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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
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30時限目 スマートなウェポン



――ミャンにしっかりと(シメ)られた後、俺達は再び捜索再開。



「――なぁ、ちょっといいか?」

「ん? 何」


生い茂った雑草を、しゃがんでかき分けているミャンの背中に、同じように雑草をかき分ける俺は尋ねた。


「あの”クソデカハンマー”はどこに仕舞ってんだ?」


周囲に殺気は無く、人影もない。ただただ雑草を弄る事にも飽きてしまった。

折角だから、気になっていた事を聞いてみる事にした。


「……ああ、『体薙ぎ(ギガントキリング)』の事かな?」


しゃがんだまま、こちらへ体を向ける。若干スカートが際どいから止めて欲しい。


「ほい」

「 !? 」


瞬きしている内に、右手に握られていたのは――例の大槌(クソデカハンマー)である。


「ど、ドエレー……!」


まるで手品でも見ているかのような鮮やかさ。実際、手品だと言われても疑わないだろう。


今の俺はきっと、目をキラキラ輝かせた少年の様に見える事だろう。不良とは言え、いつまで経っても心は純粋な少年のままなのさ。


……多少、穢れてはいるかもしれないが。


「何その反応。今更じゃん?」


ふふっ、と笑みを零すミャンに――初めて少女らしさを感じた。


思えば、出会いでは『宝石箱()』の一味と勘違いされ、喧嘩(タイマン)は未消化で終わり、しまいにはサバ折りされた経緯がある。



ようやく、この子とまともに話せているのかもしれない。



「てか、マオ君も持ってるでしょ? 『スマポ』」

「……?」


聞き慣れない単語だ……。”スマホ”じゃなくて”スマポ”? スマートポン酢の略? 酸っぱそう。

思わず短ランの内ポケットから、自分のスマホを取り出し見せるが、


「何それ?」


怪訝な反応をされただけだった。そりゃそうだよな、知る訳ないよな。



……暫し静寂。



「……え!? スマポ知らないの!?」

「ああ」


ニコニコ笑顔からビックリ驚きの顔へ。コロコロ表情が変わって、見ているこちらが面白い。


「あー、マオお兄ちゃんは超☆田舎出身ですからねぇ~☆」


側で話を聞いていたランコが、会話へ参加する。さっきまで草藪を漁っていたからか、頭に葉っぱを乗せているのに気が付いていない模様。


馴れ馴れしく、しゃがんでいる俺の肩に手を置き、横から顔を出すランコ。一々仕草があざといんだヨ。


「なんせぇ、ランちゃんの事知らないぐらいでしたからぁ~?」

「は!?」


驚きから、「マジかコイツ……!」の驚愕の表情へ。百面相みたいだぁ……(直喩)


「……どんな所に住んでたのよ」

「遠い田舎だ」


君達から見たら遠い田舎(異世界)。嘘は言っていない。


「それにしても限度があるでしょ? この世界に住んでいてランちゃん知らないなんて……」

「あは☆ そーだそーだ!」


ラリ子め。ミャンに便乗しやがって……なんかムカつく☆


どうやら、思っていた以上に、ランコはワールドワイドなアイドルだった様だ。抜群の知名度を持っている。


「ランちゃんの事知らない程のド田舎……ま、それならスマポの事知らなくても納得だよ」


フン。本当に人気なんだなぁ、アクアマリン。


……だからどうしたって話だが。


「見ててね?」


納得してくれた様で、今一度手元に注目を集めると、大槌が瞬時に消えた――


( !? ……あん?)



――と思いきや、ミャンの右の掌に”何か”が乗っている。



繁々見てみると――()()()()()()()()()()()()()()



「『スマートウェポン』――略して『スマポ』。要するに、()()()()()だよ」



ミャンがグッと握ると――再び大槌となって顕現した。



「 ! っぶねェ!」「きゃん!」


――ついつい近くで凝視していた為、大きくなった大槌にぶつかりかけた。

同時に、すぐ側で見ていたランコの顔にもぶつかりそうになって、更に避けた。



結果、二段階の軌道を描く様にして俺の顔が動いた事だろう――。



「……この野郎」

「あはははは! ゴメンゴメン!」


悪気無さそうに謝りやがって……一瞬首がピキったぞクソが。


「び、ビックリしたぁ~~汗」


ランコが一番ビックリしただろうな。なんせ、突如大槌が迫ったかと思ったら、硬派の顔が変な方向に動いていたんだからな。ちょっとだけ同情。


「か、顔スゴい動いたね……ぷっ! ふ、ふふふふ……!」

「無邪気に笑ってんじゃねェぞ?」

「ご、ごめんって! 怒らないでよー! ふふっ!」


お腹を押さえ、蹲るようにして笑いを堪えるミャン。ツボにハマってしまった様だ。


「ふふふ……!」


くっ……こんなんで笑いが取れてしまった事に、若干喜んでいる自分が憎いッ……!


