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あたしを許すために  作者: 乾レナ(冷愛)
序奏 九十里は遠すぎる 
7/9

Ⅶ.23枚めの大アルカナ


《クロノスの復刻》――


 銀色の文字が不気味に歪んだ気がした。

 ゆっくりと後退りした此方(こなた)は、またもや一目散に螺旋階段を上り詰めた。


 地上に着いて呼吸を整えつつ、握っていたカードを開く。22枚の大アルカナを頭の中でシャッフルしていくが、やはり該当するカードは思い当たらず。

 先ほどの封筒に同封されていた3枚のうち、『死神―DEATH―』のカードを取りだして見比べたが、やはり似て非なるものだ。ウェイト版やマルセイユ版によって絵柄は異なるが、今ここにある『死神』は鎌を背負い、黒衣を纏った何者かが骸骨を持ち去っていく絵だ。それに対して『クロノスの復刻』は、頭蓋骨のアップと文字盤か逆さまになった時計に、2本の鎌がクロスしている。クロノスとは時の神だろう。

 謎の封書、消えた骸骨、クロノスの復刻、解らないことだらけだ。

 迷宮は深まるばかりだが、ともかくこのまま逃げるのは癪に障る。普通の人間とは違う。此方の取り柄は、どんな時もひねくれ者でいることだ。泥棒にさえ選ばれなくて(根に持ってる)、拗ねたスィートポテトめは不可解なミステリーに挑んでやる。だったら鍾乳洞から逃げだすなや、というツッコミは無しである。此方はデリケートな乙女なのだ。(男じゃなかったんかい)


 洋館のぐるりを最初に来た時とは逆方向に、時計回りで一周すると、裏庭の正面に腰高窓があった。カーテンは閉じられているがクレッセント錠が掛かっていなく、窓ガラスはスルスル開いた。廃墟と云えど物騒な。

 これは不法侵入だろうか。敷地内に踏み入れた時点で、廃墟であれ不法かもしれない。

 ガラス窓を全開にする。チマチョコリの裾を掴むと、片足を桟に掛けて身を乗りだし跨いで中へ。

 カーテンに遮られていた部屋の全容が明らかになる。室内は意外の感、誇りっぽさがない。ソファや勉強机、調度品は部屋の各所に整頓され、湿気の匂いが感じられない。定期的に換気がおこなわれているということだ。デスクの上の聖書を捲ってみる。誇りはかぶっていない。ここ最近まで人が住んでいた痕跡が窺える。

 テーブルにはソーサーに乗った珈琲カップとクタリ、サモワールとシュガーポットが置かれている。サモワールはまだ温かい。待て。つい今しがたまで誰かがいたということに――


 ボーン、ボーン


 刹那、家中に音が響き渡った。びくりとして身構えると、大黒柱の奥に大きな古時計がある。

 さらに玄関近くの洋間に、人影が映った。

 まずい! 誰かいる。

 血の気が引いた。廃墟なんかじゃない。れっきとした住人がいたのだ! 恐らく【洋菓亭】の一族の。地下の洞窟に眠る人骨たちの子孫が。

 心臓が早鐘を打つ。見つかったら間違いなく此方は不法侵入者だ。急いで踵を返し、腰高窓から脱出を試みる。

 と、視界の隅、壁掛けカレンダーが目に映った。花びらの印が付いている。次いで、安楽椅子に掛けられた日捲りカレンダー。それらが示していたものは。

【1977年6月10日】


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