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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
62/87

26時限目 自らを教えるのは自然の摂理



――受付が済み、一度”仮パーティー”のメンバーが集まる。



「全員集まったね―」


竜の少女がそう言うと、フェンが「いや」と否定した。


「ハーピーの野郎がまだ来ていない」

「え? そうなの?」


フェンの言葉で、皆が辺りをキョロキョロ見渡す。


チャラホストは相当派手な格好をした奴だ。しかし、こうも同じ学園生や探検者がいると探すのも一苦労だが……。


するとフェンは、顎でチャラホストの行方を示した。目で追うと、列の出来た受付の方であった。



「あそこだ。奴は今、()()()()()()()



えぇー……マジ何してんだアイツ。



俺と同じ様な感情を、各々が顔で示す。そりゃそうなるわ。

困惑の状況で、キツネっ子が皆の顔色を窺う。


「じゃ、じゃあ……誰か呼んでくる?」

「ボクは嫌だなー。同類だと思われたくないし」

「あんなヤツほっとけ」

「そう言う訳にもいかないでしょ?」

「ランちゃんが呼びに行ってもいいんですけどぉ~……なんか変な噂になりそうですぅ」


(……はァ。しゃーねぇな)


「俺が連れてくるから」


このままでは埒が明かない。押し付け合いが始まりそうな雰囲気だった為、俺が動く。


(手間かけさせやがって)


真っ直ぐ、チャラホストの元へと向かう。なまじ顔見知りだから、俺が行くのが一番良いだろう。


輪から抜け、1人受付へ向かう。


(時間があんま無いっつーのに。アイツは何をしに来てるんだか)


学園長から与えられたクエストは、夕方17時までと時間制限がなされていた。

この仮パーティで合格出来るが怪しいが、やるだけやってみたい気持ちはある。


(ま、別に俺1人でも動けばいい訳だしな)


最初(ハナ)から()()()()()()()()()()()()()()、一応足並みをそろえておきたい。


ぶつくさ考えながら、人混みをかき分けていくと……やがて見た事のある黒い羽の少年を見つけた。



――奴はあろうことか、他の女子探検者グループの所で、ナンパを敢行していた!



