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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
41/87

5時限目 アンチラッキースケベ



――結局、晩飯前のつまみ食いは断念。



「はぁー……」


すごすごと戻る。


足取りは重く、まるで俺の周囲だけ曇っているかの様な、湿り具合である。

今なら湿度100パーセント越えも狙える。それ程、気分は落ち込んでいた。


(あのハッカって子……要注意だな)


理由は知らんが、俺に敵意の視線を向けていたメイド、ハッカ。今後は城内でも、警戒が必要だろう。


()()()()()()っつーのは、俺を()()()()()()()という事だろうからな)


自分でも、やや歪んだ解釈だとは思うが、そう言う事だと考えている。



こう見えて俺は、百戦錬磨の喧嘩野郎。挑んでくるなら返り討ちにするだけだ――



(――いやいや、何で喧嘩腰になってんだ俺……)



恐らく空腹で、腹が立っているのだろう。頭を使い過ぎて攻撃的になっている。


髪をかき上げ、雑味のある思考を取り除く。


「取り敢えず、晩飯までベッドに寝転がるか……」


休もう。んで、飯食って今日は早く寝よう……。



――そうして。


気分萎え萎えのまま部屋の前まで戻ると、()()()()()()()()()が、扉の前にいた。



「いやいや……今日は随分と、色々起こるナ?」



厄日か?



――()()()()()()みたいな生き物である。しかし、亀と言うには、些か珍妙である。


一般的な亀の甲羅はある。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()


四肢はある。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()である。胴体の円柱に、4つの円柱が右腕・左腕・右足・左足としてくっ付いている様な感じで、胴体の背中には普通の甲羅がある。


顔はある。が、胴体の円柱が伸びて顔になっている。それも、赤く光る両目しか分からない。



――これだけの情報で、()()()()()()()()()()と言うのが伝わるだろう。



そんな、亀っぽい謎生物が、俺の部屋の前で立ち塞がっていた。仁王立ちである。



あれだ……ゲームとかで扉を守っているボスみたいな感じだ。……子犬程度の存在感だが。



「おう、何か用か?」

「……」


恐る恐る、俺が声をかけ、近づいても……動じない。中々肝の座った生き物である。

正直、膝下ぐらいの大きさな為、跨げば部屋の中へ入れそう。


「悪いな、亀(?)ちゃん。ここ俺ん部屋だからよ。ちょっと邪魔するぜ」

「……」


返事は特にない。屍ではないが。

右足を高らかに上げ、謎亀を跨いで扉を押して中へ入る――


「 !! うおおっ!」



上げていない軸足の方に、あろう事か、突然抱き着いて来た!


「危ねぇな!」


バランスを崩しそうだった為、部屋へ入るのを諦め足を下ろした。


「……」


何も言わず、俺の足にくっ付きやがって……コアラかっての。

地味にぬめぬめとした皮膚により、自慢のボンタンズボンが薄っすら濡れる。


よく見ると、両手の先には5本指があり、鋭く尖った爪があった。



( !? 爪がボンタンにめり込んでんじゃねぇか!?)



「ちょ――オイオイオイ! ボンタン駄目んなるだろ!」


慌ててボンタンから亀っぽいブツを引き剥がそうとするが……爪が食い込み離れない。


「……」


ぼんやりと光る赤い目だが、絶対に離れないという意志を感じる。


「何がしたいんだよ……」


石の様に密着して離れなくなってしまった謎の亀。


(……敵意がないだけ、面倒臭ェ)


俺に牙を向けて来るなら、問答無用で蹴り飛ばすのだが、そう言う訳でもない。

一瞬、ボンタンを犠牲にしてしまおうとも考える――


(ハッ―― !? )


ティタが夜なべして、ボンタンを縫ってくれるイメージが浮かんでしまった! 流石にティタに申し訳ない……。


どうするべきか。いっそこのまま部屋に戻ってしまうか? まぁ、別にそれでもいいわな……。



「――はぁ……何してるんですの?」



部屋に入らず、立往生して考えていると、背後から声をかけられた。

この小憎たらしい喋り口調は……。


(アイツしかいないよナ?)



振り返ると――やはり、クルルことクソガキだった。



腰に手を当て、しかめっ面でこっちを見ている。いや、見下している。


「何って……見りゃ分かんだろ? 亀に襲われてるんだ」

「はぁ? 頭大丈夫ですの? 頭ざぁこ?」

「お前よりはマシだ。”(ワン)ちゃん”?」

「……(ピキピキ)」


一々俺に突っかかって来なきゃいいのに……暇なのか?


「足元見ろよ。この子が俺に夢中らしい」

「はぁー? 自意識過剰ですわね。誰が不良(クズ)なんかに――」


いつもの様に俺への罵声を言いかけ……謎亀を見て声を止めた。



()()()()()()!?」



……は? え、何?


