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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
65/87

29時限目 狩りの血潮



――『魔物(まもの)』とは?



単純に、()()()()()()()()の事を指すが、魔力があるという事は、()()()()()()()()()()()()()


種族は、理性を持ち、魔法の使いどころをよく理解している。しかし、本能で生きる魔物はどうか?



……。



…………。



………………。



――『ガブル』という魔物を、始めて見た。



見た目は”狼”である。いや、天花市にいた頃に、狼なんて見た事は無かったが。

そもそも、天花市の様な街に、野良の狼が生息している訳がない。


例えば、柴犬は遺伝子的に狼に近いらしい。だからと言って、「狼だ!」と言う人や、一目見て狼だと思う人は少ないだろう。


それ程までに、狼というものは、日常生活において近しいものではない。人間の生息域にいないからだと、俺は思う。


しかしながら、情報なんてその辺に幾らでも転がっている。狼についての情報も、生きていく内に何となく脳にインプットされていた。



実際に、この双眸で見て、知識と現実の同期に時間はかからなかった。



「早速お出ましだね……!」


――ヴァンテージの森に突入して数分、直ぐに殺気を感じた。


真っ先に気が付いたのはミャンだった。それは『狩人(かりうど)』という職業柄なのか、種族的なものなのかは分からない。


俺はミャンの手を挙げる合図で理解してから、その唸り声を聞いてようやく認識した。


「グルルルルルルルルルルゥ……」


木陰から現れた()()は、いかにも魔物(仇なす者)だと知らしめている様な姿をしている。



――体格は一回り大きい犬。毛色は灰色に、禍々しい紫のメッシュ。瞳は赤く、時折見せる牙は鋭く尖っている。


ダラダラと涎を垂らし、今にも襲い掛かろうと、常にこちらを警戒している。柴犬とは大違い。


「『魔狼(まろう)』って種族の魔物だね。名は『ガブル』。群れで生活し、集落を組織的に襲う」

「! ひ、ひえぇ~。怖い魔物なんですねぇ~」


ミャンと俺が前衛的ポジションに立ち、後衛にランコを控えさせる。

頭の中はお花畑だが、一応アイドルだ。戦闘に慣れている様子もないし、俺とミャンが前に立つのが正着だろう。


「フン。どうやら俺達を歓迎しているみたいだナ?」

「そうだね。”ウェルカムドリンク”ってところかな!」


気付けば、いつの間にかクソデカハンマーを構えている。一体全体どっから出しているのか。


「群れで生活すンだろ? 見た所、1匹しか見当たらねェが」

「この子は”門番”の役割だよ。多分数メートル先に”伝令”がいて、門番がやられたら”本隊”へ伝えに行くんだよ」

「フン。まるで人間の様な生態だな」

「そうだよ。だからこそ厄介だよね」


俺も、ベルトに挟んで隠していた”鉄パイプ”を取り出し、構える。


「……え? 何それ?」

「武器だが?」

「ただの鉄パイプじゃん」

「いや、武器だが?」

「え?」

「は?」

「「……」」


一番手に馴染むんだが? 最強の鈍器だが? 俺硬派だが??


「……いやまぁ、何でもいいんだけど」


どこか呆れたような素振りをして、再び目先の敵へとロックオン。


「先にウチが()ってもいい?」

「あ? なんで?」

「『狩人』として、お手本を見せたいかな?」


この怪力女……俺が素人だと言ってるようなモンじゃねェか……!


「分かった。頼む」


実際、”喧嘩”は慣れてるが、”戦闘”は素人である。ここは謙虚に、ミャンのお手本を拝見させて頂こう。



「人に()()する魔物は――ウチが()()



ミャンが一歩前に、俺は一歩後退し、ランコの隣へ。


(お手並み拝見だな――)



「はあっ!!」



――即座に戦闘へと移る。

大槌を胸の位置で構えたまま、力強く地を蹴って、ガブルへと肉薄する。


「!グラアアアアアアアアアアアア!!」


咆哮と共にミャンを迎え撃つ。

口を開け、予備動作無しで前方のミャンへと噛みつく――


「――よっと」


――直前に、左へとステップで避ける。まるで最初から左へ避ける様動いていた様だ。


「!」


ガチンッ、と歯と歯がぶつかる音。牙はミャンを捉えたはずが、虚しく空を噛む。


「やあああああああああああああ!!!!」

「!?」


左に避けながら頭上に掲げられた大槌。勢いのまま、力の向くまま、ガブルの頭上から振り下ろされる!