「いつまでも笑うな!」

「いたっ」


ペシッと、軽くデコピンをして正気に戻してやった。


「はーっ……笑ったー」

「いいから早く教えてくれ」

「あいよ」


目尻に涙まで溜めやがって……ったく。



()()()()()()()()()変形(へんけい)】を有している魔結晶を用いて作られた携帯型武器――それがスマートウェポン」



――次の瞬間には、また赤色の指環へと戻っていた。



「魔力に反応して、武器の形や本来の魔結晶へ変える」



――気付けば大槌へ。目まぐるしい変化に、俺の視界は忙しない。



「作り方は簡単。スマポにしたい武器を用意して、魔結晶に一晩くっ付けて形状を記憶させる。そしたら勝手に覚えてくれるので――」



――最終的に指輪となって、ミャンの右手の小指へと収まった。



「この通り。加工してアクセにして持ち運べるってワケ」



ニコッと晴れやかに笑うミャン。分かりやすい説明で、店頭販売を見ている気分であった。


「ドエレーブツだナ?」

「実際はこんな簡単には出来ないんだけどさ。便利だよ」


見ているだけで欲しくなる魔力が、このスマポにはあると思った。それ程までに、俺にとっては魅力的であった。


(これでいつでも、俺の”鉄パイプ”を持ち運べる……!)



不良のバイブル、鉄パイプ。これがなきゃ、喧嘩は始まらないと言っても過言ではない。



「腰に差してる鉄パイプをスマポにするんですかぁ?」

「当たり前だろ」


当然とばかりに胸を張って言うと、クスクスとランコが笑いやがった。

先程のアクシデントもあり、この野郎! ――としばきかけたが、


「あは☆ マオお兄ちゃんらしいですねぇ!」


なんて褒められてしまった。


「……押忍」


急に褒めるなよ。ビックリして”押忍”が出ただろうが。

硬派はあまり褒められ慣れていないんだ。取り扱い要注意なんだこの野郎。


「ら、ランちゃんはスマポ持ってる?」


どこか一歩引いた様な聞き方をするミャン。

この反応……やはり”お姉ちゃん(ファン)”か。変わってるよ。


「持ってるよぉ☆」


そう言って、右手の薬指にハマっている『青色の指環』を取り出した。


「君も指環か」

「スマポは指環がメジャーなんですよぉ。直ぐ展開できますしぃ☆」


――一瞬で、指環はマイクが先端に付いた銃? になった。


「何これ?」

「『センタリングマイク』だよぉ☆」

「だから何これ?」


良く分からないブツが出てきた為、俺は反応に困った。その上”センタリングマイク”とかって名称聞いても疑問は解決されないし。


そんな俺の様子が面白かったのか、ランコは小悪魔チックにニヤリと笑った。


「何だと思いますぅ?」


(ラリ子の分際で俺を試すと言うのか……?)


正直、誰がどんな武器を使おうが興味は無いが、ランコが挑発してきた為、俺も少しだけムキになった。



今一度、気怠い脳みそを興して、思考の渦へと潜水してみようではないか。



ミャンの大槌は分かる。見た目で分かる。だがこれは本当に分からない。


まず銃なのか? 形状は銃だ。間違いない。よく見る銃の形をしている。

――だが先端にマイクが付いている。これがイミフ。マイク型の銃? アイドルだからマイク?


マイクが付いているせいで、銃口から弾が飛び出すイメージが浮かない。と言うか、銃口自体がマイクの為、弾が出る場所が無い。


……は? マジでナニコレ?


「……あは☆」


考え込んでいる俺を見て、嬉しそうに見ているランコ。きっと”ドS”なのだろう。


「……鈍器?」

「違いまぁ~す☆」

「は?」

「いや『は?』って言われてもランちゃん困りますよぉ……」


鈍器じゃないならもうお手上げだ。閃きもしなった。

後はアイドル要素からメガホンくらいしか浮かばなかったが……。


「……メガホン?」

「違うよ~☆」

「鈍器?」

「だから違うってば!」

「は?」

「なんで逆ギレしてるんですかぁ~~!?」


当たる気がしない。異世界に常識に適応しきれていない俺には難問の様だった。


「……チッ。ギブ」

「一々キレないでくださいよぉー……」


俺が降参(ギブアップ)すると、やれやれと言った風に肩を竦め、突然立ち上がった。

……すぐ側にランコの黒の二―ソックスが迫り、目線を決して上へ向けられなくなってしまった。


「ほら、マオお兄ちゃんも立って☆」


しゃがんだままだと色々不都合があった為、文句は言わずに立つ。釣られてミャンも立ち上がる。


「ん~~と」


キョロキョロと辺りを()()()()見渡す。”あざとく”と言うのは、わざとらしく小手を翳して物色していたからだ。


「何を探してるの?」

「標的になりそうなモノ☆」


標的って何だよ? と次なる思考に移る前に、ランコが一つの樹を指差した。


「あは☆ あの樹に決めたっ☆」


決めるのはいいんだが、先に何をするか教えてほしいものだ。

仕方なく、ランコの数歩後ろで、ミャンと共に見守る。


「答え合わせに見せてあげるよぉ☆」


握っている()()()()()()()を両手で構えると、マイク部分から軽く水飛沫が飛び始めた!


