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二回目 コンビニのトイレを使ったら昔はタバコなり何なり買っていたもんだ

二回目です。文字数多いな。

 さて、出てきたのは普通のハンバーグ。

「しかし凝った名前つけるなー」

「別にいいじゃない。美味しければ」

 楽観的だな。

 そう言うとみいかはハンバーグの欠片をあっさり口の中に放り込んでしまった。何が入ってるかもわからないのに。

「…………」

「どうした?」

「――――――――――――んんんんんまぁぁぁああああいッ!」

 食ってる途中に大声出すな。

「確かにこれは最高に美味しいです! 適度に柔らかく適度に歯ごたえがあり、噛むたびに程よく肉汁があふれ出してきます! 使っているソースもハンバーグにぴったりです!」

 加藤も同意見のようだ。

「そ、そうか。じゃあ僕も」

 ナイフを入れると肉汁が湧き出してくる。鼻をくすぐるその香りは素晴らしい。見ているだけで口の中で涎が増し、抑えきれない食欲が体の奥からせり上がってくる。

 フォークに突き刺し、口の中に放り込む。

「…………」

「どうです?」

「――ぅmうぅ、うっ、美味しいな……」

 みいかと同様に叫びたくなるのを辛うじて堪えた。

 ヤバい。麻薬的な美味さだ。たまらん。

「でしょう? 大当たりでしたね、この店を選んで」

 その通りその通り。いやいや、加藤には感謝しかない。

 ひたすらハンバーグを貪る僕。

 トリストラムシャンディ。よく覚えておこう。こんな上手いもん食ったことない。そしてこういう上手いもん食う機会は年単位で数えないとならないくらいRareなのだ。

「どうです? 美味しいでしょう?」

 暇なのか、やって来た料理人が話しかけてくる。もう食い終わったらしいみいかが相手をする。

「ええ!! ものすんごく」

「あはは、喜んでくれて良かったです。このハンバーグには特別な肉を使っていますからね、費用もかさむんですよ。でも、その分お客さんに喜んでもらえるのでこちらは満足です」

「特別な、って松阪牛とかそういう?」

「いやいや、松阪牛なんかじゃない。その程度ではこの味は出せないよ」

「え……? 松阪牛、など……?」

「エクスプレッションと呼ばれる特殊な牛さ」

「え、エクスプレッション……」

 聞いたこともない。

「エクスプレッションはプレートの上のセカイを豊かにしてくれるのさ。もっとも、"芯"がなければただの肉のかたまりと化すがね。私は今、その"芯"について勉強しているのさ」

 うーん、何を言いたいのか分からん。

「なるほど。あなたは表現力には優れていると。あたしたちの作者は表現力もストーリーもまだまだ訓練中ね」

 そういうこと言うな!(誰)

 さて、こうして昼飯を終えた僕たちはその店を後にして、再びビルの谷間へと戻っていった。

 繁華街らしい活気が僕たちを包む。知り合いの中にはこういうのが嫌いだというやつもいるが、僕は人の多いところは結構好きだ。特に大きなイベントとかは一つ残らず行ってみたい。

 人が多いだけあって、周囲は足音に満ちている。

 そして――その中でも特に目立つ足音が近づいてきた。

 けばけばしい格好の女子二人が並んで歩いている。

「マジ聞いてよー、昨日さー、木下にさー、『お前とはもう付き合わない』って言われたんだよねー。でさー、理由聞いたらさー、『足音がウザい』ってさー、意味わからんよねー」

 いや、お前の足音はマジでウザい。

 足音がウザいっていう現象はなかなか聞いたことないが、このギャル風の女、黒木は本当に足音がウザい。現実世界でこういうことがあるのかは知らないが、とにかくそういう設定なのだ。どんな喧騒のただなかでも、あの独特の足音はすぐに判別できる。