「ちょいちょい! そこのお姉さん方! 今晩”おっぱい”どう?」



そんな誘い方があるか。



「おいコラエロガキ」

「……お! 不良クン! なんすか? 一緒に”おっぱい”するっすか?」


両手で見えない”ナニか”を揉みしだく様に、手で宙を揉みしだくチャラホスト。呆れて怒りすら通り越した。


「しねェよバカ。いいから、とっとと来やがれこの野郎。皆お前を待ってんだっつーの」

「おー、それはすんません。でも、ちょっとだけ待ってもらっていいっすか? そう言う事なら、()()()()()揉んで来るんで!」

「はァ?」


”先っぽ”だけって何だよ。そう言って全部やるんだろ? 世界で一番信用なんねェ言葉なんだヨ。


「何でお前が揉み終わるのを、俺らが真面目腐って待たなきゃなんねンだよ。”揉み待ち”って何だよ」

「そんな事言わずに。ほら、不良クンは”尻”揉んでていいんで!」

「ふざけんなこの野郎が。2人して胸と尻を揉むって何だよ。こちとら”変態ブラザーズ”じゃねェんだよ」

「2人合わせて?」

「変態ブラザーズ! ……じゃねェって言ってんだろ! しばくぞ!?」


そもそも俺、尻フェチじゃねェからな? ”本人も知らない尻フェチ”って何だよ。


「グダグダ言ってんじゃねー。オラ! 俺と来いや!」

「えぇーっ!」

「『えー!』じゃねェから。それ俺のセリフだから」


まるで”この世の終わり”かの様な表情で、嘆き悲しむ変態チャラホスト。


時代が時代なら、この演技だけで主演男優賞も取れそうな仕草である。

……そんな時代は、永久に訪れないだろうがナ。


「ほんっっっっと! タイミング悪いっすねぇ! もう少しで”おっぱい”出来そうだったのにー」

「我慢しろや変態チャラ男。いいから来い。マジで来い」

「えぇーーーー……」


首根っこを掴み、強引に引っ張り連れていく。


引き摺られながら陽気に「また今度おっぱいしようっす!」と女子達に声を掛けている様子を見て、思わず手が出そうになったが我慢した。


自分でもよく耐えたと思う。自分で自分を褒めてやりたい。


「……ちょーちょー、不良クーン。どうしてくれんすか! 折角の”おっぱいチャンス”だったのに!」

「そんなんノーチャンスだっつの。状況考えろや」

「揉めるかもしれない胸を放置するなんて、男のやる事っすか!?」

「知るか。自分の胸でも揉んでろ変態鳥公(トリコー)


あーあ……と、がっかりしながら、奴はしっかりと自分の胸を揉んだ。



――なんか、ド変態過ぎて引き過ぎたわ。むしろ押したわ。



「うぅ……固ぇよう……」

(そりゃそうだろ)


嘆き悲しみながら、自分の胸を揉むコイツに、哀れみしかなかった。





……。



…………。



………………。



「――変態を連行してきた」

「すんません」



皆の前まで連れて来て、投げ捨ててやった。一瞬、竜少女がビクッと大きく反応したが、特に何かする様子もなかった。


ったく、要らぬ手間を掛けさせやがってクソが……。クエスト中、さり気なくしばいてやる。なんなら、魔物のフリしてしばいてやる。


「――じゃ、じゃあ、これで全員だね!」


今度こそ、と竜少女が仕切ってくれる。

こんな変人だらけのパーティだ。一人くらい、こういうまともな奴がいないとな。


「クエストは難易度F回収系クエスト『魔狼が守る、古の魔法道具』。これからクエストで指定されている”エリア”へ向かい、”古の魔法道具”と探す」

「要はー、”お宝探し”ってコトですよねぇ?」

「! そ、そうだね。ただ、魔物が生息しているから、場合によっては討伐しながら進む事になるね」


(――ん?)


ランコの相槌に、多少緊張している様子の竜少女。忙しなく毛先を弄っている。

アイドルを目の前にしてアガっているのだろうか? 案外ミーハーか?


――クエストの内容的には、竜少女とランコの会話の通り。


指定エリアで宝を探す。たったそれだけ、単純明快なクエスト内容となっている。まさに、オリエンテーションとして相応しいだろう。


「チッ、さっさと行こう。時間が勿体ない――」


フェンが指定エリアへの転移場へ向かおうとして――キツネっ子に目の前を塞がれた。


「……どけ」

「待ってください」

「何だよ。何かやる事でもあるのか?」

「あります。行く前に、やる事があります」


そう言って、キツネっ子は俺達全員を見渡し、へにゃっ、と笑った。



「取り敢えず……お互い自己紹介しませんか?」



……あぁ、そういや、してなかったな……。


フェン以外、異論も無いので、このまま自己紹介タイムへと突入する事となった――。




「では、わたしから! わたしは『キュビィ』って言います。18歳のキツネベースで、『商都ミルゲル』の片田舎出身です。よろしくお願いします!」




言い出しっぺのキツネっ子が、簡単な自己紹介をして、お辞儀をした。



――濃い青と白縁のブレザー、白のワイシャツ、赤のリボン、濃い青と白ストライプのスカート、白のソックス。スタンダードで、特に気崩している様子もない模範生。



――まんまキツネ色の肩くらいのショートヘアーに、黒縁メガネと、如何にも真面目な生徒である事が、見て窺える。



(”委員長”と名付けよう)



勝手に脳内でニックネームを付けた所で、一瞬目が合ったが――


「……」


直ぐに逸らされた。俺が無意識にでも、()()()()()()()のだろうか。


「じゃあ、次の人の番です」

「はーい!」


僅かな思考は直ぐに消し飛び、不連続性的思考は、次の竜少女へと切り替わる。




「ウチは『ミャン・マイティック』! 歳は15歳! 家が『マイティック狩人事務所』やってるんだ。狩りの仕事は是非ウチに!」




八重歯を見せて笑う竜の少女。瞳からは迸る熱量を感じる。

15てことは、”タメ”か、年下か……まぁ、そんくらいだとは思っていたが。


……それより、気になる事がある。



()()()()()()()()()()()……)



