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あたしを許すために  作者: 乾レナ(冷愛)
序奏 九十里は遠すぎる 
5/9

Ⅴ.封書


 此方(こなた)は今までの人生、充分すぎるほど一敗地に塗れてきたのだ。土砂降り、ずぶ濡れ、泥まみれ。

 雨降っても地は固まらない。誰じゃい、いい加減なことわざを作った先人は。固まった試しがないのだ、此方の人生においては絶対に。

 胸元のペンダント――逆転時計を握りしめる。大事なのは、嫌な出来事が起こる前に時間を巻き戻すことなのだ! 人生において『ああすれば、こうすれば良かった』と悔やむ、たられば症候群に苦しむのは、未来が見えないことが原因なのだ。無論、どうあっても避けられない宿命は存在する。

 だがしかし、時間移動が自在にできれば人生の後悔を大幅にカットすることができる。時を止める、リセットする、失敗した時間を、ほんの10秒巻き戻すことさえできれば救われたことが何度あったことか! くそめ。何故、此方には不思議な力が備わっていないのか。時さえ自在に操れないなんて、名前負けではないか。何故こんなにも普通の人間なの⁉ どこにでもいるような――。あたしばっかり、あたしだけ……!

 その時だった。雷雨が轟き、胸元のペンダント型懐中時計が熱を帯びて熱くなった。

 突如、スパイラル状の疾風が此方を包んだ。

「わっ⁉」

 巨大なショートパスタ――ロティーニの如き竜巻は、地面から胸元へと渦を巻いて競り上がってきた。

 刹那、タイムターナーの針が狂いだす。秒針、分針、時針が一気に目まぐるしく逆さま廻りをはじめたのだ。

 ……………

  ……………

   ……………

 

 どれくらいの時間が経っただろうか。稲妻が鳴りをひそめ、次第に雨音は弱まっていく。

 肌や髪、身に付けていたものが竜巻に斬られた形跡はない。髪の毛が無事で何よりだ。腰まで届く長い髪……結わいたポニーテールの毛先に触れてみる。赤紫と黄金、二色の地毛は此方の自慢なのだ。

 洋瓦が此方をすっぽり守ってくれたお蔭で、チマチョコリの裾のほうが若干、濡れただけで済んでいる。

 胸元の懐中時計はふたたび動かなくなった。五時を差した時針、分針は秒針とともに止まったままだ。

 何だったのだ、一体……?

 辺りを見回すも、雷雨が見舞う前とほぼ同じ景色を呈していて、特段、変わった様子はなさそうだ。

 洋瓦を見上げると、洋館は二階建てになっているようだ。ピクチャーウィンドゥにもなりそうな、階上にある両開きの窓はカーテンがかけられ、人の気配はしない。あの地下室の納骨堂に眠っていた骸骨たちは、嘗て屋敷で暮らしてきた一族の屍ということになるが。子孫はどうしているのだろう。繁栄せずに滅亡したのだとしたら、今この舘には誰も住んでいないのか。

 しかし廃墟になっていれば、敷地内はもっと荒れ野のホウキ草になっているはずだ。人工的な芝生は手入れが行き届いているし、何者かが管理しているのは間違いなさそうだ。

【洋菓亭】門扉にあった青い刻印。以前どこかで聞いたことがあるような。

 ふと、足元を見ると横長の白い封筒が落ちている。

 いつ、こんなものが……?

 不思議なことに雨水には濡れていない。掬いあげてみれば、封筒は糊付けされておらず、中に3枚のタロットカードが入っていた。封筒を上向きにした状態で、

『塔―THE TOWER―』正位置

『運命の輪―LAROUE De FORTUNE―』逆位置

『死神―DEATH―』正位置

いずれも暗転、変化、アクシデント等、不穏な意味を表している。どうでも良いが、吊るされた男―ハングドマン―の逆位置を、首吊りと間違えた小城拓也はドジだと思いますの。

 そしてもう一枚。マーメイド紙が同封されていた。七色に光るファンシーな文字で、

『レシピQ.7 ミルクとバターをたっぷり使って、甘党の王が喜ぶ最高のドルチェを作れ』

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