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あたしを許すために  作者: 乾レナ(冷愛)
序奏 九十里は遠すぎる 
2/9

Ⅱ.禁断の野菜、腐ったスイートポテト


 ブッシュ・ド・ノエルを着飾った、人為的に設えた丸太に【(シン)フォニー♣フロマー(ジュ)】と掘ってある。この高原の名前なのか。

 若草の絨毯に胡座をかき、風呂敷包みを解いた。やけくそのおやつタイムだ。『パンの樹・モック』で買った餡巻きにかぶりつき、マッコリを飲み干す。餡巻きは『汁粉ロード』という商品名で売り出され、『パンの樹・モック』人気ナンバー2を博しているらしい。一斤の食パンの中でぐるぐると渦のように巻きつく餡は、生地の奥まで練り込まれているようだ。見えない未来の甘い道は、どこまで食べてもなくならない。


 その昔、此方(こなた)は双子だった。

 同時に産まれたはずの弟は、すぐに息を引き取った。

 母は医師に頼みこんで、弟の一部を此方の身体に移植したのだ。

 此方の中に弟の命が眠っている。

 両親は此方を可愛がった。本当は弟が与えられるはずだった愛情のぶんまで、腐ったイキノコリに注いだ。それが此方は気に食わないのだよ。

 重すぎるの。なんであたしばっかり。

 ――此方は完全な女になってはいけない。せめてもの贖罪がユニセックス。チマチョコリは中性的な見た目を維持してくれる。荷葉色と桃色、二色のうち一色は弟のぶんだ。


 此方たちが産まれる数時間前、家に空き巣が入ったらしい。当日は父も産婦人科に立ち合うため、朝から家を留守にしていたそうだ。もっとも通帳やら現金、貴重品の類いはほとんど置いていないのだが。

 しかしその空き巣は野菜泥棒だった。馬鈴薯、人参、茄子、南瓜。パクチー、トマト、レタス、小松菜、モロヘイヤ。野菜室にあった根菜、葉野菜、夏野菜が根こそぎ持っていかれたそうだ。

 唯一、無事だったのは鳴門金時だった。何故、鳴門金時だけを残していったのかは泥棒本人に訊かない限り解らない。嫌いだったのか、たまたま見逃したのか、持ちきれなくて断念したのやもしれない。

 此方の名前が決まったのは、空き巣に入られたことが判明したあとだった。愛娘を抱えて帰宅した両親は。しかし鳴門金時のように、どんな時でも、たった一人でも生き延びてほしいと願いを込めた。6月10日、時の記念日に由来して。

愛時(なると)』――


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