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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
46/87

10時限目 やっぱり正義が勝つ



――図書棟の裏、ベンチのあるちょっとした休憩スペースに、俺らはやって来た。



俺らとは――俺、宝石箱(ほうせきばこ)(ベリル、アントラー、パール)、そしてドラゴニュート族の少女。



(どうしてこうなった……!)



業腹だが、()()()()()()()、という感じではある。



俺からこの喧嘩に、口を挟むつもりは毛頭ない。余計に絡まるだけだからな。


そもそもこれは”宝石箱VS少女”の構図だ。俺はついでに巻き込まれただけ。下手に関与して事を大きくしたくない思いが強い。



(つーか、試験前だからな!)



……こんな事してないで、勉強したい。

この俺が、()()()()()、こんなに勉強したいと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。いや、初めてだ。


「いるんだよね、アンタらみたいな人様に迷惑をかける”自己中”な奴らが」


少女が指をパキパキと鳴らす。その表情は、やはり勝ち気で自信満々である。


……それにしても、校舎裏――正確には図書棟の裏だが――連れて行かれるなんて、終末戦争(ラグナロク)以来だぜ。ちょっとだけワクワクしているのは、悲しいかな不良の性か。



()()()()()()()()()()()()()()()。その腐った()()、叩き直してあげるから!」



あろうことか、少女は中指を立て、くいくいっと曲げ挑発してきた。


人数差もあると言うのに……戦いの基本は”数”だ。物量で押し切るのが、基本だと思っている。

それだと言うのに、少女は得意げになって俺達を焚き付ける。


「~~~~ッ!!」



この仕草が、喧嘩のゴングを告げた――。



「テメ――舐めてんじゃねぇぞクラァァァァァッ!!」



真っ先に、アントラーが突撃した!

自分たちの非を一切認めず、注意してくれた善良な少女へ、容赦なく殴り掛かろうと飛び出したのだ!


(もうこれ悪の組織だろ……)


誰がどう見たって、”善VS悪”の構図になっていないか?



(正直、俺がアントラーを殴りたいぐらいだが)



「ウラァァァァァッ!!」


アントラーの愚直で過激で素直な特攻。

――しかしここは異世界。マジカルでメルヘンな()()()()()だ。




「――【根性(こんじょう)】ッ!!」




魔力の残滓を零しながら、アントラーは世界に1つの、自分だけの武器(まほう)を振りかざす!



( !? 体から蔦が!?)



魔法の発動と同時に、走るアントラーの体中から、()()()()()()()()()()()()()



「んんwwwアントラー氏の【根性】は、()()()()()()()()()()()()()()。体に巻き付ける事で強靭な鎧と化し、強力な攻撃力を得るのですなwww」



俺が具に状況観察をしていると、隣で見守るパールが解説役となってくれた。



(有難いが……魔法を隠す気は無いのか……?)



隠していた方が有利だろうに……パールに解説されちゃってるんだが?


「あー、ありゃ大怪我しちゃうね」


斜め後ろの位置に立つベリルが、どこか他人事の様に呟く。


(君は君で興味無さそうだな……)



案外、結束力のないファンクラブだな、宝石箱……。



「だぁれが腐った【根性】だッ!!」


後ろでそんなやり取りがあるとは露知らず。蔦を巻き付けたまま、少女へと肉薄する。


……確かに、蔦が全身へ絡まり、血管の如き鎧となっている。

蔦の強度はしらないが、拳は強化され、ヘビーなパンチだと想像するのも容易い。



――まるでクマの一撃。大きなヒグマの、渾身の右ストレートだ。



馬鹿正直に真っ直ぐで、強力な突撃だろう。しかし、少女は避けようともせず、むしろ()()()()()()()()()()


「その蔦、根腐れしているね?」



しまいには、軽口をたたく始末。振りかぶった拳が、少女の無防備な顔面へと――




「【逆鱗(げきりん)】」




直前で、()()()()()()()()()()()、吸い込まれるようにして、叩きつけられた!


「……あー、やっちゃった」


ベリルが呆れた表情で、溜息を吐く。

良くある事なのだろうか。何度もこういう事があったかの様な、含みを持たせたセリフであった。


「んんwwww火力は全振りが基本ですぞwwww」


パールはアントラーを称賛している様だが……。


(気になるのは……少女の反応だ)


あれだけ攻撃する様に扇動してきた少女、直前の魔法発動。

ただのおバカならこのままダウンするだろう。静観しているつもりだが、少女の手当くらいはしないと気が引ける。


――しかし、そうは思えない気持ちの方が強い。彼女の妙な自信はきっと、自分の実力を知っている事からくるものであると推察される。



ここは異世界。メルヘンな異世界。きっと、これだけじゃ終わらねェ――



「……んなっ!?」


アントラーの驚きとほぼ同時に、他の皆も驚いた。勿論、俺も同じだ。



「――言ったでしょ? ()()()()()()()()



あれだけの強力な一撃を受けて、少女は――()()()()()



――息を呑む。殴られて無傷だなんて、そんな奇跡、有り得るのか?



