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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
85/87

49時限目 鎮魂歌の休憩所<2日目>



「――ふ、ふわぁー……あー」



――唐突に、目が覚めた。



(んー、よく眠れたなー)


ピスカは、寝起きで気怠い上半身をのっそりと起こし、大きく伸びをする。


関節からポキポキ音が聞こえる。凝り固まっていた全身へ、急速に血液が流れて行く様な感覚が気持ち良い。


(それにしても……昨日は本当に疲れたなー)


試練初日と言うのもあったが……慣れない土地で、慣れない長旅である。

その上――強烈な暑さ、変化のない景色、不便な排泄、質素な食事、不自由な寝床……。



要は、()()()()()()()()()と言っても、差し支えなかった。



ピスカの場合、更に、魔法の常時運用も加わって来る。午後からは特に、2人分の【付加(ふか)】を掛けながら、自身は体力の消費もあり、中々ギリギリの探検であった。


(お陰で、”見張り”終わったら直ぐ眠れちゃったなー)


寝床である『マイ宮殿』設営後、続けて見張りを3時間行い、エルルと交代してから、湯浴み室で体を清め、寝床に着いたら一瞬で夢の世界へ旅立った。


(もうちょっと自由さが欲しいよねー?)


ピスカは自身の事を、”マイペースな性格”だと認識していた。

だからこそ、全て試練の通りに動かなくてはならない今の環境は……ストレスそのものであった。


(仲間と一緒に探検するのは楽しいんだけどさー)


何事も、匙加減だと考えている。

どんな試練や課題だって、匙加減一つで何とでもなるし、何とだって出来るはず。



ピスカ自身、何が言いたいかと言うと――



(もっと刺激が欲しいよーー!!)



ただ砂漠に放り投げられて、変化無しの旅は暇すぎる。



(あともっと休憩したいよーーーー!!)



オアシスの数が少ない事に関しての不満もある。



(マーくんもっとわたしに構えーーーーーー!!)



――これについては、ただのワガママである。


誰よりも自由に、のんびりと動きたいピスカにとって、環境を固定されてしまう試練と言うものは、自我抑制の装置と化しており、不満が溜まるのは仕方のない事なのである。



(遊びたーーーーーーーーい!!!!)



結果として、”遊びたい”に集約されるのであった――。



「……んんー?」


起床して、立ち上がってから漸く気が付いた。


(ありー? 外じゃーん!)


暖かい日差しが2つ、降り注いでいる。

1つは元来の太陽。もう1つは”謎の熱源”。それは分かる。理解出来る。



問題は――それらを()()浴びているという事であった。



(……あ、暑いよー)


外である。日影のない外である。問答無用の外である。

しかも、寝袋の中に入っていたはずが、地べたの上に転がされている様な雑魚寝状態であった。


最低限……とでも言いたげに、皆の荷物が枕であったり、宛らベッドの様に下に敷かれてあったりと……工夫はあるものの――外である事に変わりはない。


「……どゆこと?」


頭の中が、疑問符で埋め尽くされるのも無理は無かった。


取り敢えず、周辺を見渡すと……


(……マーくん達も外で寝てるし)


ピスカから少し離れた所で――仲間達が身を寄せ合って雑魚寝していた。


「……ゴォー……」

「……すぅ」

「……すー……すー」


場所が外で、下が砂であってもお構いなし。

マオが大の字で眠り、マオの右足太ももを枕にティタが丸くなって眠り、マオのお腹を枕にエルルが眠っていた。


むうっ、と自分でも分からず無意識に頬が膨らんでいた。


(マーくん、『男女七歳が何とか』って言ってたのにー……)


半分嫉妬、半分羨ましさの感情で満たされる。

真っ先に思ったのは()()であったが、次第に思考の循環が良くなっていく。


同時に、感情は至ってフラットへと立ち戻る。


(もしかして……寝てる間になんかあったのかなー?)


