表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
53/87

17時限目 熱き学園生活



――ヴァルヴァラ学園の入園式は、()()()()()と決まっているらしい。



だから、合格通知の送られた3日後だった、と言う訳だ。



「来たな……!」



――雑候谷真魚(ざこやまお)、久しぶりの登校である!



(とは言うものの……ファルセスタで直だがな)


特に城から歩くことなく、ヴァルヴァラ学園へと辿り着いてしまった。


新たな感動などは無い。

まぁ、3日前の試験時に来ているからな。こういう感じだったかと、最早見慣れた並木道を歩いた。



そして、学園生として、堂々と正門を通る。



……終了。



「あっという間に、登校が終了した……」

「その上寮生活だから、もうほぼほぼ城からの登校は無いね~」

「ああ……そうだな」


ピスカの無慈悲な一言に、勇んでいた気持ちが、若干萎えるのを感じた。


「つーか、エルルは城の連中に”別れの挨拶”は済んだのかよ?」

「? 別れも何も、ただ学園に通うだけよ?」

「それもそうか」


1年間学園に通うだけだしな……そりゃないか。


「いや、盛大に見送りとかも無かったから、既に済ましてあるのかな、と」

「私の周辺には挨拶してきたけれど、大袈裟なものは無かったわ」

「ふぅん」


まぁ、そんなもんか。


放任主義と言えば放任主義だが……。飛鳥やウルルの旅立ちを見てしまっている以上、エルルに対しても国を挙げてお見送りでもするのかと思っていた。


「気楽に考えているのでしょうね。学園に通うだけだし」

「で、でも、最悪”死ぬ”場合もありますよ……?」

「ああ……」


ティタの一言で、萎えていた気持ちが、若干引き締まった気がした。



――『()()()()()()()()()()()()()()に勝てるのであれば……ゆくゆくは、ヴァルヴァラ騎士団へと入団出来るだろう』



――以前、ヴォーディン国王が俺に言った言葉だ。

傷付く事は勿論、死ぬ事もあるのだろう。それ程、()()()()()()()()()()()()



「舐めているつもりはないけれど……()()()()()()



そんな厳しい状況を考えていた俺とは反対に、エルルは自信満々であった。


「どういう意味だ?」

「死ぬ気はない……って事。意地でも生きて、私は前へ進むわ」



何か根拠がある訳ではない。だが、エルルの桃色の瞳は――希望に満ちていた。



「……フン。まァ、そんくらいの意気込みで行かなくちゃなァ……!」


俺の気持ちはコロコロと、移り変わっていたが、最終的には”硬派”に落ち着いた。


力強く、ティタの背を叩く。ビックリして、ちょっとだけ前のめった。


「そう言う事だ。死ぬ気は更々ねェってヨ?」

「は、はい! あ、あたしもです!」

「あたしも~」


石畳を踏みしめる力に、ちょっとだけ未来への勇気が滲む。



「新たな出発(でっぱつ)だ」



厳しい生存競争の――幕開けである!





……。



…………。



………………。



――『大講堂(だいこうどう)』という大きな部屋で、入園式を行う様だった。



以前、筆記試験を受けた『講義室』と比べ、数倍デカい。

講義室は講義室でデカかったが、それよりもドエレーデカい。凄まじいインフレが発生している。


中身はほぼ講義室と同じである。壇上があり、その後ろに黒板。対する席は段々畑になっており、壇上から距離が離れる程、高くなっていく。


「多いな……」

「ね~」


俺達と同じ受かった学園生達が、自由に席に座り、入園式の始まりを待っている。



やはり、種族は多種多様。”種族のデパート”と化している。



「後ろの方に座るか」

「そうだね~。”主人公席”に座る?」

「……()()()()()()()()。それでいいか?」

「それでいいわ」

「あたしも大丈夫です!」


ピスカの提案に、それでもいいなと思い、後ろへと歩く。


別に主人公になりたい訳じゃないが、端っこで全てを見下ろしたい。これからコイツらは俺のライバルとなるのだからな。


目的地へ進んでいる内に、そこへ何人か集団で座っているのが見えた。


「あちゃ~、先客がいるね~」

「……仕方ないな」


考える事は皆同じなのだろう。

諦めて、反対の窓際を目指すも――


「こっちも埋まっているわ」

「フン……皆、後ろが好きなんだな」

「後ろだと、どんな人が居るか、見渡せるからでしょうね」


エルルも俺と同じく、先を見据えて後ろへ座りたかったようだ。若干不満そうに、頬を膨らませている。


「ご不満な様で」

「そうね。色々とチェックはしておきたかったわ」

「……君が、他人へ興味を持つなんてな」


意外そうに驚くと、益々ほっぺたが大きくなる。


「持たない訳ではないわよ。万物に等しく興味はあるけれど、特に好奇心をそそられるモノへのめり込んじゃうだけ」

「なるほど」


エルルの場合、それが”モノの研究”へと向いているだけなんだな。


「それと、私がチェックしたいのは、()()()()()()()()()()()()()

