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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第2章 ヴァルヴァラ学園
40/87

4時限目 5兄妹、怪しいメイド



「……そう言えば、マオはどっちになるのかしら?」

「何が?」

「”兄”か”弟”」



王家の間から出て、長い廊下をエルル達と歩いていた。

先陣を切るクルルの後ろに俺とエルル、最後尾をヴァルドという布陣である。


「マオ、歳は幾つ?」

「15」

「あら? じゃあ私の1個上ね」

「前に話したろ」

「そう?」


初めて解体室に行った時だったか……確か話した。


(ま、コイツの事だから、興味無くて覚えて無かったんだろうな)



「じゃあ――私にとって『マオお兄様』って事になるわね」

「ぶっ!?」



うおおおおおッ!? 背筋が一気にぞわっとした!


味わった事のないむず痒さに、思わず背中を掻く。俺が苦しんでいる様子を見て、エルルが面白そうに微笑んだ。


――まるで悪魔の様な微笑みである。


「……なんでそうなる」

「養子に入ったという事は、私達義理の”兄妹”でしょう?」

「”戸籍上は”そうだが……」


敢えて『戸籍上』を強調するも、返って嬉しそうなエルル。やはり悪魔。

ニヤニヤと笑う姿に、俺はブルブルと体を震わせた。


「兄妹だなんて勘弁してくれよ……杯を交わした訳でもねェのに」

「そういう問題?」

「そういう問題なんだよ、俺にとっちゃ」


()()()()()も大切だが、俺にとっては、()()()()()()()()()というのも大切だ。


(まぁ、ある意味では、契りを交わしたと言えなくもないが)


「そんな寂しい事言わないで、()()()()()()()?」

「げぇーーッ!?」


わざとらしく吐く素振りを見せるが、やはりエルルは動じなかった。むしろそういうやり取りを楽しんでいる節がある。


「でも、エルルの言う通り、俺らは兄弟になったんだから。新たな敬称は必要かもね」

「ちょっと、ヴァルドさんまで……」


俺達のやり取りを、呑気に後ろから見ていたヴァルドも、乗っかって来る。


……意外とノリの軽い奴だナ。


「止めてくれ、今更」

「えー、面白いじゃない。()()()()()()()()()()?」

「はぁ? んだそれ……」


俺とエルルの仲か…。

魔力を分けて貰う契約はしたが、”友達”と言う訳ではない。多分。()()()()()()()()()()()()()()


かと言って、”他人”と言うには距離が近い。他人以上、友達未満みたいな。



――一瞬、『仲間』という単語が浮かんだが、それこそ有り得ない。



(……フン。馬鹿か俺は)


()()()()()。単純にそれだ。

前にピスカやティタに言われたが、俺に仲間なんて言葉は似つかわしくない。


独りでいいとは言わないが、仲間なんて陳腐な括りでカテゴライズして欲しくない。


少し悩み、俺はこう返す――




「――()()()()()が、いきなり『お兄様』とか言ってきたら変だろ?」




知ってる奴、”知人”。まぁ、俺とエルルは知人だ。それだけ。




「……そう」




俺の()()()()()()に、エルルが少し寂しげに笑った。



(別に、これでいいだろ……)



良く分からない罪悪感を覚えた気がした。だが、良く分からないから捨て置いていいだろう。

……白けるぜ、まったく。



……。



間違った気が、しないでもない。でも……。



…………。




「……チッ」


……気にしてもしょうがないので、気にせず放置して歩く。


とっとと自分の部屋に戻りたい。自然と早足になっている自分がいる。


(女々しいんだよ一々……! ”硬派”の癖によォ!)


やや乱暴に髪をかき上げる。思考はフラットに、冷静に。


「――という事は、真魚君は俺の”弟”って事になるんだね」


妙に優しい表情のヴァルドが、俺に歩調を合わせ、横並びで話を続ける。


「……そうっすね。()()()は」

「やけにそこを強調するね?」

「いや普通するっスよ」


俺みたいな平民代表が、いきなり王族と家族(ファミリー)とか……ギャップで風邪ひくわ。


「ははっ。お堅いね、真魚君は」

()()()()()


俺の常套句を告げると――なんと、ヴァルドは感心した様に喜んだ。


「! なるほど――()()ね」

「 !? 」



……え!? 分かるのか!? 硬派が!



しっかりと、両の眼でヴァルドを凝視する。



――見定めなければならない。硬派な漢として。



「……?」

「……!」


言葉を交わさずとも、硬派な漢は目を見りゃ分かる。

本物か、偽物か。俺レベルになると、分かっちまうもんなんだ。


第一、硬派っつーのは、ただの言葉じゃないんだ。様々な意味が含まれた、”言葉”にして”概念の一種”なんだよ。


言葉で理解しようとすんじゃねェ。いや、理解できる訳がねェ。

言葉の中に内包された真の軸を、雰囲気で理解できなきゃ……硬派は向いてねェ。インスピレーションが重要だ。


「……………………」



鑑定士の如く、ヴァルドの瞳のその奥を覗き、反応を見て――理解する。



「宜しく頼んます、()()

「……真魚君!」



この人は、()()()()()()()()()()()()()



「ああ!」


破顔して応えてくれた。俺の左に並び、右腕を肩へ回して来た。


「宜しく、兄弟!」

「ウス!」


俺、結構タッパあるはずだが、ヴァルド兄貴もでけぇな……。


EP(エルルフォン)は持ってるかな? 連絡先交換しよう」

「お、いいスね」


覚束ない手で番号を交換し、何時でも連絡出来る体制となった。


「宜しくね」

「こちらこそ」


――改めて、ヴァルド兄貴をしっかりと観察をする。

デカくてイケメンでアースヴァンズ第10席の王子であり――俺の挑むべき()()()()だ。



(――そして、硬派を理解している人)



俺は生涯の兄貴と出会えたのかもしれない。記念すべき今日の日を、『兄貴記念日』と名付けよう!



