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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第1章 異世界番長
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第4話 専属メイドなる舎弟



「「ええええええええええええええええええええええええ!?」」



「 !? うるさっ……!」



勇者パーティ入りの勧誘に対し、俺は首を縦には振らなかった。



その判断に、飛鳥とウルルが驚きの絶叫を上げた。両耳の鼓膜が終わっちゃう。


「何でそんな驚いているんだ……」

「そりゃー驚くでしょ!?」


右隣に座る、爽やかフェイスの飛鳥が身を乗り出して詰め寄る。


「なんかもう仲間入りみたいな流れだったじゃん! ゲームで言うと加入イベントじゃん!」

「まぁ、空気的にはそうだったナ?」

「だよね!」

「でもこの世界はゲームじゃないだろ」

「そんな身も蓋もない事言う?」

「俺は言う」

「さすが番長! 漢らしいね!」


驚いたり褒めたり……忙しい奴だと思っていると、左隣のウルルは神妙な面持ちである。


「何か……事情でもあるのですか?」


窺うような素振りで、俺を見つめる。慮ろうとしているのか。


「事情と言うか、これは俺の信念の話になる」

「信念?」

「ああ――」


俺は一度皆の顔を見渡し、心の内をさらけ出す――。


「別に、命が惜しくなったとか、怖くなったとか、そういうことではない」


界塵(かいじん)、勇者の事情を聞いても、俺は死への恐怖は一切なかった。


「そもそも、俺は一度、命を助けられた身だ。拾ってもらったチャンスだ。この世界のために使うのも悪くない」


一言一句、しっかりと聞いてくれる3人。話しがいがあるというもの。


「俺も天花市の人間だ。敵に対する特効……? っつーのも多分ある。多少は活躍できるとは思う」


――それでも、それでもと、俺は断言する。




「――今の俺には出来ない」




「……()()()()、と言うのは?」


当然の疑問を繰り出すウルル。

俺は横目で飛鳥を見た。視線が交差する。


「俺には飛鳥の様な”意志”を持っていない。例え怖くなくとも、帰れないことに納得しても、力になりたいという()()がないんだ」


飛鳥の言葉を引用し、俺流に言葉を伝える。意志をぶつける。


「界塵からこの世界を守るという意志――信念。俺はまだ、それを見いだせていない”半端者(はんぱもん)”だ。やるからには、()()()()()()()()()()()()

