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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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古賀蒼野とゼオス・ハザード 一頁目


「う、はぁ!?」


 黒い渦から出てきた蒼野が見たものは周囲が石の壁で囲まれ、真下が溶岩というおどろおどろしい雰囲気の石造りの舞台の上。


「ここは…………」


 空を眺めれば日が傾き地平線の向こうへと近づいていた。


「……久しぶりだな」

「ゼオス・ハザード……」

「……流石にこちらの情報は伝わっているか」

「う、お!!」


 ここはどこだと考え彼に尋ねようとしていた蒼野の首に、迷いなく迫る凶刃。

 すぐさま剣を構えそれを防ぐが、突然の事態に意識を集中しきれておらず力の入らない体は数秒も持たずに競り負け、吹き飛ばされ尻もちをつく。


「…………」


 そのまま勢いを殺すことなく、未だ立ち上がることのできない蒼野に迫るゼオス。

 剣を腰の鞘に納め、いつでも抜きだせるよう左手を添えたその姿に、蒼野の体は嫌が応にも死の香りを感じ取るのだが、


「悪いが、そりゃ喰らわねぇよ!」


 それを前にして、しかし彼はらしくもない不敵な笑みを浮かべる。


「……なんだと」


 そしてそんな蒼野の言葉に同調するようにゼオス・ハザードの足元から突如風の刃が現れると、刃は彼の足を貫き体全体をその場に縛りつけ、その隙に蒼野は倒れた状態から風玉を発動させ跳躍。

 一気に距離を縮め、


「おおぉぉぉぉ!」

「……ぐっ!」


 十日前は歯が立たなかった合わせ鏡のような姿をした男に、振り抜いた一撃を直撃させた。


「まだだ!」


 勢いに押し負け後方へと吹き飛んで行くゼオス・ハザード。

 そんな彼を前に蒼野はさらに前進。

 康太や優、それに善が助けに来るのを待つのではなく、目の前の存在を打倒するための戦いを始めた。




「新しい訓練についてだが。一つは風属性の設置技の習得。二つ目は一撃で勝負を決められる必殺技の習得。そして最後がオプションの作成だ」

「設置技に、必殺技、それにオプションってことは…………補助?」


 時は三日前にまで遡る。

 蒼野が風玉の特訓を一段落させ、善とゲゼルが彼を呼びだした時の事である。


「そうだ。それも含めて詳しく説明するぞ。まず最初の設置技は相手の行動を制限するためのものだ」

「制限するためのもの?」


 グーの状態から指を一本伸ばしそう説明してもらう蒼野だが、どのような技か思い浮かばず首を傾げる。

 何せ蒼野自身、既にその類の技は少量ながら持っていたのだ。相手が格上なのも含め、今更覚えるメリットが見当たらなかった。


「言うなればお前が覚える攻撃ってのは地雷みたいなもんだ。どこにあるのかはわからず、相手に警戒心を与え慎重にさせる、それが狙いだ」


 今回の戦いにおける蒼野の目標は勝つことではなく生き残ることだ。

 つまりそれは勝つ必要がないということでもある。


 危険な状況に陥った際の風玉が緊急時の対策とするならば、この設置技の習得は緊急時以外に効果が発揮され、攻勢のゼオス・ハザードの勢いを削ぐためにある。

 風属性は目に見えにくく、ただ地面に設置するだけで一定の効果を見込める、その特性を活かしゼオス・ハザードの動きを阻害するのだ。


「あ、なるほど。それは便利ですね」


 以前の戦いを振り返れば確かに蒼野は防戦一方であり、ゼオス・ハザードは勢いを逃さず攻め続けていた。その状況を崩せるとすれば、確かに有効な戦術だ。


「二つ目の必殺技って言うのはなんですか。教えてもらう立場で注文をするのは申し訳ないと思っているんですけど、殺すような技は覚えたくないです」


 二つ目に挙げられた必殺技。

 それに対して言葉通りの意味ならば覚えたくないと、蒼野ははっきりと否定。

 基本的に腰が低く弱気な蒼野のその様子に善とゲゼルは思わず苦笑した。


「安心しろ。殺す技、というよりは勝負を一気に傾ける技程度の認識でいい。

 不完全でも何でもいいからなんか一つ覚えて、決まった型や構えを作れ。んで命中の有無は気にせず使うんだ」

「せっかく型や構えを作るまでして、命中の有無に関係なく使えってどういう事ですか?」

「さっきの地雷の延長だな。ようはそれを喰らったら負ける、みたいな技を見せつけて相手にプレッシャーをかけんだ」

「型を取るっていうのはどういうことですか?」

「相手にその構えを取ったら警戒する必要があると思いこませるんだ。それだけで相手の行動を多少縛れる。その性質上、恐らく使うなら戦いが始まってすぐだな」

「なるほど」


 善の説明に感嘆を覚えながら頷く蒼野。

 そんな彼に対し、しかし善はこの後に話す内容の事を考え何とも形容しがたい、いうなればこれを告げていいかどうか迷っているような表情を見せた。


「さて、これで二つ紹介したが最後の一つだけは用途が違う。加えて習得難易度も跳ね上がる」

「どういうことですか?」

「設置式の攻撃と必殺技の習得は言うなれば相手の勢いを削ぐための戦術だ。だが三つ目に教えるこれは違う。これは……勝つための戦術だ」


 懐から風玉を見せる時に使ったものと同じ端末を取り出し、同じように動画を再生する。

 そこに映っているのは、以前にも目にしたピンク色の髪の毛をした青年の姿で、彼は自身を中心にして浮いている数個の風の塊を使い、相手を翻弄していた。


「『風臣』っつー技だ。まあ風属性の使い手なら知ってるか」


 空中に浮いた目で見えるほど高密度な風の塊が主の命令に従い縦横無尽に動き回る。

 それらは主の指示に従い時には風の弾丸を発射し、時には攻撃を代わりに受けることで爆発し、相手を吹き飛ばす。


「風臣、か」


 百を超える半透明の球体を操るという、風属性の技の中でも高難易度の光景。それを眺めながら蒼野は自身ができる範囲はどの程度かを見極める。


「まあこの技能の習得はかなり難易度が高い上に回避というよりは戦うための力だ。数個周りに漂わせるだけでも結構苦労する事を考えりゃ、後回しにして他の二つを先に覚える方が手っ取り早いだろうよ」


