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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
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25時限目 無言の行



――魔法陣で飛んだ先は、『探検者』の集う『探検者ギルド』だった――。



「……あァん?」



困惑の声が、思わず漏れた。

いや、この光景を見て漏れない奴は誰一人としていないだろう。



――特に、俺の様な、”異世界ファンタジー”を望んでいた者程……な。



魔法陣によって一瞬で飛んだ先は――駅のホームの様に開けた場所となっており、人の流れに沿って上へと階段を進み、『探検者ギルド受付広間』へと辿り着く。



……。



――受付広場は、小綺麗な空間となっている。


グレーのカーペット床に、規則正しく天井に埋められている電灯。

各窓口があり、電光掲示板? らしきものが上からぶら下がり、何の窓口かを明確に案内している。



…………。



入り口付近には、なんと整理券を発券している機械があった。取り敢えず、事前に学園長より指示のあった『2、クエスト受諾』を選び、券を受け取る。



………………。



(市役所か?)



真っ先に、そんな感想が口を突いた。



そう、まるで”市役所”。もしくは”銀行”。それも、俺の世界の。



(なんか……想像していたモノと違う……)



俺の想像では、木造建築で、小汚くて、雑然としていて、昼間っから酒を呷るドワーフみたいな奴がいて、ボードみたいなモンにクエストが書かれた紙が貼ってある様な……そんなイメージだったのに。


実際はどうだ? 綺麗にまとまっており、酒を呑んでいる奴なんて1人もいない。皆受付をして、各々転移場へと向かっている。


とある一角には、バーではなくカフェがあり、コーヒーを嗜みながら談笑している探検者達もいる。しゃ、シャレオツ……。



口を大にして言いたい。

これは、()()()()()()()()()()()()()()()。”異世界詐欺”である。――いや、”ギルド詐欺”である、と!



(ちょっと期待してたんだがなァ……)


勝手にワクワクしていたのは俺の方であるが、この仕打ちは酷いと思いました(ショックによる知能の低下)。



……兎に角、気持ちを切り替えよう。

俺は無理やりにでも気持ちをリセットさせるため、前髪を前からかき上げた。


これから始まる”苦行”のオリエンテーションの前に、()る気を無くす訳にはいかない。ここから、一層気張らなければならないのだから――。


(ま、適度に楽しもうかナ?)


番号を呼ばれるまで待たなければならない為、近くにある3人掛けの長椅子へ、適当に座る。

当然、真中へ太々しく座る。中々のクッション性に、俺の尻も喜んでいる。



「――『クエスト受諾』で良いんですよねぇ?」

「……ん、ああ」



早速、同じ『仮パーティ』の面子が、俺の左横へと断りなく座りやがった。太々しさは自重する。

隣に座られた瞬間、ふわり、と爽やかな香水が鼻を擽った。刺刺しくない、優しい香りだ。


「あは☆ ランちゃん、マオお兄ちゃんと一緒で嬉しいですぅ☆」

「……それはそれは。”俺ちゃん”も光栄ですぅ」

「あはっ☆ 何ですかそれぇ。ランちゃんの真似してくれてるんですかぁ?」

「良く分かったな」

「流石に分かりますよぉ。そんな()()()()()()()()、ランちゃんしかいないもん☆」

「自分で言う?」

「言っちゃいます☆ アイドルですから☆」


パチッ、と可愛らしく”ウインク”を決められる。俺も、”両目瞬き”で応戦してやる。



――この少女は、マーメイド族のアイドル――”ランコ”こと”ラリ子”である。



相変わらず、甘ったるい声をしている。男受けはしそうだが、女受けは悪そうな印象。


あと、やたらと距離が近い。俺と背丈に差がある為、常に俺を上目遣いする形になっているから、殊更ばつが悪い。


(こういう芸風なんだろうか……?)


