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勇者パーティ!(2軍)  作者: 元祖ゆた
第1章 異世界番長
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第3話 飛鳥の意志



――『勇者パーティ』とは何か。



……その前に、知っておかなければならないことがある。


この世界ディメヴィアでは、魔法の発展と同時に、良くないものが蔓延っていた。


それは天災とも呼べる邪悪、悪の権化、人々に対する脅威――。

奇跡の具現化である『魔法』の反作用――絶望の具現化、世界の(ちり)




――『界塵(かいじん)』。




黒い塵で出来た界塵は、ディメヴィアでは見られぬ異形の姿をしており、意思を持たず、ただただ人の魂を貪り喰らう。ただそこに人の魂があるから喰う、シンプルな本能のままに動く。



()()()()()()()()()()()()()()()()()



更に、奴らは群れる。群れて、大きな塊となり、いつしか国となり、『界団(かいだん)』と、呼ばれるようになった。


魔法の反作用と言われるだけあり、魔法が効きづらく、対処も難しい。ディメヴィアの人では、高濃度の魔力で直接かき消す他ない。



……そう、ディメヴィア人であれば。



「飛鳥君、真魚君のような異世界の人間――特に天花市の人間ならば、界塵に対して『特効』を持っていることが判明しているのです。中でも強力な特効を持っている者を招き、勇者として迎え入れる……」


――フィリル王妃の話に、俺は飛鳥とウルルと出会った時のことを思い出していた。


()()は、飛鳥をディメヴィアへ招き入れる儀式だったということだ。そこへ偶々俺が紛れ込んでしまったというだけのこと。


「即ち、()()()()()()とは、天花市より招いた勇者を中心とした、()()()()()()()()()()()()()()()()()


流暢な説明に、もしかしたら全く同じことを飛鳥にも話していたのかもしれない、と思った。


「界団は大きな国と化しています。アーキュリアだけでなく、各国から強い戦士が集まり大組織となってはいますが、()()を倒すには勇者の力がどうしても必要なのです」

「国レベルの敵、か。他の国も勇者を召喚しているんスか?」

「いえ、アーキュリアだけです。正しくは、アーキュリアの王族である『メルン王家』にしか出来ません」


メルン王家……フィリル王妃とウルルの名の中に入っている『メルン』という単語。つまり2人がそのメルン王家に該当するのだろう。


まあ、見た目からして煌びやかな2人だ。王族と言われても納得する。

不意にウルルと目が合うと、どこか誇らしげである。


「2人がその王家ってことだナ?」

「そうです。こう見えてそうなんです」

「いや……そうとしか見えないけどな」

「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいですね!」


世辞じゃない本心を話すと、やはり誇らしげに微笑むウルル。


「アーキュリアを建国し統べるメルン王家のみに受け継がれる魔法――『運命の糸(うんめいのいと)』。それを用いて天花市へ赴き、1番強力な特効を持つ勇者を選定し招く……それが私の役目でした」

「そうそう。いきなりウルルが来たときはビックリしたよー」

「アスカが1番素質を持っていたので」

「なんかそうみたいだね。自分じゃ分からないけど」


他人事の様に語る飛鳥。言葉がどこかフワフワしている気がする。

危機感? 覚悟? そう言ったものが希薄に感じるが……大丈夫だろうか?