俺が面食らっていると、クルルが謎亀の元へしゃがみ込んだ。


「もーっ! 探したんですわよ! ほら、わたくしの部屋へ戻りますわよ?」

「……なんだ。お前の”ペット”か」

「ペットじゃないですわ! わたくしの”お友達”でしてよ。名前は『カメメちゃん』」


しゃがんだまま、俺を見上げ睨んでくる。相変わらず、威勢の良い事で。


「なら、早くお友達を連れてってくれないか? 部屋に戻りたいんだけど」

「言われなくてもそうしますわよ!」


憤慨しながら、カメメちゃんへと両手を伸ばす。


「ほら、カメメちゃ~ん。そこの薄汚いゴミから離れて、家に帰りますわよ?」

「キレそう」


年甲斐もなく年下しばくぞ?


「……」


クルルの伸ばした手を、只々見つめるだけのカメメちゃん。


「見事に懐いてないな……」

「そ、そんなはずは……!」


愕然とした表情で、床に座り込んでしまうクルル。

何でもいいけど、早く解放して欲しい。



「くっ……やはりまた”血”が受け入れられなかったのですわね……」



おっ、中二か?



「お前、何拗らせてんだよ。分かるけどな、そう言うのに憧れんのは」


かく言う俺も、中二を拗らせていた時期があったな……。

自分には隠された力があり(設定)、闇の必殺技をノートに書き連ねてたっけ。


更に、その闇の必殺技を会得すべく、夜の街を意味もなく散策してたっけ。んで、街行く人に『大いなる闇に気を付けよ』って忠告してたっけ……。




………………。




駄目だ。死にたくなる。



「別に拗らせてなどいませんわ! これは()()()()()のせいですわ!」


俺が昔の思い出に殺されそうになっているところに、クルルが忌々しそうに言ってきた。


「血筋?」

「メルン家の血筋には、『魔物特効(まものとっこう)』の素質があり、魔物に嫌われやすくなるのですわ」

「へぇ?」

「あなたの『界塵特効(かいじんとっこう)』の魔物版ですわね」


……そんな素質が眠っているのか、メルン王家には。


何気なく、首元の模様をなぞっていると、クルルが目敏く指摘する。


「あなた、エルル姉様と契約したでしょう? 王家の血は、魔力にも含まれる。つまりあなたが魔力を借りる度に、『魔物特効』が得られると言う訳ですわ」

「 !! 俺にも恩恵があるのか」


つまり俺は、魔力を借りた状態だと『魔物特効』、『界塵特効』の力を持って戦えるのか。



素晴らしい事だ……そうだよな?



「話がズレてしまいましたわ……要するに、『魔物特効』のせいで、わたくしはカメメちゃんに避けられやすいということですわ」

「あっそ」

「あ゛?(ピキピキ)」


クルルが避けられやすいのはどうでもいいが、良いことを聞いた。俺の戦力の一つとなるだろう。


「つーか、こんなナリで魔物なのか」


ビッと、カメメちゃんに指を差す。こうして話している間も、俺から離れてはくれない。


「『カメライミュ』……という、魔物ですわ。『ライミュ』って言う魔物の亜種ですわね」

「フン。ライミュっつーのも、こんな感じか?」

「甲羅が無く、もっとドロドロしてますわね」


ライミュに、カメライミュ、ね。

ワーグ族で言う”○○ベース”みたいなものだろう。カメベースのライミュ、みたいな。


「ライミュには他にも亜種がいますわ。中でも有名なのは、愛くるしい仕草の『ネコライミュ』――」

「はぁ、どうでもいいな。それより早く、この子取ってくれよ」

「あなたから聞いておいて……! ふんっ! 言われなくても分かっていますわ!」


俺の一言に苛立ちながら、クルルがカメメちゃんへとにじり寄る。


……ふと、小さな疑問が浮かんだ。



(そういや、カメメちゃんは魔物なのに、なんで城の中にいるんだ?)



城には『神聖結界(しんせいけっかい)』と言う、魔物や界塵を寄せ付けない結界が張られているはずだ。

魔物であるカメメちゃんも例外じゃないと思うのだが……。



尋ねてみようとしたが、既に事態は動いていた――。



「ぅカメメちゃぁ~ん。お家に、帰りますわよ~?(高音)」

「うわ、きつ……」

「あなた!! 聞こえてますわよ!!(激高)」


思わずガッと、俺に吠えてしまうクルル。


「!」


その声にビビったのか、カメメちゃんは俺の足から離れ、一目散に逃げ出してしまった。


「あ、カメメちゃん!」


慌てて手を伸ばし、捕まえようとするクルルだったが――



「! きゃあっ!」



カメメちゃんの残した粘液に足を取られ、すっころんでしまった――



「 !? うおっ!」



――俺の方へ。



派手な音を立てて、2人共倒れてしまう。


「――ってェなぁ……」

「それはこっちのセリフ……」



お互い悪態をつきながら、状況を確認して――固まった。



「ちょっ……おま!」

「! ふしゃああああああああ!! キモいキモいキモいぃ!!」

「テメー!! 早く離れろや!」

「分かってますわよ――あ、あれ? 回した手がっ! 離れないっ!」

「 !? 」


カメメちゃんのくっ付いていた左足を見ると、その部分だけ()()()()()()()()()()()


(アイツの粘液のせいかッ……!)