「……はぁ? てかはぁ? な、なんで効いてねぇ!?」

「懺悔の準備はいいかな?」


いつの間にか、少女は大きな大きな大槌(ハンマー)を手にしていた。まるで恐竜の尻尾を綺麗に切断した様な、ハンマーだ。


「ま、マジなんなん? 何なんだコレマジで!?」


軽々と、自分よりも数倍大きなハンマーを振り回す少女。

コンビニで買った傘を、雨上がりにぶん回しながら帰宅する様に、ハンマーで遊ぶ。


「い、いや! 待ってくれ――」


(……終い、だナ)


決着はついた。喧嘩相手に命乞いをした時点で、勝負は決した――



「――成、敗ッッ!!」



アントラーへと、無慈悲にハンマーが振り下ろされた!



「――――」



腹の底に響く様な重低音が、鳴り響く。ハンマーの打撃音だ。

声を上げる事も出来ずに、アントラーは地面へとめり込み、黙りこくった……。



「「「……!」」」


それは俺らも同じ事だ。


一瞬の出来事だった。

負けるとは思ってもいなかったのだろう。ベリルは呆然自失、パールは戦々恐々とし、俺は目の前の状況分析に頭の容量を割いていた。




「――()()()()()()()()()()()!」




――気付くと少女の体は、キラキラと黄金色に輝いている。

パチパチと火花が弾け、全身が常に黄金色に纏われている。ゲームに良くある”無敵状態”の様だと、漠然と思った。



その姿は――眩しくて、目が眩む。彼女の生き方は――とても眩しい。



「さ、次の相手は誰かな?」





……。



…………。



………………。



「「た、退散ッ!!!!」」

「 !? おいっ!?」



アントラーが潰れて直ぐに、ベリルとパールは一目散に逃げ出してしまった!



( !? 逃げる時だけ息ピッタリかよ!?)



仲間であるはずのアントラーを放置したままである。あっという間に、並木道の方へと消えてしまった……。


(ドエレーゲス野郎共が……!)


何なんだアイツらは……! ()()置き去りにして逃げやがって……!



(――まァ、俺も人の事言えねぇか)



今の俺の状況と、彼らは似ているかもしれない。



「……アンタが、ウチの相手をしてくれるのかな?」



黄金を振り撒きながら、依然勝気な瞳で見つめて来る。


……ま、そうなるわな。だって俺しかいねェからな。


「いや……止めておく」


両手を上げて降参の意思を伝える。無意味な喧嘩は好きじゃない。


この時ばかりは理性が勝った。流石に勝った。今ここで争う事のメリット、デメリット。俺はまず、試験を合格しなければならないのだから。


争う必要性は皆無。俺は宝石箱でも何でもないのだから――



「……情けない」



「……あ?」



少女の一言で、俺の本能に火が点いた――!



「お前、今なんつった?」

「情けないと思わない? アンタら仲間なんでしょ? 2人は逃げ、1人は降参って……どうなの?」

「(ピキピキ)」



やばい、キレそう。



クソガキ――クルルに比べたら安い挑発だとは思う。しかしながら、当時と状況が違い過ぎる。


――色々と、溜まり過ぎている。

ラリ子の件とか、宝石箱の件とか、少女の件とか、これとか――



「――()()()()()()()?」

「上等だゴラァッ!!」




全ての鬱憤が、爆発した瞬間であった。


硬派な俺に! 言ってはならない事を言った! たったそれだけで俺には喧嘩しうる理由となるンだよ!!



「ぶっ殺す!!」



全部全部ぶちのめしたらァ!!

元々暴力でのし上がって来たのだ。肉体言語なのだ。ムカついたら、殴るのみ!


「……いいね、そうこなくっちゃ!」


少女がハンマーを構える。嬉しそうに、得物を狩るような目で、俺を見ている。



――()()だ。本能的にそう思った。

コイツは、()()()()()()()



硬派(こうは)注入(ちゅうにゅう)だこの野郎!!」



――だからどうした。俺はただただ、()()()()なんだよ!!



「タイマン勝負、()っぞゴラァ!!」

「かかって来い! ()()()()!」



俺は短ランを脱ぎ捨て、上は黒のタンクトップとなり、戦闘の構えを取る。

確かに俺はキレている。が、頭は冴えている。闇雲に突っ込んでは、アントラーの二の舞となる。


「どうしたの? 威勢は口だけ?」

「しばく!」


”絶対にしばく”と言う熱い思いに支配されそうになるが、それ以上に、頭は冷静に働いていた。




――()()()()()()()()




契約により、エルルの魔力を分け与えて貰った時、魔法が宿るのを感じた。



本能で理解した。どう言う()()なのかを、生まれてすぐに理解した。



しかし、会得して直ぐに『九尾(きゅうび)世王界(よおうかい)』へと使わなかったのには、理由がある。



――()()()()()()()()()



(1つだけ……条件をクリアしたモノがある!)



