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道のりに栄光を 一頁目


 『虎砲』はガーディア・ガルフが用いる、いくつかある練気術の一つである。

 込められた力の形はあらゆる守りの貫通。

 圧縮により威力と速度を極限まで研ぎ澄まされたレーザーを連想させる一撃は、鎧や剣などによる物理的な守りはもちろんの事、術技や能力でさえ通り抜き、ぶつかった部分を根こそぎ抉るような痛みを相手に与える。

 使い手がガーディア・ガルフであるゆえに超圧縮までにかかる時間などは存在せず、コンディションさえよければ無限に湧き出る『気』を使っており、発射の瞬間は無音なこともあり、彼はこれを大層気に入っている。

 『闢光』は瞳術の一種で、ウェルダが使う『黒雛』が超威力・超持続に念頭を置いているのに比べ、こちらは接触時の衝撃に力を注いでいる。

 原理としては着弾点を炎属性を用いた強い力で押しているだけなのだが、もちろんその威力は並みのものではない。

 当たり所や範囲をしっかり選べばまず致命傷にはならないが、この力で対象を一瞥すれば、天まで伸びた巨塔でさえ、真逆の方角にはじき返せるほどだ。

 何より重要なのは耳を砕くような轟音で、並大抵のものならば耳にするだけで戦意喪失。そうでないにしても他の攻撃をする際の音を誤魔化せたり、意識を逸らせることができるこの技は、サブウェポンとしては前述した『虎砲』と並びきわめて優秀。両方を使えば、それだけで九割九分の相手を退けられる。

 たとえ相手がシュバルツであろうと、眼球に叩き込めば大きくのけぞり、続く攻撃により地面に沈むほどだ。


「ッ!」


 それほどの連携を受け片目が潰れたようとも、ガーディア=ウェルダは、いまだに一歩も引かない。

 攻撃の衝撃により僅かに体を引きこそすれど痛みを覚えた素振りはなく、憤怒に染まった表情を浮かべ一歩前に踏み込むと、即座に正拳突きを打ち込む。

 その強度。その意志。どちらも計測不能の域。歴戦の猛者たちでさえ生唾を呑むだろう。


「どうしたウェルダ」

「!」

「ずいぶんと緩慢な拳じゃないか」

 

 しかし彼は違う。

 ガーディア・ガルフだけは違うのだ。

 撃ち込まれた拳を僅かな跳躍で躱すとそのままその強靭な右腕に乗り、腕を真っ二つにするため、手にしている神器の一部を切り取り鋭利で分厚い刃に変形。腕が引かれるより早く真下へと投擲し、同時に腕の上を疾走。

 刃が当たった瞬間にはウェルダの頭部を己が二の腕で掴み、何かをされるよりも早く膝を撃ち込み吹き飛ばす。


「円輪」


 その姿をむざむざと見送るようなことを彼はしない。

 吹き飛ぶ己が合わせ鏡の身を即座に追い越すと、それまでのシンプルな装飾と大きく異なる、タイヤのように分厚く、表面に無数の棘を携えた鉛色の自身の身ほどもある物体を生成。

 振り下ろすよりも早く打ち出された反撃の蹴りを余裕で躱すと、持っていたそれに白い炎を纏い、地上を破壊するような勢いで何度も何度も叩きつける。


「すっげぇ」

「あれが本気のガーディア・ガルフか。圧倒的じゃないか」


 その光景を眼の裏に焼きつけながら蒼野と積が声を漏らし、アイビスや優、シロバにクロバも頷く。

 が、そんな彼らに反し顔を青くしたり、醜く歪ませている者達もいた。神器を所有している面々である。


「概念、因果律の操作。それが我が友が隠し続けていた能力の正体か」


 とそこで、そのうちの一人。おそらくこの超次元の戦いを最も事細かに観戦できているシュバルツがそう分析し、これに対しては全員が同じ意志を持って顔を彼に向けた。


「まさか。それだけはありえない(・・・・・)はずです」


 レオンが口にした内容に反論がある者はいない。

 ではなぜ反論しないかというと、この場に集った数多の猛者だけではない。この星に生まれたあらゆる生命が、『因果や概念』『即死』などの力に対する強力な耐性を持っているからだ。


