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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
43/87

7時限目 あなたに知ってもらいたくて



「やっば~☆ 遅れちゃったぁ~☆」



今日は、ヴァルヴァラ学園の入園試験の日。

学園の並木道の隅っこを、コソコソと歩く影があった。



(まさかこんな所を1人、()()()()()がいるなんて誰も思ってないよねぇ?)



――彼女の名前は『ランコ・スプラゴン』。巷で話題の、『アクアマリン』のアイドルであった。



可愛らしい容姿に、小悪魔な言動。小さな口から発せられる、愛らしい甘い声は、幾人もの人々を虜にしてきた。


そのあざとさは、「幾らでも貢ぎたい」、「一生養いたい」、「彼女の財布になりたい人生だった」、「いつの間にかお兄ちゃんになっていた」等、老若男女問わずメロメロ。投げキッス1つで、ライブ会場では紙幣が空を舞い、彼女を応援する紙吹雪と化す。


更に彼女はファンの人達を、『お兄ちゃん』、『お姉ちゃん』と呼び、国中に我こそは兄、姉と言わしめる人を続出させている。



――『可愛さの最終形態』、『あざとさの臨界突破』、『史上最高の妹』とその名を轟かせていた。



有名人である彼女は、試験会場でパニックが起きない様、キャスケット帽を深く被り、華々しい衣装からかけ離れた、シックな衣装で変装をする事にも抜かりない。


(アイドルとして、変装は当然ッ☆ ランちゃんは自分の身を弁えているのです!)


アイドルとしての意識もしっかりとしている。危機管理能力にも長け、ちょっとでもイメージダウンに繋がるような事は一切しない。


特に気を使っているのは『異性との交流』。男性と一緒にいる所なんて撮られたら目も当てられない。彼女はアイドルと言う”偶像”を理解しているからこそ、その辺りは徹底し、避けて生活している。


ファン評価が高いのは、そういうアイドル意識もあっての事だった。スキャンダルは無く、男の影が見えない事から、彼女は神の域まで信仰されているのだ。


これはアクアマリンと言うアイドルグループに言える事だった。ランコだけでなく、クールなお姉さんキャラの『リップ・ウンディウス』や、不動のセンターで幼馴染キャラの『トレア・ヴァンジーニ』も、アイドルとして徹底していた。


(アイドルとは……穢れ無き純白。ランちゃんは身も心もアイドルなのだ!)



()()()()()()()()()()()――それこそが、アクアマリンの武器であり、象徴であった。



――並木道から外れ、憩いの場へ。


一面芝生の海である。噴水やベンチ、西洋風の東屋であるガゼボと、ゆったりした時間を過ごすのにぴったりなスペースである。


中央付近には屋台が並んでおり、ちょっとした軽食を楽しむ事も出来る。


(あれれ。ちょっと道、間違えちゃったかも?)


受付に向かうはずが、ランコは謝って憩いの場に出て来てしまったらしい。

勉強している受験生がチラホラと見える。だが、誰一人として、ランコと気付く者はいない。


(あは☆ 変装はバッチリだね!)


帽子の1つでも取ろうものなら、人々が押し寄せる事になるだろう。ランコは帽子の位置を調整し、早々に立ち去ろうと決めた。


(……う~ん。喉が渇いたなぁ)


――決めたのだが。屋台の1つに飲み物売りがあった。それが目にはい入り、急に喉が渇いてしまった。


(トレアちゃんとリップちゃんには悪いケド……☆)


アクアマリン、3人でやって来たのだが、ランコは車の中でちょっとだけ変装に手間取った。そのせいで遅れてしまい、2人を待たせている形になっているのだが……。


喉が渇いたのなら仕方ない。これは生理現象。乾いてからじゃ遅いんだから、と自己弁護をしながら、飲み物売りへ足は向かった。


――そのせいだろうか、横から来ていた人に気付かず、ぶつかってしまった。


「キャッ!」

「 !? おっと……」


慌てて受け身を取ろうとしたが間に合わず、地べたに尻もちをついてしまった。


「いてて……」

「……悪いな」


目の前の人が謝る。見下ろされる形だ。


「いや――」


余所見をしていた自分が悪いと思い、ランコは素直に謝ろうとして――気が付いた。



(! ぼ、帽子が!)



