繰り返し
三題噺もどき―にひゃくきゅうじゅうに。
「――――!!」
びくりと、体がこわばり、目が覚める。
つぅ―と伝う汗が、やけに鬱陶しく感じる。
心臓の音が、鼓膜にまで響いてくる。
「……はぁ」
ここ最近、どうも夢見が悪いのか、こうして目覚めることがある。
残念ながら、どんな夢だったのかを、起きた瞬間に忘れてしまうから、何とも言えない。
悪夢なのかも、いい夢なのかも。
まぁ、でもこんな風になるぐらいだったら、悪夢だろう。
「……」
夏場で暑苦しくて、うなされているのかもしれない。
昔から、暑いのはどうしても苦手で。けれど、冷えすぎると体調を崩してしまうから、うかつに部屋を冷やすこともできない。
全く厄介な体だ。
「……」
寝直せるだろうか、これ。
というか、今は何時なんだ。
パッと見まわした感じ、日は昇っていなさそうだが……カーテンは閉め切っているから、何とも言えない。
その上、今の時期は、曇ったり雨だったりで、外が暗いことが多いから、外からの光だけでは何とも……。音はしていないから、雨は降っていないかもな。
「……」
あまり、スマホの画面を見たくはないが……これでものすごく起床時間に後れでもしていたら。飛び起きなくてはいけない。
手遅れだとしても、急ぐという姿勢は見せなくては。
―出来損ないは、出来損ないなりに。
「……」
真正面から、画面を見ないで済むように……手だけを動かし、スマホを操作する。
枕元に置かれていたそれの横にあるボタンを押し、電源を入れる。
横目で、ちらと視線をやる。
「……」
ん。
思っていたよりも時間が……。
かなり夜中に近かった。
寝たのが、記憶が正しければ24時とかだからたいして眠れていないな……これ。
なんでこんな短時間で目が覚めないといけないんだ……。
全く。
「……」
寝直すかぁ。
こうして、ぼぅっとして置けばそのうち落ちるだろう。
いつもそうやって寝ているんだから……。
何かを考えだす前に、さっさと寝てしまうのが得策だ。
ただでさえ、最近はいろんなことが重なりすぎて、少々寝つきにくさを感じているのに。
―嫌なことなんか、思いだしたくもないのに。
「……」
全く……人の感じるストレスというものは、ホントに厄介だよなぁ。
どうにかしてしまえば、忘れることができなくはないが、その「どうにか」が案外難しい。
忘れようと心掛けると、かえって鮮明に残ってしまうし。
忘れることができたと思っていても、別の忘れたいことと一緒にまた、思いだしてしまう。
負の連鎖とはまさにこれ。
「……」
その上、ストレスが与える負荷は、内面だけにとどまらない。
おかげで、何もうまくか無くなるし、集中が切れて仕方ないし。
「……」
嫌なこと思いだすし。
「……」
たとえば。
例えば?
「……」
そんなの考えてどうする。
出来損ないの私は、さっさと寝て、明日に備えておかないと、ここに居る意味がなくなってしまう。何もできない私は、ここに居るだけでも、迷惑なんだから。
余計なことを考えずに。
「……」
こんな時。
こんな風になったとき。
「……」
あの妹なら、どうしていたんだろう。
才能あふれ、天才と呼ばれた妹。
そもそも、こんな風になる事さえなさそうだ。
「……」
私より年下で。
かわいくて。
褒められて。
才能にあふれていて。
家族にも、親戚にも、教師にも、天才だと言われて。
素晴らしき神の子だと、神童だと言われて。
そう言われ、育った妹。
「……」
妹より年上で。
可愛くもなければ。
怒られてばかりで。
才能なんてなくて。
家族にも、親戚にも、教師にも、見放されて。
お姉さんなのに、どうしてと言われて。
お姉さんの癖に、劣っているのかと言われて。
妹はあんなに優れているのに。
お姉さんのお前は。
「……」
それなのに。
それなのに。
私より、優れている。
妹は。
しんだ。
「……」
妹よりも、出来損ないの。
私が残った。
「……」
不幸な事故だったのだ。
妹以外の家族は、みんな無事だった。
才能にあふれ。
天才と謳われた。
妹だけが、死んだ。
「……」
なんでこんな出来損ないが残っている。お前が居ても意味がない。どうして。どうしてあの子がいない。あの子ではなくお前が。なんで。どうして。
生きるべきは。
「……」
生きるべきは。
「……」
妹で合って。
「……」
お前ではない。
「――――!!」
びくりと、体がこわばり、目が覚める。
つぅ―と伝う汗が、やけに鬱陶しく感じる。
心臓の音が、鼓膜にまで響いてくる。
お題:お姉さん・天才・才能