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重厚長大たる謎の正体 一頁目


「一つ聞いておきたい。この二人の戦い、お前にはどう映ってんだ?」


 時は少しばかり遡る。

 戦いの趨勢が決まる決定的出来事が生じる少し前のことだ。康太は自身が最も信頼できる義兄弟、古賀蒼野に対しそう尋ねかける。


「ん? どういう事だ?」

「そのままの意味だよ。どう映ってるのか知りたいんだ」

「…………質問の意図が汲み切れないんだが、かなりいい状況じゃないかと思うぞ。今のところガーディア・ガルフは一撃も攻撃を貰ってないからな」


 今しがた口にした通り、蒼野に康太の質問の意図は掴めていない。なので素直に思ったことを口にしてみる。すると康太の表情は見る見るうちに渋いものになり、


「そう見えてるんだな。お前には」

「え?」

「オレの、いや神器持ってる奴らの目にはな、全然違う光景が見えるよ」

「……どんな?」

「…………無論大量に当たっているというわけではない。だが、ガーディア・ガルフは既に両手の指では足りないだけ攻撃を当てられている。そしてその事実を同じ回数捻じ曲げてる」

「は?」


 具体的な返答を行ったのは、二人の背後から寄ってきたゼオスであり、聞かされた答えを前にして蒼野は呆ける。


「そ、それってどういう?」


 次いで口から出たのは、自分と仲間が見る視点の違いに対する素直な疑問であり、


「覇王の両斧」


 そのタイミングで彼らの耳にも届いたのだ。

 戦いの趨勢を決めてしまった、決定的な瞬間を。

 直後、二人の『果て越え』による戦いに大きな変化が訪れる。それまで一度たりとも攻撃を受けなかったガーディアが攻撃を食らうようになったのだ。


 その光景に関しては神器を持っていない蒼野や優などもしっかりと把握でき、しかも負った傷を修復した瞬間まで目に飛び込む。

 それにより彼らは康太やレオンのように切羽詰まった表情をするが、そんな彼らを見た康太の表情は一際壮絶だ。


「おい蒼野。お前が持ってるそれ」

「これか? ………………そうだな。今こそ見るタイミングなのかもな。さっき助けてもらった時にガーディア・ガルフに言われててな。自分が負傷する時が来たら、躊躇することなく中を見てほしいってさ」


 なぜなら信頼する義兄弟がそう言いながら、先ほどまで持っていなかった手紙を、さも当然のように持っていたと語り出したかと思えば開き始め、中を読み始めたからである。

 さらに言えばその奇怪な物事は神器を持っていない面々全て、それこそ現実改変等に対する耐性は極めているアイビスやエヴァにさえ起こり、彼らはみな、さも当然のように持っているそれを読み始めたのだ。


「……康太」

「恨むつもりはねぇよ。けどよこうもホイホイと現実を侵食されると気が狂うな。直接戦いに関与しない場所で起きてるとなりゃ、一層な」

「……同感だ」

「どうしたんだ二人とも?」

「悪いな蒼野。その手紙、オレ達にも見せてくれないか?」

「……音読でも構わん」


 その状況を見れば神器を持つ面々も自分たちが今、何をするかをすぐに理解し、身近な場所にいる手紙を持った面々の元へと近寄り、同じように中を覗く。


 そして書かれている文字を読んでいくことになるのだが、その始まりは手書きらしき汚い字でこう書かれていた。


『単刀直入に言おう。私は負ける。これは決定事項だ』

「「!!」」

『ただそうなる前に伝えるべきことがある。既に神器を持っている者は気づいているだろうが、この戦いの最中に私は何度も現実を書き換えた。この手紙の有無に関してもそうだ』


『この力は言うなれば極致にあたる。属性を極めることで得ることができる最強の力。その能力版だ』


「名を『絶対消滅クリアシャウトと言う』




 ガーディア・ガルフが取得していた最強の能力。その力は手紙に記してある内容によれば『単純な攻撃や防御だけではない。あらゆる『出来事』や『概念』を『なかったことにする』力』であるとのことだ。


「康太。これって」

「……概念や常識にまで通じるとなると、考えうる限り最強の力に極めて近いな。お前が持ってる原点回帰は微妙に違うが、消滅系の頂点と言ってもいい」


 例えば自分に迫った刃を


 例えば邪魔な盾を


 この力を使えば持っていなかったことにできるのだろう。


 例えば目の前で事故が起きたとして


 例えばくじ引きでハズレを引いたとして


 この力を使えばその結果を覆すことができるのだろう


 例えば重力が邪魔だと思えば


 例えばとりとめもない常識が邪魔だと思えば


 この力を用いればそんな常識や概念だって消し去れるのだろう。


「しかしそれだけの力ではないだろう。それでは耐性を無視できる理由がない。それに神器を持っていない者の記憶にさえ残らないという説明ができない。いやそれ以前に他の概念系に一方的に勝てる道理もない。これでは『最強に近い』だけだ」


