02.全てバレていたようです
目の前では、悪役令嬢の断罪イベントに似た何かが行われておりますが。
実は、わたくし、カロリーナ様も転生者なのかもしれない。
と、思ったことがないわけではないのです。
だって、性格が違いすぎましたから。
ゲームでは大変傲慢で身勝手なご令嬢だったのです。
それが、この世界では完璧な淑女なのですから、バッドエンド回避のために性格を矯正したのかと思ってしまったのですよね。
ですが、性格以外はゲームと同じなのです。
容姿は勿論のこと、ご家族との関係も良好とは言えないようで、弟君との仲は険悪だと聞いています。現に、今も、弟君は王子の後ろに控えていますね。
転生者ならば、弟君との仲だって改善に努めたと思うのですよ。
虐めイベントにしても、高位貴族令嬢として常識を説いたりはしていましたが、その他に関しては、事前に把握しているようには全く見えませんでした。
散々出歯亀してきたわたくしが言うのですから、これは確かです。
何よりも、ゲームではあんなに王子のことが好きだったのに、この世界のカロリーナ様は婚約者としての義務を果たしているだけのように思うのですよね。
他にも細かいところを挙げればキリがありませんが、あらゆる角度から判断して、カロリーナ様は転生者ではない、と結論付けていたのですが……。
もしや、やはり、転生者なのでしょうか。
今日の王子たちの行動をここまでズバリと当ててしまわれたとなれば、その可能性も否定できません。
そう思いながら成り行きを見守っていたのですが、カロリーナ様は、未だに事態を把握できていない王子たちの様子に、不思議そうな、でも、どこか面白がっているようなお顔で話を続けました。
「何を驚いていらっしゃるのです?殿下には影が付いていますもの。言動は筒抜けでしてよ?」
ああ、なるほど。
そういうことでしたら、今日のことが事前にバレているのも当然です。
きっと、王子たちは、得意気に何でもぺらぺらと口にしたでしょうから。
馬鹿丸出しで断罪計画を立てていた様子が報告されていたことでしょう。
でも、そうですか。
情報源は影ですか。
となれば、カロリーナ様は転生者ではなさそうですね。
「実際のところ、公衆の面前で常識のない行動に出る殿下たちを事前にお止めする、という選択肢もあったのです。これでも、殿下たちの面目が潰れるのは忍びないのですよ?」
そうですよね。
卒業パーティーで婚約破棄を宣言して、婚約者を冤罪で断罪するなどバカの極みです。醜態晒しもいいところですね。
「ですが、わたくしも忙しい身ですし、殿下方もこちらの忠告は聞き入れてくれませんしねぇ。まあ、何よりも面倒でしたのでそのまま放置しておりましたが、まさか、皆様が本当に行動に出ようとするとは思いませんでしたわ」
カロリーナ様ってば、何もそこまで正直に仰らなくても。
でも、僭越ながら、わたくしでも、あの方たちを言い含めるのは面倒なことだと思いますわ。ものすごく思い込みの激しい方たちですもの。
「え?もしや、影が付いていたということに驚いていらっしゃるのですか?殿下はこの国の第一王子なのですよ?当然ではございませんか」
あら?どなたかが、何か質問でもしたのでしょうか。
先ほどから、カロリーナ様以外の方の声を聞いていないのですけれど。
まあ、わたくしがいる場所は彼らから少し離れていますから。
わたくしには聞こえなかっただけですわね。
もしくは、カロリーナ様が、王子たちの表情から彼らの感情を読み取ったのかもしれません。
「殿下をお守りするためでもありますが、殿下は、何かやらかしてしまうと、だんまりを決めるか嘘を付かれるでしょう?ですから、影に行動を追ってもらわないと後始末が大変なのですよ」
ああ、カロリーナ様のご苦労が目に浮かぶようですね。
王子はやりたい放題のくせに、都合が悪くなると逃げる方のようですから。
尻拭いも大変だったと思います。
「できれば、今、殿下の後ろからわたくしを睨んでいる人たちに、暴走する殿下を諫めてほしかったのですけれど。あろうことか、殿下と同調してしまわれましたしねぇ。影の仕事を無駄に増やしてしまって申し訳なかったですわ」
目を伏せてお話されるカロリーナ様は、少し無念そうです。
でも、そうですね、カロリーナ様が仰る通りです。
本来、側近とはそういう役目であるはずですのに、あの方たちは、本当に残念な方々ですね。
「そういうわけですから、普段から、殿下の行動は逐一報告を受けているのです。今日の卒業パーティーで何やら画策していることも存じておりました。わたくしを断罪しようとしている罪状が冤罪なのもわかっていましてよ?調べはついております」
さすが、カロリーナ様です。
抜かりありませんね。
ご自分のことですから、やっていないことは百も承知だとしても。
調べがついているということは、冤罪だという証拠や証言も既に手に入れているのではないでしょうか。
ここまで言われてしまっては、王子たちはもう断罪などできないはずです。
ですので、王子たちの出る幕はありませんでしたが、これでこの一幕も終わりかと思いきや。
カロリーナ様は、ふと思いついたように話を続けました。
「ああ、先ほど、今日の計画を知っていて放置していた、と申しましたが、だからと言って、何もしていなかったわけでもありませんのよ?」
あら。何かしら動いていらしたのですね。
こういったことも後始末になるのでしょうか。
王子の婚約者というのも、本当に大変ですね。
「殿下のお手を煩わせないように、わたくしも婚約の解消に向けて動いていたのです。ですが、陛下が駄々を、いえ、聞き分けのない、いえ、えーと、そうですわね、なかなか承諾してくださらないので、今日のこの日に間に合わなかったのですのよ。申し訳ありませんわ」
カロリーナ様。
残念ながら、幾ら言い直したとしても声に出してしまったことは消えません。
そうですか。
陛下が駄々をこねたんですね。聞き分けがない方なんですね。
少し、陛下がかわいらしく感じてきました。
とはいえ、真面目な話をすれば。
カロリーナ様のご実家であるシュヴィレール公爵家は、権力も財力も有した非常に格式の高いお家なのです。
対して、王子の母である王妃様はあまり力のない家の出身ですから。
王子にはシュヴィレール公爵家の後ろ盾が必要だったのですよね。
おまけに、王子も残念な方ですから。
カロリーナ様ほど優秀な方でないと国を支えていくのが難しいと、誰もが思っているはずです。
ですから、陛下としても、簡単には承諾できないことでしょう。
「わたくし個人としましては、喜んで婚約破棄を受け入れる所存ですわ」
ああ、やっぱり。
カロリーナ様は、殿下のことをお慕いしてはいなかったのですね。
先程からずっと、言葉を失くしたまま顔を赤くしたり青くしていた王子も、カロリーナ様のこの言葉には本当に驚いたようでした。
思いもよらなかったことを言われたようなお顔をされていますが、わたくしからすれば、カロリーナ様はわかりやすかったと思うのですが。
本当に、勘違いの激しい方ですね。
「だからと言って、何の進展もありませんけれど。いくらここで殿下が宣言をしたとしても、陛下の承諾がなければ、結局は戯言で終わってしまう話ですもの」
はい。駄目出しが入りました。
王子たちの今日の計画は無意味だったということですよね。
王子たちにも伝わったでしょうか。