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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
64/87

28時限目 名はパーティをも表す



――どうしてこうなった?



そう、確か俺達『ハートのパーティ』――『バラバラ』は、ヴァンテージの森へ入る前にミーティングを行っていたはずだった――。



……。



…………。



………………。



「! ちょ、ちょっとフェン君!?」



――うら若き女子共と、EP(エルルフォン)の番号交換を行っていたところだった。


「あは☆ これでいつでもマオお兄ちゃんとお話できますねぇ☆」


絶対に着拒してやる☆ と、心に誓っていた最中――ミャンの呼びかけで、俺の目線は森の入り口――フェンへと向いた。


「……チッ」



今まさに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?



「……何だよ?」


長い銀髪を靡かせ、銀の尻尾を揺らし、気怠そうに答えた。

しかしながら、物憂いの仕草とは打って変わって、その表情は()る気に満ち満ちている様だ。


(俺とタイマン張った時の様だ……)


ギラギラと、瞳は鋭く妖しく光っている。”狩る側”の眼をしている。


「今、森に入ろうとしてなかった?」


と言うか、片足は既に森の中へと踏み出されている。どうにもこうにも、言い訳が通用するような状況ではない。


ミャンが呆れた風に息を吐き、フェンの方へ歩を進める――


「ああ――」


その歩みよりを、フェンは手で制した。



「仮パーティの1人として、最低限の義務は果たした。ここからは、オレのやりたいようにやらせてもらう」



何を言い出すかと思えば……申し開きも何もない。

自己中極まりない発言を、ミャンへと――パーティメンバーへと浴びせてきやがった。


(コイツ……どこまでも”孤高”を気取りやがって)


まるで”俺”の様な事を宣うフェンに、同族嫌悪の波が押し寄せる。


「い、いやいや。何を言ってるんですか」


既に俺との番号交換を済ませているキュビィが、ミャンの横へと並ぶ。

ここまで来ておいて、頓珍漢な事を言いだすフェンを、宥めすかす為である。


「……なぁーんか、雰囲気悪いっすねー」


少し離れて、俺と女子の番号交換を羨ましそうに眺めていたギンタが、ポツリと漏らす。



明らかに雰囲気が悪い。雲行きが怪しい。決裂の匂いがする――



「ようやく、思いのほか時間がかかって、皆で森に挑もうってところまで来たんですよ? それを急に……勝手な事しないでくださいよ?」

「そうだよ! 何考えてるのアンタ!」


普段はウザったい姦しさも、今は説得の一つとなっている。どうにも勇み足なフェンを、何とかして止めようと試みる2人。


(……まぁ、結果は想像できるが)


この濁った流れの終着駅はどこか? 忌々しい事だが、俺には理解できる。



「これは”オリエンテーション”だ。オリエンテーションってのは、単に親交を深めるためのゲームだろ? それなら、オレはこのパーティで()()()()()()()()()()()



「「 ! 」」



――決別、である。

()()()()()()()()()()()、と宣告されたようなものだ。所謂”絶交”と似ている。



……まぁ、友達でも何でもないし、絶交って何だかんだすぐ撤廃されがちだが。


「……ハッ」


漫ろにフェンと視線が交差する。思わせぶりな笑みと、その睨み(ガン付け)――俺への”挑発”と受け取るには十分だった。


(フン。一匹狼め)


ティタの”同志”、ピスカの”友達”、エルルの――契約者? まぁ、ここはどうでもいい。

そんな関係性とも違う。とは言え他人でもないし、知人とは言いたくない。



(――『好敵手(ライバル)』)



きっと、これが一番収まりが良い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。



(――寒ッ! 何がライバルだ気色悪ィ。アイツはただの”犬っころ”。それでいい)



