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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
58/87

22時限目 漢の喧嘩とその波及



――エルル達がやって来た時には、既に”喧嘩”は終わっていた。



「!? マオ!?」「マーくん!?」「マオさん!!」



3人が一斉に駆け寄って来た。誰も彼もが、心配顔である。

……そりゃそうだ。頭から流血、頬は腫れ、全身泥だらけ。驚くのも無理はない。


「どうしたの! 大丈夫なの?」

「いや……()()()()()()()

「だいじょば……ええっ!?」

「骨も折れてる」

「! ちょ、ちょっとちょっとー!!」

「正直、立ってるのもシンドイ」

「……無茶し過ぎよ」


慌てて肩を貸そうとする3人だが、俺の方が背が高いため、上手く肩を貸せないでいる。



「でも――()()()()()()()



俺の心からの一言に……心配で凝り固まった3人の頬が緩んだ。


「……そう。それなら、良かったわ」

「大怪我した甲斐があったね~?」

「流石マオさんですっ!!」


三者三様の反応され、不思議と悪い気はしなかった。



(フェンと言う敵は――本当に、()()()()()()()?)



「いや、良くないでしょー!!」



心の声と、ピスカの突っ込みのタイミングが一緒だった為、一瞬怯む。


「 !! ぐぅっ……!」


怯んだ拍子に体が歪み、傷付いた箇所を刺激してしまう。

俺ご自慢のポーカーフェイスが一瞬解かれ、苦痛に顔が歪む。


「こんな大怪我しちゃって~、マーくんはもーーーー!!」

「取り敢えず、学園長室まで運びましょう。そこだったら、(ライフ)(ポーション)があるはずだから」

「あたしが【磁力(じりょく)】で背中にくっ付けて運びますから!」

「……い、いや、そこまでしなくても、自力で歩ける――」

「いいから。立っているのも辛いのでしょう? ティタに従いなさい?」

「マジで、そこまでしてもらうのは悪ィから。自分で――」


「ティタに従いなさい」

「……ウス」


有無を言わさぬ剣幕に、思わず、反射的に従う社畜的な俺。


仕方なく、渋々、ティタに背負われ世話になる。ティタの後ろ髪から女子っぽい良い匂いがして、何だか落ち着かない。


あと、全体的に柔らかい感触だ。俺の様な武骨で硬派な漢とは違う、”女子(おなご)”と言う感じだ。


(クソ……益々情けねェ)


自分よりも年下の、柔い女子におんぶされていると思うと……惨めだ。



ちょっとだけ……己の”硬派度”が下がった。



「大丈夫か? 俺、重くない?」

「平気ですっ! ()()()()()()()()()()()()()()!」


(……匂いの事なんて聞いたか?)


微妙にかみ合わない会話だったが、ティタが言葉通り平気そうだったので、気にしない事にした。


「逆に、あたしは嬉しいです! マオさんのお役に立てて!」

「……俺は普段から世話になっているつもりだが?」

「足りないです」

「足りないか」

「はいっ! マオさんは、もっと、もぉ~~~~っと、あたしを頼ってくれていいんですから!」


……そう言ってもらえると、本当に有難い。有難い事だ……。


「午後からオリエンテーションがあるって言うのに……マオったら、血気盛んなのだから」

「まー、マーくんらしいっちゃーらしいけどね~」

「面目ない」

「本当ですっ!」


珍しく、ティタがプリプリ怒っている。尻尾もプリプリ揺れている。


そういう心配してくれる気持ちは、素直に嬉しい。今まで碌に他人から心配された事って、無かったからな……。


「でも、少し心配ね」

「 ?? 何がだよ?」

「マオの行動、かなりの噂になっているの。もし教師の耳に入ったら大変よ?」

「”先公(センコー)”に?」

「そ~だね~。入園早々喧嘩とか、下手したら職員室に呼び出され――」



『――E卓、マオ君。フェン君。至急、職員室へ来てください。繰り返します――』



「……ほらね~?」

「……マジか」


鳴り響く校内放送に、俺は全身から脱力するのを感じた。





……。



…………。



………………。



――校舎裏にて、マオがフェンへ逆転勝利する瞬間を、離れて見ていた者達がいた。



「まさか、あの状態から勝つなんてね……」



1人は、『マイティック狩人事務所』所属にして、エルルの古くからの友人――ミャン・マイティック。



(エルルちゃん達より先に来て正解だった……)


