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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
56/87

20時限目 校舎裏シャウティング



「――【拘束(こうそく)第1の革(だいいちのかわ)】!!」



――校舎裏にて、睨み合う俺とフェン。

最初に動いたのは――魔法発動と共に、疾駆するフェンであった!



(来たッ……!)


敵が何の魔法を使うのか分からない以上、受け身の立場にならざるを得ないが――


「 !? な、んッ……!」



(か、体が……!?)



魔法の発動と同時に、フェンから放たれた光が目に入り、俺の手の甲に”鎖の紋様”が浮かび上がった。


なんだコレ……と、思う間もなく、俺の体は異常に見舞われた。



――()()()()()()()()()()()()()()()()



「ボサッとしていると蹴られるぜ――?」

「チッ!?」


迫りくる左方向からの上段回し蹴り。

舌打ちながら、慌ててバックステップにて回避しようにも――上手く躱せず、左脇腹を掠ってしまう。


「 !? くぅッ!!」


稲妻に打たれたような衝撃に眩暈を覚え、いつも以上に距離を取る。


「どうした? ほんの少し掠っただけだぜ?」

「……テメェの顔は見飽きたからな。距離を取らせてもらっただけだこの野郎」



(何なんだ、この体の不調は……!)



普段なら躱せる蹴りであった。エルルの魔力で強化しているなら尚の事、()()()()()()()()()()()()


「……ハッ! 随分と混乱している様だな?」

「まさか。嬉しいぜ、ようやく本番って事だ」


虚勢を張り、少しでも考える時間を稼ぐ。



――魔法には、()()()()()()。特に、俺の様な、()()()()()()()()()()()()()奴には、猶更だ。



(間違いなく、敵の魔法によるものだ。この鎖の紋様……コイツが浮かんでから、俺の体は本領を発揮出来ていない)


実力を発揮出来ていない現状について考えるが、今は喧嘩中――


「どんどん行くぜ!」

「 !! 」


敵だって馬鹿じゃない。これはリアルの喧嘩。ターン制のRPGでは無いのだ。


「ハァッ!! ハッ!!」


肉薄され、前付き蹴りが何度も放たれる!


(足癖の(ワリ)ィ野郎だ! 回避を――)


避けようとするが、全て僅かに掠ってしまう。その都度、チクリとアイスピックを刺すような痛みに襲われる。


「どうした? オマエも撃って来いよ! オマエの魔法(ぶき)を!!」

「――ッ! テメェには……まだ早ェ!!」

「ハッ! なら、撃ってくれるまで攻め続けるのみ!」


最早、俺がイキがっている様にしか見えないのだろう。

加速する蹴りの応酬に、体が悲鳴を上げている。



(クソッ! さっきまで躱せていたのに……急に――避けられなくなった!)



そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

疲れている訳ではない。体が思考に追いついていない。ズレている。



()()()()()()()……そう言う事だナ!)



普段より不調の状態で戦わされている状況、そう考えるのが妥当であった。

敵の魔法は――『相手の身体能力を低下させる』!



(分かった所で、対策の取り様が無ェけどな!!)



()()()()()()()、という最悪な解答。



「シッ!!」

「 !? 」


とうとう下段回し蹴りが右足に当たり、足を取られる!


(――クソッ! 宙に浮く!)


殺伐とした空気の中、ふわりとした浮遊感に襲われる。



「――喰らえ」



たった一言、無慈悲で残酷な一言だ。



「――――!!」



宙に浮いた俺の左脇腹に、かかと落としが突き刺さった――。



「――ッ!! ガハァッ!!!!」


思いっきり血を吐いた。久しぶりに感じる……鉄の味。


「が、ハァッ、ハァッ……」


息も絶え絶え、激しい痛みに、頭痛が始まる。


(ああ……()()()――)


激しい痛みと共に、胸の内から、どす黒い感情が湧き上がってくる……。



「まだ終わりじゃないだろ?」



「 !? 」


上から聞こえる絶望の呪いの言葉と共に、強力な前蹴りでぶっ飛ばされる!

