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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
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13時限目 神、降臨



――午後である。



実技試験の為、俺達は外にある広いグラウンドへと移動していた――。


「おお……」「うわぁー……」


試験会場の光景に、俺とティタは思わず声が漏れてしまっていた。


会場自体は、あちこちに黒いテントが張っており、そこで体力測定を行っている様だが……何より目を惹くのは、受験生の数だ。



(見渡す限り人……)



兎にも角にも、人である。各地から集まった受験生によって、グラウンドは”人の海”と化していた。


「結構いるね~」


呑気に構えているピスカは、のんびりと感想を述べた。その言葉に、頷いて同意する。


「力自慢達が、集まったって感じね」

「ああ、確かに」


軽く周囲に目を配るだけでも、屈強な人がチラホラと見える。



――狼男の様な青年だ。



外ハネをしている銀髪ロンゲで、背中辺りで一本結びにしている。タッパもあり、全体的に筋肉質だ。細マッチョ……と言うやつである。


頭の上には”犬の耳”が生えているが……彼の纏う、鋭利な雰囲気的に、”狼の耳”と言われても違和感がない。寧ろ、そうあるべきだと思ってしまう。


(圧倒的な野性味(ワイルド)を感じる……)


周囲を常に威圧している様なプレッシャーを放っている。明らかに異彩を放つ存在。



彼の周りだけは人がおらず、()()()()となっている。



(――まるで、元の世界の俺の様だナ?)



番長となった後の、周囲の反応を思い出し、親近感を覚えた。

仲間なんておらず、孤独のトップとして君臨していたあの頃を……。



(……フン、似合わねェ)



――何故カタルシスに浸っているのか。



奴は必ず生き残るだろう。奴の目からは――()()を感じる。獰猛で、ハングリーさを含む、野性の目だ――。



「――俺は受かるだろうか?」


「……ん、大丈夫でしょ~。筆記がちゃんと出来て、実技もそれなりに出来ればさ~」

「そうね」


後ろにいるエルルが、軽く俺の背中を叩く。


「自信を持ちなさい、マオ。私達が支えて来たでしょう?」

「そうですよ! マオさん、あたしと一緒に勉強頑張ったじゃないですか! いけますよ!」


ティタも、俺の前に立って、力の籠った目で励ましてくれた。


「……ああ、とても感謝している」

「その”感謝の気持ち”があるのなら、大丈夫ね」

「フン……」



……情けねェ事言ってんじゃねェぞ、俺。



つい出てしまった後ろ向きな発言は、俺らしくもない。みっともない。

俺は()()を決めたんだ。この世界を護ると、その為に全て関わって生きていくと。



(こんなとこで弱気は……硬派じゃねェな)



「……マーくん、ちょっとしゃがんで~?」



突然ピスカにそんな事を言われ、何事かと中腰になると、



「リラックス~、リラックス~」



背後に回られ、()()()()()、両肩を揉まれた。

ピスカなりに、俺の緊張を解そうとしてくれているのだろうか。


「お客さ~ん、大分凝ってますね~?」

「……肩よりも、中腰がキツイ」

「あらら。……お客さん肩よりも腰なんだ?」

「現在進行形でそうなってる」


芝居がかった口調で、軽快に俺の肩を揉む。


――正直、気持ち良くはない。ピスカの手は小さく、握力もない。もっとゴリゴリに揉まれた方が、気持ちはいいだろう。


「……ありがとな。少し()()()()()()

「にゅふふ、お安い御用だよん」


しかし、そう言う話ではない。ピスカは俺の緊張を解してくれたのだ。


「あ、お客さん。御代金は頂くからね~?」

「……分かってる。”合格祝い”に、何か飲み物でも奢るさ」



――入園試験など、序章にもなっていない。


さっさと実技を済ませ、俺は次のステージへと進もう。





……。



…………。



………………。



実技試験とは言っても、体力テストの様なものだった。



腕立てや腹筋等、基礎トレーニングを指定の数だけやればクリア。このレベルであれば、高校3年生の運動部でもクリア出来るだろう。



――しかしここは異世界ど真ん中だ。ただの体力テストでは終わらない。



「……『魔力量(まりょくりょう)測定(そくてい)』?」


幾つかの課目をクリアし、やって来た黒いテントの入り口看板に、そう書かれていた。


()()()()()()()()()()()()()()測定するの。一定の魔力を持っていないといけないわ」


隣に立つエルルが、分からない俺に解説してくれた。


「そのまんまだな」

「まんまね」


話しながら、順番待ちをしている列へと並ぶ。

意外と回転が速く、ちょくちょく前へと進める。この分だと、数分後には俺の番がやってきそうだ。


「……つか、俺大丈夫か?」


ふと気になった事があり、周囲に聞こえない様、エルルへと耳打ちをする。


「大丈夫よ」

「俺まだ何も言ってないが?」


クスっと、口元を隠して笑みを零すエルル。

――こういう仕草をされると、彼女が”王女”なんだと実感させられる。正直悔しい。


()()()()()()()()()()()()()()()()()……ってことでしょ?」

「……正解」


どうも、彼女は頭の回転が速い。いつも思考を先読みされている気がする。


(寧ろ、俺の思考が読まれやすいのだろうか……)



