全身全霊 三頁目
己の体から溢れ出した黒い煙を前にガーディア=ウェルダが顔を歪める。けれど彼は、そこで動きを止めることはなく、どれだけ隙間を縫うように雷の砲撃を食らおうが、シュバルツの頭部へと腕を伸ばす。
「来たか!」
「今度はなんだうっとおしい」
それを阻んだのヘルスでなければ康太やクライシス・デルエスクでもない。全身を鋼鉄の鎧で包んだ機械の徒、メタルメテオである。
「あいつは?」
「気にすることはないぞエルドラ。我々は好きなように動けばいい。そうすればメタルメテオはうまいこと合わせてくれる」
「?」
その意味をしっかりと把握しきることができずにいたエルドラは、しかし再び前に出て攻勢を仕掛け始めたところで意味を理解する。
メタルメテオの動きが、自分の攻撃を完璧に把握した上で、その効果を最大限発揮するための援護となっているのだ。
このような事ができるのは、彼が機械の精密動作と色褪せることのないデータの記憶を保持しているからであり、今のメタルメテオは最後にやってきたヘルスまでの全員の戦闘データを超高速で蒐集。それらを参考にして現代最高峰の身体能力と技術を十全に発揮し、最前線で戦う戦士たちのサポーターとして動いているのだ。
「にしてもさすがガーディアといったところね。もしもの時の場合を考えて、こんな便利な援軍を用意してくれてたなんて」
「ダーリンとしては危険な目に遭ってほしくなかったんだろうがな!」
こうして最前線に立つ戦士の数が一人増え、更に戦況はシュバルツ達に傾く。
「むぅん!」
己が瞳を意志の力で輝かせ、しっかりとした踏み込みによる連撃がガーディア=ウェルダの胴体を何度も切り、トドメとばかりの頭部を斬る。その間に行われる幾重もの反撃はヘルスによる青い雷とクライシス・デルエスクが使役する無数の神器が妨害し、それでも止まらなければエルドラとメタルメテオが間に入った。
「…………」
「もうばてたか? それなら嬉しいが、まぁこっちは延々戦えるようにスタミナも鍛えてるんでな。諦めないなら諦めないで、一週間ぶっ続けで付き合ってやるよ!」
「しゃらくせぇ」
獰猛な獣が如き笑みを顔に張り付け、シュバルツは吠える。
するとガーディア=ウェルダはその全身に力を宿らせ、
「気を付けてください! なんか来ます!」
「「!!」」
優れた直感ゆえに誰よりも早く異変に気付いた康太が後方から最前列に届く勢いで叫び、その声が途切れるよりも早く、各々が警戒の色を示し、
「プロミネンス・D(灼爍の)」
「これは鱗粉――――広範囲爆発か!」
「デライト(喜悦)」
周囲一帯を赤と黒が混じった鱗粉が舞った瞬間、シュバルツはエヴァが作ったマント、すなわち友の着ていた白衣に類似していたそれは巨大化させ一振り。
そこから生じた暴風が周囲一帯に舞っていた鱗粉を吹き飛ばし、ガーディア=ウェルダの続く解号が口ずさまれた瞬間、この場に集まった戦士達全員の外壁を囲うように、大地から空までを侵食する黒い火柱が立ち昇った。
「なんつー威力だよ!」
「シュバルツさんが機転を利かせてくれてなかったら全滅だったな」
「…………コロナの名がつくものはシンプルな弾丸の射出。プロミネンスの名がつくものは液体や気体を用いた奥義といったところか」
この世界を構成する丈夫な木々や建物さえ半壊させる火力に蒼野やゴロレムが息を漏らし、ゼオスが観察の結果を告げる。
「ッッッッ」
そんな彼らの現状など露知らず、最前線に立つ者達は闘志を更に燃やす。もはやたった一度の反撃さえ許してはならないと、ギアを一つ二つと上げていく。
エルドラが拳やしなる尾を打ち込む速度は増し、クライシス・デルエスクが神器を使う方法が、ただの投擲に限らず視界を奪うものや特殊な効果を含むものが含まれていき、全員を代表するように前に立つシュバルツの斬撃が、限界を超えた速度を繰り出す。
「いける。行けるぞ! このまま攻め切れば、俺たちが勝てる!!」
昇る煙の量はそれに合わせて増していき、耳に付けている通信機越しに語られる情報も吉報ばかりである。そこにさらなる勢いを上乗せするため、シュバルツは周りを鼓舞する。
そんな言葉とは裏腹に、決して消えることのない不安を胸の奥に抱えながら。
「…………様子を見るに」
秒間五万万を超える常人ならば一撃必殺に違いない攻撃が全身に叩きつけられ、それに見合うだけの煙が掌や二の腕、肩や太ももから溢れ出ている。
しかしそれでも痛みを全く感じている様子を見せないウェルダの口からはぶっきらぼうな言葉が零れ、それを聞き、エルドラやシュバルツ、いやヘルスやクライシス・デルエスクの胸に強烈な吐き気が訪れる。何か、何か致命的な失敗を行ったかのような錯覚に陥る。
「アポロ」
「ッ、何か来るぞ!」
そこで口ずさまれた新たなる解号。それを前に警戒心を限界を突破する勢いで突き上げたシュバルツが警告する。
彼はゼオスが至ったものと同じ答えに既に至っており、同時に攻撃態勢に入ったガーディア=ウェルダを止めることはまだ無理であると悟っている。
それゆえ回避する構えは見せつつ、新たな力を必ず見極めなければならないという意思で両の眼に力を籠め、
「D」
シュバルツと同じ考えに至っていた者達の前で続く言葉は綴られていき、
「クリエイター」
最後の言葉が終わった時、彼らは確かに目にした。
世界を薙ぐ、二枚の黒く禍々しく、しかし目を奪うほど美しい、不死鳥の羽。
それらはクライシス・デルエスクが貼った数多の神器を溶かし、砕いた。ヘルスが繰り出した雷の神、その抵抗すら嘲笑いながら吹き飛ばし、
その果てに戦場一帯を更地にした。それまで歯向かっていた最前線に立っていた者達を瞬く間に退けた。
「今度こそ終わりだ。異論はねぇな?」
それが終末。
あまりにも呆気ない、『果て越え』とそれ以外の生命の明確な差であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
シュバルツ達の反撃。その終幕。
期待していた方がいたのでしたら非常に申し訳ない。
彼らがやった方法というのは、全国オンライン通信前提のレイドボスを、一個人が無限に戦いを挑んで潰すようなものです。
まぁ何が最悪かと言われれば、これに対して『もっといい方法とれよ!』と叫んだところで『これ以外の方法が見当たらねぇんだよ』という返事が返ってくることでしょう。
こんなめちゃくちゃなラスボスに対する反逆。その続きは次回で!
ただ申し訳ないのですが二日後が少々忙しく、そのため次回投稿は6月の11日となります。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