まるでサッカーボールの様に、宙を舞い、数メートル飛んで地に落ちる。


「ウゥッ!!」


受け身を取れるほどの余裕もない。胴体から着地し、衝撃に全身が痺れる。


(ぐ、クソ……考えろォ……考えろっつってンだろォ……!)


もがき苦しみながらも、敵だけは睨みつける。

……兎に角、隙を作るんだ。そして考えろ。俺の魔法は、観察力が必要――



「ここまでされても尚、反抗的な目をしている……」

「あぁッ!?」

「反逆的な目だ。オマエ、何か悪だくみをしているな?」

「……だとしたら?」



「――【拘束(こうそく)第2の筋(だいにのきん)】」



次の瞬間――光が視界を遮り、俺の手の甲に刻まれている鎖の紋様の上に、新たに鎖の紋様が、重なるようにして刻まれた。



(な、何しやがっ――あっ……)




…………………………………………。




……………………………………………………………………………………。




――再度フェンから放たれた光により――真魚の思考能力が、突然()()()()()()()

考えるのを止めたというより……()()。考える意思が投げ捨てられ、只々直情的になってしまった。



「【第2の筋】は厄介だぜ? ()()()()()()()だからな」



フェンはニヒルに笑いながら、ゆっくりと真魚へ近づく。


「ま、オマエに話したところで、理解する頭を放棄してしまっているからな」

「アァ!? 何偉そうに喋ってんだテメェコラオイ!?」

「思考が低下すれば、戦略も取れない。喧嘩にもならない。一人相撲だ」

「…… ?? 意味分かんねェ事、くっちゃべってンじゃねェぞこの野郎!!」



「――要は、無防備なオマエをボコるって事だ」

「うっせェ!! しばく!!」



脇腹を摩りながら立ち上がる真魚。何にも考えていない大振りな右拳を振るう――!



「ハァ、隙だらけだ――」



渾身の上段回し蹴りが左側頭部へとクリーンヒットし、



「 !? 」



声も上げられない程の衝撃に、真魚は再び地面を転がり……やがて止まった。



「――いい喧嘩だったぜ。ま、オレよりは”()()”だな」



勝利の言葉と共に、フェンは笑った――。





……。



…………。



………………。



校舎の階段をかける、3人の足音が響く――。

急いで”喧嘩の舞台”である校舎裏へと向かう、エルル達のものである。



「! ()()()()()()()()()()()()!」

「って事は……喧嘩が始まっちゃったんだね~」

「っ! ……急ぎましょう! マオさんが心配です!」

「そうね……」


エルルからマオへ魔力供給がされているという事は――戦闘に入っていると言う証左。


あのマオならば心配ないとは思う……思いたいが、やはり心配な3人は、校舎裏へと向かわなければならない。



出入口へと差し掛かった時――偶然、エルルは見知った人を見かけた。



立派な角に、立派な尻尾。学園の制服へと身を包んだ、()()()()()()()()――。



「あ! エルルちゃん!」

「……ミャン!」



ブンブンと大きく手を振って駆け寄って来たのは、昔からの知り合いで友達の、ミャンだった。



「やっほー! 久しぶりっ!」

「久しぶりね」


勢いそのまま、エルルの手を取ってブンブンシェイクする。


「受かったってのは聞いてたけど……実際会えると嬉しいね!」

「そ、それは私も同じ……ちょ、ちょっと、強いわ」

「あ、ゴメンゴメン」


手首がもげそうな勢いだった為、慌てて制止させるエルル。


人間ベースの『ヒューマン族』と比べると、格段に身体能力の高い『ドラゴニュート族』。こうなってしまうのも、無理は無かった。


特に、エルルは体を鍛えている訳ではない為、骨の1本でも折れてしまいそうな強さであった。


「……元気だね~、『ミャーちゃん』は~」

「ピスカちゃん! ……ってか、その言い方止めてって」


軽くハイタッチを交わす2人。


エルルと親交があるという事は、必然的にピスカとも親交があるという事。エルル程ではないが、ミャンとも親しげな仲であった。


ニヤニヤと、良い玩具を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべるピスカ。対照的に、ミャンは嫌そうな表情をしている。


