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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
52/87

16時限目 登校希望



――5月20日、水曜日。




ヴァルヴァラ学園の……『入園式(にゅうえんしき)』の日である。




(合格通知が届いてから3日後か……早くね?)



俺の世界では到底有り得ない、異様なスピード感ではあったが……気持ちの整理は、とっくについていた。



――何故なら、合格通知が届いてからの3日間は、慌ただしくも充実した日々であった。



次の日には、学園で使う書類関係が届き、またその次の日には、学園の制服である『学園服(がくえんふく)』が届き――今日と言う本番の日を迎える事となった。


学園関係のモノが届く度に、学園に正しく入園したという実感が湧き、ヤル気が増した。



――充実――そう、新しい門出を迎える日々は――準備の日々は、とても希望に満ち溢れ、逸る心が満たされていたのだ。



むしろ、遅いくらいに感じた。合格が決まってから……番長への”覇道”が見えてからは、毎日がじれったくて仕方が無かった。


もっと先へ進みたい……覚悟を決めてから、軸が通ってから、()()()()()()この国で生きていく”信念”を得たのだ。



それがやっと果たされる――()()()()()()()()()()()。そうじゃないと、()()()()()()()()()()



(兎にも角にも……3日後に入園出来るってのは……嬉しい事だ)



「……ふあぁ~あ」



――朝。俺はベッドから、空へと伸びをしながら抜け出した。良い目覚めである。



いつもの様に洗顔し、いつもの様に服を着替え、いつもの様に身なりを整える。

――しかしながら、()()()()()であって、いつもと同じではない。



(――”学校へ通う”ってのは……久しぶりだナ?)



久方ぶりの――”通学”である!



学校とは言っても、塾や大学の様な、ちょっと違う施設ではあるが……俺にとって『大勢で学ぶ場所』と言う点で大差はない。


(……ああ、バッチシだな)


こういう事は、最初が肝心である。



――『初頭効果(しょとうこうか)』と言う心理効果(しんりこうか)がある事を、聞いた事がある。



何でも人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とかないとか。



(要するにだ……()()()()()()()()()()()()()()()()って事だナ!)



”硬派の世界”では、相手に舐められない事が肝心だ。漢は拳で語るものだが、立ち居振る舞いのオーラだけで圧倒できるものなら、より良いに決まっている。



手を汚さずに、”凄味”だけで相手を退ける――圧倒的強者の特権である。



完全無欠のオールバックを、完璧にキメた所で……控え目に扉をノックされた。


……ティタだ。十中八九ティタだ。10割ティタだ。間違いない。



『お、お早うございますマオさん! 中に入っても宜しいでしょうか……?』



――やはりだった。見えている答えでもある。

ピスカやエルルと違い、ティタは礼儀を弁えている。流石は同志。


「いいぞ」

『! し、失礼しますぅ……』



どこか頼りなさげな声と共に、ゆっくりとティタが入室してきた。



「 !? 」



無事”不良スタイル”となっている俺は、折角だから出迎えようと、入って来るのを見ていて――違和感を覚え、直ぐに気が付いた。



「……良いじゃないか。似合っている」

「! え、えへへっ。あ、ありがとうございますっ! 嬉しいですっ!!」


いつもより恐る恐ると言った感じで、ティタが入って来たのだが……その姿はメイドの姿ではない。



――上は、濃い青を基調し、白で縁取られたブレザー。中に白のワイシャツを着ているのが分かる。可愛らしい赤のリボンが良く映える。


――下は、上と同じく濃い青だが、白のストライプが入っているスカート。暗くなり過ぎず、お洒落な感じが滲み出ている気がする。



――そして、ティタは……”黒のタイツ”を履いていた。



(――タイツ !! )



「――そのタイツ、暑くないか?」



真っ先に、そこ(タイツ)に突っ込んでしまった。他に言うべき所もあっただろうに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



(何故、ティタはタイツを履いているんだ……? そして俺は、何故こんなにもタイツに惹かれているんだ……?)



知られざる己の欲に戸惑いつつ、恥ずかしそうに自分の太ももを触るティタが、返答するのを待つ。


「あ、い、いえ! 全然!」

「そうか。そんな寒いか?」

「いえ、その……寒いとかの理由で、履いている訳じゃないんです!」

「じゃあ何故だ?」


多分、俺の人生の中で、ここまでタイツに執着を見せたのは初めてだろう。それ程までに”ティタにタイツ”というのは衝撃であった。食べ物で言えば”チョコミント”レベルで驚いた。


(寒い以外に履く理由があるのだろうか……? お洒落? 性癖? 分からん……)



「えっと……普段あまり肌を露出しないので……恥ずかしくって」



( !! それかッ!!)