決して、状況判断が鈍い訳ではないピスカである。

しかしながら、それとは別に、悪戯心がムクムクと湧き上がってくるのは彼女の性分。


(わたしを置き去りにして楽しんじゃってー)


そろそろと彼らににじり寄り、覗き込むような体勢となり、息を深く吸って――



「――おー! はー!よー! うううううう!」



全力の挨拶をかましてやった。



「 !? 」「!」「っ!」



三者三様、ビクッと体を震わせ反応し、直ぐ目を覚ました。


「……チッ……まだ近くにいやがんのかァ……?」

「マオ……拘束して……」

「むにゃむにゃ……”反発”しなきゃ……」


まるでゾンビの様に――先程のピスカ以上に気怠そうで、それでいて警戒心マックスで蘇る屍達。


「……にゅふふっ」


思わず笑いを零していると……そんなピスカの様子に気が付いた面々。


「「「…………」」」


口をポカーンと開けて、呆然自失と言った風に、ピスカを見つめている。


「あ、おはよーみんなー。今日もいい天気だねー」


朗らかに、能天気に答える。表情は笑顔満点である。

通常、不快に思う者は皆無だろう――()()であれば、だが。



「「「――――!」」」



(な、なんか凄い殺気なんだけどーー!?)



3人の視線が、寒いくらいに刺刺しく突き刺さる!



あの温和で大人しいティタでさえ――獲物を狙う”獣”の眼をしている。


「……チッ」


マオは、割とガチ目の舌打ち。


「……はぁ」


エルルは、再び眠そうに溜息を吐いた。


「……」


マオやエルルと違って、目の下に()()まで出来ているティタはと言うと――


「……勘弁してください」


そう言うなり、気絶するようにして眠ってしまった。


「ありゃ。ティーちゃんお疲れ?」

「ふわぁーあ……皆お疲れなんだよ。分かんだろ?」

「特にティタは仮眠すら取っていなかったみたいだから、猶更ね」


エルルは怠そうに、ピスカを避けて荷物の元へとフラフラ歩き、マイ宮殿を2個取り出した。


「……悪いけれど、私達は寝るわ。起きたら出発ね」


そう宣言し、直ぐに設営して中へと入って行ってしまった……。


「そう言うこった。おやすみ」


マオも、ティタを抱えてエルルの入ったマイ宮殿に持っていくと、自分は独り隣のマイ宮殿へと籠ってしまった……。


「え、えー?」



独り、取り残されてしまう、エネルギッシュなピスカ。



……。



「……遊びたーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!」



ピスカの心からの叫びが、シンとした砂漠に響き渡るのであった……。





……。



…………。



………………。



――俺らにとっての<2日目>がやって来た。

日付にして、5月23日13時過ぎ。世間的にはお昼時である。



「あー……まだ疲れ全ッ然取れてねェわ」

「そうですよねー……あたしもですぅ」

「私なんて筋肉痛なのだけど?」

「そりゃ普段鍛えていない君が悪い」


死者の行進――と言っても過言ではない。

茹だるような暑さの中、俺達パーティの珍道中は再開された。


昨日に引き続き、エルルを背負って進む――には体力が乏しかった為、本日は自力で歩いてもらっている。


その分、歩行ペースが落ちるのは仕方ない。無理強いはさせられないからな。


(と言う建前、俺自身もゆっくり歩きたいのが本音である)


「――で、どうやっていなしてたのー?」


ただ1人、元気溌溂なピスカは、シャキシャキ先頭を歩いている。

危険なのは”夜”だと分かった以上、昼間の隊列は意味を成していない。よって、比較的自由に歩いている。


ピスカの手には、お気に入りの”クーラーオーラ”が握られており、それもあって”普段のピスカ”が演出されていた。


「基本はマオの魔法で拘束。複数体固まっていたら、ティタの魔法で無理やり地面にくっ付けていたわ」

「合間合間で、エルル様が威嚇射撃をして、誘導してくれてました」


歩きながら、昨夜から今日にかけての泥臭い逃走劇を説明する。

ま、他にする事も無いからな。丁度良い情報共有の時間でもあり、有意義な時間潰しと言えよう。



「ふ~~~~ん……ルーちゃんなら、『魔物特効(まものとっこう)』あるんだし、倒して行けば良かったんじゃない?」



――()()()()

