Ⅲ.三途の川
ビバ・森林浴。泥棒にさえ選ばれなかった嫌われ者の仲間はずれ、いじけたスイートポテトめは餡巻きとマッコリをたらふく喫し、ふたたび草原に寝っ転がった。
腐っているのは今現在の此方自身の性格であって、その時の薩摩芋が傷んでいたわけでは決してない。(今現在、腐っていることは認めていますのね┐('~`;)┌)
仰向けのまま辺りを見回すと、繁茂に看板が刺さっているのに気づいた。長方形のサブレを思わせる木の板に【北越山駅↔ナルシス塔 往復およそ百里】と、チョコペンで描かれたような茶色い文字が踊っている。ナルシス塔とはふざけた名前の塔があるものだ。一里は約3.9㌔だから、果てしない道のりですのね。丘マイルは遠すぎる、なんちて。
さらに【➡バター山道この先⤴危険⚠】の添え書きを見つけた。
ふっふっふ。こうなったら元来た道を引き返す選択肢は、もはや此方の念頭にはなかった。【危険⚠】とあらば、進まない手はなかろう。険しい棘の道は御免だが、美味しそうな山道を登ってみたいではないか。
上体を起こし、移民バックと風呂敷を持ち直す。百里の半分は五十里だ。子供でも解ること。いざ行かん、デンジャラスなジャングルの冒険へ!
此方の取り柄は、どんな時もひねくれ者でいることです。
〈♪百里を行く者は 九十里を半ばとしない 栗より不味い十三里 どうせ此方は腐った鳴門 千里の道も一歩から 九里より美味い十三里 どうせ此方は食えない愛時〉
竹藪の下、自虐的な鼻唄を口ずさみながら矢印の示す方角に沿って歩く。木の葉の絨毯を踏みしめるたび、パリ、パリ。靴底からリズミカルな感触が伝わって、フロランタンの上を歩いているみたいだ。香ばしいアーモンドの匂いがする。
生い茂った若草の合間を縫っていけば抹茶とヨモギの香りが立ち込め、木漏れ日を浴びた切り株からはバームクーヘンの風味が漂った。
ほどなくして【小麦湖⤵】と表示された、きつね色の看板が見えてきた。鮎菓子の匂いと流水の音がして歩調を早めれば、行き当たったのは長く伸びた吊り橋だった。縄ばしごを渡しただけの、原始的なかずら橋である。アンカーレッジに【生八ツ橋】と銘打ってある。
橋の下を流れているのは湖というより川だ。深く、澄みきったコバルトブルーの水面は、わらび餅のような小石を滑っていく。
【生八ツ橋】に片足を乗せると、ゆらりと重心が傾いて、慌てて塔とケーブルに掴まった。柔らかい。求肥の上を踏んでいるみたいな感触。橋の上から見下ろす【小麦湖】は、飲み込まれそうなほど更に深い。空と樹海が映ったエメラルドの水鏡。川魚が身震いしたのか、水の彩がトライアングルを描いた。
今にも落橋しそうな【生八ツ橋】を渡りきると、一抹の不安がよぎった。氾濫したら帰れそうにない。三途の川にならなきゃ良いがな。
┐('~`;)┌