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ROAD TO WARRIOR 道のりに栄光を 一頁目


「こいつは意外だな」

「?」


 二つの銀河が敵対する巨大な矢、否、杭を飲み込む。

 そこから迸るエネルギーの質と視覚に訴えかける虹色の閃光がもたらす暴力。その凄まじさは誰もが恐れ慄くものである。


「まさかお前が、無駄とわかりながら他者の手を借りるとはな」


 とはいえどのような事柄であろうと例外は存在する。

 自身の視界の端に映る光景を前にそう断じる羅刹にして覇王であるウェルダこそ、その数少ない例外であり、虹色の光を半身に浴びながら合わせ鏡たる存在を嘲る。


「…………」

「だんまりか。だがそのくらいのことはお前だってわかってるはずだ。確かに奴らの中にはいくらか腕に覚えのあるやつがいる。だがな、そういうものが必要なわけじゃねぇんだよ。あいつを倒すには、ちっとばかし面倒なコツがいる」

「…………」

「一人残らず死ぬぜ。いいのかよ?」


 感情を隠すような鉄面皮に添えられる言葉に嘘偽りはない。ウェルダは自身が今しがた断じた結末がやってくることに絶対の自信を秘めているのだ。


「滑稽だな。しかし……それでこそ私と言ったところか」

「あ?」

「そうやって可能性を閉じる事こそ、私がしてしまった失敗なのだ。そして今それを君がしている。これを滑稽と言わずになんという」


 対するガーディアの顔にも感情の色は浮かんでいない。しかし声は違う。

 ウェルダを封印するときに使っていた己が感情。

 それを取り戻した彼の声には、誰が聞いてもわかる失笑が含まれており、ウェルダの額に青筋が立つ。


「……まぁいい。お前の決断がどれほど愚鈍なものかは、すぐにわかる。ならこっちの方はどう説明すんだよ。まさかお前、周りにいるお友達が役に立つとでも思ってんのか?」


 だからこそウェルダも煽り返す。ガーディアが侍らす三人の存在。千年前から今に至るまでともに進んできた彼らに意味など無いと断言する。

 そう言い切れるだけの格付けは終わっているのだから。


 この場にいる他の者らと比べても、一際強烈な個性を備えた上で、最高クラスのスペックまで備えているアイリーンにエヴァ、そしてシュバルツ。

 彼らほどの存在といえど、『果て越え』たるウェルダからすれば藁に等しいのだ。


「なら試してみるといい」


 その挑発をガーディアは受け流す。いや聞く耳を持たない。素っ気ない態度でそう言い、

 と同時に彼の言葉に込められた意味を察しシュバルツがいの一番に駆け出し、手にしていた神器を大きく振りかぶり、


「馬鹿が」


 天性の才と積み上げた努力全てを否定するように、迫る脅威を脅威と認識せず、ウェルダが右手の斧を無造作に掲げ、振り抜き、迫る人斬り包丁渾身の一撃を容易く返す。

 そのまま僅かに後ろに逸れた体へと向けさらに一歩踏み出すと左手に持つ斧を振り出し、そのタイミングでアイリーンが彼の目を覆うように光属性を固めた黄色い板を展開。

 しかし熱感知が可能な彼にそのような策など意味があるはずもなく、一瞬だけ意識をそちらに掲げ、僅かばかりの軌道修正を行い、左腕にさらなる力を込め必中を確信し、


「ほら。やはり私の友は役に立つ」


 そのタイミングで史上最速は割り込んだ。

 自身に意識が向いていないことを認識したうえで、最短最速を突っ切り己が分身の頬を蹴り飛ばす。

 それは一度ではなく二度三度、十百千と瞬く間に重なり、


「のやろうっ」


 苛立ちを募らせたウェルダの意識がガーディアに向き直るが、そのタイミングで再びシュバルツの斬撃が頭部へ。ウェルダは斧も使わずとっさに掲げた左手の二の腕で易々と防ぐが、


「自分で言ってて少々趣味が悪いと思うのだがね」

「!」

「不意打ち・奇襲・暗殺・ひき逃げ、それが私の得意分野だ」


 一瞬一秒どころかその一万分の一にも満たぬ僅かな隙間を抜け、皇帝の座は太刀の形に変貌させた己が神器を振り抜く。


「重ね閃火!」


 撃ち込まれるのはゲゼル・グレアが模倣した彼の奥義の一つ。

 死にゆくその日まで、求めても終ぞたどり着くことはなかった神速の斬撃を馬鹿らしいほど重ねた一点突破。それは間違いなくウェルダの胴体に刻まれ、砕き、これまで以上の量の黒い煙を吐き出させた。


