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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
57/87

21時限目 復讐



(赤い。赤。真っ赤だ……)



――額から流れる血……まとめて、右手で髪をかき上げた。

自慢のオールバックに血が混じっても気にしない。――否。気付く程の知能を、”今のマオ”は持ち合わせてはいなかった。



()()()()……あァ、悔しい……」



――深紅の世界から、視界はクリアになるが……思考は上手く纏まらない。



(したら……目の前の”敵”をぶっ飛ばせばいいンだろーがッ!!)



フェンの放った魔法――『拘束(こうそく)第2の筋(だいにのきん)』により、マオの思考能力は低下してしまっている。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



()ンぞッ! オラアアアアアアアアアアッッ!?」

「殺しちゃまずいだろ……」


フェンの突っ込みも無視し、殺気溢れる特攻を仕掛ける!



――しかし、策もクソもない、単調で単純な殴りつけ攻撃となる。

助走を付け、勢い付けて、ストレートに走り出す。



「……ハッ! しっかし、体力だけはあるようだな!」


鼻で笑い、待ち構える態勢を取るフェン。

走って距離を詰め、右拳を真っ直ぐに振るう! そう、たったそれだけの攻撃方法――



()()()! 話にならないぞ!!」



カウンターとして放たれた右上段回し蹴りが、マオの剥き出しの胴体へと吸い込まれる――!



「 !? が……!」


ゴキッ……と、鈍く低い音が、体内に響き渡る。


間違いなく、骨の折れた音だった。魔力による強化を超える衝撃に、耐え切れず、その場で膝を付いてしまう。


「い、痛ェなおい……」

「だから……話にならない」


無慈悲な表情でそう告げる。左脇腹辺りを抑えながらも……それでも、マオはフェンを睨みつける。



闘志はまだ――()()()()()()()



「オレに大見得切って挑むだけの度胸はあるが……諦め悪いな、オマエも」

「ハーッ、ハーッ……誰が?」

「オマエだよオマエ。魔法だけじゃなく、痛みも重なって状況把握出来てないな」

「ハーッ、ハーッ……」

「息するのもやっと……か」


――そう言って、フェンはマオ目掛けて手をかざした。


「このままじゃ、諦めないオマエを()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()

「ま、まだ……ハァ、硬派を……」

「そういやさっき言ってたな。何だよソレ?」


痛みを必死に抑えながらも、眼前にいるフェンの足にしがみつく。

何とかしてでもコイツを倒す……ただその感情だけで、今のマオは動けていた。


(知能が落ちてると、痛みも純粋に感じやすくなるもんだが……)


通常は……理性があり、知能がある為、痛みを感じた時、それを和らげる様あれこれ考えるものだ。


――しかし、今は知能低下中。只々痛いと言う感情が、怒涛の様に押し寄せ、ダイレクトに感じてしまう。



(痛ェ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!)



脳内を渦巻く己の悲鳴。体の節々から出ているアラートは、マオの幅を更に狭めている。


「俺は……俺はまだ……」

「もう終わりだ」

「もう少し……もう少しなんだ……」

()()()()()()