――彼女の言った言葉が、頭の中で反芻されている。


それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何の話だったか、何処で聞いたのかを、脳内の引き出しを開けては閉め、開けては閉めを繰り返し、きっかけを掴もうと藻掻いている。



――『魔物討伐専門の個人事務所です。最近は討伐だけじゃなく、魔物調査や捜索、素材回収なんかもやってるみたいです』



唐突に、ティタの声で、()()()()()()()()


(あぁ……そうだ)


いつだったか、城の外で見た赤い竜。そいつの飼い主? が、マイティック狩人事務所だったっつー話だった。


俺はその話を聞いて、”何でも屋”なんだな、と返した記憶がある。


(エルルが良くこの事務所に頼み事をしてるんだったか? っつー事は、コイツは”エルルの友達”である可能性が高いな)



……今一度、見目形(みめかたち)を観察する。



――燃える様な、真っ赤な長髪だ。

それを黒色のリングの髪留めを使って、ツインテールにしている。


勝気な赤色の瞳のツリ目で、正義感のある彼女らしいとすら思える。


爪の様なイヤーカフを両耳に付け、全体的に”竜”を模している様な気がする。



――そもそも、彼女は間違いなく『ドラゴニュート族』だ。



鹿の様な角を、両目の上の方に生やし、牙が生え、尻尾の竜の様だ。これだけ特徴があれば、流石にドラゴニュート族確定だろう。



――そんなドラゴニュート族の彼女の着こなしは、”アウトドア”な感じだ。

彼女はブレザーを着ておらず、白のワイシャツの袖を腕まくりして、紺のセーターを腰巻にしている。



――スカートに、靴下を履いていないのか生足だ。健康的な素足がちょっとエロい。



(――いつから俺は、他人のファッションチェックをするようになったのだろうか?)



多分、ティタの制服姿を見てからだとは思う。初見時、かなりの衝撃だったからな。



――兎に角、ようやく竜の少女の名前が知れた。ニックネームを付けるとしたら……。


じっ、とミャンを凝視していると、偶然俺と目が合い、微妙に後退りをされた。


「……分かってると思うけど、喧嘩はしないから!」

「分かってる。俺も()()自重している」

「あ、諦めては無いんだね」

「君のと喧嘩は、消化不良だったしな」


正義がなんだとほざかれ、逃げられてしまった為、俺の中では何れ決着(ケジメ)をつけなければならないと思っている。


「う、ウチ的には、勘違いしてアンタに喧嘩売って申し訳ないって、お、思ってるんだよ! ウチの”正義的”に、勘違いした相手と喧嘩するのは、筋が通ってないと言うか……」

「それが”自己満”っつってんだよ。勘違いでも、()()()()()()()()()。この筋は通せよ?」

「……! それは……そうだけど」

「つべこべ言わずに相手しろや、なァ?」

「待って! なんで今やる気満々なの!?」


焦るミャンを見て、ふと我に返る。

思わず、喧嘩口調になってしまっていた。アブねっ、今すぐにでも喧嘩の突入するところだった。


「……フーッ」


前髪をかき上げ、感情的な思考を奥に追いやった。


ついさっき()()()()()()()()()が急速に堪ったせいで、直情的になっちまっている。これは良くない。


(短気は良くねェ。物事を悪い方向へと導いてしまうからな)


「……ちょっとちょっとー☆ 2人はさっきから何の話してるんですかぁー?」


超個人的な会話が多かった為か、戸惑い気味にランコが割り込んできた。


(……そうだな、今話す内容でもねぇよナ?)


