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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
86/87

50時限目 ミャン、参戦!<2日目>



――時刻は午後4時。待望の『ギャルンオアシス』へ辿り着いた時の事だった。



「――あれ? マオ君?」



”怪力女”こと――ドラゴニュート族のミャンが、湖の畔へ座り込んで涼んでいた。



「おう。早いナ?」

「そうでもないよ。さっき着いたばかりだし」


流石に、濁った湖へ足を浸していた訳ではなかったが、俺が近づくのを見て靴を履き直した。

魅惑的な生足が視界に入り、さり気なく目を逸らす。


「て言うか、よく会うよね?」


立ち上がり、お尻を軽く払っている。

どうしても、()()()()()()()()()()()()()()のは、男の性なのか……。


「それも、君が涼んでいる時にな」

「あははっ! 確かに!」


朗らかに笑い、合わせてトカゲじみた尻尾が揺れる。


少女には不釣り合いで武骨なパーツに、種族としての壁を感じてしまう。同じ”ヒト”である事は変わらないはずなのに。


「……え、ストーカー?」

「違うわ」


ジッと観察していると――一転、ミャンの瞳に警戒色が浮かぶ。チラリと除く八重歯が光る。


「違うから、警戒しなくていいから。落ち着け」

「そう? いざとなったら()()ケド?」

「必要ない必要ない」


わきわきと、両手を動かし近づくミャンに対し、待ったをかけて牽制。


「偶々だ」


思わず半歩下がってしまった足を、前に進める。


……そうだった。ミャンの()()()()()()()()()()()()()()のは、”過去の出来事”が頭の片隅に刻まれているからだ。


(俺を”サバ折り”しやがった事は絶対忘れねェからなァ?)


男の性、なんて言葉で片付けてはならない。



伊達にこの女を”怪力女”と名付けてはいない――。



「ミャンだけか? キュビィは?」


話を逸らす目的もあるが、真っ先に気になった事を聞いてみた。


”ナッグルオアシス”で会った時は、2人でソロみたいな関係性だったはず。パッと見た所、ミャンしかいないようだが……果たして?


(今度こそ不仲になったか?)


「ああ、それはね――」


ミャンが何か言いかけた瞬間――俺を追い越して1つの影が差す――



「ミャーーーーちゃーーーーん!!」

「うわぁっ!?」



――ピスカが、ミャンへと勢いよく抱き着いた!



小柄とは言え、スピードの乗ったピスカの突進だったが……


「ぴ、ピスカちゃん!?」


体幹を鍛えているのか、将又元からか、困惑しながらもミャンがしっかりと受け止めていた。


「にゅふふ。お久だねー、()()()()()()


ニヤニヤと、意地悪っ子めいた笑みを浮かべるピスカと、対照的にちょっと嫌そうなミャン。


「久しぶりー……あとその呼び方止めてって言ってるでしょ?」

「えー? 可愛いじゃーん?」

「そう言う問題じゃないんだよね」


プリプリ怒っているミャンが珍しい。あと、ピスカは誰に対しても変わらんな。


「別に良いと思うけどなー。ミャーミャーちゃん?」

「『ミャー』が1個多いね?」


……そう言う事か、と一人納得。

これはピスカなりの、ミャンへの”弄り”なのだ。不良流に言わせてもらうと”可愛がり”。


「でもさー、ミャーちゃんの名前自体が”ミャン”って……もうそう言うニックネームになっちゃうじゃん」

「それはピスカちゃんの匙加減じゃない?」

「……受け入れるしかないと思うよ、ミャーミャーミャーちゃん」

「多いから! さっきから増えてるから! 3匹になってるから!!」


ほう、ツッコミ属性ですか……(感嘆)

ピスカに強く出れるってだけで、ミャンへの期待が高まるな。


……。


(いや、何の期待だよ……)


「にゅふふ。もう正真正銘”猫ちゃん”だねー」

「いや、故意的にそうしようとしてるよね? ウチを”猫”にしようとしてるよね!?」

「うん」

「肯定しちゃった!?」


――俺を置き去りにして、2人のやり取りが大分ヒートアップして来たな。

仕方なく、ミャンからピスカの肩を掴んで引き剥がしてやった。


「その辺にしとけ」

「えー? もうちょっと弄りたかったのにー」

「我慢しなさい」

「むーー……」


元気の有り余っているピスカは――取扱注意なのだ。

反対に、疲れ切っている俺にとっちゃ、こんな軽作業でも重労働となってしまう。


「……はぁ、ピスカちゃんは相変わらずだねー……」


溜息を吐き、後頭部をガシガシ掻くミャンに……何となく、苦労人の雰囲気が滲み出ている。


「ありがとね、マオ君」

「いや……」


(それにしても、”ミャーちゃん”か)


如何にも、活発的なミャンが嫌がりそうなネーミングである。俺にとっての”マオりん”だ。

しこりの様に――俺の脳内へと、未だに深く根付いている。


(さり気なく名付けられたが……未だに納得してねェからな?)