稲妻が、俺の全身を駆け巡ったかの様な、ドエレー衝撃を受けた。



(そうか……普段のメイド服はロングスカート! だが今は丈が膝上のスカートにタイツ! だからタイツに目が奪われたんだ!)



そう言う事だったのか……!(名探偵顔)

普段隠れていることろが露になっているから、ちょっとした”違和感”として脳内にへばり付いていたのだ。


ああ、スッキリしたぜ。まるで、歯の隙間にハマっていた食べかすが、何かの拍子の零れ落ちたかの様な……そんな爽快感を得た。


「成程な……まァ、気持ちは分かる」

「くぅん。こんな短いスカートなんて……だらしない太ももを晒すのが申し訳ないです……」

「そうか? ティタは良く動くし、無駄な肉は付いていないんじゃないか?」

「そ、そうでもないんです! ……自分で言うのもなんですけど……」


はぁ、と溜息を吐きながら、タイツ越しに自分の太ももを撫でていた。まるで太ももを慰めている様にも見える。


(……そういや、ティタの尻尾ってどうなっているんだ?)


ふと思った疑問であった。膝上のスカートを履いてはいるが、尻尾がどこから出しているのか。


「ティタ」

「なんですか?」

()()()()()()()

「きゃいんっ!?!?!?」


――間違えた。俺は変態か。


「違う違う。……尻尾だ。尻尾見せてくれ。スカートからどうやって出してんのかと思ってな」

「……あ、ああ!! そ、そういう……び、ビックリしましたー!!」


だよな。こんなバリバリ硬派な漢が『ケツ見せろ』って言ってきたらビックリするよな。ゴメンな、セクハラ紛いの事言って。俺決して”尻派”じゃねェからな?


「こ、こうですか?」


その場でクルリと回転し、俺に後ろ姿を見せてくれた。

ふわりと風に揺れるスカートの誘惑に耐えつつ、ただただ尻尾部分を凝視した。


(……”穴”か)


恐らく、ワーグ族用の制服なのだろう。

スカートの上部に穴があり、そこから尻尾を通して出している様だった。


……そりゃそうだ。普通のスカートなんて履いたら、常時尻尾によってスカートが不自然に浮いている状態になってしまうだろう。容易に想像できる。


「ありがとう」


一先ず、お礼を言って向きを戻させた。

多様な種族のいるこの世界だ。種族ごとに、制服が用意されていなければ不親切だ。その点を、この学園はクリアしていると言えるだろう。


「……マオさんは、いつもの格好なんですね?」

「ああ」


様変わりしたティタと違って、俺はいつもの短ラン、ボンタン、黒のタンクトップと、一般的不良のカッコのままであった。


「服装自由だろ? だったら、おれはこれでいい。この方が”(リキ)”が出る」

「一応、マオさんの分の学園服がありますよ?」

「――だとしてもだ。コイツは俺の、()()()()()()()()()()()()


