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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
75/87

39時限目 砂漠の洗礼<1日目>



――朝8時頃、目的地である『ムペムペ砂漠』へと辿り着いた!




「「「「()っっっっっっっっっっっっっっっっつ!!!!」」」」




――ヴァルヴァラ学園の飛行棟から、探検者ギルドへと転移()び、そこから『ムペムペ砂漠行』のホームへ行って転移(トん)だ。


一瞬、意識が飛び――視界がはっきりとした時には、既に転移完了。地下深くにあるムペムペ砂漠のホームへと降り立っていた。


(相変わらずドエレー……)


魔法による現実感の喪失と、価値観の齟齬については置いておいて。

まるで地下鉄のホームの様な様相で、見慣れたような見慣れない様な……不思議な既視感に犯される。



勿論、電車やレールと言った近代の類は無いのだが。



だだっ広く無機質で暗い地下広場――と言ったところ。


やや黴臭さを感じつつ、他の学園生の流れに身を任せ、地上を目指して勇ましく行進。


――正に”軍隊アリ”だ。俺達は今、アリとなってぞろぞろと歩き荒ぶ。地を踏む足音と、反響する話し声と、我々が有機物だと再認識出来る息遣い。


様々な音が共鳴し、共振し、1つの”軍”として蠢いている。


(気張っていくしかねェよな……!)


俄然、ヤる気しか起きない。長い長い階段を、列になって登っていく。

この先は試練への入り口だ。差し込む光は()()か、将又()()なのか……。



――数十分、入り口を目指して登って……遂に辿り着いた。



「……いやいや、()っつ!?」



外気に触れた途端、肌がチリリと疼く。


洒落にならない冗談じゃないレベルの熱波が、俺達を厳しく出迎えてくれた。

と言うか、それ以前に――



「……な~~~~~~~~~~んにも、無いね~」



()()()()()()()()()()()。空の”青色”と砂の”茶色”のグラデーション。



「ガチの砂漠じゃねぇか、これ」

「そうね……ガチだわ」

「ガチのガチですね……」


悲壮感漂うエルルの横顔を見て、俺もまた顔を顰める。ティタのイヌミミも怯える風にして平伏した。


ホーム自体が砂の中に埋まっている為、猶更一面何もない様に見える。


「マオ、後ろ」

「おっと」


入り口で突っ立っていると、後ろから同じように登って来る学園生の邪魔になる。エルルに言われて直ぐに脇へと移動。


「ここが件のムペムペ砂漠なんだねぇ~ふむふむ」

「何だか……とんでもなく広いです……!」

「そしてとんでもなく暑いわ」

「「「……(無言の頷き)」」」


4人の認識は全く同じ。



――広くて……暑い。単純だが、ドエレー厄介な状況である。



(原因がシンプルに分かりやすいってのが、一番面倒なんだよな)


ここよりはるか遠く――地平線より少し上に、太陽の様な日の光――そもそも、この異世界には太陽があるのか知らないが、俺達を照らしている”熱源”が原因である事は間違いない。


真っ青な空と一際輝く”太陽もどき”。他は大海の如き砂の海――

実際は、所々砂の山が形成されており、正に砂漠。ザ・砂漠。ジ・砂漠(ネイティヴ)。


(リアル砂漠なんて初めて来たが……想像以上に、想像以上だ)


砂漠に付いて3分もしない内に……額から汗が垂れる。

視界は汗でボヤけ、頭が沸騰しているか如く余剰に過熱されている。


汗は額だけじゃなく、腕も汗ばみ、背中では一筋の雫が流れ落ちた。汗で衣服が湿り始めている。


そりゃそうだ。直射日光(?)を浴び続けているのだからな。


(せめて木陰でもありゃあ幾分マシだったが……)


見渡す限り――多少の草は生えてはいるが、木の一本も生えていない。木陰なんて以ての外。


「とりあえず、突っ立ってないで進もうぜ。暑すぎる」

「どっちに?」

「……」


……どっち、なんだろうなぁ?





