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『果て越え』VS『果て越え』 二頁目


「君相手に」

「チッ」

「出し惜しみする気は一切ない。わが身から生まれた神殺しの獣、君はこのままm敗北の沼に沈め」


 戦いの趨勢を示す最初の一撃。

 それを相手の肉体に届かせたのは史上最速の足を持つガーディア・ガルフであったのだが、彼が勝ったということは『最初の一撃』という意味合いを大きく超える。それを示すようにウェルダは動かない。大樹が地面に根を張るかのように、体を大きくのけぞらせるにとどまっている。

 それを見れば、彼の凄まじい肉体能力に多くの者が恐れおののくのだろうが、実際のところ、彼は『動かない』のではなく『動けない』のだ。


 鼻柱を粉々に砕くような衝撃がウェルダに襲いかかり、さしもの彼も顔を歪め大きく後退する。


「遅い!」


 そんな当たり前の運命を、ガーディア・ガルフはつい今しがた覆したのだ。

 撃ち込まれた飛び蹴りによりウェルダが吹き飛ぶよりも早く、彼は炎の噴射による勢いを利用した移動法でウェルダの頭上へと移動。ウェルダが吹き飛ぶよりも遥かに早く、防御どころか反応すらさせず、第二撃となるかかと落としを頭上から真下へと響かせる。


「ッッッッ」


 結果ウェルダの全身には瞬く間に二つの特大の衝撃が撃ち込まれることになるのだが、まだガーディアは止まらない。

 同じ方法で頭上から背後へと回ると即座に五度の肘撃ちを行い、膝裏をその十倍蹴ることで姿勢を崩し、そこから一歩前に足を進め真横を取ると、脇腹を抉るような手刀を披露。ウェルダが即座に体制を整え真横を振り向いた時には既にそこに彼の姿はなく、再び頭上を奪ったかと思えば、自身の体を独楽の如く回転させ、先ほど以上の威力のかかと落としを。

 『息をつかせぬ』を超え、『知覚さえさせぬ』攻撃の嵐を数万回、たったの一秒の間に彼は叩き込み、周囲に凄まじい衝撃を迸る。

 他の者が絶対にまねできない速度と生物の限界を超えた方向転換やバランス感覚を、彼自身が生まれ持っている圧倒的な速度と肉体能力に加え、炎の推進力を用いた縦横無尽の移動術を合わせることで実現する。


 そしてそれを見て蒼野達かつての挑戦者は理解する。自分たちを相手にしていた時の『果て越え』ガーディア・ガルフが、どれほど手を抜いていたのかという事実を。


「蚊が刺すようにブンブン飛び回りやがって。しつけぇんだよ!」

「負け惜しみにしか聞こえんな」


 それらを受けても依然として怯む様子を見せないウェルダはまさに魔王の如き風格であり、蒼野達の背筋を凍らせるが、ガーディアはそれを上回る高揚感を彼らに与えていた。


 幾度となく自分たちを苦しめ、それこそ躱すことさえ難しかったウェルダの拳を、ガーディアは全て回避し、どれほど複雑な態勢であっても、すぐに十全の力を発揮できる状況に戻り、返す刀で易々と数万の攻撃を自身と同じ姿をした存在に叩き込むのだ。