「うおっ!」

「キャッ」


ゴズッ、と鈍い音と共に、()()が砕ける。

大槌の勢いは止まらない。敵を粉砕したまま地面へとめり込んだ。衝撃で地面が揺れ、俺とランコは多少揺らめいた。



……。



「いっちょ上がり!」



流れる様な討伐に、気付けば感嘆の息が漏れていた。


「すっっご~い! 凄いね『ミャンお姉ちゃん』!」

「!? お、おおねっ!?」


ランコの称賛に過剰反応のミャン。

――ああ、この子ランコの”お姉ちゃん(ファン)”なのね。変わってるなぁ。


「ま、まぁ? ここんな感じだよね?」


ちょっとソワソワしながらやって来るミャン。ハンマーを動かすと、無惨に地面へ顔を埋めているガブルの姿が露になった。


「ガブルは左右の動きに弱いみたいだから」

「成程な」


だから目の前でフェイントを加えたのか。真っ直ぐ突っ込んでいたら、間違いなく噛みつかれていただろうからな。


「随分詳しいが、戦ったことがあったのか」

「前ね。この”ヴァンテージの森”に入るのは初めてだけど、ガブルとは何度か」


この魔狼は広く分布しているという事だろう。とは言え、実戦でスムーズに動けるのは()()()()と思わざるを得ない。


「いい勉強になったな」

「うんうん☆ カッコよかったですぅ☆」


これは素直に褒める他ない。動きが鮮やかだった。()()()()()()()()()()()()()()()()


「ふ、ふふん! お役に立てたようで嬉しいよ!」


嬉しそうに表情を緩めるミャン。狩人と言うだけあり、俺の喧嘩とは一味も二味も違う。普通に勉強になる。


「さて、門番を倒した事だし、多少は捜索出来そうだね」

「あ? 伝令が本隊に伝えに行くからヤベェんじゃねェの?」

「大丈夫。伝えに行くんだけど、それを受けて本隊は守りを固くするだろうから」

「こっちまで襲って来ないと?」

「そーゆーこと!」


ミャンがピースし、安全を伝えると共に、隣のランコが肩から力抜いた。


「はあ~~~~~~緊張しましたぁ……」


そりゃそうだ。俺だって緊張感を保っていた。俺より”軟派”な奴が緊張しない訳がない。


「他メンバー捜しつつ、宝探ししようか!」

「了解」「は~~い☆」


ここは狩人でもあり、リーダーでもあるミャンに従うとするか。

歩を進める――が、ちょっと止まる。


「……」


――再度、頭の潰れたガブルを見る。

さっきまで生きて、俺達を襲おうとしてきた魔物だ。界塵の様に消滅する訳ではない。


(死体が残るってのは……複雑だ)


()()()()()()()()()()()()。実生活で動物の死体を見る事はそうない事だろう。


(……行くか)


覚悟とは――魔物を殺める事でもある。この胸に生じたモヤモヤは、この死体と共に置いて行こう――





……。



…………。



………………。



暗くジメっとした森は、歩いているだけでも鬱な気分になるものだが――


(路地裏みたいだナ?)


むしろ、俺としては、これくらいおどろおどろしい方が性に合っている。



悪は闇を好むもの。不良も同じ。お天道様の下は――眩しすぎる。



「この辺りにはいないね」


――数十分、俺達はこの森を散策していた。

ミャンは時折、地面に屈んで足跡等の痕跡を探したり、宝の在りそうな草藪をかき分けていた。


……スカートでこちゃこちゃ動かれると、目線が持っていかれそうで恐ろしい。

特に、ミャンはタイツやストッキングの類を履いていない為、瑞々しい生足が視界に入って非常に困る。


「もっと奥に行ってるのかもな」

「んー、困ったな。あんまり奥には行きたくないんだよね」

「本隊があるからか」

「それもあるけど」


そう言うと、近くの木にナイフで傷を付けた。


「森って簡単に遭難しちゃうからさ。方向感覚を失いやすいし」

「確かにな」


気付くと森の入り口はもう見えない所まで来ていた。こうなると、俺も帰り道が分からなくなってくる。


「ま、これは『5つの試練』ではなくオリエンテーションだしね。ある程度フォローしてくれるんだとは思うけど」


普段、森なんて入らない俺にとっちゃあ、これも一つの試練に感じる。


しかし、ミャンにとってはそうでもないらしい。先行し先導し、パッパと木や岩に目印をつけ、いつでも撤退できるように動いている。


それだけじゃなく、周囲への警戒や痕跡を探ったり、メインのお宝さがしにもちゃんと参加している。


(ただの怪力女じゃねェな……!)