ミャンは、エルル達と再会後、一足先に校舎裏へ辿り着いていた。



そして、騒動(ケンカ)の結末を――しかとその目に焼き付けた。



(何て言うか、姿勢が違うと言うか……)


心構え? 捉え方? 気の持ちよう? なんかしっくりこない……。



――どちらにしろ、あの”学ランくん”は、()()()()()()()()()。そう思わざるを得なかった。



”戦闘慣れ”と言うよりも、”喧嘩慣れ”。”対人戦闘”という括りにするのなら、戦闘慣れと言ってもいいのかもしれないけど。



「――って言うか、エルルちゃんとどういう関係なんだろう……?」



脈絡もなく、不意に湧いた疑問であった。


ミャンが喧嘩騒動の話をした途端、急に落ち着きを失った3人を見て、彼と何かしらの関係性があるのだと推察した。



――片や王家の王女、その侍女と、侍女その2。



――もう片方は、喧嘩っ早く、不良っぽい格好をしたヤバそうな人。



(いやどういう関係性!?)



考えても考えても、ひたすら謎である。


明らかに関りが無い。関係性が見えてこない。無理やりにでも関係性を作ろうとするが、どうしても悪い方向に思考が流れてしまう。


いけないいけない、とミャンは頭を振って邪気を払う。


(……まぁ、今度会った時にでも聞けばいいか)


考えても分からない事は放棄する。ミャンはさっぱりとした性格であった。


(――それよりも!!)


そんな事を呑気に考えていたのも束の間、自分の置かれている立場を思い出す。



(そう言えば、そんな喧嘩慣れしている学ランくんの”タイマン”から、逃げ出して来たんだった!!)



他人事のような気持ちが、一瞬にして我が身の事の様に思えてくる。



――『……喧嘩っつのーはな、()()のぶつかり合いなんだヨ。特に、()()()()っつーのはドエレー神聖なモンだ。何人たりとも、横槍は許されねェ』



(ウチ、そんな神聖なものから逃げ出したんだけど!!)



下手をしたら、次に会った時に再びタイマンを申し込まれるかもしれない――。



(あぁぁ……ウチのバカ! 何を呑気に観戦してるんだ!!)



次に自分が、あの狼少年の様な参事になっているやもしれない。


――とは言え、喧嘩を吹っ掛けられたとしても、ミャンには受ける道理が無かった。彼女の掲げる”正義”は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



むしろ、その厳しさこそ、彼女を強くしている”信念”なのだった。



(ウチの勘違いで挑発したんだから、甘んじて受けるべきなんだけど……うぅ~ん……)


今後の事を考えると、上がっていた熱が急速に下がっていくのを感じたのだった……。



――そして、もう1人。

1人と言うか、1つのグループが、丁度終わり際に間に合い、こっそりと盗み見る事に成功していた。



「ふわぁー……凄かったね!」



興奮冷めやらぬ様子でそう言うのは、『アクアマリン』がリーダー、トレアである。



「そうね。”不良同士の喧嘩”って言うのは、中々熱いものがあるのね」



同じくアクアマリンのリップが、クールさを残しつつも、多少熱の入ったコメントをする。



「わたし、生でああいう喧嘩見たの、初めてかもしれない!」

「そうね、試合は皆で見た事があったけど、()()はそう言うのじゃないわね」

「うん!」


”試合”と”喧嘩”。決して()()()()()()()()()()()()と、リップは断言する。


只々、己の意地と誇りを賭け、称賛なんていらない、誰にも見せるつもりもない、野良の本気のバトル――燃えない訳がない。


「何て言うか、こう……”己のプライドのぶつけ合い”って言うか! 熱いよね!」

「そうね。それも、本気の勝負だったからこそ、良かったのかも」


マオの居た世界では有り得ない程、彼女達には称賛されていた。

――それも、彼女たちはアイドルである。不良の野良喧嘩とは無縁の世界で生きてきたはずのアイドル達が、である。


「……どうだった、ランちゃん?」

「……」

「? ランちゃん?」


トレアの問いかけに答えない程、ランコは放心状態であった。

不思議そうに顔を傾げるトレアとリップを置き去りに、ランコの心は――




(……何アレ……マオお兄ちゃん、超カッコいいんだけどぉ!?)