”小悪魔系”と言うか、勘違いさせるような言動をするキャラクターだよな。

まぁ、俺の事を”お兄ちゃん”なんて呼んでくるくらいだし、そういう路線の子なのだろう。



――どっちにしろ、この子は”アイドル”だ。あんまり距離が近くなると、変に面倒な事を招きかねない。



平穏を望む俺としては、正直、お近づきになりたくはないが……。



(この子、結構グイグイ来るからなぁ……)


――内心の葛藤を他所に、ランコは平然と俺へ話しかけてくる。


「学園長さんが言ってたのはぁー……ギルドで『クエスト受諾』を選んで受付をしてぇー……既に出来てる『ギルドカード』を受け取ってクエストへ挑戦する! ……ですよねぇ?」

「うん」

「あはっ☆ ランちゃんしっかり覚えてましたぁ! 偉いですかぁ?」

「うん」

「! マオお兄ちゃんに褒められて嬉しいですっ☆」

「うん」

「……なぁ~んかマオお兄ちゃん、対応雑じゃないですかぁー?」

「うん」

「雑じゃないですかぁーー!! もーーーーっ!!」


キャーキャーと1人騒ぐラリ子。ぽかぽか左腕を叩かれるが、痛くはない。ただ、()()()()()()()


(俺に攻撃してくるとはいい度胸だ……ま、年下だから、寛容の心で接してあげよう)


「そう言えばマオお兄ちゃん! ランちゃんの制服姿はどうですかぁ?」

「どうとは?」

「見て見て☆」


急に立ち上がったかと思うと、俺の前へ。

全身を見せびらかす様にして、前・後ろと交互に動く。


(どうですかって言われてもなァ)



――学園服である、濃い青と白縁のブレザーを――着ないで、上はキャメルのカーディガンを、白のワイシャツの上に着込んでいる。


カーディガンは少しダボッとしており、手の指先が少し見えるくらいだ。”萌袖(もえそで)”とか言うヤツなのだろう。



――下は、濃い青と白のストライプが入っているスカートで、黒の二―ソックスを履いているのがランコらしいコーデだ。



全体的に、可愛さアピールが目立つ格好だ。流石はアイドル。そこら辺の学園生よりも数段ビジュアルが良い。


正直、可愛いとは思う……が、絶対に口にはしない。硬派だからな。



「良いと思う」



無難な誉め言葉を言うと――ランコは嬉しそうに目を細め、全身で震えていた。


「……あははっ☆ マオお兄ちゃんに褒められちゃった……☆」

「大袈裟な」

「大袈裟じゃないですよぉ! だってマオお兄ちゃん、今までランちゃんの事知らなかったですよねぇ?」

「ああ」

「そんな人が、こうしてランちゃんの姿を褒めてくれている。……これって実質”お兄ちゃん(ファン)”ですよねぇ!」

「違うが」


なんでそうなるんだよ。お嬢ちゃん、思考回路がショート起こしてますよ?


「でもでも、少しはランちゃんの事を、”興味”を持って見てくれたって事ですよねぇ?」

「いや?」

「! ま、まーたランちゃんの事イジメるんだからぁ~。もーーっ☆」

「いやいや。興味は無いぞ? 一切ない」

「よく本人目の前にしてそこまで言えますよねぇ!?」


たじろぐランコを眺めながら、俺は再び太々しく座り直す。


「言っとくが、俺はアイドルに興味は無い。君だけじゃなく、他のアイドルも」

「……どーしてそんなひどいコト言うんですかー……?」

「なんか俺を取り込もうと頑張ってるみたいだからな。一度、俺の意見をはっきりさせておこうと思って」

「そんなぁーーーー……」


しゅんとしているランコには悪いが、これが偽らざる俺の気持ちだ。


俺をファンにさせようと意地になっている様子だからな。”無駄”と言うか、硬派な俺に時間を割くよりも、他の新規ファン獲得を狙った方が良いと、遠回し的なアドバイスだ。



……そんな、つもりだった――。



「……あは☆ ますますマオお兄ちゃんを、虜にしてやりたくなっちゃいましたぁ……☆」



ボソッ、とどこかやる気に満ちた、芯のある声で呟いた。



俯き気味だった顔を上げた時には、凛としたアイドルの表情になっていた。

もしかしたら彼女は、俺以上の、ポーカーフェイスの持ち主なのかもしれない。


「ランちゃんをここまで本気にさせたのはぁ……マオお兄ちゃんが初めてですよぉ?」

「フン。そりゃ――」


俺が言う前に、彼女が人差し指を立て、俺の口の前に持って来て封じた。



「――『光栄だな』、ですよねっ☆」



むぅ……これは中々手強い奴に、目を付けられてしまったかもしれないナ?