これは、俺の持っている『界塵特効(かいじんとっこう)』と似たような素質である。



王族メルン家の血筋には、生まれつき魔物特効の素質があるらしく、エルルの魔力にも勿論反映されている。



内容的に――魔物に耐性を持ち、魔物に効く。脅威の素質と言えるだろう。



(そしてそれは、この俺にも恩恵がある)


エルルから魔力を借りている俺にも、魔物特効の素質が上乗せされる訳だが……


「俺がエルルから借りた魔力で殴ったが、効いている感じはしなかったんだよな」


正直、手応えがまるでなかった。鉄筋コンクリートをぶっ叩いた様な、虚無感だけだった。


「硬い外皮で守られていたからかしらね。何度も何度も同じ場所を叩けば、効果はあると思うのだけれど」

「そんな暇無かったですね」

「だな」


ティタの言う通り、一体に粘着してネチネチ戦っている場合ではなかった。

あちらこちらにゴロゴロと、ムペムペがうろついていたので、とっとと逃げざるを得なかった。


「一々相手にしてちゃキリが無かったんだよ。だから、その場に縛ってトンズラこくしか無かった」

「そんなにいたんだー?」

「いっぱいいたわよ。飽きる程、ね」


昨夜の事を思い出してか……妙にグッタリとしているエルル。

今日も今日とて『白雪姫(ホワイトプリンセス)』となって、自身及び周囲を冷やしながら進んでいる。


因みにティタも、『氷ワンコ』状態となっている。アホ毛が凍ってて可哀想(素直)


「ま、そんなこんなで朝まで逃げ回っていた訳だ」

「日が昇ったと同時に、ムペムペ達は砂深くに潜って行ったわ。それを確認した途端に眠気が……」

「あー、それで固まって寝てたんだねー?」

「そう言う事です」


地獄の様な夜だった事は、間違いない。

こうして、昼間に何も起きないのかが、どれ程幸せな事か……。


(この暑さも……地獄っちゃ地獄だが)


額を流れる汗を拭う。昨夜の寒さが嘘のように暑い。

女子共(おなごども)は芯から冷やされているが、俺には現状何もない。


――と言うか、断った。

エルルは体力的に冷やす必要があるし、ティタは簡易トイレを作る役割上体力温存して欲しいし、ピスカはそんな2人のフォローだし。


よって、役割の薄い硬派な野郎は、こうして暑さと戦いながら動くのがいい身分なんですよ。卑下だが。


「兎に角、体力を温存しましょう。夜はゆっくり眠れない事が分かったから」

「ウス」「はーい」「了解ですっ」


作戦として、日中は只管歩を進め、夕方から夜にかけて休み、夜は朝まで逃走するプランである。


そもそも、これしかない。消去法である。


「また暫く何もなく歩くんだねー」

「オアシスでもあればなァ」

「ティタ、何か見えないかしら?」

「……まだ見えないですね」

「じゃあ~暇だし”しりとり”でもする~?」

「絶対ヤダ」

「マオさん……トラウマになってませんか?」


一喜一憂、喜怒哀楽と感情を右往左往させながらの旅は続く。



――俺らが次のオアシス『ギャルンオアシス』へ辿り着いたのは、午後4時の事だった。





……。



…………。



………………。



遠くからでも分かる――広大な砂漠に突如現れた、大きな屋根の付いた一区画――



「「「「オアシスだーーーーーーーー!!!!」」」」



燥ぎたくなるのは至極当然の事。


前回、『ナッグルオアシス』に着いたのは9時過ぎだった。ここに着いたのが16時過ぎという事は、凡そ1日と7時間程度彷徨っている。


(ま、途中野宿もしたが)


ようやく……ようやくである!

オアシス! 皆が待ち望んでいたオアシスへと、辿り着いたのだ!


オアシスが暫く無いと言っていたトバリの発言は……見事的中していたと言う証左にもなった。


「これまた、ナッグルオアシスとは違う趣向ね」


エルルが、興味深そうに外観を眺めている。



――『ギャルンオアシス』は、大きな屋根のあるオアシスであった。



基本的には、ナッグルオアシスと同じで、小さな雑草の絨毯に、中央の泉――


(――と言うよりかは、湖か?)


