第9話 倒れる仲間、立ち上がる者。
「まだ動くぞコイツ!」
元凶と思われる遺体の男性は、口から血反吐をまき散らしながらさらに周辺にいた騎士団員へと襲い掛かる。
「総員、伏せろ!!」
そこへその場を離れていたオーランドさんの叫びが轟く。と共に、炎の弾が男へと命中。男は頭を喪失し、その場で崩れ落ちた。
オーランドさんはそこで油断せず、その後も男に炎魔法をかけ続け、完全に炭になるまで燃やし尽くした。
「小隊長は自分の隊を集め、被害報告をしろ! おい、ニーヴェル!」
「気を失った者は、直接触れないようにして一か所に集めた。総勢15名。……その中にはウチのエミリアもいる」
ニーヴェル様は悲痛な表情で、オーランドさんに報告した。
被害を受けた隊員たちを集め、氷の壁で作った小屋に隔離していたようだ。
「……分かった」
オーランドさんが言葉少なげに、ニーヴェル様の作った小屋に入ろうとする。
「おい、オーランド。お前、何をする気だ」
「何って、焼却処分だよ。原因が分からない限り、伝染する可能性だってある。……6年前の前例を忘れたとは言わせねぇぞ」
「それは……」
「……俺もあの時は多くの仲間を失った。本当はこんなこと、命令されなきゃやりたくねぇよ」
おそらくこれは、先ほど王城の騎士団の詰め所から出る際に、ゲイリー長官がオーランドさんに命じていたのだろう。
「俺を止めるんなら、お前が相手でも容赦しない」
そこまで言われ、ニーヴェル様は押し黙ってしまった。
だけどこの中では、大事な仲間であるエミリアさんも昏睡状態になっている。このままでは彼女も死んでしまう。
「くそっ!! 俺はまた何も守れないのか!?」
パキンと空気が割れるような音が鳴り響く。
行き場のない怒りが彼を襲う。
あの時も両親を助けられず、独りぼっちになった。
またあの二の舞か――。
しかし今回に限っては、それは違った。だって、私が居るから。
「……危ないぞパルマ。血に触れたら、お前も焼かれてしまう」
氷の小屋に入ろうとした私を、ニーヴェル様が引き留めた。だけど、止まるわけにはいかない。
「あの、ニーヴェル様。もしかしたら私、彼らを助けられるかもしれません」
「――は?」
◇
「おい。止めるんじゃねぇって言ったはずだ……ってなんでソイツがいるんだよ」
氷で肌寒い小屋の中に、オーランドさんはいた。
まだ焼却処分はしておらず、まずは経過を観察して部下に記録させていたようだ。
そしてオーランド隊の神子も数名いた。
彼女たちは懸命に聖魔法で浄化魔法や治癒魔法を繰り返しているが、結果は芳しくないようだった。
「見ての通り、神子の手は足りてる。効果がねぇんだよ」
どうやらこの吸血鬼の血というのは一般的な病気や呪いではないようだ。
あの自信満々だったソワレさんですら、床に膝をついて荒い息を吐いている。
そんな悲壮感の漂う現場を見て、「でしょうね」と私は内心で思った。
「それは私も分かっています。ですが私が普通の神子ではないのは、みなさんもご承知の通りです。どうせ殺すのならば、私の指示に従ってからにしてください」
小屋の中心で、私は皆に聞こえるような声でそう言った。
「は? おい、ニーヴェル。てめぇ邪魔するんならソイツを今すぐ摘まみだせ」
「俺からも頼む、オーランド。これで駄目なら……俺はお前の指示に従う。だから彼女に賭けてみてくれないだろうか」
憮然とした態度の私の隣で、ニーヴェル様はオーランドさんに頭を下げた。
銀髪の頂点が見えるほどに深く、どうしても私に任せたいと懇願したのだ。
「……そこまでソイツを信じているのかよ」
「彼女は、俺がこの世で一番信用している人だ」
頭を下げたままそういうニーヴェル様も遂に折れた。
赤髪をボリボリと掻きながら、部下たちに指示を飛ばす。
「お前らも聞いていたな? なにやらニーヴェル隊に考えがあるらしい。俺の隊も全面的に協力しろ。……いいな?」
「はい!!」
事の次第を黙ってみていた団員たちはホッとした表情で、元気よく返事をした。
彼らだって、できれば仲間を助けてやりたいんだろう。もし万が一にもそれができるのならば、喜んで協力してくれるようだ。
「では、みなさん。血の染み込まない生地で手を覆い、被害者全員の血をふき取ってください。患部は清潔に。まずはそこからです」