こればかりは、名付け親であるクリスに会ったら、一言物申す腹積もりである(憤怒)



()()()の事を思い出し、俺も心の中でプリプリ怒っていると――ミャンが、不思議そうに首を傾げていた。


「あれ? マオ君、ピスカちゃんと組んでるの?」


そんな事を投げかけられてしまった。


……まぁ、当然の疑問だろうぜ。

何故、接点の薄そうな俺とピスカが一緒に居るのか、大いなる疑問に答える前に――



「――私もいるわ」



どこか恥ずかしそうに――遠慮がちにエルルがやって来た。



意外にも、友達に対して消極的なエルルの事だ。俺やピスカのやり取りを離れた所から見ていて、突入するタイミングを見計らっていたのだろう。


「! エルルちゃん!」


先程までとは打って変わって、パッと花が咲くが如き表情で明るくなる。


驚く事に――今度はミャンの方から、エルルの元へと懐っこくやって来た。

勢いそのまま、エルルの両手を取って、上下にブンブン激しく握手する。


……いや激しすぎん? エルル若干宙に浮いてないか?


「久しぶりだね! 元気? 元気してた??」

「……ま、まあまあね。あと……強いわ」

「おっと、ゴメンゴメン!」


パワーに全振りした縦振りシェイクから、無事解放されるエルル。

感情表現が豊かなのは美点ではあるが、これを受ける側は大変だろうぜ。他人事だが。


「そう言うミャンは元気そうね?」

「そうだね! ウチは元気だよ!」

「そ、そう」


普通に、たじろいでいるエルルはレアだな。”SR(スーパーレア)”くらいのレア度だ。


「……何かしら?」

「フン。何でも」

「なんかムカつくわね……」


そしてこの洞察力。

内心、ニヤニヤしているのを勘付いてか、こちらを睨みつけてくる。おー怖。


「……ねーねーマーくん」


トントンと腕を肘で突かれる。気が付けば隣にいて、横並びになっている。


「なんかさー、わたしの時と明らかに反応違うよねー?」

「自業自得だ」

「えーー?」


何であれだけして不満気に出来るんだよ、この子は……(困惑)



「――あ、猫ちゃん!」


今度は、エルルの後ろの方に控えていたティタへと目を付けた。

エルル同様、ハードな握手をブチかます。


「あ、ひ、久しぶりですっ! あと()じゃなくて()ですっ」

「ピスカちゃん! この子が本物のミャーちゃんだから!」

「違いますが!?」


全身動かされているティタは、頭も目もグルグル回させている。

……うん、確実に宙へ浮いているな。


何と言う”バ怪力(かいりき)”の持ち主だろうか。こんなのに俺はサバ折りされたのか……(唖然)


「……君、ちょっとは加減覚えようぜ?」

「ああ、そうだね」

「きゃいん!?」


俺に言われて急に手を離した為、ティタが尻もちを搗いてしまう。


続けて、「ゴメンね」とティタへ手を伸ばして起こしてあげる姿は、直前までバ怪力を発揮していた人とは思えない。


「ふむふむ。じゃあマオ君は、エルルちゃん達と組んでるんだね?」


ティタ、エルル、ピスカ、俺と順々に見渡して――興味深そうに言った。


「そうだな」


思ったよりはすんなりと、()()の言葉が口から零れた。

馴染んできたという事だろうか……この関係性に。”仲間”と言うものに。


そんな俺の、繊細な硬派の心を知らずに、ミャンがグイグイ前に来る。


「ちょっとさ、詳しい話聞かせてよ」


指差すは――飯屋。丁度腹が減っていたとはいえ……あまり話したくは無いが。


(程々に話すか……)


全部は話せないから、多少端折って話す必要がありそうだ。





……。



(そういや、キュビィの事聞きそびれたな……)



…………。



………………。



「――途中でフェン君と会ってさ」



飯屋『セーフミート』にて、ミャンを入れての晩飯となった。

ナッグルオアシス同様、ログハウスの様な木造作りの飯屋である。


(っつーか、系列店だよな)


客は俺らしかおらず、長方形のテーブルを5人で囲む。

其々が頼んだ料理がきた所で、早速尋ねてみる事にした。


「フェン……ってあの狼のワーグ族?」


野菜メインのスープを口に運びながら、エルルが興味深そうに尋ねる。


食事マナーなんてあって無さそうな飯屋であっても、エルルがお上品に飯を食べるだけで、高級レストランに早変わり。


何をしても絵になると言うのは、何ともや、彼女の一種の才能と言えようか。


「そうそう。それで、ウチら見かけても一瞬こっち見ただけでさ」


ラーメンを豪快に啜るミャン。見かけも野性的だが、食べ方もワイルドである。


「キュビィちゃん、フェン君が心配になっちゃってさ。追いかけて行きたいって」

「! えーーーー! それってさー」

「……何だか、関係ないあたしまでドキドキしてきましたっ」


何だか盛り上がっている様子。ガールズトークの雰囲気だな。


「フン、そこまで面倒見る必要あンのかよ」


関係ないとばかりの、俺の硬派な態度である。

俺はと言うと――やっぱり『魔豚(まとん)の丸焼き』を頼んでしまった。


(”漫画肉”の魅力にッ……抗えねェッ!)