――ヤツを認めたくない俺の心の葛藤はさておき。



「あ、アンタ! 何考えて――」

「……」



ミャンの声を遮る形で――制止も無視して森の中へ独り駆けて行った……。



「はぁーーーーーーーーッ!?」


素っ頓狂な声と共に、慌てるミャン。隣のキュビィも呆然自失。

現在進行形で、俺の番号を登録中のランコも口を開けて”ポカーン”だ。


「何考えてるんだよアイツ……ッ!」


自己紹介もした。パーティ名も決めた。緊急時用に番号も交換しつつある。

皆で動こうって時にこんなことされたら……そりゃあ憤るわな。


「よ、呼び戻しましょう! 誰か彼に連絡を!」


キュビィの問いかけに、其々EPを取り出して――はたと気が付く。



「あの犬っころ……誰とも番号交換してないんじゃ……?」



俺とは交換する訳ないし、他の野郎共とも特に会話している様子も無かった。女子達とは、言わずもがな。


「多分――つーか確実に、誰とも交換してないな」


口を突いて出た言葉に――今度こそお祭り騒ぎである。


「ど、どどど、どうしましょう!? いくらオリエンテーションとは言え、魔物の棲む森ですよ!? 1人はどう考えても危険です!」

「そうだね……何かあった時に誰も助けられないんじゃマズいよ」


オロオロする2人の元に、俺、ランコ、ギンタが駆け寄って集まる。


「直ぐに追いかけよう」

「誰が行くんすか?」

「……」


提案したは良いものの、実際問題、誰があの俊足なワーグ族を、この鬱蒼とした森の中で追跡できると言うのか――



「わたしが行きます!」



そう言うや否や、森の中へキツネ耳を欹て、鼻を鳴らすキュビィ。


「わたしも彼と同じワーグ族ですから、”音”と”匂い”を頼りに跡を追います!」


ワーグ族は旧名『獣人族』。哺乳類をベースにしており、ベースにしている獣の特徴を受け継いでいると聞く。

どこまで身体能力が高いのか分からないが、間違いなく俺よりは追跡者(ストーカー)に向いている。


「頼めるか?」

「任せてください! 何かあったら連絡します!」

「分かった」


こうしている間にも、フェンは森の中を単独特攻をかけている。

キュビィは別れの挨拶も軽めに、暗く深い森の中へと駆けこんで行った……。


「頼んだよーーーーーー!!」


小さな背中に、ミャンの大きな声がかけられる。

フェンの事は、彼女に託す他ないだろう。7人で挑む予定が、5人となってしまった。



「……狼クンはトラブルメーカーっすね」



お前が言うな、お前が。



……。



…………。



………………。



――フェン、キュビィの離脱。

減員を余儀なくされたパーティだが、トラブルというモンは、得てして重なるものである――。



「うあああああああああああああ!! ズルいのだ!!」



突然、ベリルが吠えた。



今の今まで、生のランコに現を抜かして勝手に呆けて、パーティの輪にも加わらず蚊帳の外だった奴が、突如発狂したのだ。


驚かない訳がない――いや、平常運転か。


「! な、何事?」

「マジ何すかあの人」


ベリルの事を多少なりとも知っている俺や、”お兄ちゃん”として知っているランコとは違い、図書棟でのドンパチ騒ぎ程度しか接点のないミャンは、とても良いリアクションである。


ほぼ初対面だと思われるギンタは、何故か軽く引いている様だ。


(……さて、今度は何なんだ?)


冷静に状況確認に努めよう。一歩引いた位置にいるからか、客観視出来ている。


発狂していたベリルは、4人の輪から離れた所で、悔しそうに森を睨みながら、唸っている――



「あの2人、ランちゃんに良い所見せようと先に入って行ったのだ!!」



……あー、まーた変な事言い始めたゾ?


「え、えぇ~と。そんな事ないと思いますけどぉ……汗」


普段()()()()事を言っているランコも、流石に困惑の色が強い。

そりゃそうだ。今までの流れを見ていないのか、と強く言いたいところである。



「お前、今までの流れ知らねェのか?」



まぁ、俺は言うけど。強く言うし、事を大きくするならしばく。



「あいつら、ボクより多く魔物を倒して、ランちゃんにアピールするつもりなのだ!! 絶対!!」

「いや聞けよこの野郎」


聞く耳持たず。興奮してしまっていて、言葉がちゃんと理解出来ないのだろうか。


……そもそも、出会った時から会話が成立していなかったな。訳分らんヲタ用語とか連発されたし、勝手にお兄ちゃん認定されて、ミャンに誤解されるし……碌な思いしてねェな。



思い出して来たらイライラしてきたな。やっぱしばくか!



指をポキポキ鳴らすと、直ぐにミャンに腕を掴まれた。


「分かるけど」

「……はいはい」


話の腰を折るなってか? こっちとしても、鯖折りされちゃたまらないからな。

しばくのは最後にとっておくとして……だ。


「ら、ランちゃん!!」


ベリルはランコの前に片膝を立てて頭を下げた。まるで騎士が女王に跪くかと如く。


(実態はファンがアイドルに跪いているのだが)


「ま、待っててねランちゃん!! ボクが一番、狩って見せるからねっ!?」

「ふぇ?」



まさか! と、思うより早かった。

ベリルは”犬っころ”同様、森の中へと駆けて行ってしまった!



「ねこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



絶叫にも似たミャンの怒声は、寂しく森に木霊するだけだった……。



……。



「え? なにこれ?」


暫しの沈黙後。

ミャンが俺に聞くが、俺にも分からない。分かるはずがないし、分かりたくもない。


「まーた追いかけなきゃいけないパターンじゃないっすか?」

「そうだな……」

「何なんだよホント……ウチのパーティボロボロじゃん」

「”バラバラ”の上に”ボロボロ”だナ?」

「散々じゃないですかぁーもうー」


あはは、と笑い合う俺達。ここまでくると逆に笑けてくるな。



そして――なんだろう、この差。



フェンは危なっかしいと言うか……多少はパーティに協力していたしな。”ケツ拭き”まではいかなくとも、協力してくれた分サポートを付けてあげなきゃと言う義務感が生じる。