「悪い。続けてくれ」

「ったく。雑談なら他所でやれよ()()が」


ボソッ、と放たれたフェンの嫌味に、こめかみに青筋が浮かぶのを感じました(突然の敬語)。


「……弱ェヤツがイキってもダセェぞ?」

「ハッ! ()()()で勝ったようなヤツに言われたくは無いな」

「フン。負けた奴に言われても何とも思わねェな。まさに『負け犬の遠吠え』って奴だナ? なァ、()()()()?」

「偶々勝ててチョーシに乗ってる奴の方がイタいけどな、()()()()?」


「「…… !? (ピキピキ)」」


2人して睨み合う。和やかな自己紹介の場が、一触即発の空気に早変わりである。



こうなっては仕方ない。俺も漢だ。短気は良くないが、売られたモンに対してはしっかりと()()()()()()()()()()()()()()()


(フェン)が引き金を引いたんだ。俺はそれに、応えるだけなんだよこの野郎――



「! ああ、もう!」



今すぐ決着でも付けようかと、そういう雰囲気に移った時だった――。



「 !? ぐぉっ!?」



突然後ろから、腰の辺りに抱き着かれた!



「 !! ちょ、お前……!」

「何考えてるのアンタ! 今はダメだよ! 早まっちゃダメ!」



――後ろから抱き着いたのは……ミャンだった。



背中で感じる()()()()は一瞬だけだった。意外と力がある様で、俺の両腕ごとがっちりとホールドしやがった!


みしみし、と俺の骨が軋むほどのパワー。出力間違ってますよ、お嬢ちゃん。


「いきなり何しやがる! 放せやコラ!?」

「放したら、また喧嘩吹っ掛けるでしょ!? 今やってどうするの!?」

「チッ……!」


抵抗しようとするも、より強い力で封殺されてしまう。

……と言うか骨がオカシイ。変な音が聞こえてくる。


(――死ぬ! 腕が死ぬ!)


敵意よりも先に、心配が強くなってしまった。勿論、俺の身体の話だ。



(この()()()がァ……ッ!!)



藻掻きながら前方を見ると――喧嘩を売って来たフェンはフェンで、いつの間にかキュビィに”謎のロープ”で縛られていた。



「お、オマエ! この縄解け!!」

「ダメです! あなたはあなたで反省しないといけません!」

「クソッ! どうなっているんだ、この縄は……!!」


(馬鹿犬が躾けられている……)


自分よりも一回り、二回りも小さいキュビィに、為すすべなく転がされている様子を見て……哀れみしかなかった。


(いや……客観的に見ると……)


……同時に、それは俺も同じだと、()()()()()()


(仕方ない。仕方がないから……降参だ)


「わ、分かった。俺はコイツを”今”しばかない。終わってからしばくから」

「どういう宣言ですか!?」


キュビィには突っ込まれたが、ミャンは「はぁ……」と溜息を吐いた。

本音を隠しつつ、俺は全身の力を抜いて、敵意が無いアピール。


「オラ! そこの犬も! 今喧嘩しねェって言いやがれ!」

「……ハッ! 情けない事言うんじゃねえぜ、学ラン。火が点いた今、喧嘩しないでどうす――」

「”強く”縛りまーす」

「!? ぐおおおおおおおおおおお!?」


キュビィの合図と同時に、フェンを縛る縄が、ミチミチと肉に食い込む程きつく縛り上げた。


「ぐ、こ、これくらいで……!」

「もっと”強く”できますが……どうします?」

「!?」


笑顔で、苦しむフェンの顔を覗き込むキュビィ。


(あ、悪魔や……)


真面目な顔してやることやってるタイプの委員長だ……!!


「……ハッ。萎えるぜ、全く」


そんな事を言って、フェンの闘志は一瞬で鎮火した様であった。

縄で縛られたまま、体の力を抜き、虚しく横たわる姿には涙を禁じえない。


「……ナ? もう俺ら喧嘩しねェから!」

「その通り。オレも萎えたぞ」


力を抜いて抵抗を止める。

つーか、力なんて入れられない。少しでも力んだら、両腕が粉砕されそうで怖いのだ。


「……えー?」


しかしながら、俺を背後でホールドし続けているミャンは、未だ訝し気なご様子。


「本当に?」

「ああ」

「本当の本当に?」

「ああのああ」

「……信じるからね?」

「信じてくれていい。俺の中の”硬派”に誓う」

「あ、うん……(”硬派”? 硬派って何?)」


恐る恐る……と言った感じで、ようやっと拘束を解いてくれた。


血管が圧迫されていた為、じんじん、と急速に血が流れていくのを感じる。どんだけ馬鹿力出してたんだよこのアホは……。



(こいつのニックネームは『怪力女』だナ……)



