重厚長大たる謎の正体 二頁目
ガーディア・ガルフが使っている能力が協力無比なことは手紙を読んだ全員が理解した。
ただ本題から少々逸れていると感じながらも、首を傾げる問題があった。
『なぜ神器所有者はその効果さえ無効化できるのか』というものだ。
ガ-ディア・ガルフが語った通りの効果を持っているならば、たとえあらゆる能力を無効化できる神器であろうと、彼が『優先権』と語っていた力により封殺できるのではないかと思ったのだ。
『音読感謝するよ』
「なんか思いついたことはありますか? こっちは神器がここまで強力な力を無効化できることに関して疑問を募らせてるんですけど?」
『そうだな………………大前提としてガーディア・ガルフが何一つとして嘘を言っていないとしよう。そのうえであり得る可能性を述べるとするなら、一番単純な解は『同質の力を神器が持っている』というのはどうかな?』
誰もが答えに詰まる疑問を優が説明。
その答えに最初に至ったアル・スペンディオが、通信機越しにそう告げると、戦士ならざる彼が至った答えに蒼野や康太だけでない。クライシス・デルエスクや雲景までもが眉を寄せた。
「……どういうことだアル・スペンディオ?」
『絶対に先制を取り、後に続くもの全てを無くす。面倒だったり都合の悪い事実を書き換える。うん。私もこれが最強の能力と言って過言ではないと思っているよ。でだ、どうやって神器がそれに対抗できるかと考えれば、一番わかりやすいのは『同質の力を持っている』という事ではないかと思うんだ』
「同質の力って言うと、消滅合戦、いや……同じ『優先権』か!」
最初はその意味を完璧に把握できなかった彼らだが、康太が声を上げる前後でその意味を把握。
『『優先権』の押し付け合いをした場合どうなるかってことだ。まぁ実際に見たわけではないからな。この辺りは推測になるが、おそらく『何も起こらない』じゃないかと思う。だってそうだろ? 後に続く効果を発揮するには、特性により『先手』を取る必要がある。けれど相手も同じ特性を持ってるなら、延々と先手の取り合いが続く。その結果、その後にある本命は発揮されないで終わりを迎えるって感じの終わりを迎えるのでは、ということだ』
「神器が残る理由は……『優先権』を『付与』されてる物体だからか。納得がいくな」
神器自体が最強の能力により具現化された物体であるならば、『絶対消滅』に触れた瞬間に消え去るだろう。
しかし最高の硬度の武器を覆うように纏っているとするならば、『優先権』の取り合いをするのは、武器の周りに膜として持続的に張られている部分だけだ。中にある武器事態にまでは効果が及ばない。
となれば神器の持ち主にまで『絶対消滅』の効果は及ばず、正しい事実を認識できるというという結果にも矛盾は生じない。納得のいく原理ではある。
「無敵の耐性はぶち破れても神器は破れない、か。笑えない話っすね」
「それもそうだが、最強の力の一端が手にしている武器にあったとはな。ちょっと信じられない話だよ」
解析の終わりに対し那須童子とレオンがそう悪態を吐き、彼らは続きを読んでいくのだが、そこに書かれていた内容に対し彼らの誰一人として驚きはしない。
なぜならば、ガーディア・ガルフが『最強』『無敵』と自認している能力で自分たちを戦場から立ち去らせなかった時点で、この選択肢は浮かんでいたのだ。
「援軍要請、か」
手紙の終わりへと向け記されていた内容は、敗北必死の状況を覆すための提案。
人生で初めて彼が行う必死の『お願い』であった。
「行くか」
「ああ」
「ここまで来たんだもんな。やるしかないわな!」
その提案に対し、誰一人として悩むことはない。
誰もが『これは能力により捻じ曲げられたものではない。間違いなく自分の意志である』と胸を張ったうえで、前に出る。
それほどまでガーディアの懇願は切羽詰まったものであった。
そして、胸に響くものであった。
共に戦ってほしい。その布陣はこのようなものである。
などと説明された後、彼らの背中を後押しした言葉。