今この場で――少女目がけて、ブチかます――



「!」



その時だった。少女の足元に、()()()()()()()



「なッ!?」


思わず、前のめりにして倒れてしまう。

ハンマーは投げ出されてしまい、武器もなく隙だらけな少女だけが、俺の目の前に横たわる。



「……はっはぁ、ざまぁみろや!」



埋もれていた地面から、顔だけ出してほくそ笑むアントラー。


「――ッ!!」



俺はすかさず――



「――死んどけッ!!」

「ギャッ!!」



――アントラーを全力で踏みつぶした!



「は、は? え、何し゛て゛ん゛の゛?」



顔を踏まれて、鼻血を垂れ流しているアントラーを、俺は怒りの表情で見下ろす。



「テメェ……()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……ひょえ?」



俺はもう一発、蹴りをぶち込んだ。


「人のタイマンをッ! 漢の勝負を! 邪魔すんじゃねェ!! 殺すぞ!?」

「がぁっ!? ぐぇぇっ!? お、俺だぢ、な゛、な゛がま゛――」

「誰が仲間だ! 勝手に俺を巻き込むな!」

「ぐふぅ!!」


2、3発踏みつけた所で、アントラーは小さく痙攣するだけになった。今度こそ、気を失っただろう。



「……喧嘩っつのーはな、()()のぶつかり合いなんだヨ。特に、()()()()っつーのはドエレー神聖なモンだ。何人たりとも、横槍は許されねェ」



――それが、不良界における暗黙の了解だ。破った奴は、袋叩き(リンチ)に遭うだろう。



「え、えぇ……」


何故かドン引いていた少女に、俺は向き直る。


「――仕切り直しだ。タイマン()るぞ」


俺が声を発するも、少女はどこかぎこちなさそうに、他所を向いていた。

よく見ると、青ざめている。あれだけ勇敢だった少女だが、何か取り返しのつかない事をしてしまったと、戸惑っている様だ。


「あ、あれ~? 君、宝石箱じゃ……?」

「 ?? 違うに決まってンだろ」

「じゃあ、ホントに巻き込まれたんだ……?」

「巻き込まれたが……もう関係ねぇよ」


俺は、少女へ挑発の意味も込めたガンを飛ばす。



「俺単体に、喧嘩売ったんだからナァ……?」

「!?」



ビクッと、体を震わせる少女。立派な角が、不安げに見えた。


「む、無関係な人に……ウチとした事が」


何かをボソボソと呟いたかと思うと、俺へちゃんと向き直り、



「ごめんなさい!」



真っすぐに、謝って来た。


「てっきり、君もアイツらの仲間かと……無関係な人を叩き潰すのは、ウチの()()()()有り得ないから」


しっかり頭を下げ、謝罪の意を示した。心から、申し訳ないと思っているのだろう。


赤い髪がしな垂れる。誇らしげに天を差していた角も、今では下を向き、詫びを強調している。


(……)


嘘ではない。少女の謝罪。


「本当に、ごめんなさい!」


誠心誠意の謝罪。


(……ああ)


ここで俺が受け入れれば、和解となるだろう。


勘違いされたままここまで来たが、俺が宝石箱の一員と認識されずに済んだ。一触触発の前に、相手に正しく分かってもらえた。血を流す事もなく、訪れた平和。



めでたし、めでたし――




「………………………………は??」




――じゃねェよ!! どこもめでたくねぇ!!


「オイオイ、嬢ちゃん。ふざけんじゃねェぞコラ。人に喧嘩売っといて、勝手に謝罪して、『はいそうですか』で終われる訳ねェだろ! テメェだけ気持ちよくなってんじゃねぇぞッ!?」

「っ! だ、だから! それは申し訳ないと思ってて……!」

「申し訳ねぇと思うなら俺と喧嘩しろや!!」


俺はエルルとの魔力契約を呼び起こす。首筋から全身へと、エルルの魔力が流れていく。


「テメェは言っちゃいけねぇ事を言った……我慢のならねぇ事だ!」

「わ、分かったから落ち着いて! ウチが何か()()を踏んじゃったんだね?」

「地雷なんかじゃねぇ! 俺の掲げる信念そのものだ!」


滾るエネルギーを、周囲に散らしながら、俺は少女の前に立つ。



「――かかって来いよ。俺がテメェの正義、歪まして()るからヨ?」



「~~~~ッ! ごめんなさ~~~~い!!」



「! 待てやゴルァッ!?」


怯えて逃げ出す少女、鬼気迫る表情で追いかける俺。

俺が少女を見逃すまで、この鬼ごっこは続いたのだった……。

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