下手したら、オリエンテーション前に早くも脱落していたかもしれない。そう思うと、この子をしばきたくて堪らなかったが……我慢した。


「仮パーティを組んだ以上、無暗に喧嘩しない事! いいね?」

「……ああ」「……おう」


ミャンとキュビィが、俺らの前に仁王立ちし、ビシッと告げた。


これには、俺もフェンも従わざるを得ない。ったく、とんでもない”天敵”が現れたもんだ……。


「ズルいっすよー、不良クンに狼クン! こんな可愛い子達とイチャコラしてー!」

「……これがイチャコラに見えたんなら、一度眼科に行くのをおススメするが?」

「そうだな。”チャーシュー”になりたいのなら、キツネの前でナンパでもしてみればいい」



――不思議な事に、俺とフェンとの間に”謎の友情”が芽生えた気がする。

知らんけど。





……。



…………。



………………。



「――以上だ。宜しく頼む」



非常に簡単に、俺の自己紹介を終える。


「……なぁ~んか雑じゃないですかぁー?」


隣にいるラリ子が何か言っていたが、無視する事にする。


(名前を言って、宜しくって言っただけだからな)


実際雑だったとは思うが、これでいいのだ。

硬派は多くを語らず。背中で語るものだからな!


「ま、いいんじゃない? 学ラン君――じゃなくて、()()()はそういう人なんだし」

「誰がそう言う人だ」


知り合ってまだ日が浅いと言うのに……何を決め付けたかような事を言いやがるんだ、この怪力女は……。




「とりま、自己紹介の続きからっすね! おれ、『ギンタ・ラリワタラス』! 15歳の()()()でーっす! ヨロ~!」




(お前のどこが青少年だ)



”性”少年の間違いだろ、と突っ込みつつ、そういや名前知らなかったな、と今更思う。


(――んで、俺とほぼタメか)


こうも性格が正反対なタメは初めてかもしれない。陽と陰、多弁と寡黙。



――相変わらず真っ黒い羽を生やし、ブレザーを着崩し、黒のスラックスを着こなしている。ジャラジャラと、こじゃれた銀のアクセサリーを首や手首に装着している。



(やっぱ……チャラいな)



俺から言わせると、非常に”軟派”である。硬派の逆を行く性格、見た目、素行……。

悪いとは言わない。ただ、俺はそう成れないだろうなと思うだけである。



「あ! おっぱい揉ませてくれる子いたら、気さくに話しかけてもらっていいっす!」



「「………………」」



……お、一瞬で女性陣を引かせたぞ。流石に空気で分かる。凍り付いてるもん。



「……と、取り敢えず、次の人に移ろっか?」

「そ、そうですね」


笑顔を張り付けたまま、ミャンとキュビィが次のベリルへと自己紹介を促した。また変な事を言われる前に、さっさとコイツのターンを終わらせたいのだろう。


(うん、俺には絶対成れないな)


ギンタの生み出したこの空気を感じて、より強く、そう思わざるを得なかった。




「……あー、ボクは『ベリル・キリコッテ』! ネコベースのワーグ族だよー。よろしくー」




凍てつく空気の中、無難に自己紹介をするベリル。そう、普通にしていれば普通に見える(?)子なのだが。



――恰好も無難な学園の制服姿だ。ただ――



(……何だろうか)



――気になるのは、女性が付けるリボンではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を履いている所である。



(何だろう。気にはなるが、突っ込みたくはない)



良く分からないが、触れない方が良いと、脳が警鐘を鳴らしている。

そう、これは警告。()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、触れないでおこう。


(誰も触れていないのが、何よりの証だな……)


