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第7話 形だけの謝罪、もたらされた急報。


「知り合いか、ソワレ」

(わたくし)のお友達だった人です。でもお貴族様に売られたはずなんですけど~」

「お前も売られた側の人間だろうが」

「違いますよ~! (わたくし)は自分の意思でオーランド様を選んだんですから!」


 ふわふわの金髪の美少女がぷりぷりと怒っている。どうやら彼女はオーランドさんの元へ貰われていったようだ。


「っていうか今、異端者つったか?」

「くそ、オーランドの神子め。余計な真似を……」


 あの晩、ニーヴェル様はシロン神父やプギー伯爵に口止めをしたはずだった。なのにソワレは何の躊躇もなく、それをここで言い放ってしまった。


 ソワレの言葉は全員に衝撃をもたらし、この部屋にいた全員の視線が私に集まった。



 無邪気とはこのことか。

 パルマは長年彼女の友人としてその人柄を知っている。彼女は本当に悪気というものがないのだ。だからこそ、彼女がシロン神父に自分の秘密をバラしたことも許した。

 悪いのは自分で、相手は正しいことをした。そう思い込みたかった。


 ――心ではそのつもりだった。


 だけど自分でも驚くほどに、自身の身体が震えていたことに気が付いた。



「おい、ニーヴェル。俺の部屋を雪で埋もれさせる気か?」

「……必要とあれば。この場の全員の口を二度と開かないようにするつもりですが」

「それはやめてくれ。……おい、オーランド。今回の件はお前の部下が悪い。事情を知らなかったとはいえ、口が軽すぎるぞ」

「うぇっ、俺の責任かよ!?」


 長官に指摘されたオーランドさんは、今も冷気を出し続けるニーヴェル様をひと睨みする。そして「はぁ」と深い溜息を吐いてから、頭を垂れた。



「すみません、俺の教育が足りてなかったようです。……だけど長官、闇の魔力を持った神子ってマジですか!?」

「だからこそ、彼に調査を頼んだんだよ。異端者の扱いは、ライムフロスト家が最も適任だからな」

「……チッ。美味しい仕事ばかり奪っていきやがってコイツは」


 ようやく氷雪魔法を収めたニーヴェル様に悪態をつきながらも、頭を軽く下げた。


「ウチのモンが失礼をした。ほら、ソワレ。お前も向こうの神子に謝れ」

「えぇ~? (わたくし)は事実を言ったまでなんですよぉ?」

「だから騎士団では言っていいことと悪いことがあるって、長官に今言われたばかりだろ。追い出されたいのか、マジで?」

「い、いやですっ! オーランド様の傍は誰にも譲りません……」


 涙目を浮かべながら必死に傍においてくれと懇願するソワレ。

 彼女は相当彼に惚れこんでしまったようだ。だがその周囲のオーランド隊の団員たちはやや冷めた目つきで眺めていた。

 彼の隊も大変そうだ。



「ごめんね、パルマちゃん。(わたくし)、パルマちゃんに会えて嬉しかっただけなの。隊は違うみたいだけど、これからもよろしくね!!」

「……はい。ソワレさん」


 内心では二度と関わって欲しくないと願いつつも、ソワレに差し出された右手を握り返そうとした。

 だがそれをツカツカと近寄ってきたニーヴェル様がソワレの手を払った。




「あの神父どもにも言ったが、今度余計な真似をパルマに言ったら――二度と目覚めない眠りにつかせてやる」

「ひっ!?」


 ニーヴェル様が視線で射殺すような目つきをソワレに向けた。


「――それぐらいにしといてくれ。今回は俺の落ち度だ。あとで厳しく言っとくからよ」


 グイ、とニーヴェル様の肩をオーランドさんが引く。オーランドさんも睨まれるが、それぐらいでは怯まない。ただこれ以上ニーヴェル様を怒らせたらマズいというのは、彼もよく分かっていた。



「……チッ。今度彼女を傷つけたら、貴様を氷漬けにしてやるからな」

「はいはい。ったく、キレると俺より手のつけようがねぇんだからよ……」


「ところで、オーランド隊はどうして来たんだ? 今日は特に用事は頼んでいなかったように思うが……」


 ゲイリー長官はこれで一件落着とばかりに残っていたコップの酒を呷る。

 職務中だというのに、誰も注意しないということは、これがここでの日常茶飯事なのだろう。



「最近、王都で市民の失踪や殺人事件が増えている件について報告しにきたんだ。見回りを増やしてはいるんだが……月に数件だったのが、ここ最近ではさらに数が増えてやがる」

「あぁ、その件か。被害者たちの間に関連性が無いせいで、余計に捜査が難航してるんだったな」

「容疑者は全員捕まえたが、誰も吐きやしない。……だが、この事件に似た過去の事例を鑑みるに……」


「――吸血鬼事件か」


 それまで黙って聞いていたニーヴェル様が、ポツリとこぼした。



「そう、6年前に起きた連続殺人事件との関連性が疑われている。王都の人間が異端者によって連れ去られ、血の抜かれた状態で殺されたあの事件だ。記録上、犯人は逃走したことになっているが、どうしてまた……」

「オーランド、そこまでだ。ニーヴェルに吸血鬼のワードは禁句だ。またこの部屋を雪だらけにされたらたまらん」

「……そうでした」


 ニーヴェル様にとって、吸血鬼事件とはただの猟奇的な殺人事件ではない。

 彼の母が連れ去られ、当時のライムフロスト家当主を惨殺された事件でもある。


 並々ならぬ恨みのある彼は握りこんだ両手から血を流しながら、無言でうつ向いている。さっきまでケンカをしていたオーランドさんでさえ、今は彼を揶揄う気にはなれないようだ。


――コンコンコン!


 無言になってしまった執務室に、突如荒々しいノックの音が鳴り響いた。



「どうした、入れ」


 ゲイリー長官がさっと酒とコップを執務机の下に隠すと、その来客を迎え入れた。


「ほ、報告です!」

「なんだ、どうしたんだ?」


 全身汗だらけで荒い息を吐きながら入室してきたのは、伝令の兵のようだった。

 彼は部屋の中にいる人物たちを見渡し、少し安心した表情を浮かべてからこう叫んだ。


「た、大変です! 王都に吸血鬼と思しき殺人犯が現れました!!」


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