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『果て越え』VS『果て越え』 一頁目


「すまないな。随分と、待たせてしまった」


 視界が掠れ、意識は朧気な中、聞こえてきた声を聞き大地に身を預けた巨躯は安堵する。


 間に合ったのだと。

 最低限ではあるが己は役割を果たしたのだと。


「すまな、い。全部は守り切れなかった」


 とはいえやはり後悔はあり、謝罪の言葉は吐き出される。

 本来ならば今、もっと多くの味方で彼を迎えるはずだったのだ。こんなところで半身を失っていることなく、いつものように豪気で晴れ晴れとした笑みを浮かべ、彼の隣に立つはずだったのだ。


 それができないことを彼は謝る。


「理解ができないな。友よ。君はなぜ謝罪する」


 すると


「それは…………多くの犠牲を出してしまったからな。本当なら、もっとうまく立ち回るはず…………」

「これ以上にうまく? 訳が分からないな?」


 ぼやけた視界の先にいる友は、無機質な声ではなく、しっかりとした感情を乗せた声で、


「全員無事で、自戦力の温存と、敵戦力の削減を成しえ、その上で渡してくれた通信機で情報まで届けた。君自身は死にかけたが、これ以上の成果を期待するというのは贅沢が過ぎる」


 「何を言っているんだお前は」なんて意味を含み、さも当然のように返すのだ。

 それを聞き大地に沈んでいた男は――――――納得した。そして不思議に思った自分に対し首を傾げた。


 そうだ、なぜ自分はそんなわけのわからないことを呟いているのかと。

 それ以上の戦果を期待するのは、流石に贅沢過ぎると。


「他の者達を頼む。私は彼女を助けるよ」

「おう。頼んだ」


 直後、地面に沈んでいた巨躯は両足で立ち上がり、息を吐く。後退する。

 ルインやクライシス・デルエスク、蒼野やゼオス。多くの者が控える場所にまで退いていくのだ。




「なぜテメェがここにいる。意識を失ってたはずだが?」


 自身の腕に迸る痛み。頭上へと昇る黒い煙。それに対し忌々しさを覚えるガーディア=ウェルダは、けれどそちらには意識を向けない。

 己から一メートルほど離れた上でエヴァ・フォーネスを抱えているガーディア・ガルフ。すなわちもう一人の自分を凝視する。


「そんなこと疑問に思うまでもないはずだ。君だって薄々気づいているのだろう? いや、私という存在を軸にする君なら、確信だって得ているはずだ」

「………………」

「君は負けたんだ。我が友シュバルツに出し抜かれたんだ」


 その視線の先にいる男の言葉に淀みはない。さも当然という様子でそう告げ、それを聞きガーディア=ウェルダは眉間に皺を寄せ、


「シュバルツの奴は馬鹿じゃない。勝てる相手と勝てない相手の区別くらい易々と判断できる。ついでに言えば、ムキになって特攻を仕掛けるほど馬鹿ではない。だからね、おそらく戦っている途中で君の討伐を諦めたはずだ。時間稼ぎと力を削ぐことに専念したはずだ」