 間違いなく協力無比な力である。それは多くの者が承知している。

 しかしそれだけではない。いやその効果が本題ではないと、シュバルツはエヴァが持っていた手紙を見ながら指摘する。

 それだけでは説明できない点が多すぎるのだ。


『この力の肝、最も重要な点は『なくす』ではなく『なかったことにする』という点だ。というのもこの能力は、他の力にはない『特性』を備えている。それが『優先権』というべきもの。あらゆる物事、事象や概念よりも『先に』発動する権利だ』

「………………そういうことか。なるほど確かに、それならば説明がつく」


 その疑問の答えをアイビスの背後で手紙を読んでいたクライシス・デルエスクが理解する。理解したからこそ、彼は人生で初めて怖れという感情を抱いた。

 この力が持っている特権は、それほど恐ろしいものだったのだ。


「強いのはわかる。ただ具体的な例を求めてはいけないかな? うまいこと話が掴めないんだが?」

「……わかりやすく言うとだな、あいつが得た力っていうのは立っているステージが他とは違うんだ。条件やルールが違うと言ってもいい」

「ステージが違う?」


 ただわからない者も当然いる。その一人であるシュバルツが頭を抱え悩む素振りを見せると、エヴァが少々思案した結果、そう告げる。


「そうだ。例えばだ、耐性関連は無視。能力も何も含んでいない、シンプルな属性比べをするとしよう。二人の戦士が真正面から対峙しているとして、一方が水を、もう一方が炎を出す。同じレベル、同じ規模のものを同時にだ。とするとどっちが勝つ?」

「単純な話で考えれば属性の優劣から水だろう。炎が消えるな」

「そうだな。ならばだ、もしも先に炎の使い手が攻撃を出せるとしたら、相手を火だるまにして水を出させずに勝てると思わないか?」

「そりゃそう――――――まさか」

「……多分そういう事なんだと思うぞ」


 同じ概念系を相手にするとしても、相手より先に効果を発動できる。そしてその結果後に続くものを無くす、否『なかったことにする』ことができる。だから同じ概念系が相手でも絶対に負けない。そういう事だとエヴァは説明する。


「待て。同じ概念系に勝てる理由は分かった。だが耐性を無視できる理由はなんだ? たとえ先に発動するとしても、既に発動し、延々と持続し続けている耐性やら結界やらを無視できる理由にはならないはずだ!」

「ねぇエヴァ。もしかしてそれも」

「あぁ。多分そういうことなんだろう」


 その質問を聞いても納得がいかないと唸るシュバルツであるが、一メートルほど離れている場所で手紙を見ていたアイリーンは答えに至り、エヴァはそれを肯定。


「どういうことだ? 何が分かったアイリーン?」


 するとシュバルツは訝しげな声を上げ、


「多分、信じられないくらい簡単な答えなのよ。でも中々思い浮かばない。その答えは信じられないから」

「?」

「ガーディアはね、この手紙で『優先権』を『先に』発動する力とも言ってる。けどこれを、同時に発動した場合と限定していない。効果がどこまで遡るかは書いていない」

「………………おいまさか」

「ええ。おそらくこのクリアシャウトっていう能力に付与されてる特性はね、既に起こってる事情や常識。もっと言っちゃうと過去の出来事に対しても効果を発揮するんだと思う。つまり――――――耐性を相手にするなら、持続的に効果を発揮する事実にさえ割り込んで、無理やり効果を発揮するのかも。いえもしかしたら、個々人が耐性を前。その人が誕生する瞬間にまで時間を遡って、うまい具合に弄ることだって――――――」

「そんな常識外れの事が可能なのか」


 途方もなく先を見つめるような声を発するシュバルツであるが、エヴァが語った言葉。

 『ステージ』や『条件』『ルール』が違うという意味も頷ける。

 他者の記憶に残らないという点を顧みれば、過去に戻り現実を書き換えているというのは、実にしっくりくる答えであると思ったのだ。


「最強、か」


 『効果』ではなく『特性』によりあらゆる物事や事象より早く発動し、『なかったことにする』ことで後に続く全てを封殺する。


 どれだけ強い力や法則も、先に無くしてしまえば何の意味もないという身もふたもない暴論。

 確かに、これは無敵の能力である。


 そう多くの者は理解する。


 と同時に疑問も抱く。


 『ならばなぜ、神器所有者にその効果は発揮されないのか』という当たり前の疑問だ。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


極めて簡単に言ってしまうと、作者が考えた最強の能力の説明回。

この能力は言ってしまうと固定のルールの外側からの攻撃になります。


本編では語れなかったのですが、

例えばじゃんけん大会で勝負を決めようとするルールを敷いた中、一個人が

『いや全員ぶっ殺せば相手がいなくなって不戦勝じゃね?』

などと考え、先にその通りの行動を起こし、後に続くものを無くした、といった具合です。


クリアシャウトは、それをあらゆる事象や法則、概念やら物事に一方的に叩きつけてるような感じです。

他にもこの能力だけの特徴がいくつかあるのですが、そのあたりに関しては次回で


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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