”硬派”としての矜持……とでも言おうか。このカッコが許されんなら、俺はコイツで征く。


「……そうですね。その姿の方が、マオさんらしいです!」

「だろ?」

「はいっ!」


俺と学ランは、切っても切れぬ関係性なんだ。常時硬派でいたい俺としちゃ、服装自由は有難い。


「……取り敢えず、飯にするか」


きっちり腹ごしらえをして、学園へ向かうとしようか。





……。



…………。



………………。



食堂にやって来ると、ティタと同じく、制服に身を包んだエルルとピスカの姿があった。


「あ、おはよ~~~~」

「お早う。マオ、ティタ」


ピスカもメイド服から一転、学生へとジョブチェンジを果たしている。



――白のワイシャツに青白ストライプスカートは一緒だが、ブレザーの代わりにグレーのパーカーを着ている。


――また、黒と白のボーダーソックスが特徴的だ。何と言うか、総合的に見てそれこそ『電波キャラ』っぽい。



「大分アレンジ加えたナ?」

「にゅふふ、可愛いでしょ~? 『オシャレ番長』って呼んでもいーよ?」

「 !? 誰が番長だァ…… !? 」

「番長に反応し過ぎよ」


登校すると言うイベントのせいで、過敏になっている意識が、ピスカの些細なワードで反応してしまった様だ。


反省反省……気を付けねばなるまい。


「対してエルルは……オーソドックスだナ?」

「ピスカが弄り過ぎなのよ」


澄ました顔してコーヒーを飲むエルル。コイツは何をしても絵になるからズルい。



――ブレザー、ワイシャツ、スカート、白のソックスと、ちゃんと学園生らしく着こなしている。


――だが、王族らしさなのか、白のマントを身に着けている。



「空でも飛ぶつもりか?」

「……何の事?」


俺の突っ込みに怪訝な表情で返されると、隣に座るピスカが理解した様な表情をしていた。


()()()じゃあんまり無いんだよねー? マントを着る事ってさー」

「そうなの?」

「ああ」


ピスカに同意した事で、エルルが初めて自身が身に着けているマントに意識が向いた。


「へぇ……マントがあったから着てみたのだけど……マオの世界じゃあんまり着ないのね」

「つーか俺の地元じゃいねぇな」

「! そうだったのね。マントに興味も無いから、気にした事も無かったわ」

「それは俺もだよ。空飛ぶようなキャラが、身に着けているイメージだしな」


寧ろ、それ以外で見た事が無いような……。


「てゆーか、マーくんは着ないんだね~?」

「俺は硬派だからな」

「……それいつも言うけど、意味だけ教えてくれないかなー??」


雰囲気で感じ取れ。空気を読め。



「――さて、飯にしよう」


ワイワイ賑わいながら、朝食を食べる。


流石に慣れた、この穏やかな食事。

気付けば当たり前に同席し、和気藹々と飯を食らう……。すっかり俺も、馴染んだものだ。


「そう言えば、支度は出来ているの?」


雑談が一通り落ち着いたところで、エルルからそんな事を切り出された。


「学園は全寮制。向こうに持っていく荷物はまとめてあるかしら?」

「あ、あたしは大丈夫です! 既に送ってます!」

「そう。マオは?」

「俺は特に、荷物らしい荷物は無いからな」


そもそも着の身着のまま、この世界へ飛ばされてしまったからな。無課金ユーザーみたいなもんだ。


「はぁ~あ。寮生活か~。メンド―そ~」


入る前から怠そうにしているピスカ。


……まぁ、コイツは堅苦しいのとか苦手そうだしな。寮生活だと色々規則もあるだろうし、窮屈な思いをする事になるだろう。


(つーか、寮生活か……)


ピスカじゃないが、確かに面倒そうだ。

俺はあまり他人と群れたくはない。特に、将来俺の障害と成り得るライバル達とはな。


ティタの行き来も大変そうだ。わざわざ俺の世話をする為だけに、女子寮から男子寮までやって来なければならない。


「……俺は男子寮になるから、ティタは無理して俺の世話しなくていいぞ」

「えっ……!?」


ティタ対する気遣いのつもりだったが……ティタがこの世の終わりみたいな表情で固まってしまった。


「「あーあ……」」


周りの2人は、呆れた表情で俺を見ていた。


「いやいや、マーくん。専属メイドに『世話しなくていい』ってのは解雇通知と同じ事なんだよ~?」

「そ、そうなのか?」

「まぁ、マオにそういう理解があるとは思っては無いけれど……場合によっては、ね?」

「マジか……」


俺の心に、激しい後悔の波が押し寄せてくる。


「も、申し訳ない事を言った。悪かった。撤回する」


慌ててティタへ頭を下げる。

俺は暴力を振るう不良だが、誰彼構わず暴力をひけらかす気は一切ない。


ましてや、他人に暴言を吐く趣味を持ち合わせちゃいない。傷つけてしまったのなら、謝罪しなければならない。”仁義礼智信”にも劣る行為だ。


「! い、いえ! マオさんが謝らないでください!」


すると、心優しいティタに制された。


「……マオさんがそういう意味で言ったのではないと、理解していますから。……あたしに無理をかけさせない様に、言ったんですよね?」

「ああ」

「一瞬ビックリしちゃっただけですから……だから、あたしは大丈夫ですっ!」

「ティタ……」



……ドエレーいい子。マジで。



「ティーちゃんが理解ある子で良かったね~?」

「マジでそれ」


危うくメイドを傷つけて辞めさせるところだった。

言葉は、一度口に出したら変更は効かないんだ。だからこそ、”口は禍の元”なんて言われる訳だしな。


「……そろそろ出る時間ね」

「さぁ、皆で仲良く登校しようか~。パン咥えて『遅刻遅刻~』ってね~?」

「少女漫画かよ」

「? 食パンでいいですか?」

「咥えなくていいから」


――この城での食事も、暫くは味わう事が出来ない。

こっからは、楽しい楽しい学園生活が待っている。俺達は城に暫しの別れを告げ、出発した――。

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