表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/12

第2話 銀髪の騎士、初めての熱。


「誰だ、お前は!?」

「俺はニーヴェル。この取引きを止めにきた」


 男性は私と神父の間に割り込むと、そう名乗りを上げた。

 彼の年齢は20歳ほど。身長は180㎝後半で、銀髪。引き締まった体格をしている。

 腰元にはロングソードを差し、そして紺色の騎士服を着ていた。彼が騎士団の人間であることは間違いないだろう。


「金銭を用いた神子の取引は違法だ。まさか神父や伯爵ともあろう者が、それを知らないとは言うまい?」


 鋭い瞳で二人を睨むニーヴェル様。このような荒事は日常茶飯事なのか、彼は堂々としていた。


「クッ、ククク! 騎士風情が神父の私に説教ですか?」

「伯爵である私に盾突く勇気は認めてやるがなぁ? はははは!」


 いきなり現れた彼を最初は(いぶか)しげに見ていた神父と伯爵であったが、すぐに余裕を取り戻し、互いの顔を見合わせてゲラゲラと笑い始めた。自分たちの権力ならば騎士のひとりぐらい、どうとでもなるとでも思っているのだろう。


(私を助けにきてくれた? でも、どうして)


 闇の魔力なんかを持つ私のことを、誰が好き好んで救おうとするだろうか。闇魔法は人を不幸にする。だから闇魔法の使い手は差別の対象となり、異端者として処刑される。そんな危険な存在を助けるメリットなどないのに。


(私のことなんて、助けなくてもよかったのに……)


 どうせ存在してはいけない人間だったのだ。

 私のことなんて、何も知らないはずなのに。

 もう少しで、この無意味な人生を終わらせることができたのに。


「不安がらなくていい。キミを下衆(ゲス)な者たちの思い通りにはさせないから」


 ニーヴェル様はこちらを気遣うように優しい声色でそう語りかけると、自分が羽織っていたコートを私の肩に掛けてくれた。

 男物のそれは、小柄な私にはちょっと重かったけれど……。


(あったかい……)


 コートに残っていた彼の体温が暖かく、なぜだか心地良く感じられた。


「崇高な女神の信徒である我らを下衆扱いとは、失礼な奴め。貴様、我らを侮辱しておいて、タダで済むとでも思うなよ!」


 神父はこめかみに血管を浮かせ、唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。その言葉には有無を言わせない迫力があった。


「教会の権力は強く、神父は貴族と同等の扱い。この国の騎士ならば当然、知っているだろう?」

「ふふふ、閣下のおっしゃる通りですよ!!」


 なによりこれは彼らにとって大きな商談なのだ。一介の騎士に邪魔をされたくなどないのだろう。


 だがニーヴェル様は一切怯むことなく、神父を睨み返す。


「くだらない虚勢はやめておけ。俺は金や権力で屈するような男じゃない」

「……はぁ? 騎士ごときに、いったい何ができるというのですか」


 神父は嘲笑を浮かべ、そう言い放つ。

 しかしニーヴェル様は口角を上げ、ニヤリと笑った。

 それはまるで、自分のほうが優位であるかのように。


「待て、神父。この男が着ている群青色の騎士服には見覚えがあるぞ。それに胸元にある青薔薇の勲章……あれはライムフロスト侯爵家の証だ!」

「ライムフロスト!? わずか18歳で異端者狩り専門の騎士団長となった、あの!?」


 二人は驚きのあまり後退りした。それも無理はない。

 なぜならただの神子でしかない私ですら、その名声を街の噂で聞いたことがあるほどだ。


 ライムフロスト侯爵の率いる騎士団の目的は、ただひとつ――異端者の粛清。

 国王からこの国に潜む異端者たちを狩る任務を直々に与えられ、遂行のためには敵に容赦がないことで有名だった。



「ど、どうしてそんな男がここに……」

「どうして、だと? それはおかしな質問じゃないか?」


 ニーヴェル様は腰元の銀色に輝く剣をスウッと抜き放ち、神父の元へと詰め寄っていく。


「貴様はたった今、自分で『異端者狩りの騎士団』と口にしたばかりじゃないか」

「~~っ!?」


(――あぁ、なるほど)


 声が出ないほど驚いている神父たちをよそに、私はひとり納得していた。


 ニーヴェル様は最初から、私のことを知っていたのだ。闇の魔力を持つ私を自らの手で捕え、粛清する――そのために、ここへやってきた。つまりはそういうことだったのだと。



「ここまで言えば当然、貴様らの置かれた立場が分かるな?」

「そ、そんな……あともう少しで、大金が手に入るところだったのに!?」


 剣の切っ先を向けられた神父は、その場でヘナヘナと崩れ落ちた。伯爵もさすがに格上の貴族には敵わないと知り、壁際で毛のない頭を両手で抱えている。


 この世界、特にこの国では異端者との関与は重罪に問われる。

 さらには国王直属の騎士団に悪事がバレたとあれば、たとえ権力者であろうと言い逃れはできない。つまり彼らの運命はここで……いや、それは私もか。だったらここで死んだ方が……。


「さて、神父。そして伯爵閣下」


 仕切りなおすようにゴホンと咳をしてから、ニーヴェル様はハッキリとした口調で二人を呼んだ。

 一方の彼らは死を受け入れたのか、(うつ)ろな目でニーヴェル様をぼうっと見上げている。


「今回は闇と聖の魔力を持った者という、前例のないケースだ。よって、我が騎士団の方で調査する必要がある」


 淡々と話し掛けている間も、二人は無言のままだ。もはや彼らには反論する気力もないのだろう。


「よって彼女の身柄は、我が騎士団で預からせてもらう」


もし気に入ってくださいましたらブックマークをお願いします!

感想、☆☆☆☆☆評価もお待ちしております(´;ω;`)


作者へのとても大きな励みになります。

よろしくお願いいたします(*´ω`*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