「……え?」

「……その『引き籠りに友人が!?』みたいな目を止めなさい?」


思わず訝し気な視線を送ってしまった。

いかんな……エルルには十年来の友人がいるという話だったじゃないか。


「そんなの、連絡をとりゃいいじゃないか」

「そう……なのだけれどね」


急にしおらしくモジモジし出す。エルルらしくもない動作である。


(連絡を取りにくい理由でもあるのか……?)


何だろうか。あんまり仲が良くないのだろうか。

――でもそんな奴『友人』何て言うか? 普通言わないよな。俺だったら言わない。最早友人じゃないしな。


「な~に恥ずかしがってんの~! 別にルーちゃんから連絡とったっていいじゃ~ん!」

「それは! ……そう、ね」

「え、何。自分から連絡すんのが恥ずいの?」



「……普段は向こうから連絡してくれるから……」



 !? 



EP(エルルフォン)で赤くなった顔を隠し、もごもごしているエルル。



あのエルルが……恥ずかしがっている!!



「え~? でもルーちゃんから連絡してない?」

「それは”仕事の依頼”だからよ。プライベートでは……し、してないわ」


オイオイ! マジかよ!? あのエルルが!? 照れてる!!

つーか何だよ。いつも友人に誘ってもらっているクチで、自分から誘った事が無いって事か。


「ハハッ、随分と奥手だナ?」

「煩いわ……」


鋭く睨まれるが、痛くも痒くもない。

今主導権を握っているのは間違いなく俺だ。エルルは”弱い所”を曝け出してしまっているのだから。



「君も可愛いトコあるのナ?」

「~~~~ッ!!」



ここぞとばかりに弄ると、今度は耳まで真っ赤にして、自分の三つ編みをいじいじして、



「はい! マオが調子に乗り出したからこの話はお終い! あの辺りの席にするわよ!」



パン、と両手を叩き、1人でずんずんと行ってしまった。



「……ルーちゃん、意外と奥手で可愛いよね~?」

「だな。普段凛としてるから、ギャップが凄い」

「分かってるじゃ~ん」

「当たり前だろ?」


ガッ、と熱く握手を交わす。

こういうやり取りが、”友情”として育まれていくのだろうな。


……まだ慣れないが。


「ふ、2人共! 握手していないで、早く追いましょう!」

「おう」「りょうか~い」


焦るティタに急かされながら、結局、中段当たりの窓際へ落ち着く事となった。



「何人ぐらいいるんでしょうね……?」

「3桁である事は間違いないのだけれど」

「うへぇー、多いね~。例年より多いのかな~?」

「そのようね。王家としても、『アイドルグループという広告塔を使った宣伝』、『各ギルド・事務所へ強者の勧誘』、『学費の負担』を行った様だから」

「そりゃ人も集まる訳だよね~」

「それだけ本気って事ですよ……!」

「異世界から勇者まで呼んで、界団討伐に向かわせたのだから、もっとこの波に乗らせる必要があるのね――」



……うだうだと話しながら、俺は周囲を観察していた。


どいつもこいつも、腕に自信をもってそうな奴ばかりだ。表情や仕草に、自信が如実に表れている。

俺の今の感情は、『ボケ高』に入ったばかりの頃の感情に似ている。



つまり、()る気に満ちているという事だ……!



「……マーくーん、目が怖いよー?」

「おっと」


殺気が漏れ出てしまっていた様だった。

……いかんいかん。別に殺したい訳ではない。俺はただ、番長になりたいだけなのだ。


右手で前から髪をかき上げて、冷静さを取り戻す。


(カッカする必要はない。冷静に行こう)



……そうこうしている内に、学園の運営陣がやって来る。

3人だ。若者と、女性と――お爺さん。



(……神爺さん!)