――熱い漢のタイマンバトルに、意識が持っていかれていた。



(傷だらけで、可哀想な程満身創痍な状態からの、見事な逆転劇……やば、マオお兄ちゃんヤバイ! 推せる!)



”漢”の一端に触れ、純粋無垢なアイドルらしからぬ硬派さを、少しだけ、()()()()()()()()()()



「――お~~~~い。大丈夫? ランちゃん? 生きてる? 水、足りてる?」

「……ハッ☆」


トレアに頬をぺちぺちされて、ようやく意識が帰って来た。


「……大分、()()だったみたいだね?」

「い、いやいや! 違うよぉ☆ ランちゃんそんなに()()()()()()()()!」

「何の話?」


冷静なリップの突っ込みに、自分が浮かれているのを感じる。


足元が覚束ない感じ。何か、とんでもないものを目の当たりにして、感動している様な、感心している様な……心が惹かれた様な……そんな感じ。



(! このランちゃんが……堕とされかけている!?)



――堕とすつもりが、堕とされかけている。



良く分からない高揚感にワクワクしながらも、ランコは”自分はチョロインじゃない”と言い聞かせながら、並木道を戻るのであった……。





……。



…………。



………………。



――『職員室』のある、『職員棟』へとやって来た。



ここまで運んでくれたエルル達を見送って、中へ入ると直ぐに、担任の”ニカ・サーコネリア先公”が、待ち構えていた。



――ブロンドのロングヘア―をポニーテールにしており、キリッとした目元、綺麗な碧眼。

タイトなスーツ姿が良く似合う。()()()()()()()()()、と言う感じだ。


美人教師――と言っても過言ではない、()()()()()()()である。



「……お小言の前に、貴方は治療が先ですね」

「……ウス」



職員室ではなく、『保健室』へと連れてこられた俺は、直ぐにLPを飲ませられ、傷を癒すためベッドに寝転がされた。


保健室は、ベッドが幾つも並んでおり、想像する保健室の数倍広かった。


――すると数十分後には、()()()()()()()()()()()()()()に担がれて、フェンが運ばれて来た。

キツネっ子はフェンをベッドに寝かせ、ニカ先公と軽く会話してから、直ぐに戻って行ってしまった。


(……コイツの知り合いではなさそうだ)


キツネ耳を見て、一瞬『九尾(きゅうび)世王界(よおうかい)』を思い出し、頭を振った。


「……あー、ダル」


ベッドに寝ころぶ俺、その隣のベッドにフェンが寝ころぶ。

仕切りの為のカーテン等が無いため、どうしても視界に奴が映る。


「おう。生きてるか?」

「……一応な。オマエ、やってくれたぜ」

「互いにナ?」

「ハッ……」


受け答えできる程には、フェンの体力が回復している様だった。


「――初めてです。入園早々、それもオリエンテーション前に喧嘩する生徒なんて」


「「すんません」」


俺とフェンが同時に謝罪する。


「喧嘩自体は良くあります。でもね、()()()()()()()()()。出会って数時間で喧嘩って……」


「「迷惑かけます」」


またもや、フェンと被る。

……止めてくれ。まるで2人で、示し合わせて謝罪してる様に思われるだろうが。謝罪に信憑性がなくなる。



(……まァ、実際、申し訳ないと言う気持ちは――()()()()()



はぁ、と溜息を吐くニカ先公に、俺は申し訳なく思っている――風の表情をして誤魔化した。



――()()()()()()()()()()()



反省もしない。する訳がない。これは”漢同士のただの喧嘩”。たった二人だけの、大きな世界にある小さな喧嘩の一つに過ぎないのだから。


「……取り敢えず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え゛っ」


先公から耳を疑う事を言われ、思わず変な声が出た。


「当たり前です。貴方達2人をほったらかしていたら、また()()()()()()()()()()()()()


(……反論出来ん!?)


その通り。この先公……さては”まとも”だナ?


「さて、そろそろお昼ですので――」


先公は3人分の弁当箱? を机の上から俺らのベッドまで持ってきた。



「3人で仲良く、お昼にしましょう」



……地獄かな?

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