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【書籍化】クラス転移したけど性格がクズ過ぎて追放されました ~アンチ勇者は称号『侵略者』とスキル『穴』で地下から異世界を翻弄する~  作者: フーツラ
第一章

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第45話 氷龍の名演

 いまや、魔人大陸にある国家といえば魔人国だけだ。


 魔王が誕生して以来、魔人達はその力を飛躍的に伸ばした。魔大陸に入植した人間達が建てた国を滅ぼし、再び大陸の覇者となったのだ。


 そして、他の大陸への侵攻が現実味を帯び始めていた。


 魔人国首都ヘルドラドにある魔王城には各部族の代表が集まっていた。彼等はまだ幼い魔王に代わり、魔人国の運営を合議制で行っている。


 大広間の円卓を囲む魔人達は今日も熱い議論を交わしていた。


「今がまさに! 人大陸への侵攻の時だ!」


 強硬派の筆頭、上級魔人フロムドーンが円卓を叩き主張した。彼は武闘派でしられ、肉弾戦では魔大陸一と言われている。


「焦るな。魔王様の成長を待つ方がよい。そうすれば魔人には恩恵がある。強くなる。人間どもに遅れをとることはなくなるだろう」


 そう諭すのは穏健派の筆頭、上級魔人リンパクだ。思慮深い彼の意見は、今までに何度も魔人国を救ってきた。知恵者の彼を慕う魔人は多い。


「リンパク殿は少々、歳を召され過ぎたのではないかな? 状況が見えていないように思える。勇者は育ち切っておらず、聖女が封印されている今が絶好機なのだと、何故わからぬ?」


 フロムドーンの言葉に、穏健派の目つきが変わる。大広間の空気が凍る。しかし、リンパクは飄々と返した。


「はっはっはっ……。確かにワシは歳を取った。しかしまだ記憶は確かだ。フロムドーンは聖女が封印されていると言ったが、それはまだ分からん。今まさに調査中だ。密偵が帰ってくるまで、待ってみてはどうだ?」


 血気盛んなフロムドーンはリンパクの余裕が気に入らない。ギッと睨み付けて身体に力を溜める。今にも飛び掛かりそうだ。大広間は更に緊張感を増し──


「失礼致します! ご報告が!!」


 ──ノックもなしに突然ドアが開けられ、衛兵が叫ぶ。


「何事だ?」

「申し上げます! 氷龍様が現れました!」

「ニドホッグ様が……?」


 円卓を囲んでいた上級魔人達が浮き足立つ。彼等にとっても、氷龍ニドホッグの存在は強大であったからだ。


「こちらに!」と衛兵が案内し、皆ぞろぞろと大広間を出てバルコニーへと足を踏み入れた。目の前には、ひどく力ない様子の氷の龍が、辛うじて羽ばたいている姿があった。



「一体、何があったのです……!?」


 先程とは一転、余裕のない様子のリンパクが声を上げた。


「スマヌ」

「何故、ニドホッグ様が謝るのですか?」


 リンパクの脳裏には最悪の事態が浮かんでいた。


「我ハ敗レタ……」

「何にやられたんだ……!?」


 フロムドーンが声を荒げる。


「アル男ダ……」

「まさか、勇者がやって来たのですか?」


 ニドホッグは首を振った。


「勇者デハナイ。盗帝コルウィル……ダ」


 上級魔人達は思考を巡らせる。コルウィルはリザーズを率いる者。密偵のシトリーがしくじったとしか思えない。


「コルウィルはニドホッグ様を打ち負かすほど、強大なのですか……?」


 リンパクが恐る恐る尋ねた。


「奴ハ、人間ノ枠ヲ超エテイル……」

「馬鹿な! 勇者でも聖女でもない奴が、そんなに強くなれるものか……!!」

「やめんか! フロムドーン!!」


 リンパクが一喝し、フロムドーンの怒気が散った。


「奴ハ、神ノ領域ニ足ヲ踏ミ入レテイル……」

「半神コルウィル……」


 半神。デミゴッド。上級魔人達が何度も口に出す。


「ニドホッグ様。確認させてください。女の石像はコルウィルの手に渡ったのですか?」

「ソウダ。一体、アノ石像ハ何ナノダ? 何故、コルウィルハ奪イニ来タ?」


 一瞬リンパクは目を瞑り、息を落ち着かせてから話し始めた。


「あれは聖女を封じる為の鍵だったのです……」


 ニドホッグの瞳がギッとキツくなる。


「ソンナモノヲ我ニ託シテイタノカ……」

「申し訳ございません! ニドホッグ様のところが一番安全だと思い……! ただ、説明を欠いていたのは事実。その罰は私めが受けます!」

「モウヨイ。最初ニ尋ネナカッタ我ニモ非ハアル。ソレニ、何ヲヤッテモ、コルウィルノ前デハ無駄ダッタデアロウ」


 氷龍ニドホッグにここまで言わしめる存在。上級魔人達は背筋を凍らせた。


「我ハ暫ク、眠リニツク。傷ヲ癒サネバナラヌ。邪魔ヲスルデ、ナイゾ」


「はっ!」と上級魔人達が返事をすると、氷の龍は身を翻し北の方へと飛んでいく。


「フロムドーン……。今は人大陸への侵攻はなしだ……」

「わかった……」



 かくして、魔人軍による人大陸への侵略は見直しとなる。世界は、奇妙な膠着状態へと突入した。

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