……人の心配できる立場じゃないが。


「勇者は他にいるのか?」

「いませんね。アスカが()()()()()となるので、真魚様は()()()()()ですね」

「フン、俺も勇者の仲間入りか……」

「こちらに来た天花市の人は、そう呼ばれます」


裏を返せば、今まで、天花市市民()()がこっちに来たということになる。



過去4人が来ていると言うのに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。



……チッ、聞かざるを得ないか。



「――今までの勇者はどうなった?」



聞くならストレートに、だ。硬派は遠慮というモノをあまり知らない。

俺の問いに……ウルルは少し顔を曇らせた。


「ええと……」


言いにくい事でもあるのだろうか。口籠り、しばし沈黙。気まずい空気が流れだす。


空気を読まない俺にとっては、気まずさなどどうでも良かった。

状況によっては敢えて読まない方が良い。気を配るのは美徳だが、それだけでは事態が動かない場合もあるのだ。


――数十秒か、数分か。

やがてウルルが答える前に、王妃が口を開いた。



「初代から3代目までは……界塵にやられてしまったと、聞いています。4代目については、化ける魔法を使って逃走してしまったため行方不明です」



「 !? 」「!」


予想よりも遥かに悪い結果に、俺と飛鳥は軽く動揺した。


「私が関わったのは3代目、4代目……そして飛鳥君、真魚君です」

「そうか……。4代目は未だ見つからないのか?」

「ええ。突然、全てを投げ出し逃げてしまったのです」


目を伏せる王妃。4代目に思いを馳せているのか、その感情は読み取れない。


「見つかるといいね」

「ああ」


然程動揺していない飛鳥。界塵の脅威を知ってもなお、揺らがず崩れない。

自暴自棄になっている訳でもないだろう。何故そこまで、平気でいられるのだろうか――。


「飛鳥は、1番素質を持っているんだよな」

「あ、うん。そうだね」

「今の話を聞いても、勇者になりたいか?」

「うん!」


即答、であった。流石の俺も、ポーカーフェイスから驚きの表情へと歪む。


「……死ぬかもしれないぞ?」

「だとしても。まー、異世界に行ける機会ってこの先一生ないだろうしね」


……軽いな、君。ウルル的にはその方が連れて来やすいだろうが。


俺が訝しげな表情で見ていることに気付いたのか、飛鳥は笑顔で答える。


「そりゃ最初は悩んだよ。ただ異世界行くわけじゃないしさ。何か良く分からん敵と戦わなきゃいけないじゃん? 僕喧嘩とかもしたことないし」

「だろうな」


桐第一(きりだいいち)高校って、頭良い奴が行くところだしな。


「今も僕らの先輩とも言える勇者が殺されたって聞いて、超ビビったよね」

「そうは見えないが?」

「あれー、そう? 内心ガクブルだよね」


飛鳥はどこにでもいる普通の少年だ。中肉中背。鍛えている様子もなく、穢れを知らなそうだと思うくらい澄んでいる。


しかし――



「それでも、僕が力になれるならと思ったんだ」



「……!?」


覚悟の灯っている瞳である。他人のためなら自分すら犠牲に出来る。そういう奴の目だ。


俺は知っている。そう言う奴ほど強く、御しにくい。自己犠牲を厭わない狂犬タイプは、天花葵(てんかあおい)高校の不良に多かった気がする。


「僕が1番素質持ってるっていうならさ……例え怖くとも、帰れなくとも、力になりたいじゃん。多分、それが僕の役割だと思うんだ」


だから言葉が軽かったのだ。自分自身すら他人事のように扱える。この世界のために戦う覚悟を感じる。

感服し、息が漏れた。彼こそまさに()()だ。


「……君は凄いな」

「そうかな? そうでもないと思うよ、真魚君と比べたらさ」

「俺……?」


俺に視線が注がれる。どこか恐れを抱いているような表情――。


「……フン。流石に知ってるか」


これも知っている。こういう視線をついさっきまで、受けてきたところだ。


「そうなのですか?」


王妃とウルルも食いつく。

どうやら俺の評判は、飛鳥へ既に知れ渡っていたようだ。



「知ってるも何も、有名じゃん! ボケ高の『終末戦争(ラグナロク)』の覇者、1年して『ボケ高番長』、でしょ?」



今度は俺が、他人事の様に飛鳥の言葉を聞いていた。





……。



…………。



………………。



――王家の間より地下1階。この城に勤める従者達が慌ただしく動いていた。



先程勇者パーティ候補同士の顔合わせが終わり、その片付けにてんてこ舞いである。大きな『調理室』では悲鳴のような声も上がっている。


皆メイド服に身を包む女性ばかりであり、”メイドの世界”と化している。


そんな中、従者の中でも新参の従者が研修を行う『メイド室』では、1人のメイドが準備をしていた。


「うぅ~、緊張しますぅ……」



仄かに暗い室内で、身だしなみを整えている少女。()()()()()()()()()()()()()()()()()



