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全身全霊 四頁目


 振り返ってみれば大人と子供の喧嘩のようであったと、彼は思った。

 全く力を出していなかったというわけではないとは思う。ただ振り返ってみれば、必要最低限であったようには思えた。

 自分たちを相手にむやみやたらに全力を発揮せず、底を見せずにうまく立ち回る。


 ガーディア=ウェルダの動きはそのようなものであったと、下半身を失ったシュバルツは考える。


「ぐ、う…………」


 『星の破壊が可能である』『隕石の衝突の如き威力』と他者に形容される一撃を何度繰り出しても相手は微塵も揺るがず、打ち込まれる攻撃はどれも圧倒的であったが、どんどん増えていく仲間たちにより突破口が開かれていた。


 その事実に多くの戦士は顔を綻ばせ、心に宿った熱を大きなものに変化させていった。

 実際には、どれだけの脅威を突破でき、どこで挫けるかを図られていたとも知らず。


 今になってシュバルツは気づいた。気づいてしまった。

 あまりにも残酷で、涙を流したくなるような現実を知ってしまった。


「…………今、の、は…………………………?」


 一瞬のことであった。

 空を覆うように現れた、黒い炎で形成された二枚の翼。

 それは本当に単純な、小細工など一切施すことない破壊の塊であり、最前線に立つ彼らに速さと力をもって襲い掛かった。


 ただそれは光を追い越す速度ではあったのだがシュバルツが認識できないほどではなく、端的に言えば、シュバルツは自分の身を守るために神器を前に出すことができていた。

 だが意味はなかった。

 あらゆる神器の中でも最高の硬度を誇る彼の神器は熱に耐え切れず刀身の上半分を易々と溶かされ、その奥にあった筋肉の塊のような肉体は、前述するように下半分を失った。

 少し離れた位置を見ればクライシス・デルエスクも同じような状態に陥っており、エルドラは肉体こそ無事であったが、全身に打ち付けられたかつてない衝撃により、うまく立ち上がれないようであった。


 これが終わり。

 全てを捧げ、命を消費し勝利を掴みに行った彼らがたどり着いた、無情な終幕。


「ッッッッ!!!!」

「まだ足掻くのか。無駄だとわかってるはずなんだけどな」


 そう頭は理解している。けれどもなおもシュバルツは受け入れられず、歯を食いしばり、失った下半身を補填するため水属性粒子を垂れ流し、それを煩わしく思ったガーディア=ウェルダはそちらに視界を映し一歩前に。


「こんの野郎! よくもやってくれやがったな!!」

「ほう。アレを抜けきったか。こと回避に関しちゃ、テメェは人一倍やるな」


 その行く手を阻むように、ヘルスが飛び掛かる。体の至る所を炎の余波でやけどしながらも、最前線に立っていたものの中で唯一健在な姿を晒し、なおも新たな『果て越え』に挑みかかる。


「つっても、もう限界は見えた。お前も終わりだ」

「ごぁっ!?」


 それは間違いなく『偉業』である。がしかしそれだけのことなのだ。『勝利』にはつながらない。

 その事実を示すように振り抜かれた拳は、即座にヘルスが行ったあらゆる回避行動をすり抜け、確実に胴体を捉えると、内臓と骨を木っ端微塵にする勢いで破壊。大量の血潮が吐き出され、黒く焦げた地面に零れ落ちた。


「さっきまでと全然!」

「援軍がウジウジとやってくるとわかってて、馬鹿丁寧に本気を晒すなんて真似をするかよ」


 告げられた言葉がこの戦いの全てであると悟るのにそう時間はかからず、掃いきれない絶望が心を覆う。シュバルツの身を覆う。残っていた僅かな力も根こそぎ奪う。


「………………まだ何人か息があるな。めんどくせぇ。もう一発撃つか」


 そしてそれをそのまま形にしたものが再び彼の双眸に移る。

 現れたものは具体的な形を持たぬ、粘性を秘めた黒い炎の液体で、それは僅かな時を経て再び二枚の巨大な翼へと変化すると空を埋め、大地へと向け舞い降り、


「原点――――回帰!」

「あぁ?」


 それが地面に到達するよりも早く、真っ赤な破滅の光が飲み込み、跡形もなく消し去った。


「まだだ。まだ終わってない」


 そうだ。この場にいたのはシュバルツ達だけでない。

 それ以外にも多くの戦士たちが存在しており、彼らはシュバルツ達から離れた場所で、自分たちの出番を待ち続けていた。


「…………力を温存していたと言っていたな。だが体の硬度に関してだけは、偽りのない真実であったはずだ。なんらかの力を使った形跡がなかったからな」

「てことはだ、どれだけ時間がかかろうと、殴ってりゃいつかは死ぬってことだわな」


 そんな者達の反撃が始まる。

 ゼオスが斬り、那須童子が叩く。乱雑に振り抜かれた拳を復活したレオンが明後日の方向に流し、無数の氷の人形を率いて視界を奪いながら、ゴロレムが他の者達に指示を出す。


「派手にやられたわね。ま、それで休みが来るわけじゃないけどね」

「アイビス・フォーカス!」

「まさかこの戦いを始めることを決めた剣帝さまが、一番に舞台から降りるなんて言わないわよね? まだまだ戦いは続いているのよ?」


 そのように必死に戦っているメンバーがいる一方で、優やアイビス、それにエヴァなどの回復班がヘルスやシュバルツの回復に努め、その間にもアイリーンがメタルメテオを率い最前線に踊り出し、何とか戦線を維持しようと努力する。


 そんな彼らの血反吐を吐くような努力がシュバルツに訴える。


 まだ何も終わっていないと。自分たちは戦えると。

 

 その思いのなんと心強いことか!


 彼の心の奥で消えかけていた炎を勢いよく燃やし始め、全身を支えるだけの力が蘇る。

 ここからでもまだ立て直せると訴える者達に応えるため、彼の喉から迸るものがあり、


「お、おぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 気が付けば失われた下半身は戻っており、彼は誰に言われるまでもなく立ちあがっていた。焼け焦げた大地、自分では壊せなかった木々を前にしても気後れせず、そのまま体を傾け、もう一度絶対王者に牙を突き立てようと思ったところで、


「いいかげんにしやがれクソ雑魚共」

「………………あ?」

「諦めろ。理解しろ。お前たちに、勝ち目なんざ億に一つもないんだとな」


 ゼオスの胴体が文字通り爆ぜた。蒼野の体が縦に裂け、二度と余計なことは考えられないようにと、頭部が潰された。

 ヘルスの回復に努めていた優が足先を残し灰すら残さず燃えつき、その下にいたヘルスも腹部を無くした。ゴロレムが自身の出した人形ごと、超強烈な粉塵爆発に巻き込まれ、レオンと那須童子の体は炎の球体に射抜かれた。


 そうやって、希望は摘まれていく。


 一つ、また一つと。


 もはや何一つとして意味など生めぬと、挑戦者たちに叩きつける。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


お待たせしました。一日遅れの更新でございます。

VSガーディア=ウェルダ。その終結と共に訪れた追い打ち。絶望フェーズです。


果たしてこの戦いを善き方向に導く一手はあるのか?

最終決戦は続きます


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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