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ROAD TO WARRIOR 道のりに栄光を 二頁目


「………………鈍いな」

「クソがっ!」


 斬撃の嵐が、三人の信頼できる友の援護を受け撃ちだされる。

 それは苦戦を強いられていた状況を一気に覆せるものであり、けれどガーディアは楽観視はしない。

 そんなことをすれば、次の瞬間には命脈が立たれていると理解しているゆえに。人生で最も研ぎ澄まされた、極限の集中力を発揮する。


「ガーディア・ガルフ!」

「!」


 そんな彼に対し声をかけてくるものがいた。任されていた戦場から離れた積である。

 凄まじい集中力ゆえにすぐには気が付かなかった彼は、けれど積が一際大きな声を上げると振り返り、僅かばかりの時間を稼いでほしいことを念話で友に伝えそちらを向く。


「何かな?」


 彼がこの極限の状況でここまで丁寧な対応を行うのは、原口積という少年が此度の戦いで与えた影響ゆえだ。

 自身の感情を乱し、久方ぶりの敗北感を味合わせた事。

 こうして友を頼るきっかけを与えてくれたこと。

 何より厄介極まりない精霊の王を任せるだけの戦力を集めるために尽力したこと。

 それらが合わさり、彼は自分と比べれば遥かに弱いこの少年を、誰よりも高く評価していたのだ。


 ゆえに、このようなタイミングでも耳を傾ける。


「この戦いに勝った時の報酬を先に決めておきたい」

「……報酬?」


 「原口積も今が僅かな時間すら惜しいことは理解している。だからこそ、この状況でされる言葉の応酬は、有意義なものであるに決まっている」

 ガーディアは胸中でそのように考えていたのだ。だからこそこのタイミングで『勝った後』の事を提案されるなどと夢にも思わず、発する言葉には陰りと落胆が見えた。


「それは今必要な話かね?」

「ああ。多分、今を逃したらできない提案だと思う」

「…………私は君を高く買っている。そこまで言うなら、聞こうじゃないか」


 だから明確に突き放すような声を上げるのだが、それを前にしても積は態度を変えない。

 するとガーディアが折れ先を促し、


「もしもの話だ。もしも――――――」

「…………」

「――――――――――もらいたい」

「!?」


 積は言い切る。

 荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい、耳を疑うような提案を行い、


「正気かね?」

「正気も正気、洗脳はもちろん、気の迷いでもねぇよ」


 聞き終えて数秒したところで怪訝な声を上げたガーディアに対し積は断言と共に首を縦に。

 すると、


「原口積。私は、君を見誤っていたようだ」

「そうかい。それで?」

「…………善処しよう」


 恐れさえ抱いたような驚嘆の声を発した末に、人類史上最速にして『果て越え』の座を背負った男は渋々ながらそう伝えた。




 エルドラが得た情報を自身の頭の中に読み込ませ、彼らは精霊王のスペックを正確に認識する。


 まず第一に『霊体』である。

 このため基本的にこの存在に物理的な攻撃は一切通用しない。ダメージの有無ではなく、通り抜けてしまうのだ。

 これを突破するために必要なのは『霊体の突破・破壊』、または『貫通効果の阻害』などの力を備えた攻撃なのだが、ここで第二の壁が立ちはだかる。


 精霊王は三つもの神器を備えている。いや賢者王から貰っており、協力無比な事が約束された効果は、いまだ謎に包まれているのだ。

 これだけでも厄介なのだが、真に頭を抱えるべきは神器が必ず秘めている効果。すなわちあらゆる能力の無効化だ。

 先に述べた霊体への対抗策は大半が能力のカテゴリーに当てはまるため、効果を発揮することなく無効化されてしまうのだ。


 そしてエルドラが見抜いた第三の問題点。それが周囲の粒子を有機物無機物の違いなく問答無用で吸い取る力だ。

 これがあるため精霊王の顕現に時間切れというものは存在せず、それどころか触れるだけで大将の粒子を一気に奪えるのだ。

 エルドラで三割を持っていかれたとなれば、無限の供給を持つアイビスを除けば大半が一度触れるだけで半分以上、康太のような元々の所持量が少ない場合は、触れるだけでアウトである。

 この特徴を備えているため、対峙する超一流の戦士たちは長期戦を封じ込められ、この難題に対し強制的に短期決戦を強いられることになるのだ。


「改めて考えてみても」

「ん?」

「この世界を作り出した賢者王ってやつは性根がクソだな。よくもまあ、ここまで意地の悪い設計の精霊を生み出せたものだと尊敬するぜ」


 あらゆる物体、あらゆる存在が粒子によって構成されているこの世界において、それを強制的に、しかも短時間で大量に奪い取れるこの存在は、精霊のみならず、この宇宙に存在するあらゆる生命に対して有利を取れると言ってもよかった。

  

「一つだけ安堵できる点があるとすれば、我々に奴を打倒できる手段があるということだな」

「……まぁ、そうっすね」


 ただそれほどの存在が相手でも突破口がないわけでもない。

 ガーディア・ガルフとその仲間たちがウェルダの相手をしている以上、こちら側に対して攻撃をしてくることはないと、この場にいるものらは断言できる。

 となれば神器を破壊できる手段を持つ者はその発動に徹し、他の者達がうまく当てられるだけの隙を作ればいいのだ。

 つまり康太が持つ神器の最大出力にシャロウズが行う槍の投擲。そしてクライシス・デルエスクが切り札として伏せている神器の力をうまくぶつけられば、三つの神器全てを壊すことも可能なのだ。