対してあの『クソネコ』は……特に何もしていない。



それにアイツは……放っておいてもいいような感じがする。勝手に暴走して、勝手に生きてると言うか、特に手を掛けても掛けなくても平気でいそうと言うか……。


まぁ、何とかなりそうだよな。正直。



「――いやでも、放置はマズいだろ」

「急に冷静!?」



――とは言え、だ。ここで奴の暴走を放置してみろ。パーティの連帯責任になりかねん。

そうなりゃまたニカ先公(アル中)の世話になるし、王家の嗜みがどうのこうのとエルルにしばかれる。


(俺自身、パーティからこっそり抜けて、単独行動を取るつもりだったのだが……)


フェン(イヌ)ベリル(ネコ)と立て続けに抜けられちゃあ、流石の俺も自重せざるを得ない。

――チッ、”硬派”も随分と甘くなったもんだ。


「……はぁ、仕方ない。ギンタ君頼める?」


俺の一言で、理性的な思考に落ち着いたのか、ミャンがギンタへ指示を出す。


「うえぇっ!? オレェ!?」


いきなり刺されたギンタは、見るからに嫌そうに顔を顰め、全身で大袈裟にリアクションを取った。


「空を飛べば後を追えるでしょ? 見た所、飛ぶスペースくらいはありそうだし」

「そりゃ……可能か不可能で言ったら、可能っすけど……!」


すっごく嫌そう。今にもゲボ吐きそうなくらい嫌そう。


「ちょ、ちょ~っと待って! タンマ!」


そう言って、ギンタは俺の首に腕を回し、2人から少し離れた所へ移動。


「何だよ?」

「いや~、オレ流石に男のケツ追いたくねーっす」

「んな事言ったってしょうがないだろ? 文句ならあの”クソネコ”に言え」

「それはそうなんすけど~~~~!!」


バタバタと足踏みをして地団太を踏むギンタ。身に着けているアクセが、日差しを浴びてキラキラ輝いている。


「気持ちは分かる。分かるが……お前も分かるだろ?」

「う、うぅーっ! わ、分かるっすけどぉ」


現状、追えそうなのはギンタしかいないのだ。地上の魔物や障害物を無視し、空を自由に飛べるギンタしか。


(何とか宥めて、説得するしかねェわな)


無理難題を押し付けている訳でもないので、納得してもらうしかないのだが――



「……別にやってもいいっすよ」



急に、風向きが変わった。



「ただし! 条件があるっす!」



どうやら、向かい風の様だ。



「あ?」

「条件次第では、飲んでもいいっすよ?」


とてつもなく嫌な予感……! ギンタの提示する条件だァ……?



「今度、『ウサ耳おっぱいちゃん』との食事の席、セッティングして欲しいな~なんて!」



今度は俺が、ゲボ吐きそうなくらい表情が歪んだ。

”ウサ耳おっぱいちゃん”……? 誰だそいつは……?



……。



……あ、シルファの事か!



ヴァルヴァラ学園の筆記試験時、右隣に座っていたウサギベースのワーグ族少女。

そう、彼女の胸は確かに――()()()()()()


「セッティングってお前……硬派な俺がそんなん――」

「じゃあ無しっすね」

「……(ピキピキ)」



しばきてェ~~~~~~~!!



要するにあれだろ? ギンタとシルファの仲介役やれってことだろ?



かったりぃ~~~~~~~!!



「おいテメーマジふざけんなよコラ」

「お? いいんすか? オレ追わないっすけど?」


(く、クソが……足元見やがってこの野郎……!)


怒りで体が震えている。血が頭に上り始めているのが分かる。

硬派ってのは短気なんだよ。肉体言語が主言語だからなァ。


しかし、しかし……ぐ、ぐぎぎぎぎぎぃ!


「……………………わ゛、分かった」


渋々、渋々渋々引き受けるしかなかった。


「よっしゃああああああああ!! 揉みまくってやるぜえええええええ!!」

「テメー!! 声抑えろや!!」


女子2人に不審がられてんじゃねェかこの野郎!!


「しばく!!(アイアンクロー)」

「! ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「宜しく頼むなあああああああああああああ!!(キャメルクラッチ)」

「ギブ! ギブギブギブううううううううう!!」


取り敢えず、拘束を解いた所で、森を指差す。


「さっさと行けやゴラァ!!」

「と、鳥遣いが荒いっす!」

「っせェ!! もっとボコすぞこの野郎!!」

「ひぃぃ~!! マジの不良じゃないっすか~!!」



黒い羽を大きく広げ、逃げるようにして森の中へと消えて行った……。



「――ふぅ。スカッとしたぜ」



ストレスが溜まったらこれに限る。



「……どういうこと?」


腕を組み、不審げにミャンが尋ねてきたが、


「ギンタが行ってくれた」


簡単に、説明するだけで留めておいた。


「はぁ……ま、詳しい事は聞かないけどさ」

「あはは、なんか不穏でしたよねぇ~」


これから滅茶苦茶割を食う事になるんだ。これぐらいやっても罰は当たらないだろう。



……。



――さて。

気付けば”バラバラ”のメンバーは……俺、ミャン、ランコのみ。



「じ、じゃあ! 行こうか!」

「が、頑張りまぁ~す☆」

「……おう」



――どうしてこうなった?

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