この子、あまりにもサバイバル慣れしている……!



(――対して)



「ひぃっ! ……な、なんだぁ葉っぱかぁ……汗」



このラリ子、あまりにもサバイバル慣れしていない……!



「……あんまり引っ付くなよ」

「え、えぇ~! だ、だってぇ~」


俺の左腕を両手でガッッッッチリ掴み、オロオロしながら付いてくるランコ。


「マオお兄ちゃんは、こういうの慣れてる人なんですかぁ?」

「慣れてない」

「だったら一緒じゃないですかぁ」

「は?(ピキピキ)」

「! こ、怖いですぅ! 顔が怖いですぅ! 鬼ですぅ!」


誰が人に掴まらないと歩けないラリ子と一緒じゃこの野郎。あと誰が鬼だ。


「つーか君、向いてないだろ。こういうの」

「う、うぅ~。そ、そうかもですけどぉ……」



――何故この子はヴァルヴァラ学園に入園したのか?

エルルは言っていた。「アクアマリンはメルン王家が広報の為に学園へ呼んだ」と。



広報として入ってくれるのは有難い事なんだろうけど、あまりにもサバイバルに向いていないと感じたが――



「グロいもの苦手なんですよねぇ……」



良く分からない理由が飛び出した為、一瞬頭が疑問符で埋め尽くされた。


「……は? どういう意味?」

「そのままの意味ですよぉ。ランちゃん、虫とか超苦手なんですよねぇ」

「グロいから?」

「グロいから☆」



…… ??



(なんかよく分からないからいいや)


グロかどうかは個人の感覚によるものだ。俺は深入りするのを止めて、宝探しに集中する事にした。


「……ねぇ、マオお兄ちゃ~ん」


――だと言うのに。左腕に憑いてるラリ子が煩い。



「ランちゃん、この森暗くてこわいですぅ~~~~☆」



(――ふふ、流石のお兄ちゃんと言えども、このシチュエーション! こんなに可愛いアイドルが寄り添って、上目遣いで甘えたら……キュンキュンしする事間違いなし☆)



――()()()()()! 不安や恐怖を煽る場において、男女は恋愛感情を抱きやすいと言うらしい!



「マオお兄ちゃん……守ってくれます?」



(そう、これは一種の”狩り”。ランちゃんがマオお兄ちゃんを狩るか、狩られるかの戦いなんです☆)



ランコの絶対に真魚を堕としてやろうとする意志に対し、当の真魚は――!?



「黙れ」



――()()()! 普段アイドルムーブをかましている為、むしろ辟易していて逆の効果が働いている!



「! ひ、酷いぃ~!」

「むしろ優しいだろ」


相手してやってるだけ有難いと思え、と真魚は思うだけだった。


「大人しくしてろよ、()()()()()()()()()()

「……!!」



悪気のない真魚の一言だったが、逆にランコの神経を逆なでた!



「~~~~っ! えいっ☆」

「 !? おいっ!」


アイドルのプライド的に悔しくなったのか、半ばヤケクソ気味に俺の腕へと抱き着くラリ子。

ギュッと体ごと腕に抱き着いた為、女性的な柔らかい感触が左腕に直撃する!


(ムカつく~~~~☆ なんで堕ちてくれないのぉ!?)


「お前……アイドルだろ!?」

「堕ちないマオお兄ちゃんが悪いんじゃないですかぁ!?」

「はぁ? ラリった事言ってんじゃねぇ!!」

「ラリってませ~ん! ランちゃんは正常ですぅ!!」

「ああ、そうだったな。お前最初から”職業ラリ子”だったナ?」

「あーーーー!! また言った! またランちゃんの事”ラリ子”って言った! ムカつく!!」

「 !? もっとくっ付こうとすんな! しばくぞこの野郎!?」

「くっ付かれて嬉しいって言ってくださいよぉ!!」

「言うか!? しばく!!」

「!? いた゛ああああああああああああああ!?」


ギャーギャー言い合う2人。傍目に見ていたミャンは――



(こいつら何イチャついとんねん!!!!!!)



羨ましさと苛立ちが同時に募るのであった――。

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