やけに視界が開けていると思ったら……肝心要の帽子が取れてしまっていた。


ぶつかった衝撃で落ちてしまったのだろう。油断していた。飲み物に気を取られ、こんな所で身バレしてしまうとは。


「あ……え~っとぉ」


取り繕う事も出来ないだろうと、ランコは頬を掻く。ランコは超有名人だ。誤魔化しも効かない。どうにかこうにかパニックを治めようと、頭を働かせる。



「サイン書いてあげるから、ランちゃんがここにいるって事はぁ、内緒にしてくださいねぇ☆」



……咄嗟の判断にしては上出来だろう。ファンサしつつ、騒がれない様に先手を打つ。

こちとら百戦錬磨のアイドルなのだ。状況判断能力が違うのだ☆ と自己評価。


これでも騒がれてしまったのなら仕方ない。学園の運営を呼び、この場を宥めてもらおう。


(あは☆ 完璧な作戦だよ!)


どうなる事かと思ったが、何とか機転がきいて良かった。


さて、相手はどうでるか……? ランコは相手のリアクションを待つと……予想もしない返事が返って来た。




「は? いらないけど……」




(!?!?!?)





……。



…………。



………………。



外に出た俺は、適当にブラついていると、ちょっとした広場に出てしまった。



そこには屋台が立ち並び、ファーストフードの様に、手軽な飯を味わえるようだった。


(そういや……喉が渇いたな)


喉が渇いた……それを意識すると、今すぐにでも飲みたい衝動に駆られてしまった。


この世界には自販機が無い。だが、飲み物売りの屋台がある。

目の前でフルーツがプレス機の様なモノで圧し潰され、生ジュースが味わえる。


丁度、飲み物売りが視界に入った。喉を潤そう、そう決めると、真っすぐ目的地へと足を向けた――。



「キャッ!」

「 !? おっと……」



急に、脇から出て来た人がぶつかってきやがった。とは言え、向こうの方は俺よりタッパが無く、重量も無かった様で、相手だけが尻もちを付く形となった。


「いてて……」



――少女である。ぶつかった拍子に帽子が取れた為、少女だと判断出来た。



肩くらいまで伸びた、海の様に青い髪を、左側頭部で括ったサイドテール。白い貝殻の髪留めで括っている。


気弱そうなタレ目も、髪色の様に澄んだ青色をしている。


耳は魚の様な耳ヒレ。そして星形のピアス……ヒトデモチーフだろうか。


服装は野暮ったいが、顔の造形だけで、この子が可愛い部類であることは明白であった。



(見た目からして、恐らく『マーメイド族』と言う奴だろう)



人魚の様な特徴のマーメイド族。実物を見たのは初めてであるが、本当に陸で動けるんだな……。


(普通に足あるしな)



魔法って何でもアリなのだと、改めて実感する。



(中坊くらいか? どっちにしろ年下だろう)


「……悪いな」


一応謝っておく。まぁ、一方的にぶつかられたのは俺の方だが、客観的に見ると、多分俺が悪者に思われるだろうな。


(不良の悲しい性だな……)


俺が謝ると、少女は申し訳なさそうに手を振った。


「いや――」


何かを言いかけた途端、少女は急に頭へ手を乗せ、オロオロと辺りを見渡し始めた。


( ?? 何だ?)


見た所、落ちている帽子に気付き、突然慌て始めたという印象ではあるが。


「あ……え~っとぉ」


思ったより、()()()()()()()()()だな、と分析していると、少女は意を決した様に、とびっきりの笑顔を見せてきた。



「サイン書いてあげるから、ランちゃんがここにいるって事はぁ、内緒にしてくださいねぇ☆」



(は?)



急に何言ってんだ、コイツ。やば。



「は? いらないけど……」



なんで知らない奴から突然、サインを貰わなきゃならないんだ……気味悪いな。


ちょっと引いていると、少女は慌てて立ち上がった。


「な、なんでそんな意地悪言うんですかぁ~☆ ぶつかっちゃったお詫びでぇ、特別にサイン書いてあげますよぉ?」

「え、いらんし」


え、怖。初対面でサイン書かれるとか……新手の詐欺か?


