03.駄目出しが続きます
『戯言』という言葉に反応されたのでしょうか。
王子が顔を真っ赤にして反論しようとしていますが、カロリーナ様は、そんなこともお構いなしに言葉を重ねました。
「ついでに申しますと、わたしを断罪して処罰するつもりだったようですが、そんな権限も殿下にはございませんことよ?」
ああ、そうですよね。
ご自身の臣下への命令ならまだしも、公爵家のご令嬢の処罰など、この場での王子の一言で決まるわけがありません。
もし、本当に罪を犯していて処罰をしたいのでしたら、きちんとした証拠を提示して、貴族会議で審議をしなくてはなりませんから。
王子ができることと言ったら、その証拠を揃えて訴え出ることですよね。
「でも、そうですわね。参考の為に、どんな処罰にする予定だったのか教えていただけませんこと?処刑だの国外追放だの、いくつかの案が出ていたと思うのですけれど、最終的にこのパーティーでどの処罰を言い渡そうとしていたのかは明言されていませんでしたでしょう?」
あら、そうだったのですね。
ゲームでは確か、国外追放だったと思いますが、それは、直前に決まったことだったのでしょうか。
もしくは、この場で王子が気紛れに言ったとか?
それもあり得ると思ってしまうくらい、王子はその場しのぎなことの多い方なのです。
そんな残念な王子ですが、まさか、そんな質問をされるとは思っていなかったのか、すぐに言葉が出てこないようでした。
反論もできず、思わぬことを言われて、また口をハクハクさせているだけです。
その様子を見たカロリーナ様は、王子の返事を待つことなく、話を進めることにしたようですわ。
「確か、わたくしの罪状は虐めでございましたわね?罵られたり、無視をされたり、転ばされたり、お茶を掛けられたんでしたっけ?ああ、池に落とされたり、階段から突き落とされたとかいうものもありましたわね。全く身に覚えはないのですけれど、よくもまあ、そこまで罪をでっちあげられますわね?」
ええ、本当に。
とはいえ、これは、恐らく転生者であるヒロインがゲームのイベントをなぞっていただけなのだと思います。きっちり、ゲームの通りに自作自演したヒロインもなかなかの行動力ですね。
そのヒロインはと言えば、カロリーナ様がこの場で王子から断罪されず、貶められていないことを悔しそうにしておりました。
攻略対象たちの前では、天真爛漫なイメージを崩さないようにしていたヒロインですが、化けの皮が剥がれてきていますね。
そして、虐めの話が出たので、ここは自分の出番とばかりに言い返そうとしたのですが、一歩遅かったようです。
カロリーナ様が考察を始めてしまいました。
「そのようなことをした場合ですと、処刑は重すぎますわよね?人を殺めたわけでも謀反を起こしたわけでもあるまいし。となると、国外追放かしら?」
ああ、そうでした。
このゲームで一番酷い虐めは、階段から突き落とすことでした。
襲わせたり、毒を飲ませたりすることもありませんでしたし、謀反はもちろん、横領などの犯罪を犯すこともなかったと思います。隣国と通じている、ということもありませんでしたね。
となれば、確かに、処刑は重すぎます。
それで、ゲームでは国外追放だったのでしょうか。
「でも、わたくしの場合、殿下が放り出した外交のお仕事も押し付けられていましたから、国外に追放されたとしてもお知り合いがいるのですよ。その方たちに経緯を話したら、恥辱を味わうのは殿下だと思いますわよ?」
そうですよね。
カロリーナ様のお人柄もあると思いますが、味方は多いと思います。
きっとまともな方たちでしょうから、王子たちが間違っていることなんてすぐに気づきますよね。そして、王子たちを糾弾することでしょう。
「それに、国外追放してしまうと、王妃教育で学んだことまで流出する可能性もありますわよねぇ。それはそれで困るんじゃありませんこと?」
それは言えますね。
もし、万が一、カロリーナ様が国外に追放されたとしても、そのようなことはされなかったと思いますが、可能性としてはないとは言えません。
「そうなると、後はどんな処罰がありますかしら。修道院?娼館?平民落ち?」
そこまで話を広げなくてもいいと思うのですが、カロリーナ様は随分と興に乗っておられますから、止めるのは無理でしょうね。
ただ、代案を出されて、王子や取り巻きたちが、それがあったか!みたいな顔をしているのはどうかと思います。
このままいけば、こんな人たちが国の中枢に立つだなんて、嘘だと言ってほしいです。
「修道院なら衣食住を提供してもらえますから、生活には困りませんわよね。朝早く起きることなんて今と同じですし、厳しい修行と言っても、今の生活もなかなか苦行ですからねぇ。あまり罰にならなそうですわよね」
いえ、それは、カロリーナ様だからだと思いますわ。
普通の貴族令嬢には耐えられないのではないでしょうか。
ドレスや宝石もなく、贅沢もできず、自分のことを自分でするだなんて、受け入れ難いことでしょうから。
まあ、わたくしは、全く平気ですけどね。
「あ、もし娼館に行かせてもらえるならば、わたくしなら買い取らせていただきますわ。そして、職場環境をよくしたいですわよねぇ」
さすが、カロリーナ様。
経営側に回ろうとお考えなのですね。
でも、それもまた、カロリーナ様だからです。
普通の令嬢は逃げ出したくなるものですよ。
「え?財産は没収される?平民に小言を言ったから?それでしたら、この国は罰金だらけですわ」
あら、また、カロリーナ様以外の方が発言を?
わたくしのいる場所ではすべての声が聞き取れないのですが、カロリーナ様が復唱してくださるので助かりますわ。
このゲームのヒロインは平民です。
礼儀や貴族社会の常識を知らないヒロインにカロリーナ様が忠言していただけなのですから、それを虐めとするならば、世の中虐めだらけですね。
しかも、その虐めに罰金を科すとなれば、この国はもっと潤っているはずなのですけれど。
恐らく、財産没収の話をしたのは、王子か取り巻きなのでしょう。
浅はかに思い付いたことをそのまま言ってしまうから、カロリーナ様にばっさり言い返されるのですよ。
「あとは何でしたかしら?……そうそう平民落ち。確かに、慣れないことの連続でしょうけれど、令嬢教育も王妃教育も最初はそんなものでしたから。同じように学んでいけばいいのでしょう?」
カロリーナ様は大変ポジティブなんですね。
確かに、状況を受け入れて、貴族の常識を持ち込まなければ、平民生活もなんとかなるとは思います。
仕事が見つからなければ地獄を見るかもしれませんが、カロリーナ様には教養がありますから、仕事によっては、引く手数多ではないでしょうか。
令嬢教育や王妃教育とは全く違う学びになると思いますが、カロリーナ様ならそういうことも楽しめるかもしれませんね。
カロリーナ様が平民になるのであれば、わたくし、お供したいくらいですわ。
そして、わたくしの前世の庶民知識をお伝えしたい。
推しとの平民ライフ。
なんて素敵な響きでしょう。
思わず妄想が広がりそうになりましたが、ここは悪役令嬢の断罪イベントに似た何かの現場でした。
カロリーナ様のお話はまだ続いています。
「何にせよ、わたくしにはあまりダメージにはならないと思いますわ。今の生活から解放されると思えば、ご褒美みたいなものですもの」
そんなに王子の婚約者生活が嫌だったのですね。
お察しいたします。
でも、ダメージにならないのはカロリーナ様とわたくしくらいですよ?
普通の貴族令嬢には無理です、やっぱり。