 時に目にもとまらぬ速さを利用した縦横無尽な動きで。時に真正面から。圧倒的な数の暴力を行使する。


「ああそうだ。蒼野君。ゲゼルが君に送った品を返してもらってもいいかね?」

「え? それってこれですか?」

「感謝する………………ふむ。やはり手元にあると落ち着くな」


 戦況は誰の目で見ても明らか。一方的な状況であるが、それほどの猛攻が突如止む。

 それはガーディアがウェルダの攻撃を紙一重で躱し真下を取り、強烈な回し蹴りを撃ち込み顎を捉え、自身と同じ肉体を宙にかちあげたタイミングである。

 ガーディアが突如蒼野の側にやってきたのだ。

 すると突然のことで困惑する彼から、ちょうど今しがた手にしていたゲゼル・グレアの遺品である神器の短刀を受け取り、


「そうか。そもそもその刀って!」


 自身の側から『果て越え』の姿が消えたところで蒼野は気が付く。

 そもそもの大前提として、その短刀の持ち主は誰であったかを。ゲゼル・グレアがどのようにして手に入れたのかを。

 数日前に見た千年前の記憶から紐づけ、


「お前らの考える通りだ。あの短刀はダーリンがゲゼルに渡したものだ。つまり!」


 エヴァの断言するような発言。


「白皇の牙」


 そしてガーディアの小さな呟きと共に起こった出来事。

 かつて蒼野がミレニアムと戦っている際、一度だけ起きた形状の変化を前にして確信に至る。


 ゲゼル・グレアの思惑かどうかまではわからない。

 しかしあの短刀は間違いなく、今この瞬間を迎えるために、過去から今に至るまで受け継がれたのだと。


 ガーディア・ガルフが習得した神器『白皇の牙』は球体の形をした神器だ。

 効果は実にシンプルな『形状変化』。個体だけでなく液体や気体にまで変化可能で、主の意志に従い、無数の形を取ることができる。


「長剣」


 これだけならばさほど強力な神器ではない。クライシス・デルエスクのように無数の神器を召喚可能で、多種多様な効果を発揮できる方が圧倒的に上であるし、そこまでのものと比べなくとも、特殊な効果や銀河の力を内包しているものと比較した場合大きく劣っているように思える。


 実際のところその評価に間違いはない。この神器の格はさほど高くない。

 ただし、担い手がガーディア・ガルフである場合に限りその前提は覆る。彼にとって最強にして最良の武器は間違いなくこの『白皇の牙』なのだ。


「鉄槌」


 この神器最大の特徴。それは変化する際の速度であり、担い手が念じたものに即座に変化する。文字通り、一秒どころか瞬き、いや光が通り過ぎるよりも早く。というよりも時間がかからないのだ。


「クソが」

「盾」

 

 つまりである。この神器は宇宙で唯一、ガーディアの思考速度についていけるのだ。

 他の武器のように持ち帰る手間なく、いつだって彼が最も望むものに変化する。


「剣・槍・帯・鉄槌!!」

「テ、メェッ!!」


 音を、光を、いや万物万象を置き去りにした男の攻撃の勢いがさらに増す。

 手にしている神器は攻撃を行うたびに鎚や帯、槍や鎌に変化。いや武器だけではない。盾や糸のようなものにまで変化し、ガーディアの第三の腕として活躍。

 対応しきれていないウェルダをさらに翻弄する。


「謝罪するよ。ウェルダ」


 全力全開を発揮でいる今の彼の疲れはなく、人智を超えた不可解な動きを何度繰り返しなお、息切れの一つも起こさず言葉を紡ぎ、


「私をベースにした君は強い。それは間違いがない」

「ッ」

「しかしだ、此度に限っては――――無様に負けろ。大地に沈め」


 その言葉と共に、見ている誰もが信じられないことだが、聞こえてくる打撃や斬撃の音の勢いがもう一段階増し、ウェルダの肉体から溢れ出る黒い煙の勢いが凄まじいものになり、その光景を前に見ている者達の半数が声を上げる。


 『やはりガーディア・ガルフは他とは違う』と。敵として立ち塞がっていたことさえ今だけは捨て置き、歓声を上げる。


「…………」

「確認だが、オレの認識がおかしいわけじゃないよな?」

「夢でも見てる気分だよ」

 

 がしかし残りの約半数。すなわち神器の担い手となっている者達の表情は違う。喜びを感じるよりも先に困惑が頭を占める。


 そして、


「何故オレたちは全員助かってる! ガーディア・ガルフは何をした! 何をしている!」

「康太君……」

「俺たちは――――――確かにさっき死んだはずだ!」


 その困惑の原因を康太が吐露した。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


着々と状況を自分優位に進め、神器までガーディア殿が手にする回。

そして最後の最後に康太が不穏な疑問を投げかけます。


前回の時点であった疑問。

本来の状況と今の状況の乖離。つまり蒼野達全員が死んでいない状況に対する疑問。それは此度の戦い全体に関わるある事柄に関する内容に繋がります。


詳しくは次以降で


それではまた次回、ぜひご覧ください!!

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