「………………しかしどう攻撃を当てる? 本体が霊体であり、あらゆる攻撃を通り抜けられるゆえに、奴は神器を砕かれぬよう動き回るだけでいい。その類の相手を足止めするのは骨が折れるぞ」


 だがそれは、言うだけならば簡単だが、実際に実行するとなれば凄まじい難度を誇る。

 それこそ精霊王はゼオスの言う通り自身の身を守る必要が一切なく、所持している神器を壊されないよう立ち回るだけでいいのだ。

 そうして戦いが長引けば、それだけで周囲の粒子を奪え自分有利な状況に傾き、それこそ手を下すことなく敵対者を沈められるだろう。


「ダメね。拘束術の類は発動するけど、発動させた瞬間には構成する粒子が奪われ始めてて、瞬く間に解除されちゃう」


 本体ではなく破壊する必要がある神器を拘束しようとアイビスが封印術や拘束術の類を使うが、それ等は発動した瞬間には力を奪われ始め、神器に触れた頃には本来の出力の十分の一にまで落とされていた。


「なぁ。一つ思うんだけどさ」

「ヘルス・アラモード?」

「こいつは大量の粒子を吸収するって言うけどさ、それはどこに行く?」

「どこにって………………!」


 とそこでヘルスが掌に神の雷を溢れさせ圧縮しながらそう説明。蒼野は彼の言いたいことを察すると目を見開き、


「もしかして………………実体化するの!?」

「俺はその可能性が高いと思ってる」


 優の言葉に対し彼は確信を抱いた様子で応じた。


 これもまた『霊体』が持つ特徴であるが、『霊体』であり実体を持たない下級精霊の場合、本能として肉体を持つことを最優先の目的としている。

 これは霊体のままではこの世界とのつながりが不安定であり、いつ消えてもおかしくないからである。

 そのため力の弱い多くの精霊は大量の粒子を吸収すると、それを自身の肉体を構築するための栄養とする。


 ヘルスの企みはこの特徴が精霊王にも当てはまり、実体を持たせることで撃破しやすくなるのではというものであり、大きく振りかぶった右腕を振り下ろすとともに、青い雷を圧縮した超威力の砲撃が打ち出され、肉体を貫通したかと思えば威力が激減。そのタイミングで精霊王の半透明な体が明滅し、青白い輝きを帯び、


「うっし! 今ので足りてたか!」

「これで攻撃が当たるようになるってことか? やるじゃねぇかヘルス・アラモード」


 彼らの見ている前で実体化しようとしていた。

 それを見て歓喜の声を上げたりガッツポーズをする者達もいたのだが、いくらかの戦士の胸には一抹の不安があった。


 それは「ここまで悪趣味な構成の精霊を作った賢者王が、誰でもわかるような弱点の克服をしていないのか?」というものであり、


「え?」

「円形の盾が」

「光ってる?」


 その直感は最悪の形で具現化する。

 円形の盾が生命の誕生を祝福するような黄緑色の光を帯びると、それに比例して精霊王の肉体が元の半透明の霊体に戻っていき、


「全員構えろ!」

「何か来るぞ!」


 康太とシャロウズが声を上げ、同朋全てを守るようにエルドラが前に出た瞬間、それは起きた。


 精霊王が構えている茶色い盾。それを覆うような輝きを放っていた黄緑色の光が勢いよく膨らみ始め、風船が破裂するような勢いではじけたかと思えば、種のように空を飛び、影のように地を這い、狼や鷹。ネズミやイワシの群れのように様々な形を模倣。そのまま彼らに接近。


「こ、これって!?」


 ある者は迎撃を行い、ある者は回避に徹する中、データ収集のため最初に触れたアイビスが声を上げ、


「こいつに触れちゃダメよ! 本体に近づいたり触れた時と同じように粒子を奪われる! しかもかなりの量を!」

「待ってくれ姉さん。見たところこいつらは大量の粒子を吸収した結果生まれた奴らだ。そいつらが粒子を奪い取るってことはさ! まさか!!?」


 アイビスの質問を受け、ふと頭の片隅によぎった一番嫌な答え。それをシロバが告げた瞬間、それは起きた。


「ふ、増えてきておる!? 吸収した側から消費し、同じような特性を持つ魔の者を呼び出しておる!!?」


 彼らの見ている前でさらに大量の粒子の塊が周囲にばらまかれ、多種多様な獣の形をしていくことを確認。

 それを見た雲景は、この戦術が終わりのない無限ループの類であり、自分たちが蟻地獄に嵌ったことを悟った。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です。


随分と遅くなってしまい申し訳ありません。本日分の更新です。


VS精霊王。クソゲー説明回。

神器を使っていることで霊体特攻の類は全て無効化します

大量の粒子を吸わせることで実体化を狙う場合の対策も万全です

一度子飼いの動物を使役し始めると、無限に粒子を吸い、無限に増えていきます。

この上であと二つ神器を残しています

じっくりと攻める長期戦は不可能です


とまぁ、自分なりに無理ゲ-を描いたつもりで、お気に召したら幸いです。


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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