しょうがない。俺は脳筋・暴力・単細胞の不良なのだからな。



(……自分で自分をここまで卑下しなくてもいいか)



悲しくなってきた。



「魔力契約については、別に禁止されている訳ではないから、何も言われないわよ」

「そうか……あ、あと――」

「私の魔力を借りても、私の分の魔力はあるから遠慮しないで?」

「……」



……マジで悲しくなってきた。



「こう見えても、私は王女よ」

「へぇ、そうなのか」

「……マオったら、意地悪な事言うのね?」

「冗談。すまんな」


若干、拗ねたような演技をするが、直ぐにいつもの表情へと戻る。


「王女なりに、魔力は持っているって事。バンバン借りてもらって構わないわ」

「僥倖。それなら遠慮なく使わせてもらおう」


ま、俺と契約できるくらいだ。人並み以上には魔力を持っているのだろう。



「次はマオの番ね」


――そうこうしている内に、俺の番がやって来た。俺の前にいた人がテントから出て来た様だ。


「行ってくる」

「頑張って!」「いってらっしゃ~い」「ファイトです!」


三者三様のエールを頂きながら、テントの入り口を開け、中へと入った――。



――中は思ったよりは明るい。


10畳程のスペースに、試験官3人。目の前にテーブルがあり、その上には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(明らかに普通じゃねぇナ?)


異世界らしいアイテムの登場に、俺の心は僅かながら跳ねている。


「受験票の提示を」


言われるがまま、入り口の側にいた老年の試験官へ受験票を渡す。


「…………マオさんですね。では『魔力量測定』を行います」

「ウス」


一応受験票には、『マオ=ザコヤ・ド・メルン』と書かれてはいるが、試験官に反応は無かった。


(王家の名字を見りゃ、何かしらの反応があると思ったが……)



メルン王家には、それなりに親戚がいるのかもしれない。



取り敢えず、言われた通り、水晶の前に立つ様指示される。


「この水晶は『魔力(まりょく)吸収石(きゅうしゅうせき)』。魔力を吸収する特性を持った魔結晶(まけっしょう)を研磨して作り出したものです」


老年が水晶に触れると、触れた部分が僅かに白く光った。


「この様に、微量の魔力でも反応します」

「……フン」


……なんかあれだな。あの……旅館とかに置いてあるビリビリしている球体の奴。触れたトコに電撃が走るヤツ。



確か、『プラズマボール』とか言うヤツだ。アレに似ている。



「触れて、目一杯魔力を注ぎ込んでください」

「ウス……!」


エルルが遠慮なくって言ってたからな。ガッツリ借りさせてもらおう。


俺は腕を捲り、首元に触れる。


直ぐに反応は起きる。首に刻まれたチョーカーの様な模様が、熱くなっていく。

同時に、全身へ正体不明のエネルギーが滾って行く。


――魔力を異物として捉えているのではない。もう一つの”血管”として、受け入れているのだ。


「行きます!」


溢れ出る魔力の光を放ちながら、俺は水晶を鷲掴みする勢いで掴んだ!



「 !! 」



ゴオッ!! と鈍く低い音がしたと思ったら、



「……なッ!?」




()()()()()()()()()()()()()()()()()




「そ、そんな馬鹿な……」

「こんな事が事が起きり得るなんて……!」



奥に控える試験官たちが騒めきだす。その表情は驚愕。



(粉々に……なってしまった……)



鷲掴んだ途端に、砕けてしまった。

水晶の感触を確かめる前に、固形は無くなり、砂塵と化してしまったのだ。



「……あ、ああ」


目の前の老年試験官が震えている。腰をぬかし、尻もちをついたまま、俺を見上げている。



「……神」

「え?」


ボソッと呟いたかと思うと、額を地面に擦り付けた。



「神じゃあ!! 神が御光臨なさったぁ!!」



ご、ご乱心……!



は? え、どうした爺さん?


(この魔力量……相当ヤベェのか?)


俺には実感がないが、相当ドエレー結果だった様だ。嬉々として、試験官たちが燥いでいる。


「10年に1人の逸材だ……!」

「いや、100年に1人の逸材だ!」

「いやいや、1000年に1人だろう!」

「1000年に1人の青年だぁ!!」



1000年に1人の美少女みたいに言われてもな……。



「あの……いいすか?」


取り敢えずこの場を離れよう。騒がしくなってしまったからな。


「ええ、ええ! どうぞお気を付けて、お帰りなさいませ! 神!」


神言うな。

何ならこの後、俺以上の”真の神”が現れるからな。


(この調子だと、魔力量測定は合格だな)


借りた魔力だが、何とかなりそうで、真の神(エルル)に改めて感謝することとしよう。

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