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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
68/87

32時限目 結果発表は――



「――おいミャン! そっちに1匹行ったぞ!」

「了解!」

「あわわ!? マオお兄ちゃんの背後に1匹行ってますぅ!」

「チッ! オッケー……!!」

「! ランちゃんの方にも行ってるよ!」

「えぇ~~~~っ!? マオお兄ちゃん! ふぉろーヨロです☆」

「ふざけた事言ってんじゃねェぞ()()()ォ!?」

「あーーーー!! また()()()って言ったぁ!! ()()()ですがぁ!?」

「あ!? じゃあもっと全力でアイドルムーブしろや!!」

「はぁーーーー!? ランちゃんは全・身・全・霊、全てがアイドルムーブですがぁ!? 生まれた時からアイドルムーブかましてるんですがぁ!?!?」

「2人共!! じゃれてる場合じゃないでしょ!!」

「へーへー」「あは☆」



――ガブルの本隊が俺らに襲撃して来てから数十分……戦場は苛烈を極めていた。



どうやら、最初の4匹は先兵だったようで、ぞろぞろとガブルの群れがおいでなすった。


幸いな事に、ガブルの耐久力はあまり無く……俺の()()()()でいなせるレベルだった為、魔法を使わずとも、苦戦せずに薙ぎ払う事が出来ていた――。



とは言え――



「数が多いな!?」



次から次へと襲い掛かってくるため、兎に角忙しい。”猫の手も借りたい”とは、この事であるが。



(その(ベリル)はどっか行っちまったが……!)


「……聞いた事があるよ。ガブルは数百匹で徒党を組むと……!」

「オイオイ……! 今更そんな話、聞きたくはねェなァ……!?」

「あ、あは☆ 嬉しくない情報ですよねぇ……!」


ミャンから飛び出たドエレーバッドなニュースに、俺とランコは戦々恐々である。


「グゥゥゥゥゥゥルァァッッ!!」


俺らを噛み砕こうと、大口開けて飛びついてくるガブル達。


「じゃあ何か!? 俺らは数百匹ぶっ殺し続けなきゃあいけない訳か!?」


一歩下がり、俺の残像に噛みついたガブルへ――無慈悲に鉄パイプを振り下ろす!


「グギャッ!」


脳天直撃の殴殺に、ガブルが耐えられるはずもなく、無様に地へ平伏した。


――鮮血が――舞い踊る――。


「……そ、そうならないと……いいよね?」

「う、うわー。そうなりそうなニュアンスじゃないですかぁ……」


行く先を想像して身震いしながら、器用に足を動かしてガブルの攻撃を躱し、水の弾丸を撃ちこむランコ。


「グギィ!?」


水飛沫と共に、血飛沫があがる。――最早この場は、血で染められた赤いステージ。


「とにかく! 口じゃなくて手と足を動かしてってハナシ!」


竜の尻尾を途中で切り落としたかのような大槌(クソデカハンマー)を、豪快にスイングして、2、3匹吹っ飛ばす。


「グギャ」「グギィ」「グゥウッ」


加速しながらぶっ飛ばされる様子は、謂わば千本ノックを想起させる。

最早魔狼の残骸と化して、辺り一面へ撒き散らかされる。


「この数――やっぱり1人だったらキツかっただろうね」

「……フン。遁走した奴らの事か?」

「別に遁走はしていないけどね」


俺の言う奴らとは――犬っころ(フェン)クソネコ(ベリル)の事だ。

確かに、この数を1人で相手すると思えば……中々骨の折れる事だろう。


だが、彼らのもとへ委員長(キュビィ)エロ鳥(ギンタ)が向かっているはず。未だ連絡は無いが、合流していると信じておこう。


「アイツらの心配してる場合じゃねェだろ。まずはこっちを片付けねェとナ?」


鉄パイプを地面ギリギリまで下げて――一気に掬い上げる!


「!」


ガブルの顎へ直撃し、声も出せぬまま顎を割られ、空へと飛ぶ。


「オラァッ!!」


浮いた標的の頭蓋へ――今度は振り下ろす!


「ギュゲェ!?」


ゴギィ、と骨を砕くと共に、赤黒い液体が吹き出し地面へ叩きつけられた。


(慣れたモンだな、俺も)


流れ作業の様に、片手間にやっている様に、魔物を処理する。

この短期間で随分と精神が鈍化した様に思える。命を奪うってのは……こんなにもあっけない。


(免罪符は必要ねェ。自己弁護もいらねェ。只々、目の前の敵を屠るのみ!)