「……中途半端だから、出来ない。そういうことですね」

「ああ」


適当に、なあなあに勇者パーティに入り、流されるまま世界のために動けるかと言われれば……答えはノー。俺の中の”硬派”が許さないだろう。


やるからには、関わるからには全力で、己の全てを持って、この世界を守るという覚悟を持ちたい。


……俺にはまだ、覚悟はない。


「無理に誘うものでもないですよ」


今まで静観していた王妃が、声を発する。透き通り、響き渡る声だ。


「そもそも、こちらの事情で連れ来たようなものですから、無理やりパーティ入りさせて働かせると言うのは筋違いです」

「はい……ごもっともです……」

「それはまぁ、そうだけどね」


王妃に諭され、納得する2人。せざるを得ない。


俺の言葉は正しく伝わったようだった。改めて向き合う。


「真魚様の信念――覚悟というのが良く分かりました」

「分かってもらえたのなら良かったよ」


全てが本心で、これでも分かってもらえなければ――俺は言葉以外の伝える手段を探さなけばならなかった。


「――それでも」


ウルルから飛鳥へ視線を移すと、飛鳥はいつも通りといった笑顔で、



「真魚君なら、その内ちゃんと()()を持ってくれるって、何となく思うな」



軽く言ってのけるのであった。


……フン。何をそこまで、俺に期待しているんだか。彼の考えていることが分からん。


「いずれにしても、俺は何らかの覚悟はするだろう。この世界で生きていくと決めた以上、信念は必要だ」

「なんか小難しいこと考えてんだねー?」

「君が考えてなさすぎじゃないか?」

「……そーかも。案外さ、2人を足して2でかけるといいかもね」

「かけるなかけるな。2倍にしてどうする」

「ほら、2人合わさって2倍的なノリだよ!」


考えてること分からん。いや、本当に。


「……飛鳥君、真魚君」

「うん?」

「何スか」


俺と飛鳥の名を呼ぶ王妃。何となく姿勢を正す。


「貴方達がどんな決断をし、生きていくとしても、最大限サポートします。だから遠慮なく頼ってくださいね」


王妃からの有難いお言葉に、俺も飛鳥も礼をする。


「ありがとう、王妃様!」

「ウス。助かります」

「いえ……発端は私たちですから。当然のことです」

「そうです! 遠慮なく国を、メルン王家を頼って下さいね!」


有難いことだ……国レベルで俺らの”ケツ持ち”をしてくれる。こんなに頼れる所も他にないだろう。


「さて……そうと決まれば頑張んなきゃねー。真魚君の分まで!」

「別に、俺の分は背負わなくてもいいぞ?」

「そう言う訳にもいかないよ。僕は5代目勇者で、真魚君は6代目勇者なんだから。場所は違えど思いは同じ、的な」

「いや意味分からん」

「真魚君はパーティに入んないけど、真魚君の思いも持って頑張るってことだよ!」

「……フン、だから意味分からんから」


死ぬ訳じゃないし、飛鳥がそこまで俺の事を思わなくていい……そう言おうとも思ったが、


「頑張ろう―ぜ?」


やる気満々な彼に、水を差すのも良くないナ?


「それでは、今後の話し合いでもしましょうか、アスカ」

「そうだねー」


ウルルの言葉を切っ掛けに、飛鳥が立ち上がる。


「ん」


不意に右手が差し出された。手を見て、飛鳥の顔を見ると、ニコッと笑う。


「握手。今後とも宜しくって感じで」

「……フン」


俺も釣られて口角が上がる。彼と関わるとペースが乱されるが、悪くない。


「宜しく、飛鳥」

「ああ宜しく、真魚君!」


少しだが、友情が生まれたような気がした。ほんの僅かだが。


「あ、あっ」


そんな二人のやり取りを見ていたウルルも、俺へ手を差し出す。


「私も! 私のことも宜しくお願いします!」

「ああ」


華奢な手を、ガサツな俺の手が覆いつくす様に握る。ちょっとでも力を込めたら壊れそうな程に繊細だ。


「こちらこそ宜しく」

「はい! こちらこそのこちらこそです!」


ブンブンと腕を振るウルル。そこまで嬉しそうだと、釣られて嬉しくなるだろうが。


「じゃあ王妃様、またあとで!」

「失礼します、お母様」


連れ立って、王家の間から去って行く2人。まるで旋風の様な勢いの2人であった。

これからこの世界の為に力を発揮していくのだろう。


対して俺は……まだ覚悟はない。


「大丈夫です」


俺の考えを読んだかのように、王妃が慰める。


「焦らずとも答えは出ます。気長に待ちましょう」

「……そうだといいスけど」


優しく微笑む王妃は、まるで聖母のように見えた。


……いや聖母って見たことないけど。実在したら多分こんな感じだろう。


「王妃様、さっきも言ったように俺はこの世界の事を知りたいス。これからどうしたらいいスか」


まずは世界の事を知りたい。そして信念を得る。


「……ちょっと待ってください。そろそろだと思いますけど」

「 ?? 」


王妃は扉を気にしていた。バカでかい観音扉。


「来るまで待ちましょうか。紅茶は飲めますか?」

「ウス」


普段あまり飲まない紅茶だが、王妃と一緒なら嗜むに決まっている。


異世界で初の紅茶だ。誰が来るのか知らないが、優雅に待つこととしよう――。





……。



…………。



………………。



「し、しつ! 失礼しまぁすっ!」



上擦った甲高い声が聞こえたかと思うと、轟音と共に扉が開き始めた。


紅茶3杯目のおかわりのタイミングだった。お腹がタプンタプンしている。


「待っていましたよ」

「遅くなってすいませんです!」


小走りで駆けてくる少女。姿を見るにメイド服のようだが――



( !? け、獣耳(けもみみ)!?)