「っ」

「理解しろ。私に限っては、その数手があまりにも大きいのだ」




「当たったよな。オレとあんたの攻撃」

「ああ」


 ガーディアが啖呵を切り、見事な連携を決めた。

 その一方で全ての精霊を支配する王に対し、康太やシャロウズは一矢報いた。


「ならなんで無傷なんだよこの化物は!」


 しかし望む結果は訪れない。

 神器の向こう側にいる精霊の王。十メートルを超える半透明の巨体は間違いなく銃弾と槍を受けたにもかかわらず、傷一つついていない。

 その事実に声を荒げる康太であるが、それを見てもアイビスやシャロウズは動じない。


「エルドラ殿。あいつに攻撃を当ててもらいたい。援護はする」

「……意図はわかるぜ。だが見やすさに関してまで期待すんなよ。実力のほどは読めねぇが『精霊王』なんざ、厄ネタに決まってるからな』


 するとクライシス・デルエスクの指示を受けたエルドラが駆け出し、王が被る冠の奥に隠れた瞳が赤く輝く。


「瞳術か。まぁそれくらいはあるわな!」


 直後に起きた爆発を躱し人型サイズにまで力を凝縮したエルドラはさらに前へ。


「ハハ。援護の必要はなかったな!」


 今や光さえ超える速度で動ける彼の拳が木の幹のように分厚い足首にぶつかり、


「………………?」


 そこまでは想定していたことであったのだが、直後に起きた変化に対しては想定外であり、彼は首を傾げた。


「あれは」

「シャロウズ殿とお前の攻撃が通らなかった真相だ。だから、すぐに落ち着きを取り戻してくれよ康太。お前の頭脳と直感は、おそらくこの戦いで極めて重要だ」


 そう告げるレオンと一緒に康太が見た光景。

 エルドラが通り抜け、こちらに戻っていく様子を見て彼は悟る。


 全ての精霊を支配する王たる存在。その肉体は『霊体』の類なのだ。


 姿形は確かに存在するが、肉体が『ない』。

 ゆえに直接的に殴るようなことはできず、術技や能力などを用い、現世にちょっかいをかける。

 古くから存在する、肉体を持てぬ下級の存在が持つ特徴。

 すなわち微弱な悪霊や妖精――――総じて『精霊』が持つ特性だ。


「無敵の種はわかったけどさ、なんとも歪だね」

「歪?」

「だってそうだろ。強ければ強いほど、現世との結びつきってのは強固なものになる。だから中級以上の精霊は肉体を持つ。僕たちと同じようにね。最上級となれば、そりゃもうすごい強度の肉体のはずさ」

「俺の持ってる雷神がそうだな」

「それなのに、属性神すら支配するっ精霊の頂点が、下級の精霊と同義と来た。これを歪と言わずになんというのさ!」

「なるほど。確かにそうだな」


 とここで発せられたシロバの弁に対し応答をしていたヘルスも同意するように頷く。


「自然から成ったものか。それとも人造のものか。その違いだろう」

「あん?」


 その疑問の正答にすぐさま辿り着き、全員に示したのは、二人から少々離れた位置で腕を組み、油断することなく真っ黒な砂を周りに漂わせたクロバである。


「自然のものならば決まった法則で動くのだろうがな。精霊王は賢者王が作り出した人工物だ。となれば法則を無視して、自分好みにカスタマイズしてもおかしくはあるまい」

「霊体という、ある種の無敵の体を保たせたまま、神器という最強の武装を施したっていう事か。頭がいいね。ずる賢いとも言うけど」

「神器を二つ、いや三つ簡単に手放せる決断力は驚嘆に値するがな」

「けど仕組みさえ理解出来りゃ、そこまで難しい話ではないっすよね。言っちまえば霊体に攻撃を通せるよう、体なり武器なりに力を施しゃいいわけっすからね。その程度の能力なら、誰だって……………… 能力?」


 彼の意見には納得できる点が多々あり、僅かな間を置かず童子が攻略法を口にするが、止まる。次いで嫌な汗を流す。


「一応聞いておきたいんですけど」

「ん?」

「どうした那須童子」

「皆さんは能力以外で霊体に攻撃する手段とか持ってるっすか? 俺は一つもないんですけど」


 その結果として発した言葉を聞き、この場にいる誰もが理解した。

 ウェルダ以外が相手ならば誰にも負けないのではないかというほどの強さを誇るガーディア・ガルフ。

 彼がなぜ、これを自分らにまかせたのか。


 そしてもう一つ。


「っと」

「エルドラ殿」

「いやすまねぇな。あいつに近づいて触れた直後にな、すっげぇ疲労感が襲ってきたんだよ」

「ちょっと待ちなさい。あんた、三割近い量の粒子を奪われてるわよ!?」

「なんだと?」


 彼らは知ることになる。

 精霊王と名付けられた化物がどのようにして属性神を退けたのかを。




 




ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


ファイナルラウンド突入。

書いてて思うのですが、ガーディア殿は口が悪い。というか性格がねじ曲がってる。

そんな彼らの戦いは一端置いておき、蒼野達サイドの最終決戦。

『強い』以上に『インチキ』な相手との戦いが始まります。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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