とうとう、フェンを掴んでいたマオの手が、あっさりと剥がされる。



「――【拘束(こうそく)最後の紐(さいごのひも)】」



フェンの手が光る。迸った光は、じっと見つめるマオの視界へと入り、眼球から体内へと変化を起こす――



「ンぎィッ!?」



ビクン、と大きく痙攣して……ポトリと大地に落ちた。



「……最後の紐は、()()()()()。これでオマエは、魔力による強化を弱体化された訳だ」



「……」


マオは、一言も発しない。話す力も、残っていない。



「魔力の鎧が無ければ、ダメージはよりダイレクトに伝わる。痛すぎると、脳は動く事を停止し、気を失う」


「…………」



喋らないマオを相手に、フェンはベラベラと喋る。

これは、フェンにとって、勇敢にも自分へ挑んでくれた挑戦者への、”餞別”の様なモノであった。



「それでも動ける奴はたまにいる。しかし、そうはいかないぜ。”(かわ)”、”(きん)”、”(ひも)”……この3つを受けた相手は――必ず動けなくなる効果を持つ」


「………………」



()()()()、とフェンは倒れたマオの頭を踏ん付けた。



「オマエは、オレに挑んだ時から、こうなる”運命”だったって訳だな」





……。



…………。



………………。



「――ちょっと、ランコ。何処へ行くの?」



――女子寮から出た並木道を歩く、3人組の女子グループ。



目的地とは違う方向へと向かおうとするランコへ、同じ『アクアマリン』メンバーの『リップ・ウンディウス』は呼び止めた。



「……あは☆ ちょ~~っと気になるお話を、耳にしちゃったんだぁ☆」



相も変わらない猫撫で声で話すのは、ランちゃんこと、ランコ・スプラゴンである。



「それって……喧嘩騒ぎの事かな?」



リップの隣を歩く、アクアマリン不動のリーダー、『トレア・ヴァンジーニ』が小首を傾げ、質問を投げた。


「喧嘩騒ぎ……ああ、さっき廊下で話している人達がいたわね」

「そうそう! それの事でぇす!」


人差し指を立て、”ピンポーン”と口に出す。


「何かねぇ、その喧嘩してる人の特徴がぁ、()()()()()()()()()()()()()()()な気がするんだよねぇ~☆」


……本当は、ランコがご執心なお兄ちゃんなのだが……彼女の中では、いつしか逆転してしまっていた。


(あは☆ ()()()()()()()も無事受かってたみたいだねぇ……☆)


ランコとしては、マオがちゃんと合格していた事が、自分以上に嬉しかった様で、普段よりも数倍テンションが高かった。


「……それで、わざわざ野次馬しに行くの?」

「んもー! 野次馬じゃなくて、応・援! いつもはファンに応援してもらってるからぁ、たまにはランちゃんが応援してあげなくちゃ☆」

「それはすっごく偉い事だね! よしよ~し」

「ほわぁ……☆」


そう言って、トレアはランコの頭を撫でてあげると、ランコは嬉しそうに目を細めた。


「またそうやって甘やかす……」


はぁ、と溜息を吐くリップ。

トレアの”ランコ甘やかし”は今に始まった事ではなかったが、調子に乗るから止めて欲しいと内心思っていた。


「はぁ~……極楽じゃ~……☆」

「ぷっ。それじゃお風呂に入ってるみたいだよ?」

「うん、そうだよぉ」

「違うわよ」


天然のトレアと、無邪気なランコのせいで、リップは終始”突っ込み役”に回らなくてはならず、慣れた様子で合いの手を挟んだ。


「きっとねぇ、トレアお姉ちゃんの掌からはねぇ、秘湯の源泉が垂れ流れているんだよぉ」

「何それ。怖いわ」

「そうなんだ!」

「そんな訳ないでしょ」


どんな奇病よソレ……と震えざるを得ない。


(この2人は……相変わらずね)



――あの『百鬼夜行』を経て。

学園を盛り上げるために入園したアクアマリンであるが――普段と変わらない2人に、謎の安心感を覚えていた。



「……そんなことよりっ! さあさあ、早く行かないと終わっちゃうよぉ!」


今にも駆け出しそうなランコに、苦笑しながらも『付き合うしかないな』と半ば諦めの境地のリップ。


「そうだね! 折角だし、わたし達も行こうか?」

「……そうね」


逆に、ランコがここまで推しているファンは珍しい、と思い興味が湧く。


「それ、良いかも☆ 今度こそ、堕として魅せるから~……☆」

「……何の話かな?」

「さあ?」



(あは☆ これも”運命”だよねっ! ()()()()()()()☆)





……。



…………。



………………。




――体内で、大きく()()()()()()




最初は――()()()()()()()


火はやがて、ダメージを負うごとに大きくなっていき、最終的には火柱へと成長する。



薪は――()()()()



”痛い”、”苦しい”、そして……”悔しい”。嫌な感情が火にくべられて、大きく燃え上がらせる。



それらの感情の根底にあるのは――激しい”屈辱”。



(――奴の魔法は【拘束(こうそく)】。3種類の効果を持ち、1つ目は”身体能力の低下”――)



屈辱感は、己の中に”新たな力”を得ようと作用する――。



(2つ目は”思考能力の低下”、3つめは”魔力の低下”――)



無意識化で聞こえてくる言葉が、勝手に脳裏へ刻まれ、知識として貯蔵される――。



(そして、3つの効果を受けると、”必ず動けなくなる”)



思考は低下していても、言葉は耳から染み入る。

やがて雪解けの様に溶け出して、まるで酸素の様に……火と、強く、結び付く。




今――()()()()()()()()()()()()()()()()()()――!!




「――――――【復讐(ふくしゅう)】」




「…………あ?」



自然と口から零れた言葉。俺の――()()



ボウッ、と俺の体が一瞬だけ燃え盛り、体に掛かっている魔法を打ち消した!