粗野にかぶりつき――パリッとした皮、弾力のある肉と、溢れる肉汁を堪能する。


(美味ッ!)


飯に夢中になっていたが、女子共(おなごども)の視線を感じ、一旦中断する。


「……何だよ」

「分かってないねー、マーくん」

「あ?」


得意気に腕を組んでいるピスカに対し、眉間に皺を作ってしまう。


因みに、ピスカはホワイトソースのかかったパスタである。何味のソースなのか……皆目見当もつかない。


「わざわざミャーちゃんとのソロ協定を蹴ってまで、狼君を追いかけたんだよー?」

「わざわざ、ですからね。()()、しかないですよね?」

「そうね。ふふっ、()()ね」

()()だよね? ()()しかないと邪推しちゃうよね?」



……。


「……そうだな、”アレ”だよな」

「「ダウト!」」

「あァん !? 」


ピスカとミャンに突っ込まれてしまった。誰が”嘘”だコラ。


「じゃあ()()がどういう意味なのか……説明出来るかしら?」

「ハ! 上等ッ!」


俺が”硬派な漢”だからって、バカにしやがってこの野郎。

挑発してきやがったエルルへ……俺はビシッと”アレ”についてご説明してやる――



落とし前(ケジメ)――付けに行ったんだろ?」



あれだけ迷惑をかけやがった奴だ……。筋を通すにゃ、しっかりケジメってモンを付けなきゃ道理が通らん。



「……はぁ」


エルルよ、残念そうな顔でこっちを見んな。


「まぁ、要はフェン君を()()しちゃってんだよね」

「 !? 」


思わずかぶり付いていた肉を皿の上へ落としてしまった。


「は、はァ? アイツを意識って……正気か?」

「そんな動揺しなくても……」


呆れた表情でスープを飲むミャン。いやいや、落ち着いて飲んどる場合か?


「ワーグ族同士、惹かれるものがあったのかもしれませんね」


豆とオムレツのセットを食べているティタが、苦笑する。

ティタもワーグ族であるから、何か思う所があるのだろうか……。


「感じるのか? そういうの」

「? いえ、あたしは特には」


感じないんかい。何だったんだよさっきのは。


「いやいや……驚いた。正気か?」

「正気だよ」


ミャンに突っ込まれた所で、俺も多少の平静を取り戻す。


「ま、キュビィちゃんならソロでも動ける実力者だからね。心配はないと思うよ」

「そうか……」


世の中、物好きもいるモンだ。よりによってあのクソ犬とは……正気か?(復唱)


(……何となくだが、ギンタの気持ちが分かった様な……)


嫉妬にも似たこの気持ちは、なんと表せばよいのだろうか。


「そんな訳で、一人寂しくここへ辿り着いたって感じかな」


最後の一滴まで飲み干し、優しく丼を置いた。

その様子を見計らって――エルルが口を開く。




「――なら、私達と一緒に行動しない?」




 !? 



(何を言い出すかと思えば……)


「え…………?」


目が点になっているミャンを置いて、エルルは俺らを見渡す。


「知っての通り、私とミャンは数少ない友達よ。王家から、ミャンの家――『マイティック狩人事務所』へ魔物討伐の依頼をしたり、私が直接ミャンへ依頼していたりしたわ」


――勿論、知っている。友達が少ない事も含めて、知っている。

記憶の海に点在している情報だが、かき集める事で1つの()()()へと生まれ変わる。


「どこぞの馬の骨ならいざ知らず――ミャンは実績もあって信頼できる子よ」

「それはそうだねー」

「狩人、ですもんねっ」


突拍子もない事であったが、エルルの言は的を射ている。


事務経験があるのと無いのとでは違う。それも、王家から依頼される程の狩人ときた。勧誘しない手はない。



戸惑いはあったが――『勇者パーティ2軍』メンバーも、勧誘に対し積極的になっている。



(無論、俺も)



――戦力は、多いに越した事はない。


「この先の事を考えると、より実地で動いて来たミャンがいる事で、このパーティの()()()になる。ミャン自身も、ソロじゃ大変でしょう?」

「それは……まあ。ソロの厳しさを体感していたところだったよ」

「何も、パーティに加わって欲しいと言っている訳では無いわ。取り敢えず、()()()()()()()()()()()()協力体制を敷きましょう」

「……ウチ、至れり尽くせりだね」


後頭部を掻き、どうしようかと考えあぐねている模様。

ソロで挑む事に、何か矜持めいたものを掲げているのだろうか? 悩みと言うのは、そう言う所か。


「何より――」



――しかしそこへ、止めとばかりにエルルが切り出す。




「私は、ミャンと一緒に探検したいわ……友達、だから」




頬を赤らめ、三つ編みを触りながら仰るエルルは――破壊力抜群であった。



「……うん」


半ば呆けていたミャンも――ちょっと照れて、




「じゃ、じゃあ。お世話になろうかな?」




一つ返事で、快諾したのだった。



――灼熱結晶を手に入れるまで、『ミャン・マイティック』が一時的に加わった!

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