「ど、どうして! 手が! 離れない!」

「 !! ちょ、おま、あんまグリグリすんな……!」

「したくてしている訳じゃありませんわ!? ()()()()()()()()!!」

「誰の”ナニ”が小汚いってェ!? ”硬派”の塊だぞ!? ダイヤモンド級だぞ!?(?)」

「それ聞いて誰が”綺麗”だって思うんですの!? クサキモいぃ!!」

「よっしゃ、逆にグリグリしてやる」

「ぎゃあああああああああああああッッ!?」



「あれ~? あそこにいるのは……マーくんとクルル様?」

「何してるんですかね?」

「おーい! マーくん! クルル様~!」


OH……最悪なタイミング。

向こうから、無邪気なピスカと無垢なティタが、俺らを見つけて駆けて来た。


「! ま、マオさんっ?」

「あー……」



――俺の股間に顔を埋めるクルルを見て、2人も固まった。



「な、ななな何を!?」

「ち、違いますわよ!? そう言うのじゃありませんからぁ!!」

「いやー、マーくんの腰に両腕回して、ガッチリホールドして()()()に顔くっ付けてるのは……ちょっと無理があるんじゃないかな~?」

「そうですよ! なんて羨ま――けしからん事ですっ!!」

「――ティーちゃん、今何言いかけた?」


「とにかく違いますのよ!! 違うんですわあああああああ!!」

「それなら早く、離れてくださーーーーい!!」「それなら早く離れてよーーーー!!」



……あー、やっぱり厄日だったわ。





……。



…………。



………………。



――5月8日。本日も晴天なり。



外の天気と同じく、晴れやかな気持ちで机に向かう俺。

時折窓から吹いてくる風が、一服の清涼剤になっている事は明白であり、俺の心もメンソールの如く涼しげである。


入園試験はもう明後日だ。勉強に筋トレと、ラストスパートをかけている。


(間違いなく、過去一で勉強している……!)


次々と過去問題集のページを書き進めていく。とかく進軍である。


(恐ろしいスピードだ。スラスラと解けてしまう!)



――自負がある。勉強し、賢くなりつつあるという、自負がある。



(イケる。イケんぜ入園試験!)




――この自負が、俺を羽ばたかせてくれる。そう、学園と言う、大空へと……。




「――ハッ!?」



「あ、起きた」


俺の顔を覗き込んでいたエルルと目が合った。

目を覚まし、ベッドから飛び起きる。周囲を見渡し、ここが自分の部屋だと知った。


「――なんだ、夢か」


猛勉強している夢を見た。

……何て言うか、夢の中でまで勉強しているなんて……終わってんな、俺。


「ふふっ、元気な起床ね?」

「……恥ずかしい所を見られたな」


恥ずかしさを誤魔化す様にして背伸びをする。節々が小気味よい音を立てる。


ふと、エルルを見る。いつにも増して、ちゃんとした格好だ。

純白のドレスが目に映える。あと、桃色の髪も。


「お早う、マオ。調子はどう?」

「……ぼちぼちだな」

「ふふっ、そればっかり」


クスクスと笑うエルルだが、やはりいつもよりお嬢様感が強い。


どう言う事かと少し考え、壁のカレンダーを見て……ようやく頭が冴えた。



「――そうか。今日が本番か」



5月10日、日曜日。今日が、入園試験本番の日であった。



「何? まだ夢を見ていたの?」

「今日が8日の夢を見ていた」

「あら、じゃあマオは2日未来へ進んだのね」

「2日間の記憶が飛んだとも言うな」


余りに過酷な勉強地獄に、脳が少し狂ったのだろう。なぁに、かえって丁度いいくらいだ(?)


ゆっくりと支度を始める。同時に、エルルが部屋から退出――


「ねぇ、マオ」


――しようとして、入り口で立ち止まった。


何事かとエルルを見ると、マジな顔をしていた。




「私、マオに認めてもらえるように頑張るわね!」




「……何の事だか、分からないな」

「ふふっ! じゃあ下で待ってるわね!」


それだけ言って、部屋から出て行った。



……思える日が来るのだろうか。俺が、エルルやティタ達を――。



「……フン。とにかく、準備だな」


まずは進もう。入園試験合格が、俺の番長への道の、第一歩となる――。

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