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青春なんてそんなもの  作者: にわとり
4/11

■机

四月、私達は二年生に進級した。一年間の学校生活を大きく左右するクラス分けの結果は、最高のものであった。実月と同じクラスとなった私は、暫く興奮が収まらず、毎日が楽しみで仕方が無かった。


「美香〜。ねえ、美香〜。」授業の合間の休憩時間の度、実月は私の席まで構いに来た。そして、私の椅子を半分奪い、二人で一つの椅子に座って休憩時間を過ごした。

クラス全員の中から実月に選ばれているという栄誉が誇らしかった。

当時、私の中でのクラスメイトは三種類だった。実月か、実月以外の友達か、友達未満かの三種類であった。

「ねえ美香。暫くの間、木曜日の昼休憩中は一緒にいられないかも。」始業式から一か月程経った頃、ある休憩時間に実月が私の机にシャープペンシルで落書きをしながら、そう言った。

「そうなんだ。何かあるの?」誰かに実月を取られてしまった。ショックを受けたが、平静を装い返事をする。

「私の選択授業、音楽でしょ。授業前の昼休憩に、チームで集って練習することになったの。」なるほど、私と実月は週に一度の選択授業の科目が異なっていた。実月は音楽を、私は英語を選択していた。それであればやむを得ない。

「全然気にしないで。行ってらっしゃい。」納得した私は、笑顔で答える。

「ありがとう。ごめんね、置いていって。」実月が申し訳無さそうな表情をする。八頭身を地で行く小さな顔に大きなアーモンド型の目。眉を下げ、口をへの字に曲げていても、実月はとても可愛かった。

「そうだ。美香が寂しくないように、机をデコってあげる。」実月が良いことを思いついたというようにニヤリといたずらっぽく笑い、席を立つ。

「色ペンはやめてよね。」根が真面目な生徒の私は、自分の机が色鮮やかなキャンバスになることを恐れ、釘を刺す。その頃、一部の女子生徒の間で、自分の机を色ペンで飾り立てることが流行っていた。

「違うもんね。」実月が楽しそうに答えながら、教室の後ろのロッカーを漁る。「あった。」お目当てのものを見つけたようだった。

ニコニコした実月が背中に何かを隠してこちらに戻ってくる。

「なになに?怖いんだけど。」時々破天荒なことをする実月に、私は少し警戒をする。

「じゃじゃ~ん。」効果音を添えて、実月が彫刻刀のセットを取り出した。

「え、彫るの?私の机?」

「そう!これなら消えないよ。」得意げに言う実月。

「絶対やだ!」私は全力で拒否する。

「えー。ひどーい。」実月が不満を顔に出す。

「いや、酷いのはどっちよ!」例え実月の頼みでも、ここは引き下がらない。

「じゃあいいもーん。美香の机なんかデコってあげない。」実月はそう言い残して自席に戻っていった。

実月に弁解しようと腰を上げかけたタイミングで、授業開始のチャイムが鳴った。私は大人しく教科書やノートを机から引っ張り出し、教員の入場に備える。

休憩時間の名残と授業準備が入り混じるガチャガチャと煩い教室に、社会の担当教員が入ってくる。号令がかかり、授業が始まる。実月は、私の左前方の席であった。後ろ姿が良く見えた。そして、一時間弱の社会の授業の間中ずっと、自分の机を彫刻刀で彫り続けているようであった。


「実月、さっきはごめんね。」授業が終わると直ぐに、私は実月の席へと向かった。

「別にいいよー。」実月はわざとむくれた顔を作って答える。

「ごめんてば。それより授業中何彫ってたの?」これ以上実月の機嫌を損ねないよう、話題を変える。

「えへへ、内緒。」実月が照れながら机を腕で隠す。

「見せてよー。」無事仲直り出来たと感じ、安心した私は、実月の作品が気になってくる。

実月の腕を押し退ける。机に刻まれていたのは、相合い傘のマークと私達二人の名前だった。

「あー、勝手に見た!」実月が恥ずかしそうに笑い、再度腕で隠す。

「これ、消えなくない?大丈夫?」特別扱いに対する嬉しさ半面、学校の備品破壊の共犯者として、私の名前が刻み込まれたことに動揺する。

「いいの。私の机だから。」実月は少しも罪悪感の無いようであった。それよりも、自分の作り上げた綺麗な溝の出来栄えに満足しているかのようであった。


初見の動揺が収まると、その後は常に嬉しさが付きまとった。

机に広げられた消えない相合い傘が、実月と私の関係性を周囲に誇示していると確信し、優越感に浸っていた。

さらに、私はこうした実月の素行の悪さも好きだった。教員や両親の目を恐れて規律を犯せない私は、違反行動をなんなく起こす少し不良じみた態度に、憧れを持つのであった。

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