……。



…………。



………………。



「……グゾ(ア゛ヅ)ィ゛……!」



――数十分経っただろうか……体感では、1時間以上炎々と――延々と歩いている気がする。

俺達『勇者パーティ2軍』は、取り敢えず北西方向へと進んでいた。


あの太陽の様な”熱源”くらいしか目印が無い為、熱源を目指して進むしかなかった。


(あ゛づ)い゛よ゛ぉ゛ー……」


隣を歩くピスカも、この暑さにやられフラフラしている。滝の様に汗を流し、前髪が湿りに湿っている。


「はぁ、はぁ……こ、こっちの方向で良いんでしょうか……?」


息も絶え絶えに少し後ろを歩くティタは、黒タイツが仇となってより暑そうだ。頭上のアホ毛が湿ってへにょっている。


「他の学園生達も”アレ”目指して歩いているからな……」


勿論”硬派”な俺と言えども、流石に暑さには負けていた。

自慢のオールバックは汗で乱れ、黒のタンクトップは肌にじっとり張り付いている。全身”黒”というのが災いになっている。


肌に張り付く服に嫌気がさすが、脱ぐ訳にもいかない。この熱波で肌を晒そうもんなら、直ぐに”真魚のミイラ”の完成だ。


「まぁ、他に目ぼしいモンもねぇし」


砂を踏みしめ、辺りを広い視野で見る。

他の学園生達も同じように暑さに悶え苦しみながら、熱源へと歩を進めている。


あれだけまとまってホームから飛び出た軍は――あっという間にバラバラに点在している。


俺ら4人の周囲1キロ以内には誰もいないんじゃないか、と疑うレベルで他と距離が離れている。

――しかし、これだけ広い砂漠だ。遮蔽物が皆無な為、どのあたりに何人程いるのか、目で簡単に確認出来た。



『あの暑さの原因に……「灼熱結晶」があると見たわ!』



エルルが声高らかに言い放つ――遥か後方で。



「……いいから、早くこっちまで来いよ?」

『わ、分かってるわよぅ……』

「ルーちゃんだいじょうぶーーーー??」

『待ってなさい、今、はぁ、追いつくから、はぁ』


ぜーはー、と息を荒くしながら、俺ら3人より遅い歩みで付いてくるエルル。仕方なく待ってあげた。


「はぁっ、はぁっ!」


――数分は待った。体感30分は待った。汗だくだくだくのエルルがようやく合流。

顔は真っ赤に火照り、マントすら濡れて張り付く始末。一度川にでも落ちたような状態であった。


(ま、それは俺らも同じではあるが)


何なら汗が渇いて塩が出来ている箇所もある。これで塩分には困らないな!(自給自足)


「何なのよこの砂漠!」

「キレんなよ……」


暑さで思考回路が攻撃寄りになってんのか? 気持ちは分るが。


「ルーちゃん、どうどう」

「うぅ……もう疲れたわ」

「頑張れよ?」

「ありがとう、頑張るわ……」


ピスカにあやされながら、再び歩を進める。今度は、少しペースを落として。


「あの先に”灼熱結晶”があるって?」

「え、ええ。その可能性が高いわね」

「根拠は?」

「これは”試練”よ。それも学園が用意している試練。明確な答えがないと、合否を出せないじゃない?」

「そりゃそうだが」


会話をしながら汗をぬぐう。

……汗が出るうちはまだいい。汗が出なくなり始めたら熱中症の疑いが出てくる。


探検バッグの中からぬっるい水の入ったボトルを取り出し、少しだけ飲む。


(最早お湯!)


先の事を考えるとがぶ飲みは出来ない。水が無くなったら――本当の終わりがやって来る。


「ここまで情報が無くて、あるのはあの()()()()()()……そのものがヒントって事よ」

「成程な」


エルルの言う様に、ここまで何もなく砂漠を練り歩く事になるならば――熱源こそが、目指すべきゴールなのかもしれない。


「とにかく進みましょう。せめて、木陰があるといいのだけれど……」

「目視だと何も見えないな」


絶望的な程に何もない。ただの砂漠。一日中、熱波を浴びながら進まなくてはいけないのか?



「……そうでもないかもしれません」



打ちひしがれそうになった所で、ティタが目を凝らして先を見ている。


「この砂漠、真っ平と言う訳ではありません。所々凸凹していますよね?」

「そうだな」


確かに時折、砂の山が構築されている。砂の地面自体、少し沈み込む程度には砂が積もっている様な状態だった。


「4、5キロ先ぐらいに……砂の山とは違う塊が見えます」

「 !? 」「ホント!?」「うっそ~~!?」


ティタの見ている方向に目を向けるも……蜃気楼でぼやけて良く見えない。


「よくよく目を凝らすと、何かあるのが分かります」


前方を見ていたティタが、くるっと俺らの方へ振り返る。

自分も暑さで怠いだろうに……握り拳と笑顔を作り、



「希望はあります! 元気よく行きましょうっ! ()()()()()()()()()()()! ですっ!」



明るく可愛く、俺らを鼓舞してくれた――!



(……推しが今日も可愛い!)



これ以上の”幸せ”ってある? 俺は無い(断言)


「……はぁーーーーティタをモフモフして抱きしめたいわ」

「……なんなら揉みくちゃにしたいよね~~~~」

「むしろ全身洗ってあげたいわ」

「その後優しくドライヤーで乾かしてあげたいよ~」


(……は? 分かりみ)



3人共メロメロであった!



「――とは言え、最低4キロは歩かなきゃいけないんだねー……」

「そうですね……」


ティタのお陰で、微かな希望が浮き出てきたが……現状の解決にはなってないわな。


()()()()()()()()()でも持ってきたら良かったなー」

「無い物ねだりしても仕方ないわよ?」

「そうだけどー……”冷感グッズ”でもあればなー」


(……待てよ?)