俺を”神”と、エルルを”真の神”として崇める爺さんじゃねェか!

そりゃそうだ。試験官をやってたんだ。そりゃいるに決まってるよな……!


俺が少なからず驚いている間に、壇上へ上がったのは、先頭を歩いていた若者であった。



「皆さん! どうもどうも! よくぞお集まりくださいましたー!!」



(随分とおちゃらけた人だ……)



真っ赤なスーツに、赤茶髪をセットした好青年。まだ20代程の若者だろう。



(陽キャだ……!)



俺に与えた初頭効果としては、”陽キャ”のただ一言であった。



(イケメンだ……!)



更にイケメンときた。

陽キャでイケメン。陰キャで強面な俺とは、真逆を行く存在である。


(飛鳥はどっちかというと、童顔で可愛げのあるイケメンだった。この若者はゴリゴリのイケメン……!)


別に『爆発しろ』とは思わないが、”硬派”である俺ですら、羨ましい気持ちを持ってしまった。



「――僕は『アーリィ・ル・アルンティーネ』。このヴァルヴァラ学園の()()()をしております!」



( !? 学園長かよ!?)



若者は、陽キャでイケメンな学園長だった。

……は? 役満なんだが?



「えー、君達は5月度入園という事で……『騎士科E卓』所属となります。通称『E卓(イータク)』。これはね、1月入学だと『A卓』、2月だと『B卓』となるんで、5月入学なためE卓ってな訳です」


ペラペラと、軽快に喋り始めているが、あまり耳へ入って来ない。


「基本的には『戦術』と『戦闘』の講義を行い、学園で課す『5つの試練』へと挑んでもらう形になりますね! それ以外はまぁ……自由です!」



何故ならば――非常に軽い雰囲気で始まってしまったからだ。



(喋り方というか……全体的にノリが軽いんだよなァ……)



「ま、君達は学園についてある程度調べて来てるんだろうから、伝統とか歴史とか、そういうのは後で調べてみてくださーい!」


雑くない?


大丈夫だろうか、と一抹の不安を感じ始めた時だった。イケメンの表情が険しくなると同時に、彼が纏う空気が変わった――。


「僕が言いたい事は、そんな畏まったもんじゃないんです。君達はこないだの『百鬼夜行』は知ってるでしょ?」


――勿論知っている。各地で甚大な被害が出た、界塵共による襲撃の事だ。

忘れる訳がない。俺が覚悟を決める決定打となった出来事だ。


「国は大変な目に遭いました。もう二度と、あんな事を起こさせちゃいけない――そう思うでしょ」


思う。思うに決まってる。



「E卓諸君! まずは君達を歓迎しよう! この学園は、夢の『ヴァルヴァラ騎士団』行きの船なのです!」



身振り手振りで大袈裟に、熱く激励してくれる学園長。



「しかし! ……この船はただの船ではない! 時に嵐や時化に襲われ、止む無く船を降りる事や、降ろされる事もあるだろう!」



その熱さに――徐々に話が、ゆっくりとうねりを持って、耳の中へと入って来る。



「目的地へと辿り着いた時に! 船に残っていられた者こそ! ヴァルヴァラ騎士団への上陸を許される!」



人差し指を立て、天を差す。……釣られて、俺も天を仰ぎ見る。

彼の熱さに扇動された形で、俺の心も燃えてくる。



「E卓は総勢()()()()。『5つの試練』を乗り越え、700の頂を目指せ!」



今度は、俺達学園生の座る席を見渡し、




「勝利を――勝ち取れ!!」




――言い放った。


「……僕からは以上です。んでは、学園の諸々の事は、君達の担任となる『ニカ・サーコネリア』先生にお願いするんで。あと頼んます!」

「……畏まりました」


静まり返った大講堂の中、満足気に、堂々と去って行く学園長。代わりに、エルフ族の美人教師が登壇する。



(…………(アチ)ィ)



短い挨拶であった。学園長は、特に前口上もなく、思いの丈をぶつけて去って行った――。



(……なんつーか……”漢”、だナ?)



チャラい人だと思ったが……案外、その胸の内は熱いのかもしれない。


「……では、これからは貴方達の担任となる、このニカ・サーコネリアが、説明させて頂きます。宜しくお願いします」


(――温度差!)


やたら熱い話の後に、非常に淡々とした学園の説明が始まったのであった――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