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第8話 始まる調査、動く死体。


「――なんだと?」


 ゲイリー長官の執務室に飛び込んだ急報。


『王都に吸血鬼が現れた』


 その言葉に部屋にいた全員が耳を疑った。

 6年前。王都を恐怖に陥れた連続殺人鬼が帰ってきたというニュースは、街の治安を維持する彼らにとって恐怖でしかない。これから増えるであろう被害に額を押さえる者や、身近な人を喪ったのか震えだす者が現れる始末だ。


 混乱を極める執務室で、私はニーヴェル様が心配になった。前回の吸血鬼事件で両親を失った彼がマトモな精神状態でいられるとは思えない。


「ニーヴェル様……?」


 だけど彼の表情は、怒りでも恐怖でもなく。


 心の底から嗤っていた。

 まるで復讐の機会がようやくやってきたとでもいうように。



 ◇


 さっそく、ニーヴェル様の部隊とオーランド隊は共に報告のあった場所へと急行した。

 ゲイリー長官はどちらかだけに任せるとケンカになるだろうと判断し、両隊に行かせたのだ。


「現場は用水路か……」

「遺体は浮いたままだな。おい、誰かここの管轄をしている守備兵を呼んでこい。あとは発見者をできるだけかき集めろ」


無残な状態になっている遺体を見つめるニーヴェル様と違い、オーランドさんは部下たちに次々と指示を与えていく。少数精鋭で異端者を狩るニーヴェル隊とは違い、王都の守護という役目を持つオーランド隊の方がこのような事態に慣れているみたい。


「おい、パルマローズ。あまり見ない方が良いぞ」

「大丈夫です。遺体には慣れているので」


 騒がしく指示を飛ばす部隊員の横で、私は用水路を覗いてみた。どうやら被害者は太った男性のようで、うつ伏せで血を顔付近から垂れ流したまま浮いていた。



「取り合えずあそこから出してやるか。あのままじゃ可哀想だ」


 オーランドさんがこちらへやってくると、私の隣で用水路を覗き込んだ。

 血が用水路の中を赤い蛇のように流れている。このままでは近隣の住人も気味が悪いだろう。


 隊長から指示を受けた数人の隊員がヒィヒィと嘆きながら、被害者の男性を用水路脇の道へと引き上げようと試みる。

 その周辺をニーヴェル隊とオーランド隊の隊員たちが囲んで、その光景を眺めていた。


「引き上がったぞ!」


 当然のことながら男はすでに息をしておらず、白目を剝いていた。



「これは最近、見つかった殺人事件の遺体に似てますね」

「おい、ニーヴェル。どうしてお前のところの女隊員が、ウチの案件について詳しいんだよ」


 ニーヴェル隊のエミリアさんが、オーランド隊に混ざって遺体の検分をしている。さっきまでどこかをうろついていたはずだけど、いつの間にか調査に参加していたようだ。


「彼女の担当は偵察や潜入だ。情報収集も得意だからな」

「そんなことを聞いてんじゃねぇよ……はぁ、まぁいい。邪魔だけはすんじゃねぇぞ?」


 ゲイリー長官から「くれぐれもお互いに協力するように」と厳命されていたオーランドさん。深い溜め息を吐くと、彼は発見者の方へと歩いて行った。



「ふふふ。相変わらず素直じゃないですねぇ、オーランドさんは」

「おい、エミリア。奴はお前よりも役職は上なんだぞ。言葉遣いに気を付けろ」

「えぇ~? そういう団長ぉだって、あんまり敬語なんて使わないじゃないですかぁ」


 ぷくーと頬を膨らませながら文句を言うエミリアさん。


「俺は良いんだよ。それより、ファルコは?」

「向こうで市民から聞き取りしてます。……煙草を吸いながら」

「……まぁアイツなりのやり方だ。任せておいて問題はない」

「えぇー!? ボクとの扱い、違いすぎません?」


 そんなふうにマイペースに会話をする私たちを、オーランド隊の隊員たちが苛立ちを隠せない様子で、こちらをチラチラと見ながら調査をしている。


 気まずくなった私は、引き上げられた遺体に近寄ってみることにした。

今ならちょうど、他の隊員も調査で忙しそうだし、私の存在に気が付かないみたいだし。


「……あれ?」

「おい、どうしたパルマローズ」

「この方。首に注射痕はありますが、血は抜かれていません。これ、本当に吸血鬼事件と同じ手口なのですか?」

「――!!」


 その瞬間、周囲にいた隊員たちが揃って私の方を向いた。小さな声で言ったつもりだったのだけれど、不思議とその言葉は現場にいた全員の耳に届いてしまったようだ。


 最初の報告は『吸血鬼事件の再来』という話だった。

 たしかに血は流れてはいるが、過去の吸血鬼事件では体内から全く血が喪失するほどの失血量だった。



「たしかに、パルマちゃんの言う通りですね」

「おい、オーランド団長を呼んで来い。……なんだ?」


 遺体の異変に気が付いた隊員たちが他の人員を呼ぼうとしたところで、動くはずのない遺体が、突然むくりと起き上った。



「……え?」

「うわあああっ!?」


 この世界に害獣はいるが、ゾンビや幽霊といったものはいない。

 正真正銘の化け物にエミリアさんや隊員たちは恐れおののいた。


 さらに悪夢は続く。



「ほげぇええっ!!」


 上体を起こした遺体が突如、大量の吐血をしたのだ。

 いったいどこにそんな量の血が残っていたのかは分からないが、周辺にいた隊員たちはその血を浴びてしまった。


 ――その途端。



「……エミリア!!」


 血を浴びたすべての隊員たちが、一斉に地面へと倒れ伏した。


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