(マイク部分に水が溜まっている……?)


どこからか水が注入されているのか? よく見ると、銃本体のグリップ部分からプラグが伸びており、ランコの手首と繋がっていた。



「……装填、完了」



真っ直ぐに、樹へマイクの先端を向け――



「――ふぁいや☆」



――トリガーを引いた!



「 !? 」「!」


一瞬目視出来たのは、()()()()()であった。

直ぐに水気を含んだ様な轟音と共に、樹のど真ん中に風穴を開けていた。


――遅れて水の飛沫が舞った。雨の日に、道路を走る車がすれ違いざまに水を撥ねらせる様な光景。



「ランちゃんの”センタリングマイク”は、体内の水分を集めて凝縮し、魔力を込めて『魔力水弾(まりょくすいだん)』として発射する事が出来るんです☆」



先端を上に向け、ふぅーと息を吹く。小癪にも西部劇の真似事だ。ホンマあざとい。


(成程、確かに)


命中した樹の周辺が、びしょびしょに濡れている。水を纏った――と言うか、水の塊そのものが発射されたと言うべきだろう。


威力は抜群。大きな樹木も軽々と貫通させた。チャチな拳銃(ハジキ)レベルじゃねェ。



これぞまさに――()()()



「どうカナ?」



――青髪のサイドテールが弾んだ。

どこか悪戯っ子の様に微笑むランコに、俺はアイドルらしさを覚えた。


同時に、僅か、数ミリ、ファンの気持ちが分かった様な分からない様な……気がした。


「体内の水分って言ったな?」

「そうだよ☆」

「じゃあランコは体液を飛ばしてるのか……」

「ちょ、ちょっとマオお兄ちゃん! 言い方がなんかヤダ!」


頬を膨らませプンプン怒る。ぶりっ子すんな。


「ら、ランちゃんの体液……!?」

「ほら! ミャンお姉ちゃんが変な事言っちゃってるじゃん!」


ランコが苦情を言うも、俺の言葉通りの意味だろうに。いい子ぶんな。


「体液飛ばすのは分かったが、脱水症状になんねェの?」

「ま、また体液って! ……ランちゃんはなんないよぉ」


そう言って、自身の()()()()を見せ付けて来た。

可愛い子ぶんな――ぶってはないか。


「あー、『マーメイド族』か」

「そうです☆」


海の支配者とも言われている種族、『マーマン族』と『マーメイド族』。元が魚だし、体内に保有できる水分量が違うのだろう。


「そう言う訳でぇ、答えは”水鉄砲”でしたぁ☆ マオお兄ちゃんは残念賞~☆」

「は?」

「だから逆ギレ止めてってばぁ~~~~!」


初見で当てれる訳ねェだろこの野郎。残念賞確定。


「悔しいからってぇ、ランちゃんに当たるのは良くないと思いまぁす!」

「え……別に悔しくないけど?」

「急に引かないでよぉ!」


詰め寄るランコを適当にあしらっていると、ミャンが仲裁に入る。


「まぁまぁ、両者その辺で」

「おう」「は~い☆」


聞き分けが良いのは、別に本気で喧嘩している訳ではないからだ。じゃれ合いにすぎない。もしくはプロレス。


「そんな訳で、スマポが楽なのは伝わったかな?」

「良く分かった」


指環にでもしとけば、いつでも手元に鉄パイプ――それに準ずる鈍器を得る事が出来る訳だ。……楽じゃない訳がない。


「俺も用意してもらおう」

「それがいいよ」


エルルに頼んだらやってくれそうだな、と漠然と考える。そもそも、エルル以外に適任が思い浮かばないだけだが。


「……そう言えばさ」


不意に、神妙な顔でミャンが尋ねて来た。



「マオ君って……エルルちゃんとどういう関係?」



予想外の質問に、一瞬の間。



(……説明ムズッ)


取り敢えず前髪をかき上げ、時間をかけるのはマズいと判断した。


「ま、色々な」


雑に誤魔化す。何を言っても、墓穴を掘りそうだったからだ。


(元々、この子はエルルの友達だ。しかし、エルルは”俺の存在”については話していない様子。ならばここは雑に流して、後でエルルにフォローしてもらった方が効果的だろう)


俺のスタンスはずっと変わらない。信頼できる奴には自身について打ち明けるし、それ以外には一切打ち明ける気はないという事。


――なんて、考えを巡らさせていくが、



「それ、ランちゃんも気になってましたぁ☆」



ランコからも突っ込まれる。

何故、ランコから? エルルとつるんでる時に見られたか? 更なる考えの波に飲まれる。



――実際として、ミャンもランコも、校舎裏での真魚VSフェンの喧嘩(タイマン)を目撃した際、真魚とエルル達との触れ合いも目撃していたからであった。



さて、どう誤魔化すか……!

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