「は、初めまして。よろしゅく……うぅ、噛んじゃいました」


挨拶の練習をしているようで、先程から成果が芳しくない。


「初めが肝心、初めが肝心」


呪文のように唱え、自らプレッシャーを与えていくスタイル。追い込みの極致。


「そろそろ時間ですね……」


壁にかかった時計を見て、少女は上へと向かった。期待と緊張を含むその表情は、やがて照明に照らされていった。





……。



…………。



………………。



「番長だったのですか、真魚様は!」


驚きと関心の入り混じるウルル。対して王妃は、キョトンとしている。


「……好きでなった訳じゃないぞ?」

「でもでも、凄い事ですよね、番長って!」

「まぁ、ボケ高のトップってことにはなるな」

「トップ! じゃあやっぱり凄い事ですよ、番長! 私もなってみたいです!」

「……」


あんまないけどな、番長に食いつくことって。


「番長になると誰殴ってもいいんですよね?」

「良い訳あるか! なんだその世紀末な世界は!?」

「でも実際『終末戦争』中はそんな感じでしょ?」

「まぁな」

「じゃあ同じ事じゃないですか!」

「ウルルの言い方だと語弊があると思うぞ?」


番長を何だと思ってやがるんだこの姫様は……。


「偶々倒したい奴がいて、そいつ目指すうちにテッペン取ってたってだけだ。番長なんて座に興味はない」

「へぇ~そうなんだ。ドラマチックだね」

「どこがだよ。ただの喧嘩にドラマもねーだろ」

「僕にとっては縁のない世界だからさ。そう言う”漢の戦い”って憧れるけどなー」


皆、不良マンガの見過ぎだ。実際の喧嘩なんて、素行不良のクソガキ同士ただただ殴り合うだけなのだ。そこにドラマも、感動もない。



あるのは――意志。()()()()()()()()という、単純で原始的な意志だけだ。



そもそもの話、不良に憧れるもんじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「番長は偶々だ。それ以上も以下もない」

「だからいいんじゃん」

「何が」

「勇者パーティ!」


!? ……そう繋がる訳か。

突拍子もない言葉だったが、意味を理解した。


俺は息を吐いて、前髪をかき上げた。


「そんだけ喧嘩慣れしてるんならさ、一緒にやろうよ悪者退治。真魚君にも素質はあるはずだし。勇者パーティなら冒険に出る訳だから、そしたらこの世界の事も知れるよね? ウルルも一緒だし、ウルル自身恩を返せる」

「! それ、いい考えです! さすがアスカ!」

「でっしょー!」


盛り上がる飛鳥とウルル。成り行きを見守る王妃。


……勇者パーティに入る流れになっている。


「ほら、一石二鳥だね?」


満面の笑みに、邪気すら払われるような爽やかさ。どこまでもまっさらなのかもしれない。


「さっき勇者の話聞いただろ? 死ぬかもって分かっただろ? そんなところに俺を誘うのか?」

「真魚君なら大丈夫! 多分!」

「……分かった。君は軽いんじゃなくてただ純粋なんだな」

「その心は?」

「馬鹿」


言うねぇ~! と燥ぐ飛鳥。何も考えず、本心だけで喋っているのだろう。それがようやく分かった。


まぁ、分かったところでどうもないが。


「あの、どうされますか?」


期待の表情を浮かべるウルルに、選択を促される。隣で同じく期待している飛鳥。


どうするって? そりゃあ決まっている。




「断る」




――俺は勇者パーティ入りを断った。

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