 冷静かつ的確に、今の蒼野ができるのはどの程度かを告げる善。

 しかし蒼野の脳は、今目にしている小さな球体をいかにすれば短期間で覚えられるのかしか考えていなかった。




 体勢を崩し距離が離れたゼオス・ハザードに向け大上段に剣を構え、風を纏う。

 纏われた大量の風属性粒子は荒れ狂う竜巻を形成し、彼らのいる周囲一帯の砂を巻きあげ天へと伸びて行く。


「風刃・暴竜」


 その威力に目を見張るゼオス・ハザードを見据えながら、蒼野がそれを振り下ろす。


「…………っ!?」


 剣に纏われた風の暴力が地面に叩きつけられ、大地が抉れる。

 剣先から敵対者へと向け振り下ろされたそれは、蒼野からゼオス・ハザードへと向け一直線に伸びて行き、ゼオス・ハザードはその道を僅かに離れた場所で、その一撃が残した破壊の痕跡を一瞥。

 自分のいた場所からさらに奥、この場所を覆う石壁を抉り貫通したその光景を目に捉え、当たれば勝敗が決する威力であると瞬時に理解した。


「……ずいぶんと強烈な技を使う」


 それでも表面上は特に変わった様子もなく、無表情のまま立ち上がると砂埃を掃い、蒼野をじっと見つめた。


これはいい状況だ


 そんな中、蒼野は現状を顧みて内心でそう呟く。

 突如黒い渦に投げ飛ばされ見知らぬ場所に連れてこられたことで気が動転し劣勢を強いられたが、今の一瞬の攻勢でその空気は元に戻った。


 以前のようにただ押されるだけではなく、互角に戦う事ができる。


 蒼野の胸にそんな確かな自信が宿り、パペットマスターと戦ってきた時から感じていた無力感が消え失せ、全身に熱が宿る。


「……炎月」

「風刃・一閃!」


 紫紺の炎で作られた三日月が漆黒の剣から撃ちだされ、それに対し目に見えぬ斬撃が蒼野の言葉に従い刃から飛び出て衝突。


「…………」

「ふっ!」


 その結末を見終えるまでもなく両者は動き出し、刃から飛び出るそれらの攻撃による中距離戦が続き、炎と風が周囲を包む。


「……っ!」

「よし!」


 走り続けていたゼオス・ハザードの足元から風の刃が現れ、ゼオスの動きを止め、


「風刃・一閃!」


 その隙を逃さず、風の刃が放たれる。


「……くだらん」


 しかし刃は目標に到達するよりも早くゼオス・ハザードは地面から生えている風の刃を切り取り回避。

 走りだした勢いを一切緩めず距離を詰める。


「……ちっ!」


 そんなゼオス・ハザードだが、迫る蒼野が大上段に剣を掲げた姿を確認した瞬間足を止め後退。

 その姿を目にして、蒼野の目に更なる自信が宿る。


「いける、いけるぞ!」


 戦闘経験の差から正面からの戦闘は不利だが、この十日間で覚えた搦め手をうまく使えば、均衡状態にまでは持っていける。

 中でも最もうまく使えるようになっていた設置の風の刃は、一々手で地面に触れたりする必要もなく、足裏から地面に設置できるようになっていたため、動きながら好きなタイミングで地面に設置できる。


 先に動くか、それとも待ちに徹するか


 様々な状況を思い描く蒼野の前で、


「……なるほどな」


 蒼野に聞こえぬほど小さな声でゼオス・ハザードはそう口にする。

 それから少しの間を置いて、油断なくゼオス・ハザードを睨みつける蒼野の目の前でゼオス・ハザードが紫紺の炎で漆黒の刃を包み前に直進。


「来るかっ!」


 ゼオスの一振りと共に放たれた炎が蒼野に迫り、風を纏い移動速度を高め距離を取る蒼野だが、そんな彼に向けて炎の向こうから五本の銀の刃が投擲される。


「ちっ!」


 四本を躱し、自身の脳天へと向けまっすぐに進んでくる最後の一本だけを弾く。そこから再び目を先程まで見ていた炎の行進に向けるが紫紺の炎は既になく、


「後ろか!」


 突如背後から迫ってきた悪寒を避けるため、風玉を発動し前へと出ると、先程まで自分のいた場所の背後にゼオス・ハザードが存在していた。


「あぶなかった」


 首の皮一枚繋がったことに安堵する蒼野だが、


「……そこだ」

「え?」


 そんな彼の前に自分と同じ顔をした男が迫っていた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で本日三話目の投稿にして、ついに終盤戦、蒼野VSゼオスの戦いの始まりです。


私事になってしまうのですが、この二人の戦いを101話に持って来れて本当によかった。

そんな風に思っております。


明日以降は普段通りの時間帯に投稿するので、よろしくお願いします。


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