脳死に近い思考回路で、次々と死肉を形成していく。



「死にてェ奴は前に出ろォ! 死にたくねェ奴は後ろに下がれ! 最後にぶっ殺してやるぜ!」

「”正義”の名の下に! 悪意を振り撒く害獣へ――鉄槌を下す!!」

「アイドルたぁー―――いむ!! あなたのハートを撃ち抜くゾ☆」



……最早、どちらが悪役か分からないが、この蹂躙は数時間にも及ぶのだった……。





……。



…………。



………………。



――気付けば、オリエンテーションが終わってしまった。



『オリエンテーション終了の時間となりました。お近くの「魔法陣」へ入って下さい。繰り返します――』



「いや終わったんだが」



ヴァンテージの森内に響くアナウンスにより、ようやく事態を理解した。


「ガブル本隊を退けるのに精一杯だったね」

「はぁーーーー。ランちゃん流石に疲れちゃいましたぁ」


俺に寄りかかろうとしてきやがったランコを躱しつつ、視界を前方へ。

アナウンスの効果かは知らないが、戦闘態勢に入っていたガブル達がぞろぞろと退散して行った。


残されたのは――返り血で真っ赤に染まった俺らのみ。


「チッ。無駄な行動が多すぎたな」

「色々ね。まず出発までが無駄だったね」


腕に付いた血を、ハンカチで拭きながら寄って来るミャン。すっかり獣臭くなってしまった。


「来てからも無駄あっただろ?」

「戦力も減ったからね」


俺も袖で血を拭おうとしたところで――袖にも血が付いている事に気が付き、拭うのを止めた。


(鉄クセェ……これ落ちるんだろうな?)


大事な大事な一張羅。”漆黒の短ラン”が”深紅の短ラン”にでもなったら、硬派のイメージが崩れてしまう。


「ランちゃんもぉ疲れちゃいましたぁ☆」

「犬と猫はどうでもいいが、キュビィやギンタが抜けたのがデカかったかもナ?」

「そうだね。キュビィちゃんはワーグ族だから索敵や探索で活躍しただろうし、ギンタ君も空飛べるからね」

「……」


残されたのが、脳筋戦闘力2人とぶりっこアイドルだけだからなぁ……そりゃこうなるわ。



「もぉ~~~~~~!! ランちゃんを無視しないでぇ!!」



血塗れで俺の腕にくっ付いてくるランコ。振り払いたいが……流石に疲れて、面倒臭くなっていた。


「怠いからくっ付くなよ。邪魔」

「!?」


俺の何気ない本心からの一言に衝撃を受けたのか、愕然とした表情で俺を見上げた。


「……えぇ? ランちゃんこう見えてもアイドルなんですケド……? 可愛さがウリなんですケド?」

「知らねェよ。マジで離れて」

「可愛いランちゃんにこうやられたら、フツー嬉しいでしょお!?」

「ウザいって」

「――!?」

「つか臭い。血と獣臭いから。マジで」

「――――――――!!」


ガーーーーン、と効果音が聞こえた気がした。

力なく、俺の腕から離れて、フラフラとよろめいた。湿気が増した気がする。


「ちょっと! マオ君言い過ぎ」

「あ? そんな言ってないだろ?」

「見てよあのランちゃんの姿。ショック過ぎて静かに泣いてるよ?」


ミャンに言われて良く見ると……確かに泣いている。目元が潤んでいる。


「……うぅ~~~~。しくしく(T_T)」


……擬音を口に出すなよ……。


「丁度いいじゃねェか。顔に付いた血を流せるんだからよ」

「もう!!」


流石に怒られた。が、俺は謝る気など無かった。

それよりも、魔物を殺した――もとい、倒した余韻に浸っていたかった。


今後、何度も経験することになるだろう。今の内に、慣れておく必要がある――。


「……とりあえず、魔法陣に向かおっか?」


濁った雰囲気を変える様に、ミャンがとある方向を指差す。

数百メートル先に、光の柱が出来ている。この薄暗い森に、あんな神々しい明るさは無かった。


恐らく、あそこに魔法陣とやらがあるのだろう。そういう目印的意味で、ご丁寧に光っているのだと簡単に推測出来た。


「帰れるようにマーキングした意味なかったナ?」

「や、意味はあったよ。刻んでおけば”いつでも撤退できる”っていう、精神上の安定的な意味で」

「成程」


確かに、有るのと無いのとでは、心のゆとりが違う。そういう意味合いもあるのだと、勉強になった。


「よし、行くか」

「ランちゃんに謝った方が――ってマオ君!」


ミャンの言葉も聞かずに、我先に、いそいそと魔法陣へと向かう。



(シャワーを浴びたい! 今すぐに! そして洗濯がしたい!)



今の俺は、とてもとても欲望に忠実であった。



その為、ランコの横を通り抜ける際――



「……絶対にお兄ちゃん(ファン)にしてやるんだから……!」



――なんて聞こえた気がしたが、きっと空耳だろう。





……。



…………。



………………。



白い光の柱を発生させている魔法陣は、微妙に地面から浮いており、転移場で見た様な――何語で書いてるのか分からない、謎の文字で記された円形のブツであった。


そっち方面に乏しい俺からしたら、禍々しいミステリーサークルの様に思えた。


(コイツに入れば良いのか……?)