「なんで~? 可愛いじゃん、()()()()()()?」

「言い方っ! それだと猫っぽいでしょーが!」

「猫だとダメなのん?」

()よりも、ウチは()がいいの!」

「……それはそれでどうなのー?」


プンプンしているミャンだが、これまた久しぶりにピスカと会えて嬉しいらしく、言葉尻は普段より優しい。


「……ん? ってか、猫ならこの子じゃん?」

「あ、あたしは犬です!」


急に話を振られたティタは、少しどもりながらも訂正した。


「新しい友達?」

「うんにゃ。この子は『ティタ・カラミティア』。わたしが『メイド学習院』に入った頃から”親友”なんだ~」

「はいっ! ティタです! 宜しくお願いしますっ!」


頭の後ろで手を組みながら、呑気に話すピスカに、ティタが恥ずかしそうながらも嬉しそうに微笑んだ。


「そうなんだ! ウチは『ミャン・マイティック』!」

「マイティック……もしかして『マイティック狩人事務所』ですか?」

「そ。今後とも是非ご贔屓に!」

「は、はい!」


おずおずと差し出した手を、ミャンは躊躇いなく掴んでエルル同様ブンブンと振った。


「可愛いーーーー! 猫みたい!」

「犬ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


体ごと振り回されるティタは、目をグルグルさせながらも、意地でも訂正だけはした。そこだけは違うのだ。


「――ってかさ、見た?」


急に思い出したのか、動きを止め、神妙な顔へと移った。


「――きゃいんっ!」


それと同時に、掴んでいた手を離した為、ティタは目を回したまま解き放たれた。


「見たって何?」


クラクラしているティタに目を奪われつつも、ミャンの話へと好奇心が移る。



(恐らく……マオの事だとは思うけれども)



「”学ランくん”――じゃなくて、なんか学ランを着た不良と、狼の不良が喧嘩しに行っちゃったの!」



(……やっぱりね)





……。



…………。



………………。



(――結局、コイツは魔法(ぶき)を使わなかったな……)



ピクピクと、微動するのみで、うつ伏せに倒れているマオを見て――フェンは、フンと鼻を鳴らした。


(コイツの魔法は、戦闘向きじゃなかったのかもな)


大見得切って、挑んで来る程だ。それなりに出来る奴だとは思っていたが、肉弾戦で言うと及第点であったと、フェンは評価する。


(……しかし、魔法勝負に関しては最低だな)



魔法を用いた喧嘩は、一瞬で終わる事が多い。

強力な魔法を持つ者程、抜いてしまえば最後、敵へターンを与えずに決着がついてしまう事もザラだ。



(中々、楽しませてくれたぜ。マオ)



雑魚である事には変わらないが、多少は楽しませてくれたと、心の中で言葉を贈る。


(――さて、次の獲物を探しに行くか――)


フェンの思考は、次へと移る。


自分より雑魚には興味はない。一瞬だけ、ほんの一瞬だけマオへ向いた興味も、最早ひとかけらも残っていない――。



「…………待てやテメー」



「!」



言葉よりも先に、”殺気”を感じた。



恐ろしい程の”圧”。数々の敵を打ち倒して来た、強者であるはずのフェンが、躊躇いながらも振り返った。



「誰が”雑魚(ザコ)”だ――テメーは、言っちゃいけねェ言葉を口にした……」



――明らかにボロボロで、額から血を流し、頬を青く腫らしている格下の敵だ。


しかし、いつの間にか立ち上がっていた敵に、フェンは思わず()()()()()()



(! このオレが――震えている!? 武者震いか? それとも――)




「硬派、注入だこの野郎……!!」




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