透明さのあまりない、濁った湖が、オアシスの中心に鎮座している。

今回は水浴び出来そうにないが……水の塊があるだけで、視覚的に涼しい。


店も数種類立ち並んでおり、『宿屋』、『飯屋』、『武器屋』、『薬屋』、『教会』と同じレパートリーではあるが、有難い。



そして、オアシスと砂漠を区切る境界線の様に、毒々しいサボテンもどき『クラウチーク』が、生い茂って――



(――いない!)



そう、いない。()()()()()()

今回は、クラウチークが生えていなかった。代わりに――



「オアシスの四方に柱が建っていて、その上に真っ平の屋根が乗っているんですね」



ティタの言う通り、年季の入った屋根が乗っており日影を形成していた。簡素な造りである事は間違いない。


(まァ、熱源自体は防げてないが)


太陽からの日差しは何とかなってはいるが、熱源は斜めからの日差しを飛ばしてきている為、日影になっている所となっていない所があってちぐはぐだ。


それと――


(外れの方に、何かあるナ?)


オアシスからちょっと外れた所に、何やら怪しげな石の地帯がある。

石の地帯と言うか、大きな岩が、あちこちに刺さった……遺跡? の様な箇所が見える。


「……う~ん。何やらきな臭いエリアがあるねぇ~?」

「調べがいがありそうね」


オアシス自体が平地で、少し丘のようになっている箇所に、謎の遺跡群があった。

これは調査せざるを得ないだろう。探検者的には。


(色々と調査が必要なのは分かった……が)


「取り敢えず……」

「そうだな。まずは、だな」

「はいっ! あれですよね!」

「それだよねー?」


エルルが全員を見渡す。多分、今のパーティだったら以心伝心している――



「休憩よ!」「飯だ!」「水浴びですね!」「探検だー!」



――訂正。以心伝心なんてクソ喰らえだこの野郎。



「……今日はここで夜を過ごしましょう。異論はある?」

「無ェ!」「無いです!」「良いと思うよ~」



――ここは以心伝心。流石の流石に、以心伝心だ。


(ムペムペ達も、ここまでは襲ってくるまい)


”宿屋”と銘打った店があるんだ。要は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


そもそも、奴らが本気出せば、こんなオアシス簡単に潰せるだろう。普通に残っているという事は、昨日の時点で襲撃されておらず、ムペムペ達の攻撃対象に含まれていないのだろう。


安心して寝られるんだ。あの逃げ惑う夜を迎えなくていいんだ。


(だったら――オアシスに世話になンのが、正着だよなァ?)


「じゃあ宿屋にチェックインして、荷物下ろしてから行動しようぜ?」

「”ちぇっくいん”……って?」

「宿泊登録……的な?」

「成程ね」


今後の方針を軽く立てつつ、俺らは早速宿屋へと向かう。


あれだけ重かった足取りが、嘘のように軽い。見えなかったオアシスへ辿り着く事で、精神的苦痛が取り除かれたからであろうか。


軽く緊張していた為、強張っていた体が漸くゆとりを持つ。


(それにしても――)


辺りを軽く見渡す――そんな必要も無く、視界から簡単に情報を得られる。


(誰もいねェな……)


驚く事に、学園生の姿を見かけない。姿を見なけりゃ声もしない。

ナッグルオアシスの時は、既に数十人が先に到着していたものだが。


(デタラメに逃げて来たからか?)


――昨夜、ムペムペの大量出現により、敵の少ない所を目指して走った。熱源がどうとか無視しての逃走劇であった。


恐らくその結果、大幅に進路がズレた事が予想出来る。このオアシスも、もしかしたらちょっと遠くのオアシスなのかもしれない。


それか――


(思ったより、俺らは進んでいる方なのだろうか……?)



――なんて、考えている所だった。



「――あれ? マオ君?」



立派な角を生やした赤髪の少女――ミャンが、湖の側で涼んでいた……。

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