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第5話 新たな日常、そして波乱の予感。


「もう仕事には慣れたか、パルマローズ」


 ニーヴェル様のお屋敷に来てから、1週間が過ぎた。朝の掃除を済ませ、庭にあった花壇の水やりをしていると、食後のトレーニングを終えたニーヴェル様が話しかけてきた。



「はい。覚えることは多いですが、お陰様でやりがいを感じています」

「相変わらず、口調が固いまんまだな」

「……すみません」


 メイド服姿でお辞儀をすると、ニーヴェル様は「気にするな」と苦笑いを浮かべた。そして指をパチンと鳴らし、雪ではない雨を花壇に降らせ始める。



「ごめんな、ウチの団員はズボラな連中が多くて。おかげで屋敷中が綺麗になって助かってるよ」

「いえ。十分な食事と寝床をいただけるだけで、私は十分です」

「パルマローズ……」


 その言葉だけで、これまで私が教会でどんな待遇を受けていたのか察したのだろう。怒りと悲しみがない交ぜになった顔をしていた。


「ここでは気楽に過ごしてもらえると嬉しい。とはいえ俺や団員達も不器用で、迷惑をかけることも多いと思うが」


 ニーヴェル様は、風にサラサラと銀色の髪をなびかせながらそう言った。

 きっと彼は悪い人じゃない。でもだからこそ、本当に自分がここに居て良いものなのだろうかと……どうしても脳裏をよぎってしまう。



「……ニーヴェル様」

「ん? なんだ? 他にも何か手伝おうか?」


(名前を呼ばれただけでニコニコとするなんて……なんだか飼い犬みたいで可愛い。実際の主従は逆のはずだけど)


 つい笑ってしまいそうになるのを我慢する。そして花壇すべてに水が一気に撒かれたのを見て、心苦しくも口を開くことにした。


「花によって適切な水の量がありますので、水やりは私にお任せくださいますか?」

「え? あ、あぁ。すまない。余計なことをしてしまったようだ」

「いえ。お気遣いは大変嬉しいです。……それで、私に何かご用事が?」


 降らせていた雨を止めると、ニーヴェル様は「あぁ、そうだった」と答えた。


「パルマローズを正式に我が騎士団の神子として雇う。それを王城にいる騎士団の上官に報告することにした。だからキミにもついてきてほしいんだ」

「……それは強制ですか?」

「安全は絶対に保証する。それに俺の上官は信頼のおける人だ。キミのことは絶対に外へ漏らすことはないと誓うよ」


 闇の魔力を持つ私にとって、王城とは騎士団の次に危険な場所だ。

 なにしろ異端者を狩る集団のトップがいるのだから。

 だが今後のことも考えると、このまま秘密にしておくよりも、ニーヴェル様に任せて彼の預かりにしておいた方が安全かもしれない。


「分かりました。よろしくお願いします」

「あぁ、任せてくれ」


 こうして私は、ニーヴェル様と共に王城にある騎士団の本部へと向かうことにした。




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