 黒木は僕の同級生だ。だから分かるわけだ。

 黒木はこちらには気付かなかった様子だ。なので僕たちもスルー。

「ねえ、次はどこ行く?」

「ショッピングモールとか、どうでしょう?」

「それもそうね」

 僕は行き先の決定には一切関与せず。

「そういやさ、2回目始まってここまでメタ要素なくない?」

「確かにね。この話はメタ要素のメタ要素によるメタ要素のための作品なのよ。相応のメタ要素があってしかるべきだわ!」

「と言ってもネタない」

 意気込むみいか、やる気なくしてきた僕。

 その背後から。

 黒い影が迫ってきていた。


「!?」


 みいかが振り向いた時はすでに遅し。

「危ない!」

 僕がみいかを突き飛ばし、その一瞬後に黒い鉤爪が空を切る。

「やばっ!」

 爬虫類的な翼。先のとがった尾。膨大な筋肉のついた両脚。凶悪な面がまえ。

 魔獣・デビルドラゴン。

 キェェェェェェェェェェェェェエエエエ!! という、黒板をひっかくような鳴き声を上げつつ旋回、再び鉤爪が螺旋を描く。

「退避だ!!」

 俺たちはすぐ隣にあったコンビニに転がり込んだが、デビルドラゴンは何かの車よろしくガラスをたたき割ってコンビニ内に侵入してきた。

 バナナおにぎりと書かれたファンシーな袋が床に転がり落ちる。その横にはクラウチング倉内と書かれた菓子。

 え? 何この変な食べ物?

 ついでに雑誌も宙を舞い、おそらく一番エロいページを開いた状態で床に落ちる。

 再び高周波な鳴き声。

 鳴き声に店の奥から聞こえる泣き声が重なる。気の弱い人は泣いてしまったようだ。

「あ、安心しなさい。こういう時の秘策があるわ」

「落ち着いてるな! で、どんな秘策?」

「とにかく、私と同じように叫んで。行くわよ?」

「ああ」

 そして、みいかは大きく、肺活量の許す限り息を吸い込み――

「田田回田田回田 回田田回田田回田 回田田回田田回 田回田 回田田回田 回田田回田田回田田回田田回田田回田田 田田回田田回田田回田田回田田 田田回田  田田回田田回田田回田田回!!」

「戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い……」

「違う違うそうじゃない!! 田んぼの田が二つに回るの回!」

「結局何やってんだ?」

「見ての通り文字の防壁よ。ほら」

 見ると、そこにはデビルドラゴンの前に立ちはだかる「田田回田田回田田回田田回田田回田田回」の文字列が。しかしそれほど分厚くないため、デビルドラゴンの爪や尾の攻撃でいたるところに穴が開いている。(見ての通り空白だらけ)

「あんた、5chとか見る?」

「いや、そういうのはあんまり」

「そこの『武器にしたら強そうな漢字』みたいなスレにあった投稿が元ネタよ」

 なるほど。ちゃんと元ネタがあるわけか。

「もう一度行くわよ。せーの!」

「「田田回田田回田田回田田回田田    田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回    田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田    回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田    田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田田田回田    回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田回田田    田田回田田回田田回田田回田田回田田回!!」」

 デビルドラゴンの前にさらなる厚    立ちはだかった。ダイヤモンドの城壁が現れたような印象。

 しかし。

 デビルドラゴンのブレスが一閃。

 御覧の通り一瞬で大穴が開いた。

「き、効かない!?」

 デビルドラゴンが穴から器用にこっち側へ入ってくる。

「に、逃げろ!!!」

 が、みいかは動こうとしない。恐怖のあまり動けないようだ。僕が無理やりお菓子の棚の背後に見入華を引っ張り込む。

 デビルドラゴンはほかの客には見向きもせず、のしのしと棚を曲がり、僕たちと正面から相対する。

 僕たちをひと睨み。そして一歩一歩距離を縮めていく。じりじりと下がる僕たち。

 しかし、その鉤爪をふるうことはなかった。

 代わりに左の翼をぱさぱさと左右に振る。

「……どけってことか?」

 コクリ、とデビルドラゴンが首を縦に振った。

 だまって道を開ける僕たち。その先にはコンビニのトイレが。

 狭くないか? とどうでもいいような疑問が浮かんできた。

 皆が唖然とする中、しばらくしてからジャーっと水を流す音が響き、デビルドラゴンがトイレの扉を開けて軽やかな足取りで出てきた。目も心なしか澄み切っているようだ。

 デビルドラゴンはレジへ向かい、小さなボックスに入っていたタバコを一箱くわえる。茫然自失状態のバイトのお姉さんの前に小銭、それに札束を差し出し、悠々とコンビニから出ていった。

 小銭はタバコの代金、札束はガラスの弁償金というところか。思わず笑ってしまった。

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