それはなんとも短いものなのだが、元々一切の迷いがなかった彼らの背中をさらに強く押す文章であった。
その内容はこうだ。
君たちがここまで歩んだ道のりを信じる
「あんな風に言われちゃ」
神教にある片田舎から飛び出た古賀蒼野は、この場所に辿り着くまでに、実に多くの物事を見聞きし、経験した。
自分の知らなかった広い世界を見た。ギルドに入り多くの人とのつながりを得た。仲間を得た。
掲げていた理想が敗れた。
それでも何とか立ち上がり先に進んだ。
そこから日々は進み、多くの強敵と鎬を削り、今に至る。
「ええ。やるしかないわよね!」
続く尾羽優はそんな彼の側で戦い続け、思いを共有し、
「……止めんのか?」
「意味ねぇことをするつもりはねぇよ。それに」
「……それに?」
「オレだって思うところはあるんだよ。ここまでの道のりの全てがここに通じてるってんならさ」
「……そうだな。俺も同じだ」
古賀康太は賢教にいる意中の相手と手を取り合うことで、新たな時代を開くきっかけとなった。
ゼオス・ハザードは多くの者と知り合い、学び、その結果、かつての自分ではしなかったであろう選択をすることになった。
いや彼らだけではない。
一度挫折し、友を失ったレオン・マクドウェル。
監獄塔に閉じ込められるほどの罪を犯した。逆に言えばそれだけのリスクを背負ってでも願いのために戦ったウルフェンやゴロレム・ヒュースベルト。それにクライシス・デルエスク。
愛する人。神教の長を失い、それでもこの場に馳せ参じたアイビス・フォーカスやレイン・ダン・バファエロ。
応じる必要もないのに、義によりこの場に馳せ参じたクロバやシロバ。那須童子などなど。
誰もが険しかった己の人生の果てに、この最大最強の敵がいる場に集ったのだ。
その意味をこうしてもう一度、無駄なく端的に語られてしまえば、それ以上に効果があるものなど無いだろう。
「回復は任せなさい。だから」
「ウス。最初から全力全開っすね」
「敵対組織の最高戦力に背中を任せる、か。ハハ、時代が変わった気がするよ」
こうして彼らは向き合うのだ。
ウェルダと連携するように暴れるもう一つの脅威。
盾から光纏いし数多の魔獣を繰り出し逃げ場を奪い、その上で必殺の意を込めボウガンに指をかける精霊という種の頂点。
彼をまっすぐに見据え、康太が引き金に手をかけ、シャロウズがやり投げの構えを見せ、疑似的に銀河を生成。
打ち出された極限の一撃に完璧に合わせられた二つの最強は、ガーディアに届くよりも一歩早く真正面からぶつかりあい、僅かな拮抗の後、なんなく打ち勝ち、
「『果て越え』ガーディア・ガルフ!」
「貴方の依頼!」
「俺達全員が請け負った!」
シャロウズがアイビスがエルドラが、全員の意志を代表し、声高らかに言い切った。
「あぁ?」
と同時にもう一方の戦況も変わる。
神器を掴んで以来、終始攻勢であったウェルダの手が止まる。いや弾かれる。
「状況が状況だ。こういう風な感想を持つのは空気を読めないって言われるかもしれない」
「……」
「けど言わせてくれ! 正直さ、嬉しいよ。お前が――――俺達に本気で頼ってくれたことが!」
ガーディアを守るように前に立つシュバルツに。
真横に立つエヴァに、空中に浮かび、いつでも攻撃を開始できると無言の圧をかけるアイリーンを前に、攻撃の手を止めざる得なかったのだ。
戦いは終わりに向かう。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
ここまでされてきてなかった、
神器が持っていたあらゆる能力やら不条理を無効化する力の仕組み説明
などと言うものの説明、そして最後に語られた通り、クライマックスへの移行です
神器の能力無効化のトリックは、物語開始当初から考えていた設定だったので、ここで説明できて実にすっきり。
長かった戦いもできるだけ圧縮し、1,000話前までには終わらせられればと思います
それではまた次回、ぜひご覧ください!




