなくなった。この体は人間界では不便すぎると。
「エーテルから貰ったエー…魔力瓶が楽しみじゃの。宿に帰ったら飲んでみて、また明日ギルドで測定しに行くのもありじゃな!わっははははは!」
「それと、何故、測定中に私の魔力が1減少したのですか?」
「そりゃぁワシらは魔力を糧に動いておるからじゃろ。胸の中にあるコアクリスタルが常に魔力を消費しておる。だからちゃんと魔力を補充せねばならんぞ?では適当に街をブラブラして、ギルドカード登録の作戦でも練るか」
そう言いながら少年と女は街中を散策してその日を楽しんでいた。
その頃、さっきのギルド内では――
コツッ、コツッ、コツッ…
ブーツの音を立てながら、先ほどの受付嬢に近づく一人の赤髪の女がいた。
「おい、マリナ。さっきの二人組、なんかヘンなとこなかったか?」
「ああ!フレア!それが聞いてよ~。あの二人ギルド登録しに来たんだけど、それが出来なくて……。女性の方におかしな…」
「女の方?あのガキの方に問題あったんじゃねぇのか?」
「あの男の子?いいえ、女性の方よ。あとこの箱!まさか壊れてるだなんて……。修理費用もバカにならないわよきっと」
「壊れてる?」
「ええ、2人とも普通の人並みに魔力を持っていたんだけれど、あ、男の子の方はちょっとだけね。で、これで最大保有魔力を測ってみたら何て出たと思う?ゼ、ロ。ゼロよ?ゼロって数字が出たとき背筋が凍ったわ。はぁ……。修理費用っていくらなのかしらってね。まぁこのギルドはお金持ちだから何とか修理費用もまかなえるとは思うけど……」
それを聞いていた赤髪の女は、少し眉をひそめながら彼女に言った。
「……。おい、マリナ。それに手ぇ置いてみろよ」
え?と言いながら彼女は箱に手を置いた。すると……。
「あれ!?数字が表示されてるわ!?直ったみたい!……でも何故かしら。でも調子が悪いのは確かね。とりあえず女神教会で修理屋さんを派遣してもらって、それから…」
「なんだか面白くなってきたじゃねぇか……」
「え?どうしたのフレア?」
そう言いながら赤髪の女は、ギルドを出て金髪の少年と水色の髪をした女の追跡を開始したのであった……。
・ちなみにこの時、ガイバー少年は、今日は特に大きな問題も起きなかったので、めっちゃついてるわ~と思っていた。
*あとがき*
お読みいただき、誠にありがとうございました!
この物語が少しでも皆さんの心に響き、「なんだかクセになりそう」「もっと読みたい」と思っていただけたら、これ以上の喜びはありません。
執筆するたびに、「次はもっと面白い話を書きたい」と考えています。そんな私の成長を、ぜひ見守っていただければと思います。
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帰りしなに☆☆☆☆☆をポチっていただけますと、その評価がこの先の作品の方向性を決める大きなヒントに…!もちろん、率直な意見や鋭いツッコミも大歓迎です!
★1.→「悶え苦しみ最後に死────ね」
★★2.→「方向転換を要求する」
★★★3.→「悪くないけど早く続き書けや」
★★★★4.→「ウッソだろお前ってレベル」
★★★★★5.→「今回、笑の神が降臨した。」よせやい照れるぜ。




