表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/40

世界で6番目の女(4)

今回もよろしくお願いします。


ヤナギ


ミカの施術が始まってから、すでに20分は経過しているだろうか。俺はうつ伏せの状態で、静かに頃合いを見計らっている。


(ところで例のゴルフの話は・・・)ってな具合に、ミカの方から話題を振ってくれることを待っていたのだが、そうは問屋が卸さないようだ。今も無言で、ミカは俺の背中を指圧している。なら致し方ない。


「この前に話したゴルフコンペのゲストの事なんだが・・・」


俺としては、相当に意を決して切り出したのだが、ミカからは特段に反応はない。

“話を続けろ”と無言で催促されているようだ。


「たしかマリア・リーって言ってたよね。まさかとは思うけど、オリンピック銅メダリストのマリア・リーじゃないよね。世界ランキング6位の・・・」


「へぇ、あの、世界で6番目なんだ。それは知らなかった。でもオリンピックでメダル取ったのは本当だよ。私も、その時は一緒にいたし」


なんてことだ。もう間違いない。ミカが呼ぼうとしているゴルフのできる有名人とは、世界ランキング6位のプロゴルファーであり、東京オリンピック銅メダリストのマリア・リーなのだ。しかも、その時は一緒にいたとは、一体どういう事なんだ。まるで実感が付いてこない。


(本当に来てくれるのか?)


俺が聞きたいのは正にそれなのだが、それが言葉にできない。あまりにも非現実的と思える想像は、言葉に変換しにくいものだ。


「あんた、どういう関係なんだ?マリア・リーとは?」


こちらの方の疑問は、意外とあっさりと言葉になった。驚きが言葉になって、つい零れ出た。そんな感じだ、


「別に。お兄さんと一緒だよ。私の働いていたマッサージ店に来て貰ったことがあって・・・」


いや、同じ訳がないだろう。俺はごく普通のサラリーマンだが、マリアは超一流の世界的アスリートだ。

ミカは積極的にマリアとの関係について、語ろうとはしない。仕方がないので、俺の方から色々と問うていく。そして知った2人の関係を整理すると、凡そ次のような関係という事になる。


アメリカはテキサスのマッサージ店で、店員としてミカは働いていた。その事だけでも、俺には驚きだ。

そこに客として現れたのが、プロゴルファーのマリアだった。

一流のアスリートの筋肉の束に驚いたミカであるが、この段階では、この客が世界的なプロゴルファーであることをミカは知らない。筋肉の量とその柔らかさは、数多の客にマッサージを施してきたミカが驚くほどであったが、体中のあちらこちらに疲労が原因と思われる強張りがあった。骨格のバランスも、決して良くは無かった。

たっぷり2時間かけて、マリアの体をミカはほぐした。骨格の歪みも、可能な限り矯正した。そして、その翌週の試合で、マリアは優勝したのだと言う。


(貴方のマッサージのお陰で優勝できた)


数週間後に再び来店したマリアのそんな感謝の言葉によって、初めてミカは彼女がプロゴルファーであることを知ったらしい。


「優勝賞金は、たしか130万ドルだったかな」


130万ドル。今の為替で計算すれば日本円で2億円に近い大金だ。ゴルフの賞金の相場が俺にはよく分からないが、相当に大きな大会だった事くらいは、容易に想像できる。

以来、マリアはミカの勤める店に、頻繁に顔出しするようになった。

そんな繋がりで、マリアが東京オリンピックにオーストラリア代表として来日した際は、通訳兼トレーナーとしてミカも同行したらしい。


この段階で、いよいよ俺は恐怖すら感じるようになってしまった。


「そんな人が本当に来てくれるのか?もし来てくれるとして、その費用はどれくらい準備すればいいんだろう?」


あまりにも非現実的と思える現実に、俺は改めて現金な質問をせねばならなかった。


「お兄さん、人の話ちゃんと聴いてた?ラーメン一杯で話ついたって言ったでしょう。まあ、アスリートだからね。一杯と言っても替え玉の2玉3玉は食べるかも知れない」


いや、そんなことじゃない。オーストラリアからの飛行機代だとか、こちらでの宿泊費だとかの話をしているのだ。いやいや、そんな事よりも世界的なアスリートを招待するためのギャラは、いか程に費用が掛かるのか。去年二流芸人を呼んだ費用でも50万円以上は、会社が支払ったはずだ。


「いいよ、そんなの。マリアはお金に困っていない」


(いや、それでも・・・)


そう言いかけた俺の言葉をミカが遮る。


「お兄さんもくどいな。お金は要らないって言ってるでしょ、ラーメン代以外。まあ、種明かしをするとね、その時期はオフシーズンなのよ。北半球を中心にツアーを廻ってる娘だからね。その時期には、たぶん母国の韓国にいるはずだから。私達にとっての、まあ東京出張くらいの感覚だよ」


いよいよとんでもない事になってきたと、俺は驚愕する。


「一度は顔合わせが必要でしょ。マリアの予定が分かったら連絡するから。お兄さんの連絡先を教えてよ」


混乱しながらも、俺は携帯電話の番号が記された名刺を一枚、ミカに手渡す


「へぇ、お兄さん、大友さんって言うんだ。ファミリーネームで呼ぶのってあんまり好きじゃないのよね、昔から。これからはじゅんさんって呼ぶことにするわ」


こうして俺はついに、ミカと連絡先を交換することとなったである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ミカさん、ついに純さんと関係ができましたね。 それにしても、オフ会に来る外国人観光客のノリで韓国から来てくれるとは…確かに関西ならちょっと出てくる、のノリで来ることはできますが、とんでもない…
2023/12/17 00:38 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