……。



…………。



………………。



――ランコに絡まれて数分後、今度は別の厄介者が、俺の右隣に座ってきやがった。



「ら、ランちゃん! こ、こんにちわ!」



猫耳を生やした、茶と黒のトラ柄頭の少女、ベリルだ。『宝石箱』だとか言う『アクアマリン』非公式ファンクラブの一員だ。


「! こんにちわぁ☆」

「!! ぶひゅっ」


ランコが笑顔で答えると、ベリルは人体から発せられる音の中でも、相当気持ちの悪い声を出した後、俺の影へと隠れた。


(つーか、俺を挟んで会話すんなよ……)



俺を盾にすんじゃねぇ、と苦情の一つでも申し立てたかったが、当の本人は――



「ヤバイ……マジ本物のランコちゃんだ……はぁ、目が浄化されるぅ……」



――見事にトリップしてやがった。精神が別の世界が旅立ってしまった様子。

『目が浄化』って何? 腐ってたの? ドライアイ?



「目だけじゃない。ランちゃんの”お声”で、ボクの鼓膜が()()()()()()()()()と考えると……もうッ!!」



あ、アブねぇな!? コイツの発想アブねぇよ!!



「あ、ああ……ヤバイ。”分からせ”られたのだ……」



勝手に分らせられてろ。



しかしコイツ……キモい独り言全部、小声で話しているから、当の本人に伝わっていないのは幸いだな。


聞かれてたら間違いなくドン引きだったぞ。表面上は普通に接するだろうが、”心の絶壁”が出来上がるだろうぜ。


「よ、よし……!」


――そうこうしている内に、賢者タイムか、はたまた心の整理でも出来たのか、恐る恐ると言った動きで、俺の影からゆっくりと顔を覗かせた。


まるで――親戚の集まりで、初めて見る遠方の叔父の前に、母親の影から恐る恐る顔を出す子供の様におっかなびっくりだ。


「あ、あのっ! ボク! アクアマリンのファンクラブやってまして――」


多少声を上擦らせながら、ランコへと会話を試みるベリル。

スラスラとまではいかないが、何とかして自分の熱い思いを話そうとする、情熱は伝わってくる。


横で聞いている俺も暑くなるのを感じた。……決して、共感性羞恥では無いと思いたい。


「――そうなんですかぁ! 応援、いつもありがとうございます☆」


ランコは、そんなベリルの話を頷きながら、時折相槌を打って、親身になって聞いている。


こういう態度は、実にアイドルらしい。流石は人気アイドルと言うだけはある。

万人に受けるのはなかなか難しい。だが、彼女の対応は、案外受け入れられる人も、いるのかもしれない。女子を除いてにはなるが。



(……どうでもいいが、俺ここまでベリルに、完全にスルーされてんだが)



突然やって来て隣に座ったかと思ったら、ずっとランコの方を見て会話してやがる。



俺、いないものとして扱われてる? ただの壁だと思われてない?

それか、突然俺の存在が世界から消失したか……それぐらい、自然にスルーされている。



(ま、ランコと話さなくていいから、気が楽だ)


ランコと話すと思った以上に疲れるからな。HPじゃなく、MPが減るイメージ。


「こっ、この間のっ! ラ! ラ、ライブ良かったよ!」

「そうですかぁ! 応援、いつもありがとうございます☆」


ベリルがしどろもどろになりつつ、いかにアクアマリンを応援しているかを話し、それを嬉しそうに聞くランコ。



――その間にいる無言の漢(俺)。



百合の間に入る男かな?



(……そら見ろ。早速変な面倒事に巻き込まれやがったぜ)



――暫くこの”無言の行”が続き、数十分後に番号が呼ばれ、漸く解放されるのであった……。

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