 次にされた発言を失笑で返す。そんなことあるわけないと。シュバルツ・シャークスは常に全力であったと。そもそもの話として、そのように言える証拠がないと。

 だが、


「君に気づかれないくらい、わが友がうまくやったというだけの話だ。そして――――やはり君は愚かだ。証拠とは愚かなことを聞く」

「あ?」

「彼を一番見てきた私が断言する。それ以上の証拠がどこにある?」


 ガーディア・ガルフは断言する。

 自らの友ならば可能だと。他の者ならば不可能な立ち回りも、彼であれば可能であると。


「それができるからこそ、彼は『果て越え』である我々の真後ろにいるんだ」


 愛する彼女を脇に置き、しっかりとした足取りで一歩前に歩みながら、締めくくるように断言。僅かに腰を屈め、己の分身に射抜くような視線を注ぐ。


「いいのかよ。テメェは俺に勝てねぇから、自害する道を選んだんだろうがよ?」


 それだけで周囲を支配するのは、並の者でなくとも身が竦む史上最強と誰もが口を揃える皇帝の座の威圧。それを前にしてもガーディア=ウェルダは怯まない。

 自身に挑む惑星『ウルアーデ』の全てを退けた覇者は、なおも余裕を感じさせる振る舞いと薄ら笑いを見せつけ両手を開く。自身の絶対的な優位を示すように。


「そうだな。その通りだ。しかしだ」

「…………」

「気が変わったんだ。お前は――――ここで仕留めるよ」


 ただ、挑発を受けるガーディア・ガルフもその自信に陰りはない。

 さも当たり前のように他の者が聞けば頭を抱えるような気まぐれを投げかける。


「言うじゃねぇか」


 とはいえ実のところガーディア=ウェルダにとって彼の選択はさほど重要ではない。

 なぜなら自身が生きていくうえでガーディア・ガルフだけは目の上のたんこぶであり、ここで排除しなければ、後々思ってもいないデメリットを被る可能性があったのだ。

 むしろ力を削がれた現状でも自身の方がなお強いという確信を抱く彼にとって、起きてすぐの本調子でもない彼がここにやってきたのは、思ってもみない幸運であるのだ。


「ちまちま逃げてりゃもう少し寿命が延びてたはずなんだがな。馬鹿だよテメェは」


 そうして同じ顔の二人は対峙し、向き合う。

 かつて古賀蒼野とゼオス・ハザードがした時のように、通常ならば鏡越しでしか見ないはずの自分の顔に向け、意識の全てを注ぐ。


「俺より弱い分際で、偉そうなことをぬかしやがる」

「が、ガーディア」


 そんな中、ガーディア・ガルフの背後に控えるエヴァが不安を孕んだ声を発する。

 彼女はわかっているのだ。これから行われる最初の交錯。始まりを告げる一撃目が肝心であると。

 近い実力を備えた者達が衝突する際、「初撃をどちらが制するか」というのは、戦いの趨勢を決める大きな要因になると。


 そしてもう一つ、確信には至りはしないが、予期している事実があった。

 それはこれまでの推測と、目の前で繰り広げられた会話や様子を見る限り、この二人の『どちらが上でどちらが下』かという、目下最も重要な事柄。その解を彼女は自然と理解し、だからこそ嫌な感覚に襲われ、手を伸ばすのだ。


「大丈夫だ。大丈夫なんだよエヴァ。安心していい」


 その不安を払しょくするように、ガーディア・ガルフの口から力強い応答がされ、


「「!!」」


 次の瞬間、世界が動く。

 比喩でという意味ではない。物理的にという意味ではない。

 この世界に『新たな歴史が刻まれる』。そのような意味である。


 この場に現れた、挑戦者たちにとって最後の希望たるガーディア・ガルフはなんの策も弄さぬ様子で、黒い炎が周囲にくすぶる大地をまっすぐ進み、

 この場を支配した、魔王や覇者の類であるガーディア=ウェルダは拳を握り待ち受ける。


(馬鹿が)

「あ!」


 その瞬間、エヴァ・フォーネスは目にした。

 これまで以上に機敏に動く噛み殺しの名を背負った獣の姿を。

 纏ったこともない空気と、見るだけでも恐ろしい黒い灼熱で拳を包む様子を。


(データを得ただと? 下らねぇ。俺はこいつらに本気を見せた覚えはねぇよ)

 

 彼はウサギを借るために全力を尽くすライオンに非ず。

 必要最低限の力で、しっかりと確実に敵を駆逐する意志を持つ生き物の一種なのだ。


 ゆえに今の全力全開で己の鏡を迎え撃つ彼は今までとは遥かに違う。

 他者を置き去りにする圧倒的な身体能力。それを十全に動かす反射神経。他者を寄せ付けぬ最強にして無敵の炎属性。そして


「見えてるんだよぉ!!」


 光を遥か後方に置き去りにする己のオリジナル。それを完璧にとらえる動体視力。

 それを全てを発揮した彼は自分の頭部へと蹴りを放つ彼の頭部を完璧に捉え、


「自分の方が強い、か」

「っっっっ!?!?!?!?!?」

「どうやら口だけのようだ。この上なく恥ずかしいな、お前は」


 そのままぶち抜く三段であったが思惑が外れる。

 撃ちだされた拳は頭部一個分離れた場所で空を切り、鼻先を捉えた飛び蹴りが彼を射抜く。



 それが同じ顔をした二人の『果て越え』。


 戦いを終焉へと導く始まりの一手であった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


多くの道のりを経て、最後の戦いは始まります。

前回の後書きで『果て越え』VS『果て越え』が始まることをお伝えしましたが、実ですね、振り返ってみると同格同士の戦いはかなり久々なのです。


これは三章の基本のテーマが『圧倒的強者、格上に対する挑戦』だったので、振り返ってみると二章まで遡らなければ同等相当のない気がします。


であれば何ができるかと言えば、より詳細な戦闘描写。

これまで動けば一方的な蹂躙しかできなかった男と、好き勝手動いて敵を圧倒できる男の本領を賭けるというわけです。


ということで、力不足な点はあるかもしれませんが、物語全体を切っての強者のぶつかり合いを見ていただければ幸いです。


それではまた次回、ぜひご覧ください!!

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