 これはこの星でかつてその類の力が流行したことがきっかけで、多くの研究家を筆頭に名だたる武人、それに大富豪の類が『正確な物事の把握』や『利益の障害』『甚大な被害の未然防止』などを旗に掲げて協力。

 それらの分野に対し、世界中の人々の意識は先鋭化され、それだけでなく生まれてくる子供にまで、それらの耐性を引き継がせる秘術が開発された。

 したがってこの星にいる人らに即死は滅多に聞かない。ギャン・ガイアが至ったような一属性の極致、『過程の省略』ならば話は違うが、『ただ殺す』だけの力はまず意味がない。『概念の自由な書き換え』『決まっている法則や因果への手出し』もこれに当てはまる。

 ちなみに言えば多くの人が毛嫌いしたため、相手を魅了・洗脳する力に対する耐性も抜群に高い。


「もしそうなら、アイビス・フォーカスの奴には効かないだろう。エヴァ・フォーネスにしてもそのはずだ」


 もちろん個人差はある。しかしアイビスやエヴァがその分野において他者と隔絶したものを持っているのは誰もが同意できることであり、その可能性を数多くの神器使いが否定する。


「ならそこに何らかの絡繰があるんだろう。いやしかし……それにしても妙だな」

「……何がだ?」


 ただそれを受けてもシュバルツは一歩も引かず、そこで話題を別の方向に。ゼオスが気になって尋ねてみると、顎に置いた手を離す。


「いやなんというかな。あいつが使う攻撃の種類が不思議なんだ。今だってわざわざ接近戦を挑んでるわけだが、確実性を取るならさ、遠距離から延々と削ったほうがいいはずなんだよ。そうすれば攻撃が当たることなんてないわけで、距離を保てば一方的に蹂躙できるだろ?」

「確かに、俺がやったように無数の神器で遠距離戦を挑む方がよさそうではあるな」

「それにだ、接近戦を仕掛けるにしても、使う技のチョイスが微妙だ。なんであいつは直接攻撃にこだわってるんだ」

「どういうことだ?」

 

 前者の疑問に対してはクライシス・デルエスクの言葉に大勢が頷くが、後者の疑問に関してはシャロウズが応じるが、詳しい意味まではわからず疑問が返り、


「ゲームなどを例にすればわかりやすいかな。五万回の行動回数の一つ一つを1ターンにするとして、攻撃やら移動をするたびにそれを費やすとする」

「わかりやすいっすね。それで?」

「ただな、漠然と『攻撃する』と言っても、その種類は手札の数だけあるわけだ。今やってる斬撃やら打撃みたいなものもその一種なんだが、あいつならもっといろいろできるはずなんだ。それこそさっき言ってた遠距離攻撃にしてもそうだが、ウェルダが保有している力の消費に重点を置くなら、もっと手数に傾けていいはずだ」

「威力が足りないというだけでは?」

「いや、威力だけに重点を置くなら、手数を増やした上でもっと強力なのをあいつは持ってるよ」

「ならなんで?」


 そうやってシュバルツが説明をしている最中、地面は揺れる。

 そして状況が大きく変わる。


「覇王の両斧!」


 ウェルダが神器を取り出したのだ。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


おかしな話ですが、この時間に投稿できたことに不思議な感覚を覚えた作者です。

さて熾烈な戦いがここまで続き、シュバルツを筆頭に多数が考察を進めた此度の戦い。それがここで大きな方向転換。


最後の戦いにふさわしい道を辿ることになります。


なのですが、大変申し訳ないのですが、次回6月29日の投稿はお休みさせていただきます。

最後に至るまでの最終確認をしたい、という理由もあるのですが、新人賞に出す方の小説の最終調整がありまして………………


このタイミングでやってしまい申し訳ないと思っているのですが、今月末はそちらに費やしたいと思います。


なので次回更新は7月1日!

少々お待ちいただければと思います


それではまた次回、ぜひご覧ください!




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