「あとー……そのー」


マイペースそうだったベリルだが、急にもじもじとし始めた。

その視線は、チラチラとランコへ向いている。


(あー、分かるぞ)


ランコに向けて、”ファン”として何か言いたいのだろう。


「? 何カナ?」


わざとらしく小首を傾げるランコに、クラッ☆ときた様で、ベリルは一瞬立ち眩みを起こす仕草をした。


「だ、大丈夫ですか?」


キュビィが駆け寄ろうとするが、()()()()()()()()俺とミャンが手で制する。


「大丈夫だと思うよ?」

「ああ、コイツはこういう奴だからな」

「は、はあ……」


分かったのか分からないのか、曖昧の返事のキュビィである。


とは言え、一応声はかける。


「おい、生きてるか?」

「も、もう……」

「もう?」



「も、もうダメ! 推しがボクを見てるよーーーー!」



勝手に見られてろ。


「……ベリルの事は分かったから、次に行こう」

「そうですね」


キュビィも一瞬で理解してくれたようだ。

コイツもチャラホスト同様、何を言い出すか分らん”不安要素の塊”だからな。さっさと打ち切って、次に進めよう。



「――それじゃ、トリを飾るのはランちゃんですよねぇ☆」



満を持して、とばかりに、今まで聞き役に徹していたランコが、皆に笑顔を振り撒いた。



……あー。来るな、コレ。”例のアレ”が来るぞ。衝撃に備えねばなるまい。



俺は”硬派”をしっかりと保ち、迎え撃つ準備をした――。




「はぁ~~~~~~い☆ あざとさはぁ、正義なんだよ? みんな、みぃ~んな、ランちゃんの虜になっちゃえ~~☆ 皆の妹☆ ランコ・スプラゴンだよぉ~~☆」




来たッ!! 伝家の前口上!!



「うわああああああああああああ!! 生のランちゃんだあああああああああああ!!」



1人だけ大発狂の奴もいるが、他の面子もそれぞれテンションがアガったようだ。



「やっべ……マジのランちゃんっすね……!!」

「……ハッ!」

「凄いです……!」



(ま、有名なアイドルらしいしな)


気持ちは分らんでもない。俺にはアイドルを推した経験は無いが、推していたらこういう感じになる事は、容易に想像できる程度には理解がある。


あのフェンですら、憧れの表情を浮かべている様に見える……かも。知らんけど。



――そんな中、意外な事に、ミャンも興奮している様で、



「ら、ランちゃんがこんな間近で……ヤバ」



声を震わせながら、目を輝かせていた。



(へェ……)


本当に、ランコって人気あるのな。確かに、可愛さはあるとは思うが――


「じーーーーっ☆」


ふとランコを見ると、俺の事をガン見していた。


「え、何?」

「ホントーに、マオお兄ちゃんは平然としてますよねぇー……」


そりゃそうだろ、と言おうとして――口を閉ざした。


またウザく絡まれても面倒だ。それに、ここには熱狂的なファンがいる。下手すりゃ”第2ラウンド”が始まってしまうかもしれない。


(フン。俺も賢い選択をしなければならないナ?)


「感動に打ち震えていたんだよ」

「そうは見えませんけどぉ!?」

「俺はポーカーフェイスだからな。内心狂喜乱舞、眩しくて目も合わせられない程だ」

「ずっと目が合ってますけどねぇ……」


適当な事を言いながらいなす。

これでいい。無理に否定したり、突っかかったりしなければいいのだ。


「うーん。中々手強いですよねぇ、マオお兄ちゃんは」

「そうだ。だから諦めろ」


俺をファンにするのは、と言う言葉を含ませての発言だ。しかし――



「あは☆ ()()()()()、マオお兄ちゃんには、”お兄ちゃん”になってもらわないといけないんです☆」



寧ろ、やる気を出させてしまった様だった。



「――これで、自己紹介は終了ですね」

「ああ、漸く行ける訳だ」


フェンが待ちくたびれたとばかりに、大きく伸びをした。



「じゃあ……行こうか!」



ミャンの合図と共に、指定のエリア『ヴァンテージの森』行きのホームへと向かった――。

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