「………………!?」


愕然としている少女である。まさかサインを書かせてくれないとは……そんな表情をしているように見える。


(ヤバい奴だ……)


ギャンブル狂いのピウとは、別次元でヤバい奴だと認識した。俺は少女を無視して、飲み物を買う事にした。


(こういう手合いは、触れないに限る)


俺が人生で得た経験の1つである。『ヤベェ奴には関わるな』。


「なんで無視するんですかぁ~~~~!!」

「うおっ!」


急に肩を掴まれ、流石の俺も驚いた。

コイツ……()()()()()()()()()()()()の、ヤバい奴だ。


思い出すのは、俺の地元の『桔梗学園(ききょうがくえん)』にいた、『人斬りラリ男』こと『岡田』と言う奴だ。


コイツは相当、頭のイカれた奴だった。興奮すると、手当たり次第にナイフを振り回すラリった男で、何人もの不良が病院送りになった事を覚えている。


……最終的に、俺が正面からぶちのめし、牢へぶち込んでやったけどな。


(コイツも同じ様な匂いがする……!)



”ラリ男”ならぬ”ラリ子”である。こういう手合いは、対処が面倒なのを知っている。



「ランちゃんのサインですよぉ!? 普段はぁ、ライブの時しかやらないサービスなんですよぉ!? それでもいらないんですかぁ!?」

「おう」

「……!?」


いるか! そんなもん!

つーか何だ? ライブ? 何の話をしている?


まるで俺が、()()()()()()()()()()()()()()()()()な感じで、言われている気がする……。


(……ハッキリさせておこう)



「てか、誰?」

「……………………!?」



あんぐりと口を開け、この世の終わりみたいな顔をしている少女。一体何なんだよ……。


「別に、ぶつかられた事に関しては気にしてねェから。ま、そう言う事で」


さっさと会話を打ち切って、今度こそジュースを――



「え、えええええええええ!?!? ランちゃんの事、知らないんですかぁ~~~~!?」



……ッ! うるっせェ……! 耳がキンキンしてんぞ!? 多分鼓膜5、6枚破れたと思う。


(んん? 何か最近、誰かに似たような事を、言われた気がする……)


一瞬既視感があったが、仁王立ちする少女に気を取られ、記憶が脳内の片隅の方へと流れて行った。


「分かりました! 分かりましたよぉ! そこまで惚けるのなら、ランちゃんとしても考えがあります!」

「いや惚けてないが……」

「あは☆ 意地悪なお兄ちゃんですねぇ☆ 仕方ないです。いつものアピール、生でやってあげますっ☆」



――この時、ランコは「意地悪なファンが()()()しらばっくれている」と言う考えであった。


サインなんかじゃなく、もっとファンサしろ、そう要求されているものだと深読みしていたのである。



(上・等・です☆ 幾千ものファンの要望に応えられなければ、アイドルとして失格! 見せてあげます! そして、もぉーっと虜にしちゃいます☆)



ランコは燃えていた。今、目の前にいる『お兄ちゃん』を満足させるアピールを、トップアイドルとして、見せて付けてやる、と。



対する真魚は――



(コイツしばいて早くジュース飲みたい……)



喉が渇いていた。



――胸に手を当て、大きく息を吸う少女。仕方なく、少女のアピールとやらに付き合う事にした。


「よっし☆ いっくよ~~~~!!」


可愛らしい笑顔を振り撒き、




「はぁ~~~~~~い☆ あざとさはぁ、正義なんだよ? みんな、みぃ~んな、ランちゃんの虜になっちゃえ~~☆ 皆の妹☆ ランコ・スプラゴンだよぉ~~☆」




アイドルっぽい前口上を言い放った!




「いや誰だよ!?」

「何で知らないのぉ~~~~~~!!!!」




ガクッと崩れ落ちてしまった少女。その背中には、どうしようもない悲壮感が溢れ出している。

この隙に、俺はすかさずフルーツジュースを注文する。


「……お客さん、中々の強者だね?」


出来上がったジュースを貰う際、店主のおばさんにそんな事を言われた。


「頂きます」


フルーツジュースの入った瓶に口を付け、一気に流し込む。


「くぅ~~~~ッ!!」


喉が一気に潤う。カラカラだった砂漠に、突如出来上がったオアシス。

乾ききっていた喉が、一気に大海原へと世界が変わった。


「……ふぅ」


当初の目的を果たして満足だ。さ、もう少しこの辺りを散策――


「あ、あは☆ 分かりましたぁ……」


――移動しようとした時だった。

ゾンビの様に、ぬるっと立ち上がった少女は、俺をビシッと指差すと、




「あなたを! 絶対に! ランちゃんの『お兄ちゃん』にして見せますぅ!!」




謎の宣戦布告をされたのだった……。

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