5、6人入れそうな円の中に、恐れず堂々と踏み込む。



「 !? 」



すると――突如視界が真っ白に包まれ――気が付けば駅のホームに類似した場所へ。



「 !?!? 」



――ここは『ヴァンテージの森』行きのホームである事は、経験則で知っている。



(帰って来た……)


ホームにいる周囲の人々は、皆学園生の様だ。誰も彼もが汚れ、傷付き、赤く染まっていた。


ざわざわと、学園生達で騒々しいホームだったが、特段煩いとは感じなかった。

寧ろ、安心感の方が勝った。そりゃそうだ。


(誰が好き好んであんな鬱蒼とした森で安心出来るんだっつー)


森林浴、なんて言葉があるが、ヴァンテージの森ではセラピーもクソもないだろうぜ。


「もう帰ってもいいみたいですね」

「みたいだねぇ」


偶々側にいた生真面目そうなエルフ少女と、怠そうなハーピー族少女2人組が、どこか遠くを見ている事に気が付いた。


釣られて、視線を上に向けると……天井からぶら下がっている大きな電光掲示板らしきモノに、



『オリエンテーションお疲れ様でした。本日の工程は全て終了とさせていただきます。寮に帰ってゆっくり休んでください』



……との文面が流れている。



「え、マジで」


疲れているからか、思わず声が出てしまった。

すると、少女2人組が俺の声に反応した。


「……どう思います?」

「あ?」


生真面目そうなエルフ少女が、真っすぐに俺を見ていた。



――黄緑色のロングヘア―、前髪をセンター分けにしており、凛としたツリ目。


背筋はシャンとし、学園の制服をしっかり着ている姿から、全体的にキリッとした生真面目な印象を持った。


(泥やら血やらが所々付いてはいるが……)


それはお互い様である。俺らはあまりに汚れすぎている。


「これで終わりなのか? ……と、思いませんか?」


髪の間から覗かせる――尖った耳。薄い肌の血色。

これにより、彼女がエルフ族だと一目見て分かった。誰でも分かる。俺でも分かった。


「まァ……思うよ」


話しかけられたとあっては、返さざるを得ない。前髪をかき上げ、修飾語を付けずに答える。


俺より()()な気もするが、初っ端ぶっきらぼうに答えてしまった為、引っ込みがつかなかった。


「あっけなかったよねぇ」


生真面目エルフの隣に立つ、灰色の羽根を生やしたハーピー少女が賛同する。



――灰色の羽が生えている為、間違いなくハーピー族だろう。

黄色のショートヘアーだが、前髪のところにこげ茶っぽい色のメッシュが入っている。


ギラギラと光るピアスを何個も付け、鼻にもピアス。目元にはクマが出来ており、全体的に不健康そうな少女だ。小柄な体系も、不健康に後押しをしている。


(な、なんだこのコンビは)



――片や()()()()、片や()()()()そうな謎のコンビであった。



「私の想定では――この後に皆集合し、宝探しの結果を発表して、学園長の言葉で閉める……と言った段取りがなされているのだと思いましたが……」


腕を組み、顎を手で摩りながら、刑事ドラマに出てくるような刑事の様な仕草をする生真面目エルフ。


(正直なところ……美人だ。とても絵になる)


「結局、クエストはクリアなのかどうか、わっかんないよねぇ」


腰に手を置き、怠そうに喋るハーピー少女。こちらは格好がパンク寄りな為、小悪党が喋っているみたいだ。体勢が猫背なのも、それっぽい。


(親しみやすいので言ったら……この子の方だろう)


「帰って良いっつーなら、素直に帰ったらいいんじゃないか?」


率直な感想を述べると、2人は表情を緩めた。


「……ま、それもそうですね」

「案外適当なんだねぇ学園ってのは」


キャイキャイと女子っぽく燥ぎながら、俺に手を振って、人混みの中に消えて行った。


(……ったく、何だったんだ)


急に話しかけられてビックリはしたが、普通の子達だった。

硬派はあまり会話を好まない。何故なら言葉は背中で語るものだから。


(それか肉体言語)


そんな訳だから、知らない人から声かけられると、ちょっとビックリしちゃうのであった。



……。


(……帰るか)


帰って良いならもう帰ろう。そう思い、雑踏の中へと潜り込む。

人をすり抜け無言で歩く。次第に、脳内では勝手な推理が始まってしまう。


『私の想定では――この後に皆集合し、宝探しの結果を発表して、学園長の言葉で閉める……と言った段取りがなされているのだと思いましたが……』


……俺もそう思っていた。実際は何も無し。


ならば、学園は結構ザルなのか?


……そうは思えない。『百鬼夜行』があってから、メルン王家は戦力強化に力を入れている。戦力強化の種となるこの学園運営を、適当にするとは思えない。


では何か? 何があるのか?


(……まさかなァ)



不意に、何かしらトラブルが起きて、そちらへ対応せざるを得なく、急きょ帰宅させる事となったなんて、考え過ぎだろうか――?



(帰宅中ってのは、何か変な事考えてしまうよナ?)


モヤモヤとした思いを、脳内に充満させたまま、俺は自室へと帰った――。

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