(なっ!? ()()()()()()()()()……!?)



思わずたじろいだフェンは、俺の頭から足をよけて、数十歩退いた。



「……これが、”運命”だって?」



ゆっくりと……体を起こす。体はボロボロだが、心は――熱く燃えている。




たった1つの感情――()()()()()()()




「”運命”なんてモンはなァ……全ッ部! ()()()()()()()!!」




――吠える(バーキング)叫ぶ(シャウティング)

今ある”心の力”を糧に、目の前の敵を討ち滅ぼす!!



「……ハッ! 威勢だけは、いいみたいだな」

「試してみるか? 威勢だけじゃないか、どうかを……ナ?」


右手で”かかって来い”と指を折って挑発をする。


「面白い! オマエに、オレの【拘束】は打ち破れるか――!!」



手をかざすフェン。再び、手の平から光が溢れ出す――




「――【無礼(ぶれい)第1の枷(だいいちのかせ)】」




――よりも! 先に! ――俺は、手の平から光を発した!



「――な、何ぃ!?」



俺の光を見たフェンは、突如、()()()()()()()()()()



――いや、()()()()()。フェンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()



瞬時に下りた両手が、地面へ着いた途端に、ズンッ、とその衝撃でクレーターを2つ生み出した。


それだけではない。地についている両足も、徐々に、ズブズブと地面にめり込んでいる。


「お……オマエ! これはっ!」

「なんだ?」



()()()()()()()()()()!!」



両手両足の重さで、身動きが取れず上手く喋れないフェンが、辛うじて言葉を吐いた。


「……少し違うな。これは”俺流(おれりゅう)”だ」

「は……?」




――そう、()()


俺の【復讐】は、魔法により受けた”屈辱”を覚え、能力を”理解”する事で、”自己流”にして会得する……と言うモノ。




ただの”コピー能力”じゃねェ。言うなれば……”アレンジ能力”だ!



「【拘束・第1の革】は()()()()()()だろ? 俺のは違う。単純明快。ただ、体が()()()()()()()


「……オマエェ……!」


肩で息をするフェンに、俺は真正面から近づく。


「はぁー……俺もケッコー限界なんだワ。『終わらせてやるよ、この喧嘩を』」

「! ふざけるなよ……! この”拘束”を解けぇ!!」

「”拘束”はお前だろ? ()()()()?」

「クッ!!」


――目の前に立つ。

フェンは相変わらず、両手両足を地面に落とし、みっともないお辞儀をしている様だった。


「……ハッ! 言っとくが、オレはかなり硬いぜ? 魔力で超強化している上、身体能力が柔じゃない!」

「ああ、知ってる」

「オマエと我慢比べって事だ! オレが耐え切るか、オマエの魔力が切れるか!」

「『いや、終わりだ』」



俺は右拳を強く握り、一気に振りかぶる!




()れてやるよ――()()()()()()()()!!」




拳に力が宿り、フェンの顔面へと突き刺さる――!




「――【過信(かしん)】!!」




「!? ギャッ……!!」



――たった1発。


たった1発で――フェンは吹っ飛び、宙を舞い、地面へ落ちて、気を失った。



――【過信】。

九尾(きゅうび)世王界(よおうかい)』が使っていた魔法、”不意を突く魔法”を俺流にアレンジし会得したモノだ。


実際に不意を突かれ、屈辱感を覚えた為、会得していた――!


「オリジナルと違って不意はつけねェが……代わりに、()()()()()()()――()()()()()



――そう。

自身の攻撃は、()()()()()()()()()()()()()()。また、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。



(……出来れば”あんな奴”の魔法、使いたくは無かったが……)


()()()()()()、と言えば聞こえはいいが、単純に躊躇いがあった。


『百鬼夜行』の原因の1つでもある九尾の魔法を、アレンジして使うのに、抵抗感があった。


(まァ、もう四の五の言ってはいられないナ?)


事態は、動き出している。先へ進むためには、あらゆるモノを利用しなければ、上へと進めないだろう。


「……」


フェンを利用し、何とか”新たな力”を得た。その上、会得していた魔法も試し打ち出来た。


これ以上ない、成果だろう。


「……フン」


間抜け面でのびているフェンを置いて、俺は去る――。



「”硬派”――完了だ」



”硬派”を笑う者は、”硬派”に泣く。それだけは、覚えておくンだぜ――フェン。

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