(きっしょい事、考えてそうですわね……)



前を歩くクルルが、嫌悪感に満ちた顔で見ていたが、気にしない事にしよう。





……。



…………。



………………。



――部屋へ戻り、暫くして。



(腹減ったな……)


夕食前だが、どうにも腹の虫が治まらない。

恐らく、先程までみっちり勉強をしていたせいだろう。頭を使うと腹が減る。当たり前の事だ。


食堂まで廊下を歩くと、せかせかと走り回るメイドをチラホラ見かける。


――夕食の時間が近いから、その準備だろう。


そんな中、悠然と歩く俺はとんでもなく場違い感がある。しかし、空腹は恥をも超える欲求だ。


(流石につまみ食いをしたら怒られるだろうか……)


小坊が、晩御飯前に台所へこっそり侵入し、バレない様におかずをパクる心境の元、歩を進める。


「……ん?」


腹を摩りながら歩くこと暫し、下への階段に差し掛かったところで……視線を感じた。


悲しいかな、番長時代の名残で、人の視線には敏感なんだ。いつ喧嘩を売られるか警戒する必要があったからな。


視線は背後からである。善意か悪意か、どうかは分からない。


(……いや。善意だったら、後ろから睨む必要もねぇわな)


自慢じゃないが、敵は作る事があっても、味方を作る事なんてそうそう無い。



……本当に自慢じゃないな。


(一気に振り返って、その(ツラ)を拝むとするか……)


階段を降りたところで、予備動作無しで振り返ってやろうじゃないか。



(3……)



脳内でカウントダウンを始める。不審な動きは一切見せない様心がける。



(2……)



ま、大方ピスカかピウだろう。この城において、危険な敵が紛れ込んでいるとは思えない。どうせ悪戯目的だろう。



(1……)



かと言って、早々にやられる俺じゃねぇ。偶には俺もやり返したい。



(……0 !! )



―― 一気に振り返る。視線の主はきっと階段の途中にいるはずだ!



「……っ!」

「……あ?」



確かに、俺を注視していた人物がいた。しかしそれは、予想していた人物達では無かった。



「あ、え、えーと……」


おかっぱのメイドである。丸っこい耳に猿の尻尾のワーグ族メイド。……見た事あるな。名前は確か――



「……ハッカ?」



そんな名前だったよナ? なんか一回、変なアイドルの動画を見ていた時に来た、新人の子だ。


「……! あ、ああはい。マオ様がご存じだったとは……光栄です」


正解だった様で、礼儀正しくペコリとお辞儀した。俺の元へと、テンポ良く駆け降りて来る。


「そういう君も、俺の事を知っている様じゃないか」

「あ、わたしは偶々、ティタ先輩とモイナ先輩が喋っているのを耳にしたので……」

「ティタとモイナが?」

「あ、はい」


……。

え、ちょっと気になる。あの2人、俺の何の話をしていたのやら。


(……ま、いいか)


どうせ碌な事じゃないだろうし、徒に情報を頭へ入れる必要はないだろう。


「……で?」

「? 『で?』とは……?」


不思議そうに首を傾げるハッカ。特に不自然さのない動作だが……。


「いや……君、俺にガン付けてなかったか?」


単刀直入に聞く事としよう。お城のメイドさん相手に、回りくどい事をしてもなぁ。


俺の問いかけの意味が、理解出来ていない模様。ぽかんと口を開けている。


「あ、え……? 『ガン付ける』って?」

「ああ、ほら。威嚇っつーか、俺の事ジッと睨んでなかった?」


実際はジトーーーーッと、だが。

パンピー向けに分かりやすく翻訳した事で、漸く理解し、狼狽えながら手を横に振った。


「え……あ! に、睨んでないですないです!」

「ホントか? なんか背後から視線感じたんだが、君しかいなかったよな?」

「あ、はい。わたししかいませんでしたが……」

「……」

「! い、いや! ち、違います! わたしなんかがマオ様を睨むだなんてとても! むしろ――」


何か続きの言葉を言おうとして、慌てて口を噤んだ。


「 ?? むしろ?」

「え、あっ!? いや――」


俺が聞き返すと、途端にしどろもどろになって濁し始めた。

なんか怪しいな、このメイド……。糸目キャラレベルで怪しい。


「むしろ、何だよ? 睨んでいた他に理由でもあるのか?」


問い詰める。俺より大分背の低いハッカへ、中腰になって顔を近づける。


「――!!」


直ぐに目を逸らすハッカ。顔は一気に熱を帯びていく。


これは……何か疚しい理由があるに違いない!


「君……一体――」

「――な、なんでもないです! 失礼します!」

「えっ」


顔を赤らめ、頬を抑えながら駆け足で去って行ってしまった。と言うか、ほぼ全力疾走だった。


「えー……」


何だったんだよ……。

1人取り残されてしまった。それも、消化不良のままである。


「……何か萎えたわ」


後ろ髪をガシガシと乱暴に掻く。


結局、言いようのない感情を抱えたまま、俺は戻る事にした。

腹が減っていたはずだが、それもどうでもいい程に、テンションが爆下げだ。


(それにしても……)


確かに向けられていた視線。俺が振り返った瞬間感じたのは――



()()()()()、だったナ)



今後、ハッカが俺に対して、何故敵意を持っていたのか……疑いながら過ごす事となるだろう。

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