一見シックなメイド服少女かと思いきや――よく見ると()()()()()? ()()()()()()()()



「片付けは済んだのですか?」

「途中だったんですけど、抜けさせてもらいました!」

「あらあら、大変でしたね」


あと尻尾。()()()()()()()()()()()()()()()


「じゅ、()()……?」


俺が驚き目を見開いていると、少女が俺の前に出る。


「この子は『ティタ・カラミティア』。真魚君の世界で言う”獣人”――こちらの世界では『ワーグ族』と言います」

「は、はい! ティタです! よ、よろしゅく、お願いしましゅっ……!」

「あ、ああ……よろしゅく」


獣人――いやワーグ族? か。滅茶苦茶噛んでいるし、俺も釣られて噛んでいるが――そんなの気にならない程に見た目のインパクトがデカい。



茶髪の長い髪を二つ結びにして垂らし、茶色の瞳は心配そうに俺を映す。ちらりと見える八重歯。全体的に幼い容姿のメイドさん。



……に、()()()()()()()()()()()



(『異世界ギャップ』……とでも言えばいいか? ともかくドエレービビったぜ……!)


「くぅん……あ、あんなに練習したのに噛んじゃったです……」


何やら知らないが落ち込んでいるティタ。同時に犬耳と尻尾も垂れる。


(やっぱり感情で動くんだ! 耳と尻尾って!)


「何故この子が紹介されたか……不思議に思っていることでしょう」

「……え? あ、ああ、そっスね」


1ミリも考えが及ばなかった自分が恥ずい。完ッ全に思考停止してた……。


「先程の解答です。真魚君にこの世界のことを教え、サポートする存在……」


王妃が彼女の肩に手を乗せる。ビクッと背筋を伸ばす少女。



「彼女は今日から真魚君の『専属メイド』として就かせます」



「……は!?」


専属……メイド? 専属?


「よ、よろろしきお願いしゅくます!」


いや噛みすぎ。逆にどう噛んでる?


「ティタはこの春『メイド学習院』を卒業した、『見習い城仕えメイド』です。城もそうですが、国のことにも精通しています。年も近くて、真魚君にもピッタリでしょう」

「……なるほどな?」


適当に”なるほど”って言ってしまう俺。

いや、ちょっと待って王妃。情報量多くて読み込めてないんだが。自分、まだロード中の画面っすわ。


「これからこのティタが、真魚君の身の回りの世話をしてくれます。ご用命あれば何でも申し付けてください」

「が、頑張ります!」

「また、身の回りの世話だけじゃなく、戦闘もこなせるので、お供に連れて行っても構いません」

「戦います!」

「この城――『ヴァルサリル城』で自由に過ごしてもらって構いませんから。自分の家の様に過ごしてもらえればと思います。それもティタに言ってもらえれば、案内もできます」

「案内します!」

「それから――」


「――ま、待った。待ってください王妃様」


王妃の言葉を遮り、俺は声を上げた。音を上げたと言ってもいい。


「1つ1つ確認したいっス。ちょっと飲み込み切れなくて……」

「……あらあら、そうですね。ごめんなさい早口で」


口を手で覆い、上品に笑う王妃。スッと右手の人差し指を立てる。



「要するにですね……真魚君の為の『舎弟』です」



「 !? なるほど……!」



秒で理解出来たわ。さすが王妃。



「俺は雑候谷真魚(ざこやまお)。”真魚”って呼んでくれ」

「! あ、はい! マオ様!」


慌てて答えるティタに、俺は首を振る。


「”様”はいらない。君は俺の舎弟――つまりは”妹分”ってことになるからな」

「で、ではなんとお呼びしたら……?」

「呼び捨て……は難しそうだナ? だったら”さん”で」

「わ、分かりました!」


耳と尻尾を張り詰めて、俺と目を合わせる。


「よろしくです、マオさん!」


――俺に専属メイドなる舎弟が出来ました。

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