冬麗、死した文学少女に花を供えに征く二人。
なろうラジオ大賞2参加作品です。
森の中、綺羅と破片が飛ぶ冬麗、雪を踏みしめ歩く二人。
男の手には月命日の供物の花、生者の息が外気に触れ真白に綿になる。
「春が死んだ理由」
「さあ」
「知らない?夏」
「うん」
その日から繰り返す責める男と流す女。
「妹なのに知らない」
「双子だけど心は別個」
ザクザクとザラメに光る原を歩く。
「文字の世界が好きな春、文芸部で独り書いていた、周りから文学少女と呼ばれ僕は好きだった。彼女の作品を僕が世に出したかった、ゴメン、僕達は恋人だった。君に出逢う迄は」
「薄々知ってた。春が好きなのかなって」
冷たい赤を噛みしめる女。
「やっぱり僕は君を許せない」
「そう」
「夏、双子なのに誰もが明るい君に注目、春はいつも独り。死んで本当の気持ちに気がついた。どうして君は彼女のデータベースを盗ったのか」
彼女が書き溜めていた作品を自分の物にした。先に進みつつ男は震え声で責める。
「夏彩 春、小説家デビュー、おめでとう。高校に通う文学少女が妹の死を乗り越え、新人賞受賞と見たよ。僕がこの手でしたかったのに」
木立が途切れ広がる未踏な地。先には崖、空の青に映える白。
「危ないから行かないほうがいい」
女が口を開く。
「薄情な夏、流石は泥棒猫」
男は先へと進む。張り出す雪庇は空に届く様。
「春、君に花を」
男は哀しみに酔う。
「泥棒猫、人殺し」
背に声をかける女。
「君が言う?」
先端に花を置きその場で振り返る男。
「言うわ。先輩は死んだと聞き交際話をでっち上げた。その前に盗作目的で私に笑顔で近づいてきた。甘い言葉を囁いてアドバイスするから読ませてと。私は断った」
「なんの話」
サァ、地の雪が天に上がり太陽が雲母に照らす。
「可哀相な夏。幼稚園の先生になりたかった。私の書く物語が面白いと。二人で夢を叶えて、私の本を子供たちに読むから頑張って、と応援してくれていた。そんな私の妹に先輩は近づいた!私の書いてる物を先取りしたくて。許さない」
は、ぁ。息が軟な頬が凍る女。
「君はまさか」
「春。私は付き合ってなんかいない。死んだのは夏。先輩が誑かしていた相手。私は両親に頼み込んだ。そっくりだし死んだのは私にしてと、夏を追い込んだ相手に復讐をして、夢も叶えてあげたいからと」
チチチ、空気が温もり小鳥が空を舞う。
「夏は先輩に恋し溺れて、私との板挟みとなり飛び降りた」
「嘘だぁぁ!」
響く男の声。足元の雪が緩む。
花束と落ちる男の姿を女は笑みで見送る。
「バイ先輩、夏の側に逝け!」