「つーか、ピスカの魔法で何とかなんねぇ?」

「んにゃ?」


ぽかん、とした表情をするピスカ。流れ落ちる汗と一緒に、前髪をかき上げる。


「ピスカの【付加(ふか)】で、”氷”でも付けらんねぇのかってハナシ」

「……あー」



――ピスカの魔法――【付加】は、10種類の『属性』を付加できる魔法らしい。



「”氷”も確かあったよな? それ、俺とか人に付加出来ないのか?」

付加(ふか)って言うかー付加(エンチャント)ね、付加(エンチャント)

「はいはい」


わざわざカタカナ語で呼びやがってこの野郎……カッコツケ(しぃ)が。


「その――【付加(エンチャント)】で、俺とか人に付けられんのか?」


ナイフに属性付加出来るのであれば、人にも出来そうな気がするが……。


「……人は皆、何かしらの”属性”を持っているわ」

「急に何?」

「良いから聞きなさい?」


突然、語り始めたエルルに茶々を入れるも、直ぐに諭されたため口を閉じた。お利口さんだ。


「人は皆、何かしらの”属性”を持っているわ」

「おう」


ちょっとずつでも、足を前に進ませながら話を聞く。

時折、熱風が吹き込んでくる。周囲の砂を巻き上げ、強烈な熱と共に砂塵が襲い掛かる。


(チッ!)


その都度、顔を覆ってガードする。庇いきれない部位が熱で激しく痛み、歯を食いしばって耐える。


「! ゲホッ! ゲホッ……要は――”持っている属性に、外部から属性を介入させるのは難しい”って事よ」

「……大分端折ったな?」

「し、仕方ないじゃない!」


咳込みながら、涙目でプンプンしているエルルだが――再び吹き荒れた熱風を受け、弱弱しく溜息を吐いた。


「何なのよ~~~~っ!」


ここまでエルルがグダっているのを見るのは新鮮で、珍しく、愛おしくも感じた。


「フン、成程な?」

「……何ニヤニヤしているのよ」

「気のせいだろ」


フッ。お得意の”エンパシー”で感じているだろう。俺がエルルを見て愉快そうに思っている事をな!


「マオさん何だか楽しそうです……」

「まぁな」

「……ムカつくわね」


やんややんや燥いでいる間――ピスカは腕を組み、俺に言われた事について考えている様だ。


「う~~~~ん。人に【付加】ねぇー……」

「出来ないか?」

「んにゃ、そう言えばやった事ないな~って」

「意外だナ?」


ピスカの事だから、自分に属性付加して遊んでいるモンだと思っていたが……。


「”属性剣”ってカッコいいじゃん? 炎の剣とかー、雷の剣とかー」

「分かる」

「私は分からないけど……」


はぁー、これだから”少年心”を持ってないヤツは……。


「……何だか心外なのだけど?」

「ま、漢の浪漫だからナ?」

「マオの言う”硬派”といい”男の浪漫”といい……分からないし、興味も湧かないわね」

「おいコラ」


さり気なく硬派ディスってんじゃねぇぞ? しばくが?


「試す価値はあるんじゃない?」

「そうだねー……」


――暑さで頭が朦朧とし始めている。

一刻も早く、この状況を打破しなくては、数キロも歩けずここで打ち止めになってしまうだろう。


「……ふー」


額から、大量の汗を流しながら、目を閉じる。

エルルの指示で、ピスカが魔力を集中させている――様に見えなくもない。


「……うーん、イメージが湧かない……」

「とりあえず、エルルを氷属性にしてみろよ」

「! え、私!?」


遠慮なく、わたわたしているエルルの背を押してピスカの前へ。

気が付けば、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「行くよールーちゃん! 頑張れーーーー!」

「頑張るのは貴方でしょう!?」


逃げようとするエルルを後ろから羽交い絞めにしてやると、ピスカの凍った右手がエルルに触れた――



「 !? うおっ!?」「うわーっ!」「きゃいん!?」



――刹那、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

腕を掴んでいた俺は、慌てて離れたが――俺自身、凍っている訳ではなかった。


エルル自身が見えない程の――大きな氷塊。純粋な冷気に、周囲の温度が下がっている――


「……これ、こんままエルルの事運べねェかな!?」

「いいねそれー!」

「ふ、二人共……!」




『――私は冷感グッズじゃないわよ!』




――亀裂が入る。

ミシミシ音を立てて氷塊が割れていく。砕けていく。中身の正体が現れていく――!



「……成程」



氷の飛沫を飛ばして顕現したのは――()()()()()()()()()()()()()()()()()




「芯から冷めているわ……今の私は」




氷属性(アイス)”のエルル――爆誕!!


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